日本を明るくする再発見


俯瞰工学研究所の松島克守のメルマガです。第14号を送らせていただきます。


◆このメールマガジンは、松島克守が、東京大学教授、そして(社)俯瞰工学研究所の代表としてこれまでに名刺交換やメール交換をさせて頂いた方々に送らせていただいております。またこのようなMLはメールボックスのご迷惑と感じられる方もあるかと思います。ご遠慮なく不要のお申し出をくださるようお願いします。また、内容等についてもご遠慮なくご意見をいただければ幸いです。


皆様

◆季節のご挨拶◆
歴史的な寒波でヨーロッパでは300人を超す死者という、報道があります。日本でも 2月3日国内で最も冷え込んだのは北海道枝幸町・歌登の氷点下32.6度、長野県南牧村 で氷点下26.0度、東京都心も氷点下1.0度まで下がったという事です。地球温暖化で はなく氷河期でしょうか。インフルエンザも流行とのことです。これには悲しい事が ありました。お互い予防に気を付けましょう。ただしタミフルには要注意!


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・日本を明るくする再発見
・やっぱり脳の話は面白い
・ブレア首相が仕掛けたイラク侵攻?
・目が離せない中東情勢
・名門コダックの倒産
・永田町と霞が関、国民も怒れ!
・二子玉川クリエイティブ・シティのシンポジュウム開催
・ビジネスモデル学会春季大会は3月31日東京大学で開催
・IT経営力大賞はビジネスモデルが素晴らしい
・かくも悲しき事
・デジタル書斎の構築6
・書評 : 都市の原理
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◆日本を明るくする再発見◆

 Courrier Japonの3月号に紹介されていた記事が面白いですよ。NY TIMESの記事の紹 介ですが“失われた20年”は真っ赤な嘘!という記事です。日本は海外から、経済 運営の失敗例と叩かれていますがこれは誤りで、日本の状態は米国よりずっと良いと いう話です。その根拠として、この間日本は平均寿命は4.8歳延びて、結果として米 国人より4.2歳も長生きしていますが、これは医療制度が充実しているからだと。実 に1950年からは平均寿命が20年も延びている!


 インターネットの接続が最速の世界50都市の中に日本は38都市も有るのに対し、米国 は3都市だけ、失業率も米国の半分以下の4.2%、この20年で建設された150メート ル以上のビルの数は東京が81棟に対し、ニューヨークは64棟、シカゴ48棟、ロ サンゼルス7棟、日本の貿易の経常黒字は1960億ドル(15兆円)。円高にも前 向きで、89年末に比べると対ドルで87%、対ポンドで94%、日米のファンダメ ンタルの評価の差異だと。


 ミシュランの3つ星は、東京は16店で、パリは10店で2位に甘んじているし、1 人当りのGDPも試算を変えれば日本の伸びの方が米国より高いという事を主張して います。ただ一つ、つまらない政治を除けば、日本は見習うべき国であるのに海外メ ディアが日本衰退説を流し続けるのは、背後に日本を見下したいという心理があると いう事です。


 日本人は自己を卑下しすぎて暗い国、暗い社会にしているようです。これから日本の 良いデータを積極的に発掘して紹介しようという決心が出来ました。原文は下記で す。
http://spikejapan.wordpress.com/2012/01/15/spiked-eamonn-fingleton/

インターネットのスピードランキング
http://dailyinfographic.com/internet-speeds-around-the-world-infographic


◆やっぱり脳の話は面白い◆

 同じ、Courrier Japonの3月号の特集は”人生を豊かにする「脳」の使い方“です。 嬉しいことに脳のメカニズムを理解すれば発想力も記憶力もずっと上げられるという 事です。まず、これまでの右脳、左脳というモデルは古くて捨てるべきで、98年に 発表された「認識脳科学と記憶の研究」という画期的な論文の提唱する「知的記憶」 というモデルが最新であるという事です。そしてこの論文の著者のカンデルはこの2 年後にノーベル賞受賞です。その説は、どのような思考様式においても分析と直感が 脳内で協力して働くというもの。右脳も左脳もなく、学習と想起が脳全体で様々な組 み合わせで起こるという事です。このモデルによればブレストは不毛で、止めろ!で すと。脳学者のバリー・ゴードンは「知的記憶」について地球最大の目録システムで あると解説しているとあります。人間は生まれた瞬間から、脳は物事を取り込み、分 類し、棚に収める。新しい情報が入ってくると脳は記憶にしまってある情報と合致し ているか調べて、合致していると、前からある記憶は棚から取り出され新しいものと 組み合わされる、これが思考だ。分類と収納のプロセスが分析で、検索と組み合わせ が直観だとあります。


