最後の賭けのアベノミクス予算
◆このメールマガジンは、松島克守が、東京大学教授、そして(社)俯瞰工学研究所
の代表としてこれまでに名刺交換やメール交換をさせて頂いた方々に送らせて頂いて
おります。またこのようなメールマガジンはメールボックスのご迷惑と感じられる方
もあるかと思います。ご遠慮なく不要のお申し出を下さるようお願いします。また、
内容等についてもご遠慮なくご意見を頂ければ幸いです。
過去の俯瞰メールは俯瞰工学研究所のHPの「俯瞰メールのアーカイブ」にあります。
http://www.fukan.jp/
また、ご友人、ご家族に転送して頂くことは大歓迎です。このマガジンは長いので添
付のpdfファイルを保存しておいてタブレット等でゆっくりお読み頂くこともできます。
皆様
◆時候ご挨拶◆
本格的な寒さです、冬はある程度寒くないと季節感ありませんね。街の賑わいと渋滞である程度高揚した景気感がわかります。株価も上昇を続け、かなり明るい年末になる予感です。その一方一寸先は闇の市場ですから薄氷を踏む感じもありますが、ここは明るく前向きに行きましょう。
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・最後の賭けのアベノミクス予算
・不安定化する東アジア情勢
・女性が改革のリーダーになる時代
・二子玉川クリエイティブ・シティ・フォーラム2014開催
・ビジネスモデル学会 イブニングセッションのご案内
・頭のよくなるクッキング22
・デジタル書斎の構築28
・書評 「脳を鍛えるには運動しかない」ジョンJ・レイティー NHK出版2009
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◆最後の賭けのアベノミクス予算◆
来年度予算案が決まりました。過去最高の96兆円です。補正予算を加えれば100兆円を
超します。消費税増税を実施してなおデフレ脱却、景気回復という野心的な予算です
が、よく見ると利権集団の圧力に屈した旧自民党的な予算ではないでしょうか。民主
党の予算もバラマキで財政規律から見ると無責任な予算でしたが、今年度予算も結局
は同じような構造になっていますね。収入に占める借金の割合はなお4割を超えてい
ます。
社会保障費が巨額ですが、それに関連する診療報酬は医師会の圧力でほとんど無傷で
す。老朽化したインフラの整備ということで公共予算が増えていますし、新幹線もど
んどん建設です。企業の投資を促進するような政策も無論あります。その結果給料が
上がり、家計が潤い、消費が伸びるという好循環に不安を感じます。いくつか味付け
的な政策がありますがこれで本当に景気回復と財政再建というアベノミクスの実現が
出来るのか、これが最後の賭けだと思います。
ご存じのように既に日本国の債務はGDPの約230%近くで世界一です。その後はギリ
シャを始めとするヨーロッパのデフォルト候補の国々です。日本は国内の金融資産が
豊富でそれが国債の買い手であるので、なんとかなるという議論もそろそろ限界だと
思います。これでダメならまた来年も大型予算を組んでいくのでしょうか。
ともかく旧来の利権的な不合理な予算や、民間が積極的にサービス部門に進出できる
思い切った規制の緩和が掛け声で終わっています。構造改革をやると言っていますが
結局薬のネット販売すら不十分に終わっています。国民は構造改革を妨げる規制を洗
い出し、見える化してその撤廃を声高に主張していくしかないと思います。
デフレ脱却と財政健全化と言う二兎(にと)を追う首相の戦略は絵に描いた餅に終わ
りかねません。この予算を最後の賭けとして来年からはあるべき方向に進むべきです。
2014年度政府予算案
債務残高GDP比率ランキング
◆不安定化する東アジア情勢◆
東アジア情勢がさらに不安定化しています。北朝鮮の大粛清のあと、北朝鮮は挑発的
な行動に出ています。予告なく報復するという恫喝を韓国にしています。これに対し
韓国も危機感を募らせ大統領が最前線の部隊を視察しています。折しも南スーダンで
