機密情報盗聴で同盟国の信頼を失い孤立する米国という大国


◆このメールマガジンは、松島克守が、東京大学教授、そして(社)俯瞰工学研究所 の代表としてこれまでに名刺交換やメール交換をさせて頂いた方々に送らせて頂いて おります。またこのようなメールマガジンはメールボックスのご迷惑と感じられる方 もあるかと思います。ご遠慮なく不要のお申し出を下さるようお願いします。また、 内容等についてもご遠慮なくご意見を頂ければ幸いです。 過去の俯瞰メールは俯瞰工学研究所のHPの「俯瞰メールのアーカイブ」にあります。 http://www.fukan.jp/ また、ご友人、ご家族に転送して頂くことは大歓迎です。このマガジンは長いので添 付のpdfファイルを保存しておいてタブレット等でゆっくりお読み頂くこともできます。




皆様

◆時候ご挨拶◆
今年は秋を楽しむ間もなく、もう晩秋そして冬という感じです。台風が何度も来てそ の対応で秋が無くなってしまった感じです。日本経済は何となく良くなってきた感じ ですが、国際情勢は雲行き怪しい感じです。アベノミクスも懸念を感じますが、原発 再開の地ならしは着々と進んでいますね。

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・機密情報盗聴で同盟国の信頼を失い孤立する米国という大国
・昭和に戻るのか自民党と霞が関
・泥沼化した日韓関係
・サムスンの研究
・シャネルのブランド戦略
・モーターショーに行ってきました
・頭のよくなるクッキング21
・デジタル書斎の構築27
・書評 「誰も知らなかったココ・シャネル」 ハル・ヴァーン 文芸春秋2012
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◆機密情報盗聴で同盟国の信頼を失い孤立する米国という大国◆

米国という大国が急速にその影響力を失っているようです。財政の壁という共和党保 守派とオバマ政権の確執で世界の信頼を失い、その余波でアジア歴訪をドタキャンし アジア諸国の信頼感も傷つき、エジプトを含め中近東の同盟関係も綻んで、超大国と いう地位を失ってきた事は前回も書きましたが、さらにその後同盟国の首脳の通信の 盗聴という事件で、ヨーロッパの同盟国の信頼も失いました。特にドイツのメルケル 首相の携帯盗聴で日本と並ぶ最有力な同盟国の信頼関係を深く傷つけました。ドイツ は日本と異なりそれほど対米依存が強くなく、かつEUという国家連合に守られていま すから安全保障上の懸念も少ないので、アメリカに対しかなり強い対応をすると思い ます。結果的にアメリカとヨーロッパの同盟関係が弱まり、ロシアのプーチン首相の 影響力が強まりました。そしてロシアの圧力でウクライナのEUの統合が頓挫しました。


この事件で明るみにでたのはやはりアングロサクソンの強い連携です。一連の情報収 集活動はイギリス、豪州の情報機関が米国と連携して行っていたとのことです。これ はフランスとドイツというEUのリーダーにとっても不愉快なことでしょう。ただ情報 収集は国家安全保障の基本ですから、暗号化なしの携帯で国家秘密の会話をしていて、 盗聴されたことをただ怒るのでは子供ですね。


それにしても米国の最高の国家機密を持ったままロシアに亡命したスノーデンがリー クする情報の質の高さと威力を思い知らされました。そのスノーデンはプーチンの手 元にあるわけです。


中近東の和平に関しケリー国務長官も頑張っていますが、イランとの交渉を含め強烈 なイスラエルの抵抗に手こずっています。アフガンの駐留延長についても交渉が頓挫 しています。エジプトやサウジアラビアも現在では米国と一定程度の距離を置いてい ます。プーチン主導で進んでいるシリアの化学兵器廃棄は、結果としてアサド政権の 復活を進め、内戦はむしろ激化しているようです。


すなわち中近東での米国の影響力は極めて限定的になっているということでしょう。 最終的には米国はイスラエルの支援をする国とみられていますから、中東での和平の 仲介も難しいですね。米国の軍幹部は最終的にはイスラエルの軍事行動を容認し支援 すると言明しています。


一方、オバマ大統領は国内でもオバマケアに関連して急速に国民の支持を失っている ようです。いわゆる政権末期の「 レームダック 」状態です。すでに国民の関心は次 期大統領選挙、ヒラリークリントンへの期待のほうに行っているように見えます。彼 女も正式に大統領選出馬を宣言しました。


