カリマンタンに行ってきました


◆このメールマガジンは、松島克守が、東京大学教授、そして(社)俯瞰工学研究所 の代表としてこれまでに名刺交換やメール交換をさせて頂いた方々に送らせて頂いて おります。またこのようなMLはメールボックスのご迷惑と感じられる方もあるかと思 います。ご遠慮なく不要のお申し出を下さるようお願いします。また、内容等につい てもご遠慮なくご意見を頂ければ幸いです。過去の俯瞰メールは俯瞰工学研究所のHP の「俯瞰メールのアーカイブ」にあります。http://www.fukan.jp/ また、ご友人、ご家族に転送して頂くことは大歓迎です。マガジンは長いので保存し ておいてゆっくりお読みください。



皆様

◆季節のご挨拶◆
木々の緑色は残っていますが、秋ですね。稲刈りも終わりそうですが、本当に黄金 の海ですね。これを見ると日本が豊かな国だなと感じます。

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・カリマンタンに行ってきました
・弥生日本人と同じ生活の人達がいた
・中国経済の変調と日中対立が世界の経済を悪化させる
・新興国が揃って変調です
・グローバル化の経営課題
・エネルギーをめぐる議論
・再生エネルギーのビジネスモデル、をテーマしたビジネスモデル学会成功裏に
・渋谷ヒカリエでシティー・サミットを開催しました
・「電子版 プラチナ構想ハンドブック」をApp Storeで販売を始めました
・頭のよくなるクッキング8
・デジタル書斎の構築14
・書評 : 「照葉樹林文化とは何か」 佐々木高明 中公新書 2007
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◆カリマンタンに行ってきました◆

カリマンタンはインドネシア語で、英語ではボルネオです。行ったのはインドネシア 領の西カリマンタン州の海岸に近いKetapangという小さな町です。ジャカルタから Pontianakまで約2時間のフライト、そこで双発のプロペラ機に乗り換えて約1時間で す。さらにここから車で2時間のボーキサイト鉱山に行ってきました。カリマンタン は鉱物資源が豊富で、石油、石炭、ダイヤモンド、金、銅、スズ・鉄、マンガン、ア ンチモン、ボーキサイトなどを産出します。


ジャカルタ空港のそばのホテルを6時に出て朝一番のフライトに乗る予定でしたが、 フライトが飛びません。理由はヘイズ(haze)と呼ばれる煙霧です。自然発火の山火 事が地表の泥炭に燃え広がり広い原野が燃え続ける現象です。スマトラやカリマンタ ンは自然の原野が多くこれがしばしば発生して、ひどい時は対岸のシンガポールも煙 に包まれます。出発は結局10時近くでした。ただ、ラウンジは無料WiFiがあり、結構 仕事が出来ました。Pontianakでは当然乗り継ぎのフライトが直ぐありません。また2 時間くらい待って双発のプロペラ機でKetapangへと。ここも無料WiFiがありますので iPhoneでメール見られます。Ketapangに着いたのは既に午後1時くらいです。さすが にこの町は奥地という感じです。山に入る前に宿泊予定の近代的なホテルで昼食を取 って、車に2時くらいに乗り込んで、SUVで約2時間の行程です。気候は東京の夏よ りましです。


途中の景色が楽しめました。広大な熱帯雨林が切り倒され、パームヤシの植林が進め られていました。近い将来世界最大のパームオイル産地になるだろうという事でし た。


壮絶な自然破壊です。アマゾン奥地を始め世界中で同じ自然破壊が進んでいるので しょ う。さらに奥に入り、目的のボーキサイト鉱山です。採掘をこれから本格化する予定 ですが、出荷の為に海まで自分で道路を開発中です。港もこれからです。採掘権は政 府から獲得していますが地権者は別です。第一の課題は地権者が不明確です。登記所 も地図もありません。自分の祖父の土地だったという人が続々出てくるのを一人ずつ 処理していくという大変な仕事です。ですから部族長の様な地区の有力者への挨拶も 欠かせません。そこにも同行しました。この海岸に近い所に住んでいる人達の生活に 大感激しました。


ボルネオ島
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%AB%E3%83%8D%E3%82%AA%E5%B3%B6