 正しい脳の使い方?をナポレオンやグーグルの創業者を例にとって解説しています。 前例となる情報が、予断のないクリアな脳の中で組み合わせが起きるとき、解決策、 アイディアが閃くという事です。この後続く特集の記事も凄く面白いですよ。


 殆ど同じ事を、「情報融合」として1993年に上梓した「ITで会社を変える」に書きま した。「様々な思いは情報融合という概念に収束した。時間や分野、場所を超えて脳 の中に蓄積された様々な情報や知識がある刺激、例えば目の前の自然や会話、食事・ ・・がトリガーになり融合しアイディアという訪問者が頭の中に訪れる時の爽快さは 何事にも喩えようがない。」もしかすると私は大発見をしていたのでしょうか。あま り売れなかった本でしたので2004年に上梓した「MOTの経営学」にも再度収録しまし た。

Courrier Japon
http://courrier.jp/
ITで会社を変える
http://www.amazon.co.jp/IT%E3%81%A7%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E3%82%92%E5%A4%89%E3%8 1%88%E3%82%8B-%E6%9D%BE%E5%B3%B6-%E5%85%8B%E5%AE%88/dp/4769350759/ref=sr_1_6 ?ie=UTF8&s=books&qid=1261304173&sr=8-6 (数行表示されている場合、上記URL全体をコピーしブラウザのアドレス欄にペース トしてご覧ください。)

MOTの経営学
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4822243923?ie=UTF8&tag=metatechnica-2 2&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=482224392 3
(数行表示されている場合、上記URL全体をコピーしブラウザのアドレス欄にペース トしてご覧ください。)


◆ブレア首相が仕掛けたイラク侵攻?◆

 新年からの日経新聞の「私の履歴書」は、元イギリス首相のブレアで、やはりイラク 戦争はかなりの部分はブレア首相が仕掛けたようですね。ブッシュは慎重であったの でブレアが、背中を押して始めたような記述です。中東は自分たちのテリトリーとい う認識でしょうか。そしてアングロサクソンの結束というドグマを強く感じさせま す。


 イラク出兵に反対するドイツとフランスを、旧いヨーロッパと揶揄してEU加盟の日の 浅い国を味方につけ新しいヨーロッパと持ち上げていました。そして最近の欧州金融 危機に対し距離をおく態度が、英国は欧州大陸の国ではないことを示しています。


 イラク進攻になぜそんなにのめり込んでいったかはっきりしませんが、若気の至りの 様に感じ読み取れました。または大英帝国の幻想に一人酔う事がなかったか、とも思 います。もしくは米国内の石油マフィアであるチェイニー副大統領との連携があった のでしょうか。イラクに大量破壊兵器があるという確信も持っていなかったようで す。


 ただ、ブッシュにイラク進攻を決断させた理由に、イラク進攻直前の2001年には、米 国で石油需給がひっ迫し、輸入が急増し、海外取り分け中東の石油資源を確保する必 要があったという事情もありました。


 「私の履歴書」の後半からはブラウン財務相との確執が延々とあり、凄まじい政局の 裏側を赤裸々に見せてくれましが、次第に言い訳っぽくなってきて、ブレアに対する イメージが、私の中では劣化しました。ブラウンも陰湿で結果は暗愚な首相で終わっ ていますので、意外と英国の政治も水準はあんなものかとほっとした点もあります。 大学の授業料引き上げをかなり熱意をもって進めたことは意外です。結局、彼はイギ リスを変えたのでしょうか。世界を混乱させたことは事実です。多くの戦死者を米国 とイラクに出しました。さらに一般国民を多数犠牲にしました。彼らの死が必要であ ったのか、ブレアは考えているのでしょうか。