ということで雑誌フォーブスが発表した「世界で最も影響力のある人物」ではオバマ 大統領は一位の座をプーチン大統領に譲ってしまいました。ちなみに日本からは、日 本銀行の黒田東彦総裁が39位、ソフトバンク創業者の孫正義氏が45位、安倍晋三首相 が57位にランクインしています。韓国人では潘基文国連事務総長が32位、李健煕サム スン電子会長が41位です。朴槿恵大統領は52位とのことです。外交に熱心な安倍首相 も朴大統領も国際社会ではこの程度の影響力ですね。


アメリカという大国の衰亡は世界中に不安定で危険な状況を引き起こすという可能性 は前回も書きましたが、ついに現実になりました。中国が尖閣列島を含む空域を防空 識別圏として宣言しました。日本の防空識別圏と大きく重なっています。これは中国 が米国の衰退と軍事力の実行を見くびり、日本と韓国の対立を機会として捉えたので しょう。習近平が軍部を抑えられないという中国内部の不安定性もあるでしょう。ア メリカが超大国の時代には考えられないようなことです。これには最近にない衝撃を 覚えました。まさにパックスアメリカーナの終焉です。国際情勢は流動化して不安定 になります。


このところ中国べったりの韓国も自国領土と主張している岩礁がこの空域に含まれて いるため猛然と抗議しています。アメリカはグァム島から大型爆撃機のB52を2機、中 国に通告することなくこの空域を飛行させて西太平洋での存在感を示し、日本という 同盟国へのコミットメントを誇示しましたが、防空識別圏の設定前にやるべきだった のです。基本的には後の祭りです。中国は恥をかいたことになりますのでこの後の反 応が気になります。


日本政府も猛然とこれには抗議し、日本の航空会社が中国に通行計画を提出すること を止めさせました。無論この中国の挑発的な行動は国際社会からも強い懸念を表明さ れています。注意すべきは心理面で金融市場に影響を与えて世界経済のパニックも想 定されます。最高値を付けた東証も一瞬で崩壊というシナリオも否定できなくなりま した。


ここは日本も一歩も引けませんね。誠に難しい状況ですが国際的な連帯でこの中国の 挑発を抑え込むしかありません。米国という大国の衰退と日韓の反目、それを見透か した中国の挑発の状況では、改めて日本は自分で国を守るということの重大さを認識 するしかありません。むろん日米同盟という連携を基本としますが、アメリカが守っ てくれるというような甘い夢からはもう覚めましょう。


思い出せば、第二世界大戦の講和条約の時、当時の南原東大総長をはじめとする知識 人が、非武装中立を論じ、長く日本の進歩的と称する知識人の主張となって来ました が、ここに来て非武装中立がいかに非現実的であったかはっきりとしました。さすが 当時の吉田首相は南原総長を「曲学阿世」の徒と一蹴しました。


従って自衛隊の正面装備の強化は必要ですが、と言って安易な軍備増強でこの緊張を 高める事は愚策中の愚策です。国際連携の強い体制を、失われたパックスアメリカー ナの代わりに構築するしかありません。となると今議論の最中にある集団自衛権は必 須になります。パックスアメリカーナの下で、甘い平和の夢の中でまどろんでいた時 が懐かしいですね。詳細は下記のサイトで。


ドイツのメルケル首相の携帯電話、アメリカ情報機関が通話を盗聴か

米国がメルケル首相の電話盗聴していた可能性―独政府が抗議声明

独野党、スノーデン氏の証人喚問

ロシア大統領、ウクライナめぐりEUを牽制

米、豪と共謀の疑い アジアで揺らぐ主導力

米国民の「大統領不信」強まる、オバマケアの混乱で

2013年「世界でもっとも影響力のある人物」発表 オバマ大統領が2位転落

オバマ大統領、来春にアジア歴訪

イラン核協議の歴史的合意、中東のパワーバランス再編も

イスラエルがイラン攻撃なら支援 米統参議長が「責務」指摘

中国 尖閣上空などに防空識別圏設定

米爆撃機、防空識別圏を飛行 中国には通告せず

【社説】米国が中国に示したB52爆撃機という返答

【社説】日本との連帯感示した米政権―日米合同の監視体制構築すべき

[FT]中国は日本への挑発をやめよ(社説)

日本政府、韓台ASEANと共同で自制・撤廃要求へ

日本の航空各社、中国防空識別圏設定で飛行計画の提出中止 政府要請受け

中国の防空識別圏:東アジアの地政学リスクが金融市場の錯乱要因にも

吉田首相、南原繁東大総長を「曲学阿世」と非難



◆昭和に戻るのか自民党と霞が関◆

静岡県立掛川西高校を卒業して49年です。年一回の東京の同窓会に出席しました。こ こでは相対的にまだ年少組に近いですね、諸先輩元気です。若い人が参加しないのは 何か運営に問題があるのでしょうか。