西カリマリタン
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%B3%E5%B7%9E

◆弥生日本人と同じ生活の人達がいた◆

海岸に近い地区の住人はマレー系の漁民です。しかし、焼畑の後、雨季で水が張ると そこにコメを蒔いて育て、自家用にするというのです。さらにカスミ網で鳥を取りレ ストランに売るという事もやっています。この生活スタイルは、長江中流で我々日本 人の祖先が暮らした生活スタイルと同じです!長江から北九州に到達したのが日本人 で、此処の住人はビルマ、タイ、ラオスの山地に移動し、河を下って東南アジアに広 がった人達、そして海を越えてボルネオまで来ている人達です。この話は後の書評に 記します。


何故、此処に?それはインドネシア政府の政策にあります。インドネシア政府は2014 年以降鉱物資源を鉱石のまま輸出事に高額の関税を課すことに決めました。即ち、国 内で精錬して高付加価値の商品として輸出するように指導しています。友人の、友人 のインドネシア人がボーキサイト鉱区の権利を入手しましたが、道路、港湾、発電 所、 精錬所の建設に膨大な資金が必要です。この事業のパートナーとして日本企業と組み たいという話がありましたので、鉱石を日本の2つの機関で分析してもらい、現地を 見に行ったわけです。「現地に行って、現物を見て、初めて現状を理解できる」とい う、日本人の仕事の作法です。


東南ア、鉱石輸出を規制
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM1405T_X10C12A5FF1000/

◆中国経済の変調と日中対立が世界の経済を悪化させる◆

以前から言われてきた中国経済の変調が顕在化しました。中国鉄鋼大手、宝鋼集団 (上海市)が最新鋭製鉄炉の稼働を停止したと報道されました。積みあがる各種在庫 の情報も多数あります。そして信用できないと言われるGDPではなく、信用度が高い という電力消費量も現在も前年割れが目前だとあります。しかしリーマンショックの 後の様な大きな金融緩和は出来ないでしょう。その時の後遺症、即ちバブルと不良資 産が残っていますから。元々ファンダメンタルが、特に社会的な成熟が成長について きていません。安定した成長で「内」の充実を図る時期です。日本の中国投資は小売 業を除けば急激に減少するでしょう。


しかし、車を代表に不買運動や入札外しで日本企業は経済の減速以上の影響を受ける でしょうし、中国は設備投資の過剰、そして内需不振でダンピング価格で輸出をして いますから、太陽電池は欧米の企業を破綻させ、日本の鉄鋼等素材産業も輸出価格の 大幅な低下で収益が悪化しています。欧米との貿易摩擦が出ています。中国投資に関 しては、もともと日本企業の意思決定が遅く、欧米に一周遅れで反日デモの前になっ て大きな投資をしていましたが、欧米企業は既に中国投資を絞り、収穫期です。1996 年の第1回の中国モーターショウに参加しましたが、その時には既にフォルクスワー ゲンは生産をしておりGMの工場も完成していました。いずれにしても日本からの投資 の減少は中国経済の悪材料です。


加えて、最近は米国を政府調達から締め出すという決定をしています。日本人は本当 によく我慢していますが、此処は社会と文化の成熟度を世界に見せましょう。しか し、 政界の幼稚な振る舞いはこの国民の“大人”のふるまいの効果を消してしまいます。 日中国交回復後40年の時間にかもし出された日本人の親中国的な感情は反日デモで完 全に消滅し、この見えない資産の消失は日中経済にジワッと効いてくるでしょうね。


AKBの上海姉妹グループの今後の展開も気になりますね。


中国の電力消費量
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO46498400U2A920C1DT0000/

中国の宝鋼集団最新製鉄炉の稼働停止
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20121002&ng=DGKDASGM28080_R01C12A0FF1000

中国の供給過剰
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20121018&ng=DGKDASDC17002_X11C12A0MM8000

(日経電子版会員の方はリンク可)

中国の構造不況
http://www.nikkei.com/markets/features/27.aspx?g=DGXNMSFK2003J_20092012000000

中国からASEANへ投資シフト
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20121018&ng=DGKDASDC17002_X11C12A0MM8000

(日経電子版会員の方はリンク可)

中国とどう向き合うか
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO46525040V20C12A9KE8000/

AKBの上海姉妹グループ
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121015/k10015740431000.html


◆新興国が揃って変調です◆

中国の経済成長の減速に加えて、インド、ロシア、ブラジルと希望の星だったBRICs が揃って経済成長の踊り場ですね。元々様々なインフラの未整備に対して成長の期待 と目標が高すぎたのですね。インドは電力、交通等の社会インフラの未整備に加え、 ビジネス環境の法制整備に加え、政治的なリーダーシップにも問題あります。新興国 に共通ですが汚職も酷いです。スズキの暴力的ストライキに見られるような社会的な 歪とそれに対する抑えきれないほどの大衆の不満が健全な経済成長を妨げています。 この点は未だ韓国の「現代」ですら苦しんでいますが。