◆目が離せない中東情勢◆

 その中東ですが、アラブ革命の進行とシリア騒乱、イラン制裁と予断を許さない危険 な情勢が続いています。イスラエルによるイラン攻撃については、米メディアが先 週、パネッタ米国防長官は4月にも行われる可能性を懸念していると報じていました。こ こに来てシェールガスの開発の目途がつき、一気にエネルギー事情が緩和され事と深 刻な財政赤字のため、ついに米国は中東での覇権をあきらめ太平洋とインド洋で、中 国との対峙に集中するという歴史的な決断をしました。世界帝国から太平洋・大西洋 国家になるのです。ミャンマーを中国から奪還しつつあり、中国の東インド洋への進 出を阻止し、インドとの連携を深めインド洋を確保しつつ、ハワイ、グアム、北オー ストラリアへの兵力の増強を始めました。余談ですが、これからは陸軍力ではなく海 軍力ですね。ですから中国も空母建造という海軍力の増強に走っていますが。そして 無人機による空軍です。


 この結果はパキスタン、アフガニスタン、イランからエジプト、リビア、モロッコに 至るアラブ・イスラム世界から米国の力が抜けます。その中にイスラエルが1人取り 残されることになりました。周囲はエジプト以外は、イスラエルという国家の存在を 認めない国々です。国境を接する国々はイスラエルの直接的な報復を恐れて手を出し ませんが、イランはフリーハンドです。ですから、冒頭の米国の国防長官の談話は衝 撃的です。さすがに米国政府はヒラリー国務長官、オバマ大統領ともにこれを打ち消 すメッセージを出しましたが、否定でなく、まだ決断していない?という談話です。


 まさに一発触発の危機でしょう。ホルムズ海峡封鎖どころではありません。日本にと ってホルムズ海峡は石油の輸入ルートの喉元である以上に、天然ガスの輸入ルートで す。問題は原発停止でこの天然ガスの確保が非常に重要になってきた事、さらに悪い ことに90日の国内備蓄のある原油と違い、天然ガスは殆ど国内備蓄がないことで す。


 関係各位におかれては、国内原発の安全確認と整備を進め、既存の原発を万一の時稼 働できる状態にする必要があると思います。原発の是非の本質論と危機管理の議論は 分けざるを得ません。
http://www.cnn.co.jp/world/30005486.html


◆名門コダックの倒産◆

 写真フィルムの名門コダックが倒産しました。ここに浅い理解のMBA的経営の問題点 の反面教師的教訓があります。挑戦的な新事業の企画に高水準の利潤をコミットさせ る。知財戦略に溺れる。其の上に選択と集中というステレオタイプの発想しか出来な い。戦略即ちマイケルポーターです。あれは産業構造が安定し、持続成長している業 界が前提ですが、事例がない新規市場であれを説く人がいますね。この誤謬は伝統的 な日本企業にもありますし、実は伝統的な外資系にも共通しています。GMもそうでし た。連邦法11条を申請した米国企業の全てといっていい共通の、衰退、凋落の原因で す。一時期のIBMはそうでした。売れない本当の理由は封印でした。その淵から経営 革新で這い上がった例もIBMです。現時点の状況を見ると、日本のIT業界F、N、Hは同 じ時代を共有しながらその状況にあまりの差異があるのに驚愕します。NDすらもがい ています。ただ、日本IBMはかなりの苦戦であるように伝わってきますので日本市場 に 特異性があるかもしれません。


 日本のIT産業が補助金という“シャブ”で体を壊したことも効いているように思いま す。GoogleやSales Force、Amazon はいくら政府から補助金を貰ったのでしょうか。 産業振興の政策はむずかいですね。副作用があります。IT産業政策もコンピュータ産 業の黎明期に巨人IBMからひ弱な国産メーカーを保護した政策の延長しかありませ ん。


 悲惨なことに半導体産業は保護しすぎて滅んでしまいました。蒸発する自分の市場を 目の前に見ながら茹でガエルとして死んでいったコダックという図式です。そのコ ダック倒産の具体的な教訓として下記が挙がられています。詳細は下記のURL
1. 中核技術の喪失
2. ブランドへの過信
3. 甘い市場見通し

http://www.nikkei.com/biz/focus/article/g=96958A9C93819499E0E1E2E1E68DE0E4E2 E3E0E2E3E0E2E2E2E2E2E2;dg=1;p=9694E3E4E3E0E0E2E2EBE0E0E4E3 (数行表示されている場合、上記URL全体をコピーしブラウザのアドレス欄にペース トしてご覧ください。)