同窓生でもある副校長が近況を報告しました。彼も10数年ぶりに母校に帰任したそう ですが感想は、昭和の雰囲気に戻っている、といいました。男子は丸刈りで詰襟、学 帽、大声で挨拶、女生徒に茶髪、ピアスなしで、近隣の高校からどうすればそうなる のかという問い合わせが有ると言っていました。あの学校は従順でいい子の集団です から。


自民党の状況も昭和に回帰しているのでしょうか、18歳の成人化に反対しています。 高校を卒業して社会人になっても投票権もなく一方的に国家債務を負わされます。働 けば所得税も負担ですし、年金等の後年負担も。


自民党は機密保護法案には熱心ですし、ねじれ国会が解消すると族議員が復活してき て結果、TPP反対、規制緩和反対・・・・。ネットの薬品販売では国民目線はなく業 界目線です。厚労省も一体です。タクシー減車・・・・これはまさに昭和の政治体制 です。一票の格差解消も及び腰です。


日本の国を本来の方向に進めるには若い人の力が必須です。都市部の発言力が重要で す。地域には膨大な交付金と補助金が交付されていますから。そして今こそ選挙制度 の抜本的な改革の時だと思います。一票の格差是正と18歳選挙権は何が問題でしょう か、選挙権も与えず若者に西南諸島の防衛に行けというのでしょうか。



◆泥沼化した日韓関係◆

日韓関係はどうしようもないほどの泥沼化です。政権の求心力を反日で確保するとい う政権の動き、李明博大統領の竹島上陸に始まり、朴大統領の執拗な反日キャンペー ンで日韓関係は極めて異常な状況になってしまいました。朴大統領の反日外交の状況 を見るとすでに政治家としてのバランス感覚というものは全く失われ、差し障りがあ りますが「女のヒステリー」というような感じです。側近の首相も同調していますか ら政権でも共有しているのでしょうが、国際的な常識から大きく逸脱しています。一 般の韓国民の感情からも逸脱しているのではないかと思いますが、メディアの反日 キャンペーンや戦時中の徴用工賠償判決という司法当局の挙動を見ていると、否応な しに韓国国民も反日に煽られて来ていると思います。むろん常識的な国際感覚がある 人はやり過ぎだと思っているでしょうが、その声は小さいですね。


または韓国大統領はそれほど政権運営に自信がないのでしょうか。韓国経済はよくも ありませんが悪くもありません。ただ就職難や財閥中心の政策による中小企業の苦難、 格差、労働争議等の社会的な課題は深刻です。


朴大統領はヨーロッパ歴訪でも歴史問題と称して慰安婦問題を解き続けましたが、多 分どの首脳も異常さを感じることがあっても、関心を示したとは思いません。ロシア のプーチン首相との会談でも反日を説き続けて声明文に強引に盛り込みましたが、 プーチン大統領はその不快感を首脳会談に30分遅刻するということでメッセージを発 しました。


それに先立つアメリカのヘーゲル国防長官との会談でも歴史問題しか言わない朴大統 領にヘーゲル長官も呆れて、いらだったようです。北朝鮮の脅威と韓国の安全保障と いう最重要課題を何も議論しないで終わったようです。


さすがにこの状況では日本国民も気持ちが引いてきて、韓流ドラマのブームで高まっ た韓国への近親感が急速に冷めて、嫌韓派が増えていると思います。日本のほうは相 対的に冷静で大人の対応ができています。しかし一部には韓国に対する経済制裁を口 にする政治家まで出てきて、それには韓国のメディアも慌てた対応をしています。


これで失われた日韓の損失は膨大です。すでに日本からの旅行客も大幅に減少し、投 資も大きく減少しているようです。来日する韓国の観光客も減っています。中国観光 客は増加ですが。


問題は隣国という逃れられない共同体の日韓ですから、暴走的な現在の韓国政府です が、日本としては感情的な議論や行動を厳に慎む必要があります。どうしてもポロッ と感情が出るのでしょうか、安倍首相の「愚かな国」という発言があった、ないと言 うような騒ぎや、日本と同じである標準時を30分ずらすかどうかとか言う韓国与党政 治家や、日本国内ではこれまで決して話題にしなかった「ライダイハン」のようなベ トナム戦争時の韓国軍の負の歴史が一流の雑誌の記事として取り上げられるようにま でなりました。日本でも韓流ドラマが下火になる一方、日本の人気漫画が韓国で軍国 主義的と非難されたり、泥仕合がエスカレートしていくのが気になります。