BRICs以外のベトナム、以外のインドネシアも変調は共通です。しかし、世界経済は この成長市場をあてにして経済運営をしてきましたから、世界的な経済も変調をきた します。加えて長引くEUの金融危機と経済の停滞です。因果関係から言えば、EU経済 の停滞が、中国の輸出を減らし、旺盛な需要が急減して、資源価格を下げ、このため ブラジル、ロシアなど資源国の経済を停滞させ、世界経済全体が変調をきたしまし た。


相対的に日米の経済は安定して見えますが、企業経営者の苦闘は察するにあまりあり ます。日本は顕在化した中国のリスクと成長の限界に対応するため、東南アジアを中 心にリスク分散した新しいグローバル化の戦略の展開が求められますね。


景気減速、新興国にも波及
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC11007_R11C12A0000000/

マクドナルドも世界同時減速の影
http://www.nikkei.com/markets/column/ws.aspx?g=DGXNMSGN2000K_20102012000000

インドリスク強まる
http://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKDASGM17082_X11C12A0EA2000
(日経電子版会員の方はリンク可)

◆グローバル化の経営課題◆

ただ、どの国に事業を展開するにしても、日本企業に共通する課題の一つが、人事制 度システムです。グローバル対応で且つ、地域適応の人事制度を各地域に導入しなけ れば、いつかはスズキや現代、更に銃撃戦になった南アフリカのような争議に向き合 うリスクがあります。日本式の人事管理?日本でも人事の管理できていません。


更に、一時に比べ機運が落ちていますが国際会計基準への対応も依然グローバル化の 課題ですがこれも余り動いていません。オペレーションの評価が均一にできません。 会計システムを入れるだけですが。ポイントはグローバル会計のソフトウェアを日本 化しない事です。日本本社の会計処理は世界の非常識ですから。


第3の課題がITシステムです。上記2つの課題もインプレメンテーションはITシステム です。グローバル企業の神経網です。このITシステムには結構多額の投資をしていま すが、グローバル対応になっていません。ですから在庫も見えません。この責任は情 報システム部門にあります。必要以上の投資を経営者から引き出しながら、グローバ ル対応できないシステムを構築しています。経営者と情報システム部門の双方に、グ ローバル企業の神経網という理解が出来ていません。


機会あるたびに助言していますが日本人の経営者は動きませんね。何度言っても動き ません。日本人は黒船、敗戦、暴動での破壊が無いと動かない文化ですか。冗談に、 “風林火山”から“風”と“火”を消去しているのですかといってます。


風と火で躍進している企業もあるようですので、日本も捨てたものではありません が。


高速回転経営
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO47415090Y2A011C1TJ2000/


◆エネルギーをめぐる議論◆

エネルギーの議論も活発でまともになってきました。もともと原発25%、15%、 0%という単純な“三択クイズ”で国民の意思を確認するという、学生でもやらない ような稚拙な議論を始めた政府が国民の意識を混乱させました。本来この段階でもそ れぞれの選択の結果予想されるインパクトをキチッと示すべきです。国民もこれを正 しく認識する必要があります。一方財界も、ただ原発ゼロに反対で再生エネルギーだ けではどうしてもだめだという説明が出来ていません。米国でも原発無し、再生エネ ルギーでエネルギーが賄えるという根強い主張も有ります。例えば、Rocky Mountain


Institute の提案です。


一方、地球温暖化、低炭素の議論がすっかり低調になってしまいましたが温暖化は進 んでいますし、体感できます。10月になって金木犀の香りが街に流れ来ました。以前 は9月の季節感でしたが10月にこの香りを感じて改めて温暖化の進展を感じます。北 極海の氷も史上最少という報道もあります。 エネルギーの議論を深めて、広げて国民全体の意識を高め、既に世界一の、省エネル ギーと高い熱効率をさらに高めて完全な循環型経済を実現して、世界に範を示すのが 日本の進むべき道ではないでしょうか。ただ単純な理想論は国を誤らせます。


Rocky Mountain Institute
http://www.rmi.org/

北極海の氷
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=00020120921003

「第5の燃料」で世界のリーダーになれ
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20121009/237853/?mlp&rt=nocnt