◆永田町と霞が関、国民も怒れ!◆

 震災関係の議事録がない!?およそ官庁関係の会議で議事録がないことは考えられま せん。出せない理由、作成できない理由が怖いですね。ICレコーダーも関係者のノー トもありますが、当時の日本中枢の状況は公開できないほどの惨状で、国益を考えて 賢い関係者が阿吽の呼吸で全てを飲み込んでしまったのでしょうか?


 防衛相をめぐるドタバタはあきれますね。前任者のことを考えると、現下の状況にお いてもこのポジションはかくも軽い位置付けなのでしょうか。同盟国の米国は歴史的 な軍事戦略の変革を決め対中国の防衛線構築を実行中です。本当に頼りないと思うで しょうね。日本から防衛線をグアムに下げ、中国軍の対艦ミサイルを避ける方向に くでしょうか。


 今は、米国、日本、韓国、台湾で分担して防衛線を構築する重要な時期です。防衛線 は紛争を抑止する為で、戦争ではありません。国家安全保障を、声を出して議論する 状態にしましょう。


 防衛相に人材がいない?貸し借りの人事?民主党は次回の選挙の後に存在できないか もしれませんね。前回にも述べましたが、今回の選挙は正論派と愚論派分けてやりま しょう!その前に官制改革と消費税を決着してもらわないと困ります。


 国民が怒らないとこの国よくなりません。それにしてもだれに投票してよいのか、国 民はハムレット状態ですか。

URL議事録がない
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120124/plc12012403250002-n1.htm
国防長官の発言
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120203/amr12020311290000-n1.htm
http://japan.donga.com/srv/service.php3?biid=2012020409948

イスラエル国防相の発言
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120118/mds12011819370008-n1.htm


◆二子玉川クリエイティブ・シティのシンポジュウム開催します◆

 この俯瞰MLで何度かご案内してきた二子玉川に近未来都市を創る壮大な実験の、クリ エイティブ・シティ・コンソーシアムが2月22日に二子玉川でシンポジュウムを開催 し ます。「オープンイノベーションが人・街・ビジネス・社会を変えていく」をテーマ に、現在進行形のプロジェクトの成果の一端を発表し、近未来都市としてのクリエイ ティブ・シティの未来像を参加者と共有、議論する場として開催いたします。建設予 定の街をコンピュータ・グラフィックスで紹介します。今回の書評にある「都市の原 理」を改めて考察する絶好の機会です。そして各位の近未来の行動を改めて考える場 です。


 主要な内容は:
・エッジシティにおけるクリエイティブワークスタイル
・都市における生物多様性とは
・位置情報サービス(次世代GPS)が暮らしを変える
・オープンイノベーションが人・街・社会・ビジネスを変える


 参加無料ですが、事前登録は必要です。下記のURLから申し込めます。先着250名で す。

 今ならまだ間に合うと思いますが、東急電車に広告が出ますので急いだ方が良いと思 います。
開催日時:2月22日(水) 13:30-18:00(開場13:00)
開催場所:玉川高島屋S・C アレーナホール(玉川高島屋S・C西館1F)
http://creative-city.jp/2012/01/2012.html


 ◆ビジネスモデル学会春季大会開催◆

ビジネスモデル学会春季大会が東大本郷キャンパス工学部2号館で3月31日開催さ れます。大会テーマは「生活産業のアジア展開」です。製造業のアジア展開は広く認 識され、また今回タイの洪水で厳しい損害を出したこともまだ記憶に新しいのです が、 生活産業のアジア展開も凄い勢いで進んでいます。自動車産業や電子機器のアジア展 開はそこに雇用を生みその人たちが膨大な生活者としての需要を生んでいます。今そ の生活産業の常用を刈り取りに行くフェーズになりました。