韓国政府が執拗な反日キャンペーンを強化推進しているのを見ると、この政権の間は、 日韓関係はどうにもならないという絶望感があります。ここまでやれば朴大統領も 引っ込みがつかないでしょうから。ですから一層民間レベルと個人レベルでは今まで 以上に連携を強めて行く必要を感じます。多くの日本人は焼肉とキムチが大好物なん ですから、このあたりからやり直すのでしょうか。最近焼き肉屋に行っていませんが、 これは健康食の観点からです。


この日韓の歴史認識の論争は国際的な調停機関で事実確認と国際条約の判断として結 論を出すのが唯一の解決策ですが、これに韓国が応じることは無いのでしょう。とす ればこの反日キャンペーンは感情論としか言いようがありませんが、感情論で一国の 外交が成り立ちますか。この状況には中国とロシアは微妙なスタンスをとっています ね。詳細は下記のサイトで。


目に余る朴大統領の反日外交

それに同調する鄭首相

NYタイムズ「日韓関係悪化は米に大きな支障」

強引な韓国への強い不満 遅刻で見せつけたプーチン大統領

反日をやりすぎとの声が韓国内からも

暴走する韓国と大人の関係を築けるか?

韓国与党議員、標準時変更を発議

片山さつき氏経済制裁論

それを警戒する韓国

週刊文春の安倍首相発言

韓国の米国ロビー活動、慰安婦問題の拡大指示米西海岸で

ライダイハン

韓国の元徴用工裁判

韓国、元徴用工らの名簿を公開

韓国が戦争犯罪を認めない訳

ベトナム訪問の朴大統領 過去の戦争の歴史で謝罪せず

韓国の異常反日、今度は“漫画狩り



◆サムスンの研究◆

週刊ダイヤモンドの11月16日はサムスンの特集を掲載していますが、論調の“嫌韓” の感じが気になります。まさに上の記事で心配しているような風潮だからです。ビジ ネスマンは冷静に!


確かにいろんな手段で日本から先進技術を貪欲に吸収し、それを模倣し、ウォン安や 経済合理性が薄い低コストの電力を活用して、前を走っていた日本のライバルを抜き 去ったことは事実ですが、すでにそのキャッチアップモードは終わり自力で先進的な 製品を開発している世界的な企業であることを認識する必要があります。スマート フォンの快進撃を見れば既に日本企業の模倣ではなくグローバルマーケットの最先端 を走るサムスンです。


ただサムスンに関してきちっとした情報や知識を持っていない人には読む価値があり ます。サムスン帝国の全貌を掴むことができます。サムスンの弱みも理解出来ます。


特集の中で、刺激的な記事は「サムスンが飲み込んだ日本の技術」と称する流出技術 のリストです。なんとサムスンに貢献した日本人技術者ランキングというものもあり ます。リストラされた社員の中から有用な人材を採用したり、あるいは引き抜きをし ていますがこれはビジネスでは当然でしょう。また日本の企業と合弁や技術供与に よって技術を吸収していますがこれも問題にするものではありません。


問題はサムスンがいずれ日本企業を抜くという認識がないまま安易な合弁をしてきた 日本企業にあります。サムスンが日本企業を抜き去ったのはこの10年以内です。その 10年日本企業は何をしていたのでしょうか。日本の製造業の驕りと無策、ビジネスマ インド無き“モノづくり”志向がサムスンの成功の応援団でしょう。


元サムスンの常務であった、東大特任教授の吉川さんから以前聞いた話ですが、アジ ア経済危機の時IMFの強引な経済政策の中で、韓国国民は金銀の供出を行って外貨建 ての債務を払い、サムスンもどん底まで落ちてそこから這い上がってきたのです。当 時サムスンではコピー機があっても文房具自己負担のため用紙はないので、結果社内 はすべてペーパーレスになったとか。それでも製品開発の情報システムに巨額を投資 して、一気に最先端のIT化を進めたとか・・・これがサムスンの現在の成功の礎では ないかと思います。


ただ不公正な部分もあります。 一つは李明博大統領の恣意的なウォン安政策、政策 的な安い電気料金で日本企業と競争、加えてサムスン会長の検察告発に対する特別恩 赦などです。また韓国の官僚機構は場合によっては公共の利益を無視するような、財 閥と極めて強く深い連携関係があると思います。かつての日本もそうですが。