◆再生エネルギーのビジネスモデル、をテーマしたビジネスモデル学会成功裏に◆

ビジネスモデル学会の秋季大会は10月20日東京大学の工学部講堂で成功裏に開催され ました。10時から5時過ぎという長い時間ですがほとんどの参加者は最後まで熱心に 参加し、交流会も盛況で多くの出会いとパートナーシップが生まれました。


基調講演の「日本は再生可能エネルギー大国になりうるか」-福島原発事故の検証か ら- と題した、前JST理事長で、福島原発事故独立検証委員会委員長の北澤 宏一教授の講 演は圧巻でこの講演だけでこの学会に参加した価値があります。私も核のエネルギー を含め、日本のエネルギーに関する認識が一気に深まりました。この提案をベースに して国民が広くエネルギーを議論することが、私の主張するまともなエネルギー論議 です。キーとなるメッセージは「国民一人年間5万円を負担(長期の投資)すれば原 発 無しのエネルギーミックスが可能になる」です。会員は当日の資料を学会のHPで間も なく見られますが、下記の著書の一読を強くお勧めします。一緒に、「福島原発事故 独立検証委員会 調査・検証報告書」も購入しましょう。


個人的には協和コンサルタンツの桑野和雄氏と九州工業大学の金元敏明教授の「経済 性と資源活用のエッジの追及、マイクロ水力発電」で紹介された独創的な小水力発電 システムに嵌りました。これは凄い発明だと思います。世界の貧困地帯を変えます! 詳細は三重県「立梅のプロジェクト」を見てください。


北澤 宏一教授の著書
http://www.amazon.co.jp/s/ref=sr_st?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&keywords=%E5%8C%97%E6%B2%A2%E5%AE%8F%E4%B8%80&qid=1350792016&rh=k%3A%E5%8C%97%E6%B2%A2%E5%AE%8F%E4%B8%80%2Cn%3A465392&sort=-pubdate


立梅の小水力発電プロジェクト
http://www.2030.jp/blog/tachibai/2012/07/post-74.html

ビジネスモデル学会
http://www.biz-model.org/


◆渋谷ヒカリエでシティー・サミットを開催しました◆
二子玉川で推進中のクリエイティブ・コンソーシアムの活動ですが、10月12日に 渋谷のヒカリエでシティー・サミットを開催しましました。


定員800名ですが1300人以上の申し込みがありましたが、抽選で約1000人の方々を招 待しました。当日は欠席者も僅かで満員でした。基調講演の安藤忠雄生のお話はすご く楽しめました。残念ながら資料は非公開です。富山市のコンパクトシティーの実践 結果は説得力ありますね。首長が本気になれば出来るという非常に良い事例です。


「二子玉川に作るクリエイティブシティー」と題して、私はコンソーシアムの基本構 想を発表しました。


その中で二子玉川、渋谷、自由ヶ丘を結ぶ三角形をプラチナトライアングルと名付け その凄いポテンシャルを紹介しました。そのポテンシャルは、0-14歳の人口増加率 が、 全国では-3%、23区で+3.3%ですがプラチナトライアングルでは+5.1%、大学・ 大学院の高学歴者の割合が、全国の17.3%、23区で24.8%に対して31.1%、年収1000 万円以上が全国の7%、23区で10.2%に対して16.3%という実態を示してこの地域に クリエイティブ・クラスが既にかなり集積していてこのポテンシャルを生かして、ク リエイティブシティーという経済成長のエンジンとなる「新しい都市のモデル」を創 成する目標を示しました。詳細は下記にある当日の資料でご覧ください。


当日の資料等は下記で。当日のUstreamも置いてあります。
http://creative-city.jp/news/2012/0824_112302.html


◆「電子版 プラチナ構想ハンドブック」をApp Storeで販売を始めました◆
プラチナ構想ハンドブックの電子版は既に、紀伊国屋の電子書店 http://bookwebplus.jp/ 大日本印刷系のhonto http://honto.jp/ebook.htmlで販売していますが今回は AppleのApp Storeでも販売を始めました。次はAmazonですがこれは来年になるでしょ う。


Apple とAmazon から英語版を出版する予定です。世界中の人に直接書籍を販売する という夢の様な事が可能になった時代です。


◆頭のよくなるクッキング8◆
久しぶりにインパクトのあるシェフに会いその料理を食しました。それは青山1丁目 のナリサワ(NARISAWEA)です。その昔、30年以上も前、確か六本木の芋洗い坂のビ ストロ・ロチュースから西麻布にクイーンアリスを開いた石鍋裕シェフ、葉山から 南青山にキハチを開いた熊谷喜八シェフ、西麻布にアクアパッツアを開いた日高良実 シェフの料理に出会ったようなインパクトを感じました。その頃にはそんなシェフが まだ何人もいたのでしょうが。