は予備の銃弾が不足していることである意味超法規的に韓国への弾薬供与をしていま
すが、これも後味の悪い結末なりました。しかし朝鮮半島の有事に際しては、韓国は
在日米軍と自衛隊の支援が必須です。現在のような心理状態は安全保障上極めて異常
です。
中国の動静も不安定です。日本と米国は尖閣の近くの海上で大規模な合同演習をしま
した。当然中国はこれに重大な危機感を持っています。なにしろ習近平はオバマ大統
領に太平洋を米国と中国で仕切ろうと提案したくらいですから。そして南シナ海での
米軍の演習にはなんと500メートルまで艦艇を近づけ米国を脅かしました。ともかく
東アジアから南シナ海まで異常な緊張が続いています。
そこになんと安倍首相の靖国神社参拝です。火に油を注ぐ行動ではないでしょうか。
国民も同盟国も、むろん中国も韓国も全く歓迎できない行動です。国民の大部分も唖
然でしょう。まさに自己満足と独りよがりです。愛国心という覚せい剤に昂進された
異常行動だと思います。
中国と韓国の反発は想定内ですが、同盟国の米国が不快感を隠していません。韓国の
執拗な反日外交に対して最近やっと米国も異常という認識を示し日本に理解をし始め
たばかりですが、日韓はほっとけと言う気持ちになったかもしれません。
日米同盟という御旗も実態は薄い同盟かもしれません。それでなくても米国の影響力
は急速に衰退しています。ライス大統領補佐官はなんと中国に対しG2を容認するよう
な発言をして中国を喜ばせています。
ロシアも不快感を表明しています。今は北方領土問題を抱えていますがプーチンも相
手にしていいか迷いますね。
この靖国神社参拝に対し中国も何も反応しないわけにはいきませんから何らかの行動
をとるでしょう。やっと回復した日本車の販売もインパクトを受けるでしょう。緊張
感ある尖閣海域で小競り合いでも起これば、今は空前の株高で高揚している市場も一
瞬にして崩壊するリスクがあります。アベノミクスの成功の真逆の行動です。
ともかく国民は何ていうとんでもない事をしてくれたと言う気持ちでしょう。安倍首
相が現在の結果を全て想定していたのであれば、この内閣で日中韓の関係改善はしな
いと決心して参拝という行動を起こしたのでしょうねと問いたいです。もし米国やロ
シアの反応が想定外であるというのであれば、あまりにも知的水準が低い人間で、あ
の「僕が1番、我妻君(民法の権威の我妻栄元東大教授)が2番」と言ってはばからな
かった岸信介の遺伝子は3代目で失われてしまったということでしょう。
この国民的ご迷惑はあの石原慎太郎の尖閣買収騒動と同じです。自民党の保守派は国
益追求ではなく、自己満足の自己陶酔の追求が信条なんでしょうか。
北朝鮮、韓国に通知文「予告なく報復」
韓国大統領、北朝鮮の挑発に「断固対応」 前線部隊を視察
中国警戒、沖縄沖で日米演習
米中の艦船が接近、一時緊迫
靖国参拝、波紋広がる 中韓反発、米は「失望」表明
米、不快感隠さず
◆女性が改革のリーダーになる時代◆
次のGMのCEOにメアリー・バーラと言う業界初の女性のCEOが決まりました。GMの叩き
上げの社員です。父親もGMの機械工だったという生粋のGM一家です。未だ再建途上に
あるこの会社の経営を女性に託すことになったのです。男にできなかったGMの改革が
進むような気がします。
すでにIBMも叩き上げの女性のCEOが改革のリーダーシップをとっています。激しく構
造が変化するIT業界において経営の舵取りは極めて難しい判断の連続でしょう。かつ
て業界の覇者であったIBMはパソコンのマイクロソフトとインテルに覇権を奪われて凋
落しましたが、そのウインテルもYahoo、GoogleとAppleそしてAmazonというネット企
業にその座を奪われました。わずか10数年の間で起こった激震的な企業構造の変化で
多くの企業が栄枯盛衰を繰り替えしています。
検索エンジンで先行したYahooは後発のGoogleに抜かれ苦境に立たされていましたが、
そのGoogleから女性のCEOマリッサ・メイヤーを引き抜いて再建を託しました。彼女は