この記事はよくできていますが2つの点で私は不満です。 一つはサムスン帝国のすべ ての戦略を立案し指揮している未来戦略室( 旧構造調整本部)の内部と活動の分析 が不十分です。もう一つは複雑怪奇なグループの株式持ち合い構造の図を出していま すが、サムスンネバーランドというリゾート管理の企業を帝国の要としていますが、 金蔵、キャッシュフローについて考えればサムスン生命保険に関する分析がなされて ないことです。


ともあれこの特集はサムスンの俯瞰的な理解を助けてくれる記事ですから一読をお勧 めします。


週刊ダイヤモンドサムスンの研究

バレたらクビ!現役サムスン社員・覆面座談会



◆シャネルのブランド戦略◆

世界的なブランド「シャネル」日本法人のリシャール・コラス社長の「ブランドのつ くり方」という講演を青森で11月1日に聞きました。大盛況で会場に入り切れないほ どの600人以上の人が参加しました。


これは私がアドバイザーとして参画している、鮭の頭の軟骨から弘前大学の開発した 技術により抽出したプロテオグリカンと言う高機能の保湿剤を使って化粧品、関連の 美容産業で地域経済の活性化を目指しているプロジェクトのイベントです。私も講演 の後のトークセッションのモデレータを務めました。


講演の内容はいかにしてシャネルというブランドが生まれ、確立したかということで 大変興味深い内容でした。


シャネルというブランドは約100年前生まれたココ・シャネルという強烈な個性を持 つ女性が女性解放を進める当時としてはラジカルなファッションを創生した時から始 まっていますが、シャネルブランドはその原型を一貫して保持すると同時に、色々な 要素を統合し、そして新しい時代の風を取り入れるというブランド戦略でした。


何といってもシャネルは香水のシャネルNo.5が神髄です。現在でも30秒に1本売れて いるそうです。シャネルのサイトを開くとそこはマリリン・モンローです。有名な 「ベットで身に付けるものはシャネルのNo.5だけ」と言う台詞がありますから。


講演の最後のスライドが凄いです。銀座の本社ビルの正面脇にある黒御影の銘板に、 このビルの建設に携わった、交通整理の人まで含めて全ての工事関係者の2,500人も の名前を刻み込み、そのプロフェッショナルとしての仕事に敬意を表したという件で す。施主のこの申し出には建築会社も感動したそうです。多重の下請け構造の中で全 員を漏らさずリストアップするのは大変だった様ですが。会場はこの時静まりかえり ました。目が潤むような感動を与える見事なプレゼンテーションでした。


銀座に行く用事のついでにその本社ビルの銘板を見に行きました。正面向かって左の 脇にそれはありました。店に入り、有名なシャネルのハンドバックを見ました。およ そ50万円です!


講演の後、「青森のブランドを強化するにはどうしたいいか?」という質問が当然あ りました。それに対するアドバイスは「青森には自然と雪がある、雪はピュアだ。こ れをイメージしたらどうか」ということでした。


なぜ彼が青森での講演を引き受けたかということですが、何十年か前に下北半島を旅 行したことがあって民宿のような宿に泊まった時、集落全体の人が集まって一緒に酒 を飲んでくれたと言っていました。この機会に家族を連れてまた恐山に行くとも言っ ていました。夫人は若く美しい日本女性でした。可愛らしいご子息も一緒でした。


むろん青森講演の実現には関係者の並々ならぬ努力がありましたが、人と地域との縁 が重要ですね。講演を聞き、ともかくココ・シャネルという人間とシャネルというブ ランドに強い興味を覚えました。


「2013 BRAND FORUM IN AOMORI」

シャネルの日本社長の講演と、青森ブランド確立への助言

シャネルというブランド

リシャール・コラスという人



◆モーターショーに行ってきました◆

ビックサイトのモーターショーに行ってきました。思ったより小規模ですね。海外か らはドイツの各社、現代自動車が参加しているだけで米国のビッグスリーは出展して いません。むろん中国からも出展はありません。招待日だったためゆっくり見られま した。


トヨタ自動車の大きなブースは歩くのが困難なほど人を集めていましたが、それにく らべると日産自動車は人が少なかったですね。相対的に人を集めていたのはスバルで した。


ともかく電気自動車がたくさん展示されていました。トヨタ自動車もセグエーに似た 立ち乗りのEVを展示していました。電気自動車をいくつも見ているうちにもう少しで EVの時代が来ると感じました。


モーターショーではいくつかの部品メーカーが出展しています。通常は見ることがで きないパワートレインを見ることができます。パワートレインとは回転運動の伝達機 構だなと改めて認識しました。そしてベアリングの塊ですね。昔の自動車に比べると このモジュールは多分ものすごい高機能化と複雑化が進んだのでしょう。