長ネギの焦がした黒い粉末をまぶした食材、液体窒素で凍らせた日本酒のソルベ、同 じく液体窒素を温かいイカのローストに掛ける演出・・・。日本刀を小さくしたステ ーキナイフ、食器も独創的でアートです。テーブルにも挨拶に来てくれました。そう いえばビストロ・ロチュースでは石鍋シェフは出口まで送ってくれましたし、著書も サインしてもらって買ってきました。


成澤由浩シェフの「森とともに生きる」というテーマのメニューは、森からの贈り 物、 菜園からの贈り物、里海からの贈り物、里山からの贈り物で構成されていました。


インパクトのあるシェフに会い、その料理を食するのも頭のよくなるクッキングの範 疇です。


◆デジタル書斎の構築14◆
前回のPCオーディオの続きを。CDのリッピングについては話しましたが、本来PCオー ディオはCDを超える音質のいわゆる高音質音源の音を楽しむことです。既に電子ファ イルとして高音質の音楽ソースがネットで販売されています。高音質音源とは通常の CDのサンプリングビット/レートが16bit/44.1kHzに対して、高音質音源は 24bit/96kHz や24bit/192kHzのデジタルオーディオデータです。


実は高音質音源としては既にSACD(スーパーオーディオCD)とDVD Audioが発売され ており、我が家にも既にかなりのコレクションがありました。これをリッピングする のは通常のCDの様には行きません。幸い最近になってDVD Audioについてはそのリッ ピングのソフトウェアがネットで入手出来るようになりました。それはDVDAExplorer です。これでDVD Audioの24bit/96kHzは無事リッピングできましたが5.1チャンネル は再生ができませんのでしばらく勉強です。


もう一つのDSDフォーマートのSACDはリッピングソフトウェアが見つかりませんでし たが、ネットで探していくとなんと、Play Station3の初代のファームウェアを書き 変えれば出来るという記事に出会いました。我が家にはその初代のPS3が死蔵されて います!かなり高度な裏技ですのでまだ試していませんが次回くらいにはご報告出来 るかもしれません。頑張ります。


しかし、最も手軽な高音質音源の楽しみ方はインターネットラジオです。ネットプレ イヤーをオーディオシステムに追加するだけですが無数の放送局から好みのジャンル の高音質の放送が見つかります。クラシックファンにはTBSがやっているOTTAVAがお 勧めです。高音質で素晴しい選曲のプログラムが24時間タダで聞けます。これはパソ コンでもスマフォでも聞けます。スマフォの音も高級イヤフォーンで聞けばかなりの モノでしょう。


iPhone5を入手しました。いつものように渋谷のビックカメラで比較的簡単に入手し ました。今回はキャリアをソフトバンクからauに乗り換えました。今は意外とLTEの エリアは少ないです。しかし接続状態はかなり改善されました。特に電車の中や地方 での通話が酷かったですから。


機能面では特にまだ体感するものはありません。軽くて持ちやすくなった気はしま す。


◆書評◆
今月のご紹介は、「照葉樹林文化とは何か」 佐々木高明 中公新書 2007です。

本書は、“日本人のアイデンティティー、何処から来たの?”の答えをくれた本で す。

この3年ほど追いかけてきたこのテーマに一応の結論を得ました。

縄文以降の日本の歴史はかなり研究が進んでいます。京都大学の学派が精力的な研究 をしています。それによると縄文時代の初期に、北のツングース系の民族が狩猟・採 取文化をもって北から日本列島に移動し、中期までには東日本全体に広がったといわ れています。この地域はアムール川、沿海州の森の樹勢であるナラの森林が共通で、 ナラ樹林文化と呼ばれています。狩猟・採集の文化で、この落葉樹の森が広がる東日 本に広がって行きました。