 大会準備を着々と進めており、基調講演者は経済産業省経済産業政策局長石黒氏に、 特別講演者はアサヒグループホールディ ングス古田土取締役、資生堂中国事業部 マー ケティング開発部大亀部長に決定しました。わが国の生活産業のアジア展開に関する マクロ的な動向やリーダー企業の知られざる物語、及びビジネスモデルを考える上で のヒントは、きっと貴方のご期待に応えます。スケジュールに書き込みましょう。


 この1日で半年分の知識が得られます!そして脳のコンテンツのバージョンアップが 出来ます。いつも最新のソフトでコンピュータ(脳)使っていますか。
http://www.biz-model.org/


◆IT経営力大賞はビジネスモデルが素晴らしい◆

私はこの3年ほど審査委員会のお手伝いしていますが、年々水準が向上してきまし た。


 ここで受賞された企業の情報システムは、基盤のビジネスモデルが秀逸です。無論結 果も業績に出ています。この審査をしていると、日本の中小企業は凄い!と感嘆せず にいられません。ITで会社を動かす、オペレーション全体の無人化に近いものもあり ます。受注から配送、経理、納税処理がすべてシステム化で完全ペーパーレス、無人 化?社員は何を、実は配送の梱包などの仕事だけ、あとは更なるクリエイティブなア イディアを議論しているのでしょう。

審査結果発表は
http://www.meti.go.jp/press/2011/02/20120208005/20120208005.html


◆かくも悲しき事◆

十数年前に一緒に仕事をしたYさんの訃報。まだ46歳、というかもうそんな歳に なっ ていたのです。句会に誘われて1年ほどご一緒したことも有りました。年賀状を見 て、 今年はお会いしたいなと思っていた矢先です。前日まで仕事をしていて、体調が悪い と言って帰宅して次の日亡くなられたとか。インフルエンザのタミフルのショックと も。


 葬儀に参列しました。泣き崩れる夫人、そしてまだ4歳のお嬢さんが母親の涙をガー ゼのハンカチで拭う姿、上の6歳のお嬢さんもそうですが、悲しい状況を理解してい な いのか、していても表現する事ができないのか、無心に拭き続ける姿に泣きました。 「悲しみ」と言う言葉が身体中に沁みて行きました。かくも悲しき事があるのか。


 どの顧客からも一緒に仕事をしたいと言われるほど素晴しい人でした。彼が苦労して 完成させたERPのシステムが稼働していた事業所は閉鎖され、他社に売却されて今は 有 りません。厳しい状況を前任者から引き継いで、その比類なき人格で顧客の信頼を取 り戻し見事に完成させました。苦労しても仕事の結果は残りませんでした。家族は残 されました。仕事と家族の優先度を間違えてはいけない、健康は自分のためだけでは なく家族に対する責任だと改めて再認識しましよう、そして自戒の念を含めて。 また追いかけるように名古屋で一緒に仕事をしたIさんの訃報です。ご夫人と中学生 の お嬢様、そしてご両親が残されました。親に先立つ親不孝という悲しみもあります。


◆デジタル書斎6◆

 この表題はあえてデジタルと入れていますが、本質的に、知的活動にデジタルとアナ ログの境界はありません。デジタルとアナログは単なる工学的な信号処理とそのデバ イスの違いだけです。文具がデジタルかアナログの話でしょう。純アナログで生活し ている人はいません!見ているテレビもデジタルです。まだアナログ???


 というしょうもない話はおいて、本質的な知的生産技術の話をしましょう。知的生産 技術は目的ではありません。あくまで、知的資産、価値を創成する手法です。ここを 純アナログでやってもいいですが、人生の時間がもたないでしょう。知識と情報は爆 発しています。大英博物館に籠ってマルクスが資本論を書いたという話を昔々聞いた ような記憶があります。そこに人類の知識の大半が存在した時代です。


 知的生産のプロセスは、情報の収集・分析・編集です。この情報の収集に、デジタル は驚異的な威力を発揮します。今回はこの情報収集の話しをします。


 私の情報収集は、新聞、雑誌、書籍、Web、会議、セミナー、講演会、そして面談、 会話、会食、見学、旅行です。このうち、面談、会話、会食は純アナログですが、そ のスケジュールの設定はメールというデジタル技術です。スケジュール調整がありま すのでメールが確実です。結果としてスケジュールの密度が上がりました。東京の知 の情報の集積は凄いですね。その内容は単純に脳に記憶するだけです。ただ殆ど忘れ ます。めったにメモは取りません。フォローアップすべきことは、実は、先方にあと で、メールでリマインドしてもらいます。