見ているうちに今後自動車業界に大革命が起きる予感がしてきました。というのは8月 にカルフォルニアで電気自動車のテスラーのカットモデルを見たときにその構造があ まりにもシンプルでほとんどパワートレインという機械系が存在しないのに驚いたこ とを思い出したからです。EVには当然エンジンもパワートレインもありません。とす ると機械加工で削り出す部品はほとんど不要です。電気自動車ではエンジンもパワー トレインもないのですからこれが普及すればこれに関連する企業は不要になります。


何十年も前の体験ですが、当時使っていたオリベッティやレミントンの芸術的な機械 式のタイプライターがあっという間に駆逐され、機械系がほとんどないインクジェッ トプリンターに代替されています。これと同じことが自動車業界に起こりうると思い ました。むろん現在の機械システムの塊である自動車もある部分残るでしょうが、長 距離ドライブが水素系の電気自動車になり、近距離型が小型でシンプルなリチウム電 池の電気自動車になるのは火を見るより明らかです。コスト大半を占めるエンジンと パワートレインがないのですから圧倒的な低コストになります。とりわけ新興国での 低コストの自動車はこれになるでしょう。再生エネルギーの活用でガソリンスタンド のインフラがないところでもEVは走ります。


一方自動車産業はこれに代わる産業が考えられないほどの巨大な産業ピラミッドを形 成していますがそのピラミッドが極端にスリム化されるわけです。逆の意味の産業革 命が起こることになります。2020年の東京オリンピックの時には世界は何か変わって いるのではないでしょうか。


モーターショーにいかなければこの感覚は得られなかったと思います。まさに「現地 に行って現物を見なければ、現状を正しく理解できない」と言う、三現主義の教えです。



◆頭のよくなるクッキング21◆

他の記事が長くなったので今回はごく簡単にします。
最近、辰巳芳子さんの料理の本が書店に多く見られますね。もう相当なお年ですが大 活躍されています。特にスープという料理に力を入れているように思います。雑誌の 記事で読んだ中で“しいたけスープ”の紹介がありました。これはいわば日本料理の だし汁です。日本料理の出汁は、鰹節と昆布が基本です。そして干し椎茸です。この だし汁と言う食品は相当奥深い感じがしていましたが、“しいたけスープ”はそれを スープという料理にしたわけです。これは一晩水に浸した昆布と干し椎茸を汁ごと40 分ほど蒸すというレシピです。中に梅干しを1つ。作ってみましたが本当に滋味深い、 癒される感じのスープです。私はさらに干した貝柱とショウガも入れますが。


このスープは多くの人に感動を与えるようで、なんと琺瑯鍋で有名な野田琺瑯がこの スープに適した蒸し器を開発して発売しています。ついつい鍋道楽の心が抑えがたく この鍋を買いました。


蒸すと言う料理法は何かめんどくさそうで、あまり使っていませんがこの鍋について くる小さな冊子、再考「蒸し仕事」には作ってみたくなる蒸し料理がたくさん並んで います。この蒸し料理と言うジャンルの料理を増やしたいと思います。


前回は料理本を紹介したので、この後は鍋、そして包丁について書いていきたいと思 います。


しいたけスープのレシピ:干し椎茸(日本産原木)60g、天然昆布 5センチ角を6枚、 梅干し(無農薬有機) 1と1/2個、水 9カップ



◆デジタル書斎の構築27◆

他の記事が今回は長くなりましたので、ごく短くします。
iPad Airを買いました。 11月1日発売ですが11月2日渋谷のアップルストアに行くとす べてのモデルが在庫ありで、思い切って64Gモデルを買いました。


第一印象ですがとても軽くなりました。これまでのiPadは片手で持つのが辛くて、寝 転んで見ても腕が疲れましたが今回は片手で持つ事は全く問題ありません。かなりの イノベーションですね。処理のスピードも早いですね。前回書いたようにiPhone 5s を使った後はiPadが随分遅いように感じましたが、今回のスピードはiPhone 5sを超え る感じです。


画像も綺麗です。バッテリーの持ちも良いので、外で文章を書いたり、データ分析を しないのならばノートパソコンの代わりにこれを持っていけば十分でしょう。タブ レット端末の売り上げがパソコンを凌駕し、パソコン関係のビジネスが苦境となって いますが、当然ですね。


内部記憶が大きいので映像データなどをかなり大量に持ち歩けそうです。電子化され れば書斎のすべての書籍を持ち歩くことができます。何年か前にiPodが発売されたと き、持っているCDを全て持ち歩けるということが言われましたが、それと同じような 発想の転換が可能になります。デジタル書斎がiPad一つで完結ですか。書籍の完全電 子書籍化の時代ですよ。