一方、長江中流にいた非漢民族は4000年くらい前に南下する漢民族に追われて、長江 下流に移動した集団と、タイ、ビルマ、ラオス、ヒマラヤに移動した集団に分かれま す。縄文中期後期に、その南下した集団は朝鮮半島南部から北九州へ、一部は長江下 流から直接九州へ、さらに一部は南西諸島から沖縄、九州に移動してきました。長江 流域、東南アジア、ヒマラヤの森は照葉樹林が共通する樹勢です。東海以西の西日本 もこの照葉樹林です。長江下流から移動してきた民族はこの西日本の照葉樹林に広が って行きました。(ナラ林樹林と照葉樹林の分布の図を俯瞰工学研究所のサイトの俯 瞰メール補完資料に置きます。)


この長江からの移動集団は狩猟・漁労・採取に加えて焼畑農業の農耕文化を既に持っ ていました。その焼畑の雑穀栽培の中には陸稲があったといわれていますが、原始的 な水田もあったようです。納豆はこの照葉樹林文化に共通する食文化で、このほか 麹、 漆…などが共通文化です。この照葉樹林文化も北進していった様で、福井県や青森県 の三内丸山遺跡でも見事な漆器が数多く発見されています。


次に、3000年ほど前に日本に移動してきた集団は、北アジアの民族で、朝鮮半島を南 下して、朝鮮半島南部で先進的な灌漑システムをもつ大規模な稲作文化を発達させ、 それを持って北九州に移動してきましたが、この民族は鉄器と馬そして国家という組 織と強力な文化を持っていましたので、これが勢力を広げ、これが弥生文化で西日本 全体に広がって行きました。倭国の時代です。


最後に、その後の大和に国を創る大王家、すなわち現在の天皇家につながる集団が強 力な武力を持って進出してきました。これが有名な江上波夫教授の騎馬民族征服説で す。朝鮮南部の百済と大和朝廷の親密な関係はこの源流にあるという事です。旧任那 には大和と同じ前方後円墳が有ります。


この文化も現在の茨木県でとどまり、ご存知のように坂上田村麻呂の多賀城、源頼朝 の藤原氏攻略で大和勢力が少しずつ東北に浸透していきましたが、現在も基底の文化 は西日本と東日本は差違が有ります。


ですから現在の日本人は、北方ツングース系、照葉樹林系、水耕稲作の弥生系、北ア ジア騎馬民族系が混在しています。これは日本人が持つミトコンドリアのDNAハプロ グループの割合とも整合します。今はDNAの分析で、自分の源流が、北方ツングース 系、照葉樹林系、水耕稲作の弥生系、北アジア騎馬民族系か判定してくれます。(西 日本への文化の伝播ルートの図を俯瞰工学研究所のサイトの俯瞰メール補完資料に置 きます。)


この本は3部構成で、以上が「第1部照葉樹林文化とは」に記述されています。佐々木 高明教授自身の膨大なフィールドスタディーの結果に加え、出版が2007年と新しいの でこの日本人のアイデンティティーを追求してきた多くの碩学の学説が俯瞰的に統合 されていますのでこれが現在段階の結論でしょう。ただ、日本民俗学の父と呼ばれる 柳田国男は日本文化は稲作文化であり、南からの海上の道から日本民族は来たという 主張をしたようですが考古学、言語学、歴史学のからは認められなかったとありま す。

元々柳田国男は官僚であってフィールドスタディーは行ったがいわゆる市井の「学 者」 であって研究者ではありませんので『学』における「知の技法」を習得していません から、論考を積み上げて推論するのではなく直観的な主張になります。有名な「遠野 物語」も十分な現地調査研究をしたのではなく、遠野の作家佐々木喜善の収集した話 を編纂したと言われています。


佐々木高明教授は研究者ですから「知の技法」に基づいて中尾佐助、大林太良、坪井 洋文、岡正雄らの碩学の論考を俯瞰的に構造化して結論を出していると思います。


第2部には豊富な図表を含めたアジアの照葉樹林文化の民俗、習俗が紹介されていま すが、非常に興味深いですよ。


第3部は農耕文化の起源に関する、佐々木高明教授と植物学者の堀田満教授、環境考 古学者の安田喜憲教授、植物遺伝学者の佐藤洋一郎教授の討論ですがかなり専門的 です。


騎馬民族征服説
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A8%8E%E9%A6%AC%E6%B0%91%E6%97%8F%E5%BE%81%E6%9C%8D%E7%8E%8B%E6%9C%9D%E8%AA%AC


DNA情報から日本人の起源を探る
http://www.cyber-u.ac.jp/column/wh/006/index.html



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webmaster@fukan.jp
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◆俯瞰 MAIL 0019号(2012年7月16日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
発行責任者:松島克守
URL: http://fukan.jp
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


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