 会議、セミナー、講演会の内容は、脳で記憶です。これも殆ど内容は忘れますね。無 意識下に残っていると思いますが。特別な数字と情報源はメモすることはあります。 ですからポケットに小さなメモ帳を持っています。ここはアナログ信号処理です。時 にはiPhoneに入力しますが時間がかかりますね。


 新聞、雑誌、書籍は紙で読みます。新聞は電子版も購読して、記事の保存を電子版で します。永年の習慣で切り取りますが、紙のスクラップは後で検索が出来ません。新 聞の電子版は既に多くの方が実践しているように、スマートフォンで電車の中でスマ ートに読めます。その場でスクラップも出来ます。ただ新聞の情報は構造化が弱いの で、知識にするためには、あとの分析・編集能力が必要になります。


 雑誌は既に「デジタル書斎」で紹介したように、pdf化してiPadのiBookとして、出張 の移動時間などの隙間時間に読むことが多くなりました。新聞の情報よりも構造化さ れていますので、構造化された知識が収集できます。Newsweekの日本版、Courrier Japonは購読していますが、世界中の情報が視野に入ります。ブルータスは趣味性が 強い情報が得られます。


 書籍は重要な要点や、インパクトのある文は蛍光マーカーで印しますが、そのあと一 手間かけてテキストに打ち込んでおくと価値が出ますね。この作業をiPhoneやiPadに あるアプリのPlaintextを使うと、クラウドサービスのお蔭で、転送しなくてもいつ でもどこでも利用できます。Dropboxの中に勝手にPlaintextというフォルダーを創っ てくれて、情報デバイスに関係なく勝手にアップロードしてくれ、どこでもいつでも テキストは使えます。


 Webからの情報収集はデジタルでしかありません。RSSで情報発信を受け止めることは しますが、TwitterでNikkeiとWSJはフォローしています。そこからWebに入り興味深 い 情報はゲットします。良質な情報は長い事が多いですね。URLをメールで自分に転送 し ておくこともしますが、ここでInstapaperというスマートフォン、タッチパネルのア プリケーションが有効です。これは「後で読む!」という機能です。Instapaperとい う 無料のクラウドにとりあえず送っておくと、どこでもいつでも読めます。そして読ん で、これは後で使えそうと思ったら、Evernoteというアプリケーションでクリップし てクラウドにしまっておきます。このクラウドサービスは無料もありますが、知的労 働者であるなら年会費数千円で会員になっておきましょう。Evernoteに入れて置く と、 あとでGoogleで探し物をしたとき、Googleのエンジンが、しまっておいたEvernoteの 情報も一緒に検索してくれますので、宝の持ち腐れがなくなります。使ってこその知 財です!


 書斎のパソコンの画面には、日経新聞、ロイター、WIRED、日経ビジネス、などのア イコンを置いて随時見ますが、iGoogleの画面にガジェットとして、BBC、CNN、WSJ、 朝日新聞デジタル、Google 国際ニュース、トップニュースなどを置いてあります。 この方がニュースを見落としません。


 一番肝心なことは、興味あるテーマを意識しているかどうかです。興味あるテーマに 関する情報は向こうから合図してきます。いくつかのテーマについては、脳の中にフ ォルダーが出来ているので、そこにスーッと入ります。加えて関連情報をクラウドや パソコンに保存して置けば、そのあとの分析が効率よくできます。iPhone、iPad、PC そしてそのアプリはデジタル文具です。


 長くなりましたので次回!