◆書評◆

今月のご紹介は 「誰も知らなかったココ・シャネル」 ハル・ヴァーン 文芸春秋2012 です。


青森でシャネルの講演を聞いてココ・シャネルに強い興味を覚えたので、ココ・シャ ネルの伝記を読もうと思いました。 Amazonで見るといくつかの伝記がありました。 タイトルが刺激的でかつ最も新しい出版であったのでこの本を選びました。このほか 2種類の伝記も購入しましたが、改めてここに取り上げた書籍が1番であると確信しま した。今回は映画化されたココ・シャネルのDVDも見ました。 DVDは別の伝記、エド モンド・シャルル著を基にしています。ただ映像の威力は凄いものがあります。まず この本の最初の部分を読んでからDVDを見ましたので最初のシーンから引き込まれる ものがありました。非常に美しい映像でした。それからこの本を一気に読んでいきま した。ですから今回の読書は文字からのイマジネーションと映像の統合という新しい 読書のスタイルになったと思います。DVDは人生の前半と最後だけで途中の波乱の人 生は描かれていません。


この本が衝撃的なのは、ココ・シャネルはナチスのスパイであったという事でしょう。 これは偶然に公文書館で別の人物の情報調査している時に、ココ・シャネルの情報が 目に入りそこにはナチスドイツの情報部がつけたココ・シャネルのスパイとしてのコ ードがあったと言うことです。実はこの本の著者はハル・ヴァーンというジャーナリ ストですが朝鮮戦争に従軍した折に米軍のインテリジェンスを担当し、冷戦時代には アメリカの機密情報活動に携わったCIAのスパイなのです。ですから情報の収集と分 析はプロです。


彼はそこから各国の公文書館にあるココ・シャネルに関する情報を収集分析し、その 資料をもとにココ・シャネルの人生の軌跡をあぶり出したわけです。たぶん成人まで の情報は別の伝記を参照していると思います。ちなみにハル・ヴァーンが調査の為公 文書を調査していた対象の人物は、戦争中にヨーロッパに渡り香水のシャネルのNo.5 の製法を盗みだした男で、後にシャネル社の社長となったハーバート・グレゴリー・ トーマスでした。こんな感じですからこの本も映画化してほしいですね。


第1章冒頭部分にも衝撃的な記述がありました。ココ・シャネルの本名はガブリエル・ シャネルです。貧しい家庭に生まれたガブリエル・シャネルは12歳の時に父親に修道 院の孤児院にいわば捨てられ、そこでカソリックの厳格な教育を受けてきました。 18歳の時に別のカソリック系の女子寄宿学校に入っています。そして20歳のときにお 針子として働き始めました。アルバイトとしてカフェで歌を唄っていたようです。こ のカフェで彼女は「ココ」と呼ばれるようになったのですがこれは彼女が歌っていた シャンソンのタイトルともいわれていますが、「ココット」という言葉は「囲われ女」 という意味がありこれを縮めたものという説もあるということです。この後の彼女の この「囲われ女」で世の中に出ていくのです。 最初の愛人はこのカフェで知り合った 金持ちの元騎兵隊将校のエティエンヌ・バルサンです。その時彼女は23歳です。それ から3年パリ郊外の厩舎つきの大きな城館で暮らしました。そこで彼女は乗馬を覚え上 流階級の生活スタイルを学んだようです。ここでバルサンの友人の上流階級出身のイ ギリス人であるアーサー・カペルと恋に落ちます。そして1908年パリのアパルトマン に囲われ、彼の援助で、パリで婦人帽の店を開くことになります。こうして輝かしい デザイナーとしてのスタートを切るのです。


この後は次々と愛人が変わっていきますが、別れた後もどの愛人も、友人として長く 付き合っていきます。この本を読む時は大変だったのは、複雑に込み入った愛人関係 や友人関係の人の名前をフォローしきれないので巻頭にある人物相姦のネットワーク 図を絶えず見なければなりません。愛人と友人が愛人関係であったり、同性愛関係で あったりして頭が混乱します。ただこんな関係はヨーロッパの文化ではあまり珍しく なく、かなり普通の人間関係なのでしょう。実は30年以上前ですがベルリン留学中の 時、新聞の「交際求む」の欄に男女、男男、女女の3つの欄があるのに驚きました。 上流階級はもっと自由な人間関係を楽しんでいるでしょう。