まず、業界で常識だった在宅勤務を禁じ波紋を投げかけましたが結果はOKです。さら
に大胆なビジネスモデルの変革をしているようです。 Google時代は3時間程度しか睡
眠を取らなかったと聞きました。なぜかと聞くと父親も同じ様に働いていていたと言
ったそうです。
政治の世界でもドイツのメルケル首相は3期目の政権を立ち上げEUを背負って立ってい
ます。今やヨーロッパはメルケルの判断が全てです。
そしてアメリカの次期大統領もどうやら女性になりそうな気配です。ヒラリー・クリ
ントンはすでに選挙活動を開始しているとされていますが、最近では駐日大使になっ
たキャロライン・ケネディーも下馬評に上がってきました。かつての超大国ではなく
1つの大国になった米国、これはこれまで続いた男性の大統領の治世の結果かもしれ
ません。
男性文化の企業経営陣ではどうしても男性は過去に引きずられるのでしょう。女性は
もしかしたら、「過去は存在しない、あるのは現在と未来だ」という明快な信念から
大胆な改革を打ち出すことができるのかもしれません。と言うと大胆な改革をHPで推
進したカーリー・フィオリーナの失敗例を思い出すかもしれませんが、企画した改革
案はほぼそのまま後継の経営者が実施したとも聞いています。もしかしたら男性陣か
らの妬み嫉みと足の引っ張りで思ったことが実行できなかったのかもしれません。
日本では最近女性の経営者が増えてきていますがまだまだです。政界では何人かいま
すが、見識と言動がイマイチのように思います。育成のプロセスの問題であると思い
ます。現在日本の政治を今の女性の政治家に託したいとは思いませんが、いつか日本
も女性の首相が生まれるのでしょう。
ビジネスのプロジェクトでも女性のメンバーが複数入っているプロジェクトの方が成
功の確率が高いとも言われています。最近家庭用品で女性がいないプロジェクトの失
敗例を見てきました。
メアリー・バーラ米GM次期CEO
「100年の巨人」を支えるバージニア・ロメッティ
辣腕の女性CEOで息吹き返すヤフー
なぜヤフーのマリッサ・メイヤーは、ネットポータルに回帰するのか
メルケル政権、3期目に 大連立政権発足
メルケル首相は「現状維持」の守護者
全世界の女性CEOの実情を分かりやすく説明した図
米国次期大統領選挙は、ヒラリー・クリントンVSキャロライン・ケネディ
カーリー・フィオリーナ
◆二子玉川クリエイティブ・シティ・フォーラム2014開催◆
GoodLifeのあり方についてみなさんと考えるトークショーを開催いたします。
CCCの増田宗昭さんが、代官山T-SITEの先にあるもの、という講演で二子玉川に計
画中の新しいプロジェクトのお話があります。ぜひこの機会に二子玉川から吹く新し
い時代の息吹を感じてください。
申込み:http://creative-city.jp/ccf2014.html
主催:クリエイティブ・シティ・コンソーシアム
日時:2014年2月15日(土)13:40-20:00
会場:二子玉川ライズ・オフィス8階 カタリストBA
・総合司会 福満景子 元NHKキャスター、フリーアナウンサー
・オープニング 13:40- コンソーシアム副会長 松島克守
・『幸福途上国ニッポン -幸福なお金の使いかた-』目崎雅昭氏
国際文化アナリスト・幸福研究家、日本メガソーラー整備事業(株)代表取締役社長
・『世田谷から実践する里山資本主義』東大史氏
一般社団法人上山集落監事(元・美作市地域おこし協力隊)、村楽LLP(地域おこ し協力隊全国ネットワーク)参謀/事業プロデューサー
・『鯖がつなぐ食のコミュニケーション』池田陽子氏・小林崇亮氏
全日本さば連合会
★『GOODLIFE -代官山T-SITEの先にあるもの-(仮)』増田宗昭氏
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)代表取締役社長兼CEO
◆ビジネスモデル学会 イブニングセッションのご案内◆
運動をすれば、細胞レベルから脳と身体が若返るといいう科学の実証研究の発表です、
これを聞かないでどうしますか!