◆書評◆

 今月のご紹介は、「都市の原理」
ジェイン・ジェイコブス 中江利忠、加賀谷洋一 訳 鹿島出版会2011(1971)で す。


 本書は1968年に原著が上梓され、1971年に邦訳されたもので、改めて2011年それが新 装再版されたましたから、旧い本ですが、いまだその真価は揺るぎがないという事で しょう。もっと若い時に読んでおけばよかったと思う本は少なくありませんが本書も その一冊です。ただ、読みやすい本ではありません。ジェイコブスの研究に関しては 文末のURLにある細谷裕二さんの研究ノートが解り易い解説になっています。


 ジェイコブスの主張は鮮烈です。まず「都市ありき、そして農村が発生する」という 常識を覆す言明です。「農業自体も都市で生まれたのではないか」とも。即ち「先史 時代でも農業と動物の飼育は都市で始まった」という論理的な帰着を導いています。 トルコのカタル・フエクの32エーカーの土地に、泥の煉瓦で造られた建物がびっちり 並び、人口は数千人にも達したと推定され、数千年以上前の新石器時代の、知られて いる最古の都市の実例として紹介しています。最古の布地もここで発見されていま す。


 農業は地球の三ヶ所で起こりました。小麦と大麦の栽培は中東で、米栽培はアジア東 部(私はインド南部のタミルと思いますが)で、そしてトウモロコシの栽培はアメリ カでという事です。狩猟と採集が先行し、穀物栽培が軌道に乗って初めて狩猟民は農 民になれた、という論理は確かに解り易いですね。穀物の栽培が先とすると、それま でなにで生きてきたのかになりますので。その狩猟民は三ヶ所で都市の原型を構成し て、そこで農業のプロトタイプを作り上げたという主張です。「狩猟民の恒久的な集 落が農耕前の生活の姿だと示唆したい」と言っています。


 次に、都市の発展については「新しい仕事が古い仕事に盛んに追加され、分業を増や していくところが都市である」としています。「モノを新しく開発していく経済は拡 大発展する、新しい種類の製品、サービスを追加するのでなく、ただ古い仕事を続け て繰り返すだけの経済は、あまり拡大せず、当然発展もしない」というくだりは経済 という言葉を、企業に代えればそのまま当てはまります。即ち「都市の発展は新しい 仕事が、盛んに古い仕事に追加されることにある」という主張が二番目の言明です。 新しい仕事が、旧い仕事に追加された例として、婦人服の仕立ての仕事に、ブラジャ ーの開発が新しく追加された仕事として本書で、しばしば引用していますが、ここで は文中にある別の例を紹介しましょう。ミネアポリスで鋳物を作っていた会社が自社 が鋳物の仕上げに使用していた磨粉を、厳選して紙の上に接着剤ではり、紙やすりと して大工や家具職人に販売を始めます。そしてその紙やすりには接着剤に問題があっ たので、その接着剤の改良から、良質の紙テープを造ることに興味が移り、これをペ ンキ職人に遮蔽テープとして売り出しました。それからセロテープや、電気テープ… という一連のテープの製造販売が、新しい仕事として追加されました。接着剤のビジ ネスには、工業用の接着剤や建設用の充填剤…が追加され、ワックスやペンキも製品 に追加されました。接着力が弱い接着材からは、剥し易いポストイットも新たな製品 に追加されました。こうして発展してきた企業が3Mです。


 ここで興味深い論理展開が、「仕事の論理」です。親となる旧い仕事から、新しい仕 事が生まれる「暗示」として、「既に使われている物質又は技能から示唆される」こ と、「出てきた特定の問題から生まれるアイディア」を上げています。さらに、興味 深いのは「追加される財貨やサービスは、旧い顧客が望むものと関係ない」とも指摘 しています。ですから売る相手も新しい仕事です。「ただワクを大胆に打ち破って追 加される」という事です。


 都市の発展については、英国のマンチェスターとバーミンガムを例にとり、紡績業と いう成功をただ繰り返すだけに専念し、新しい財貨やサービスを追加できなく、旧い 仕事にも改善がなく衰退したマンチェスターに対し、多くの試行錯誤と多様性を追求 し、街が実験室になったバーミンガムは繁栄を継続したとあります。生産性と利益率 だけを追求したマンチェスターは衰退して、生産性は低いが多様性を追求したバーミ ンガムは長く反映したという歴史的な教訓です。デトロイトとボストンの対比も挙げ ています。


 続いて挙げている、ニューヨーク州のロチェスターは、既に議論したコダックの本拠 地です。コダック社はロチェスターで成功したのち、コダックからのスピンアウトの 企業を潰し、起業を抑え、唯一例外のゼロックス社でしたが、分離と多様性を否定し て生活、社会まで支配するようになり、ロチェスターはコダックの「会社の町」にな り、「会社の仕事」をするほかに暮らしを立てる選択を無くし、そして新しい仕事が 追加される事も無くなり、選択と集中というステレオタイプの思考で、次第に自身の 多様化も否定して行った結果、支配した「会社の町」とともに自社も沈んでしまいま した。