その人物相姦のネットワークの中でココ・シャネルは栄光への階段を登りつめたわけ です。数多くの愛人の中で重要な人物はイギリス一の富豪と言われていたウェストミ ンスター公爵、美貌で有名だったドイツ外交官のディンクラーゲ男爵、そしてイギリ ス上流社会のアーサー・カペルでしょう。愛人関係ではありませんがココ・シャネル の人生の経済面ではユダヤ人実業家のボール・ヴェルテメールです。


ウェストミンスター公爵は英国王室とも近くその縁でチャーチルとの関係も出来まし た。第二次世界大戦後にナチスのスパイ容疑で逮捕されたとき、即日チャーチルの力 で釈放されています。そしてその後は長くスイスのローザンヌで亡命生活を送ること になります。その時代は逃げ回っていた元ドイツ外交官のディンクラーゲ男爵と仲良 く暮らしています。


パリ駐在のドイツ外交官のディンクラーゲ男爵こそがナチスの大物スパイだったわけ です。その関係で、パリの上流社会に入り込み、裕福な夫人たちを顧客として高価な ファッションを売るというビジネスの成功がついてきましたが、一方このドイツ外交 官の関係からナチスのスパイネットワークに組み入れられていたようです。このため ココ・シャネルは戦争前も、ドイツのパリ占領中も、そしてローザンヌから戻ってき た後も超高級ホテル・リッツのスイートに住み続けることができたわけです。彼女は ここで息を引き取ります。


1956年ココ・シャネルはすでに70歳を超えていましたがパリのファッション界に劇的 にカムバックします。ファッションショーは大成功でしたが彼女のビジネスは破綻寸 前でした。


ココ・シャネルは強烈な反ユダヤ主義者でしたが皮肉にも彼女の事業はユダヤ人実業 家のボール・ヴェルテメールが結果として全て引き継ぐことになります。ヴェルテメ ール一族とはこれまでシャネルのNo.5のビジネスをめぐり何度も裁判をしていた仲で すが、彼女の才能を尊敬し、評価していたヴェルテメール一族がデザイナーとしての ココ・シャネルを救ったのです。


ヴェルテメール一族に彼女の会社および商業用不動産さらにシャネル名義の持ち株を すべて彼に売却する代わりに、ヴェルテメール一族は彼女の費用全て、すなわちホテ ル・リッツの滞在費、メイドへの支払い、電話代、郵便料金その他生活費一切をヴェ ルテメール一族が払うという契約です。これはココ・シャネルにとっても有益な契約 でしたが、ヴェルテメール一族にとっては現在に至るまで金のなる木を買ったことに なります。したがって現在のシャネル社はその流れです。


このように書いていくときりがないのでこのへんで内容紹介は終りますが、この本を 読めばドラマチックな彼女の人生を共有できます。シャネルの言葉としていくつかの 言葉が紹介されていますし、それだけで本も出版されていますが、いくつかご紹介す ると、「もし翼を持たずに生まれてきたのなら、翼をはやすためにどんなことでもし なさい」、「早起きして、よく働きなさい。やってみて損は無い。精神は活発に、体 は活動的になる。」、「私は失敗というものを知らない」


そして1971年1月10日ココ・シャネルはホテル・リッツの自分の部屋で息を引き取り ますがその最後の言葉は「ああ、こんな風に人は死ぬのね」であったとあります。


この本を読んで最も感銘したのは、波瀾万丈の中にあって決してブレないものが彼女 には有ったことです。追及するものを見失っていません。お針子として始めたプロ フェッショナルの初一念、ファッションデザイナーとしての成功を目指す信念と行動 です。デザイナーとして勝つ、先進的な女性の美をあくまでも追求する、これです。 ですから現在でも他のブランドとは違いシャネルは決して男性向けの商品を発売しな いということで、現在に至るまでこの彼女の精神は引き継がれているわけです。この ぶれない背骨これがシャネルというブランドの強さの秘密です。


華やかな愛人関係もありますが全てはファッションデザイナーとしての成功の“肥や し”です。ただ単純な功利主義的な人間関係ではなく、寂しかった子供時代の反動で いつも男から愛されていたいという欲求が華やかな愛人関係の理由とも言われていま す。少なくとも成功した後は男からの経済的支援は必ずしも必要ありませんから。ま た女として最後まで生きる姿勢は70歳を越した後も新しい愛人を作っています。ただ 悲しいことですが数多く愛人がいましたが、彼女が深く愛したと思われる愛人はいず れも早世し、また誰一人として彼女一人だけに尽くした男はいなかったようです。




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◆俯瞰 MAIL 0035号(2013年11月30日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
発行責任者:松島克守
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


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