“新しい健康科学の考え方-身体をつくる細胞と制御する脳、適応・進化から考える”
講師:跡見順子 東京大学名誉教授
日時:1月28日(火) 19:00-21:30
場所:霞ヶ関ナレッジスクエア エクスパート倶楽部
講演要旨:
進展が著しい生命科学は、iPSにノーベル賞が与えられたことからも分かるように、生
命の単位である「細胞」が大きな適応力をもつことをあきらかにした。医療だけではな
く多細胞/脊椎動物/哺乳類/霊長類の仲間である人間の健康についても細胞から考える
メリットは大きい。また他の動物と異なり巨大な脳を発達させ、科学を発達させ、独
自な文化を生み出した人間について、脳により制御される60兆の細胞から成る人の身
体や動きに着目して身心を健康にする考え方を紹介する。
詳細・お申し込みはこちら
http://www.biz-model.org/イブニングセッション/第13回イブニングセッション/
◆頭のよくなるクッキング22◆
書評が長いので簡単にします。また書評の中に食についての記述もあります。
野菜を食べろとはよく言われますが、いつもサラダでは飽きますね。イタリア料理の
バーニャカウダはいかがでしょう。手間の掛るレシピがありますが、超簡単に作って
みましたが、結構いけました。
まずにんにく2房をそのまま鍋でゆでます。竹櫛がすっととおるくらいになったら取
り出して中だけを取り出します。プードプロセッサーでこれとアンチョビとオリーブ
油を入れてガーと混ぜて出来上りです。匂い消しに牛乳を入れるというレシピもあり
ます。分量は適当に。野菜スティックにつけてよし、温野菜につけてよし。
◆デジタル書斎の構築28◆
iPadを手に入れたら真っ先にインストールすべき33このアプリ、という記事がネット
にありまたのでご紹介しておきます。多分ほとんどのアプリはAndroidでも提供されて
いるでしょうし、iPhoneでもあるのではないでしょうか。それぞれのアプリケーショ
ンは直接確認していませんので詳細はサイトでご覧ください。
■コミュニケーション系
Facebook: Facebookの純正アプリ
Facebookページマネージャ: ブログ投稿
Janetter: Twitterクライアントの中では高機能Janetter for Twitter
All SNSChecker: 複数のSNSに同時投稿できるアプリ
Google +: Google+の純正アプリ
ハングアウト: Googleハングアウト専用のアプリ
Skype: Skypeの純正アプリ
■読み物系
Reeder2: 大人気のRSSリーダー。Feedly対応
SmartNews: 定期配信のニュースリーダー
Pocket: 後で読むサービス「Pocket」の純正アプリ
Kindle: Kindle本を読むためのリーダー
Flipboard: 各SNSの更新情報を、雑誌をめくるかのようにパラパラと読める
cooliris: 画像閲覧特化アプリ
■データ管理系
Dropbox: Dropboxの純正アプリ
Googleドライブ: Googleドライブの純正アプリ
CloudClip: iPhone←→iPad←→Mac間で、クリップボード
DeskConnect: iPhone←→iPad←→Mac間で、ファイルの受け渡しが可能
GoodReader: ファイル管理アプリ。ZIPファイルを解凍
■手書きアプリ系
Noteshelf: iPadをノート代わりに使うなら
Paper by Fifty Three: キャンバス代わりに使えるアプリ
■テキストエディタ系
Byword: ブログの下書きや、ちょっと長めの文章を書くとき
Clever Memo: Evernoteへのテキスト送信特化型アプリ
■エンタメ系
Youtube: Youtubeの純正アプリ
niconico: ニコニコ動画の純正アプリ
Air Display 2: iPadをMacのサブディスプレイとして使いたいならAir Display 2
Seeq: 次世代検索ランチャー
MyShortcuts+Viewer: SySight メモリー解放アプリ
Chrome: パソコンでお馴染みのChrome
Evernote: Evernote純正アプリ
電卓 HD +: 計算機アプリ。計算式の履歴を残してくれる
Google Maps: Google Mapsの純正アプリ
乗換NAVITIME: 電車でのルート検索