 都市の爆発的成長については、「輸入品を置き換えていく過程は、都市を爆発的に成 長させる」とし、事例として明治の東京を挙げているのが面白いです。当時の東京は 大量の自転車を輸入していましたが、修理職人達は自分で部品を作り出し始め、さら に個々の部品を専門分化して作るようになりました。そうなるとその部品を大量に契 約して職人から買い取って、完成車を製造する業者が出現したと云います。こうして 東京の輸入されていた自転車は地元で製造される自転車に置き換えられました。これ を「輸入置換の乗数効果」と名付けこれは地元経済を膨張させるといってます。輸入 品との価格差が新たな需要を生みます。これが都市の成長原理であると言明していま す。ここで、高価な生産機械を輸入して大量生産するのではなく、東京が持っていた 既存の能力の範囲内でこれを成し遂げたことは創造的な仕事であると、日本をさらに 持ち上げています。


 「輸入置換→輸入品の構成変化→急激な成長」が成長のプロセスで、このプロセスの 中で、経済活動の総計の増加、農村で生産される財貨に対する事情の急拡大、そして 都市の仕事の急増が起こると云います。本書が執筆された時代は日本経済の高度成長 期に当たりますので、成長の事例として日本は好都合であったのでしょうか、随所に 日本が好例として紹介されています。


 引き続き都市に対する彼女の思い入れを強く感じさせる興味深い記述をもう一つ紹介 します。ロックフェラー財団がインドの農村の貧困を救済する目的で、エタワという 農村に自家発電装置と近代的設備を持ち込み、工場を建設しましたが、失敗に終わり カンプールという人口120万人の都市に移転して成功させた事例と、工業と農業を結 び つけるべく、中国が農村に小規模工場を展開したが結局この計画は放棄された話で す。


 この事例が教えたことは、新たな事業を立ち上げるには、都市が持つ多様な仕事を提 供する組織、必要な財貨やサービスを提供する能力が必須であるという事です。


 新しい仕事を創成するのに重要な要件として、940年代にロサンジェルスやボストン が 与えた「小さくても多彩な出発点」が存在です。ベンチャー企業を育てる機能、ベン チャーキャピタルに言及しています。


 興味は尽きませんが要約はこれまでにします。都市に対するあくなき愛情ともいえ る、 ホットな主張と生の例証が本書の魅力でしょうか。ただ、正規の研究者としての教育 を受けていないキャリアのためか、いわゆるアカデミアの正統からは外れた論証の手 法かもしれませんので、その筋の学者とは激しい論戦があったでしょう。


 この本では少ししか触れられていませんが、区画整理で街を整然とすることで街は賑 いを失い、衰退するという信念から、都市計画の専門家との激しい論争もしているよ うですが、暖かなふれあいのある街角や小さな広場、旧いが美しい建物がごちゃご ちゃ している空間が街の多様性を高め、ひいては新しい仕事を追加する、という主張で す。


 県庁所在地くらいの規模の地方都市に多くの衰退の実例を見てきました。今、二子玉 川でクリエイティブシティーを創るコンソーシアムの支援をしていますが、色々な示 唆を与えてくれます。地域振興のプロジェクト、地域クラスターの作り方にも参考に なります。また、別に手掛けているプラチナ社会の建設にも大変参考になります。


 「都市ありき、そして農村が発生する」から始まりますが、「新しい仕事が古い仕事 に盛んに追加され、分業を増やしていくところ」が都市である。新しい仕事は「既に 使われている物質又は技能から示唆される」や「出てきた特定の問題から生まれるア イディア」から生まれる、そして「小さくても多彩な出発点」を与える仕組みが都市 の発展の要件という言明、これが本書のエッセンスだと思います。この次も都市論で 行きましょうか。


 細谷裕二さんの研究ノート http://www.innovation-net.jp/text/data/sangyo_ricchi_200811_hosoya.pdf

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◆俯瞰 MAIL 0012号(2012年2月14日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
発行責任者:松島克守
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


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