デジタル書斎としては、基本を情報の収集、その分析、編集、お基本的な知的作業と
していますので少し観点が違います。追加すべきアプリケーションを紹介しておきます。
まず情報収集ツールとしては、 Twitterは新聞社等のフォローで適時重要な情報が収
集できますが、加えてソーシャルニュースというジャンルのGunosyとVingow、Bylineが
欲しいですね。またニュースソースとして日経新聞、WSJ日本版、ロイターのニュース
プロなどをインストールしています。
Webページの情報や新聞記事のスクラップはEvernoteのClearlyでサイトの広告を削除
してクリップすることが重要です。
雑誌の記事やPDFのドキュメントはDropboxでもいいのですが、この情報をあるグループ
で共有して活用するにはBOXというアプリケーションがきわめて有効です。このアプリ
ケーションの特徴は誰かがドキュメントをアップするとメンバーに通知が行きます。ま
たメンバーがドキュメント見たり、ダウンロードするとその通知がメンバーにメールさ
れます。したがって密度の濃い情報共有が可能です。ですから私は俯瞰塾の学生とド
キュメントや課題の共有に活用しています。ここからダウンロードしてiBookで閲覧す
ると電子書籍のように活用できます。
会議のホワイトボードやクリップチャートなどを写真に撮ることもありますが
DocScannerを使えばクリップチャートやホワイトボードだけを切り出して撮影し、さら
にOCRも掛けられます。
またデジタル書斎としては辞書・辞典をいくつかインストールしておきたいですね。私
は大辞泉、ウィズダム、コトバンクのアプリをインストールしてあります旅先でちょっ
とした原稿を書くのにはPlaintextを利用します。これは書いた結果が自動的にDropbox
に入りますから家に帰ってから便利です。
オフィス文書の処理には7notesが必要です。さらに講演などの録音にはRecorderという
アプリケーションを入れていますし、口述メモにはDragon Dictationという強力なアプ
リがあります。
iPadを買ったら真っ先にインストールするべき33個のアプリ
http://bamka.info/ipad-33app
◆書評◆
今月の、ご紹介は
「脳を鍛えるには運動しかない」ジョンJ・レイティー NHK出版2009 です。
この本のエッセンスをいくつか紹介します。
・運動が脳にもたらす効果は身体への効果よりもはるかに重要であり、筋力や心肺機
能を高める事はむしろ副次的な効果に過ぎない。
・私たちが体を動かしてしている限り脳は自らを修復することができる、本来そのよ
うに設計されている。
・運動は脳の機能を最善にする唯一にして最強の手段である。
・2007年にコロンビア大学で人間の脳におけるニューロン新生の根拠が初めて見つかった。
・私たちは動くように生まれついているのだ。動いている時あなたの人生は燃え始める。
著者はハーバード大学医学部の教員であり専門は精神医学の臨床医です。多くの論文
も発表しており科学的な学術情報を基に平明に解説をしています。ただ啓蒙書である
ため巻末に文献リストがないので元の論文を同定はできません。
冒頭は、イリノイ州の高校で取り入れた運動教育の効果が画期的な学力の向上をもた
らしたことから始まります。結果は約23万人が参加した1999年のTIM SSという国際的
な数学と理科のテストにおいてそれまでアジア諸国に大きく水をあけられていました
が、理科では1番、数学で6番の成績を上げることができたということです。米国の平
均は、理科は18位、数学は19位です。ちなみに数学の上位はシンガポール、韓国、台
湾、香港、日本です。
このあと、学習、ストレス、不安(パニック症)、うつ、注意欠陥障害、薬物依存症、
ホルモンの変化、加齢、脳を作る鍛練、という章があり、それぞれに解りやすい事例
やなぜ運動が効果があるのかという科学的で実証的な解説がされています。そしてど
の章にも、こんな運動しようという親切なアドバイスがあります。
学習ではなんと日本の研究の例が紹介されています。30分のジョギングを週に3回する
だけで脳の機能が向上することが確認されたそうです。著者のお薦めは単なるジョギ
ングだけではなく心血管系と脳を同時に酷使するスポーツ例えばテニスなどが効果的
だということです。ストレスでは米国国立老化研究所のマーク・マットソンの言葉、
“少なく食べて多くは走ろう”が端的です。脳を使って勉強し、カロリーを抑え、運
動しそして野菜をたくさん食べなさいです。
この章には面白い逸話が挿入されています。原子力船造船所の労働者の例ですが、 2
つのグループの比較実験です。仕事はほぼ同じですが一方のグループはごく微量の放
射線を発する物を扱っていましたがもう一方はこれとは無縁でした。1980年から1988
年にかけて働いていた労働者を追跡調査いたところ驚くべき結果が出たそうです。放
射線にさらされていた2万8,000人の労働者は、そうでない3万2,000人の労働者と比べ
て死亡率が34%低かった、ということです。少々のストレスを与えると脳細胞は12分
に回復し将来の要請に備えてガードを固くし強い免疫力を高めるということです。こ
の結果は研究の仮説と相いれないので公表されなかったということです。
パニック障害では、なんであれ心拍数を上げる運動した方がいいということです。ラ
ンニングエアロバイク・・・。実験では激しい運動だけが、不安による肉体的な工夫
に対する感受性を和らげるということです。そして誰かと一緒に運動することが良い
そうです。“うつ“は脳細胞そのものを破壊していくとあります。無論薬はあります
からそれと併用して運動を取り入れることを進めています。おすすめはほぼ毎日中程
度の有酸素運動を30分することです。
注意欠陥障害とはやる気が出ない、常識外れの行動をする様な症状だそうです。やら
なくてはいけないと思いながらもそれに手が付けられない、という現象は私も時々感
じます。これは比較的最近認識された病気のようで1980年に初めてこの言葉が出たそ
うです。これも脳の生物科学的な原因からです。優先順位をつけることや、長期的目
標を認識できないという現象もこの病気の症状ですが、これはかなりの日本人に当て
はまるのではないでしょうか。この解説はかなり興味がありますが結論を書きましょ
う。ともかく心拍数を上げることが重要です。できれば最大心拍数の75%の負荷で20
分から30分有酸素運動を続けることです。最大心拍数とは人間の心臓が1分間に鼓動
しうる回数の生理的限界で、一般には220から年齢を引いた数だそうです。ですから
50歳で170、60歳で160ですか。心拍計は最近腕や胸につけスマホで見るようなものを
含め各種販売されています。最低限というのであれば有酸素運動30分だそうです。こ
れで集中力が出てやる気が出て、優先順位が認識できるようになるそうです。
薬物依存症ですが、これはアルコールも入ります。この章では面白い逸話があって
「中国語では動物は主語になりうるが、野菜は主語にならない。野菜にあそこまで
ジャンプしろとは言えません。動くのをやめてしまえばあなたは動物でなく、植物に
なってしまうのです」。植物人間かなりいますよね。この際、科学的、実証的な解説
をカットしてお勧めの運動にいきましょう。週に5日、 30分のハードな有酸素運動と
いうのが最低ラインだそうです。できれば毎日した方がいいとのことですホルモンの
変化、そして女性の閉経、の章です。これはPMS(月経前症候群)と妊婦、産後のうつ、
そして閉経に関する解説です。ここでの面白い逸話は、妊婦は中程度の有酸素運動を
すくなくとも週30分した方がいいとのことです。運動は子宮内の胎児を揺さぶり、赤
ん坊が撫でられたり、抱かれたりするのと同様の刺激を胎児に与え明らかに脳の発達
を促進するとのことです。ここも実験例があって、5歳になった段階で比較するとIQ
と言語能力において著しい差異があったとのことです。そしてお勧めの運動は最大心
拍数の60%から65%の有酸素運動です。骨そこつ症を予防するためには週に2日筋力
トレーニングを合わせてすることが大切だそうです。
加齢、これは最も興味を持って読んだ章です。 1900年にはアメリカ人の平均寿命は
47歳で、今日は76歳を上回るが、高齢者は慢性疾患によって多くはなくなります。
平均寿命を超えて亡くなる人は、多くは3種類の慢性疾患を抱え、5種類の処方箋を
服用しているそうです。喫煙、運動不足、栄養の偏りがこれらの病気をもたらすこ
とはよく知られています。そして体に悪いことは脳にとっても悪いのです。
ここでは認知症予防のためにオメガ3脂肪酸を摂取しようと勧めています。 65歳以
上の人の3分の1はあまり運動していないようであるがもし運動が体だけでなく脳の
老化を防ぐことがわかっていればもっと真剣に運動について考えるようになるだろ
うとも言っています。これも実証的な解説がついています。ここでは週に1時間半程
度のウォーキングでも効果があるとのことです。
ここで紹介されている実験が凄いです。普段あまり運動しない60から79歳前の人間
59名を2グループに分け6か月にわたって週に3回1時間ジムで運動させました。一方
はランニングマシンで歩き、もう一方はストレッチ体操をしただけです。ランニン
グマシンでのトレーニングは最大心拍数の40%からスタートし段階的に60%、70%
に上げました。 6ヶ月のランニングマシンで運動者は最大酸素摂取量が平均で16%
上昇していました。驚く事はMRIの検査によってランニングマシンを使った人は前
頭葉と側頭葉の皮資容積が増えていたのです。科学者は海馬の容積が増えることは
知っていましたが皮質の容積が増える事は驚愕だったそうです。運動が脳の衰えを
止めるだけでなく、老化に伴う細胞の衰えを逆行させるのです。運動が認知症を予
防することが証明されているのです。
この章ではありがたいことに人生のリストと言う生活習慣の提言があります。
1心血管系を強くする、2燃料を調整する、3肥満を防ぐ、 4ストレス閾値を上
げる、5気分を明るくする、 6免疫系を強化する、7骨を強くする、 8意欲を高
める、 9ニューロンの可塑性を高める、です。そしてこれはすべて運動が処方箋
です。
食事についてもあります。摂取カロリーを抑えるということはよく知られています。
細胞の修復メカニズムを活性化する食品としては、クミン、ニンニク、タマネギ、
ブロッコリー、ブルーベリー、ざくろ、ほうれん草、 ビーツ、緑茶、赤ワインな
どが挙げられています。それ以外に全粒粉の穀物、タンパク質と脂肪をバランスよ
くとることとありますが低炭水化物ダイエットは脳には良くないとあります。さら
にオメガ3脂肪酸の摂取のため魚を食べる、あるいはサプリメントを取るとあります。
いよいよ運動ですが60歳以上の人には例外なくほぼ毎日運動することを勧めたいと
あります。運動は有酸素運動、筋力強化、バランス、柔軟性とあります。有酸素運
動は週に4日30分から1時間、最大心拍数の60から65%の運動する、とありますがこ
れはかなりハードルが高いですね。筋力は週2回ダンベルかトレーニングマシンで
無理のない重さで10回から15回を1セットとして3セット。
頭の体操もしろと書いてあります。脳を使い続けることです。ここにあるエピソー
ドは凄いです。ミネソタ州の修道院の例ですが修道女たちは常に学び、社会の課題
は何かと探求し、社会問題について話し合って頭を鍛えています。そして多くが
100歳を超えるまで長生きするとあります。亡くなった人の脳を調べてみると、ア
ルツハイマーのせいで大半がボロボロになっていましたが、にも拘らず生前最後ま
で鋭敏な知力を失っていなかったそうです。
最後の章は脳を鍛える、です。運動は脳の機能を最善にする唯一にして最強の手段
だとの事です。この10年以内に発表された何百という研究論文に基づいた結論です。
2007年コロンビア大学で人間の脳におけるニューロン新生の証拠が見つかったので
す。MRIや顕微鏡で確認されたのです。運動で脳が鍛えられるという事は科学的な
事実なのです。
詳細は読んで頂ければわかります。ただこの本はやたら難しいセロトニンとかグル
タミン酸とかドーパミンとか、アミノ核酸というような専門用語がいっぱいでてき
ますからその辺は読み飛ばしながら読んで行かないととても最後まで読めません。
すでに翻訳版でも18刷ですからかなり読まれています。
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◆内容・記事に関するご意見・お問い合わせ/配信解除・メールアドレス変更
下記まで webmaster@fukan.jp
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◆俯瞰 MAIL 0036号(2013年12月28日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
発行責任者:松島克守
URL: http://fukan.jp
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。
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