第8回 環境首都を目指して〜北九州市の挑戦


北九州市アジア低炭素化センターと北京環境交易所との業務提携
 8月初、北橋北九州市長、小宮山アジア低炭素化センター長に同行して、同センターと北京環境交易所との業務提携の覚書調印式と日中低炭素フォーラムに出席してきました。私も環境省の塚本国際連携課長とともに、北九州市を国がバックアップしている構図がみえるように、市長の言葉を借りると、「日の丸を背負って」参加することになりました。



 同センターは、北九州市、日本の環境技術を集約し、環境ビジネスの手法でアジアの低炭素化を推進するため、2010年6月に設立されました。今回の業務提携は、低炭素化に向けた技術・ノウハウの移転、低炭素化ビジネスの取組、各国と中国との間での排出権取引の仕組みや将来市場の動向など情報収集・分析の機能などのプラットフォームになることが期待されています。


 既にインドネシアのスラバヤ市の工業団地のスマート化プロジェクト、インドのデリー・ムンバイ産業大動脈構想における環境配慮型都市づくりといった大型プロジェクトに参画しています。また、まだ発足したばかりなのに、新たなプロジェクトとして、北京市における工場省エネ対策推進事業(安川電機)、インドにおける電気電子機器廃棄物のリサイクル事業(日本磁力選鉱)、大連市の節水型住宅設備機器の普及事業(TOTO)、西安市の制御系エネルギー管理システム導入事業(安川電機)などが進行中です。また、ビジネス成約ができたものとして、大連における水浄化事業(新日鐵化学)の受注、カンボジアにおける浄水場基本設計補完事業(北九州市水道局、浜銀総合研究所)の受注があります。


 フォーラムの方は、小宮山センター長のプラチナ構想ネットワークを基調講演に、北橋市長の北九州市の環境エネルギー関連の取組の紹介、北京側からの紹介、パネルディスカッション等が行われました。


 興味深かったのは、環境省塚本課長からの現行の京都メカニズムを補完する二国間オフセット・クレジット制度について説明です。これは、現在日本政府が提案しているもので、日本の先端の環境技術や製品を移転・利用を排出権取引の対象にすることで、各国の事情に応じて分散型で排出削減が進むことが期待されています。こうしたものも視野に入れて、今後、北京環境交易所との提携が進めていこうというものです。私の方からは、日本のエネルギー環境政策の見直しの方向と九州での取組について紹介、特に同センターへの期待について述べました。


 2008年に福田首相と胡耀邦国家主席の合意を受けて、天津市での北九州市によるエコタウン協力(天津市子牙工業園における循環型都市の全体計画)が行われています。この度、天津市と低炭素社会づくりに向けての覚書の署名がありました。既に日本側の協力で完成した家電リサイクル工場も見学してきました。環境分野における外資導入、企業誘致、技術移転を促進するための方策ということかと思います。



北九州環境ブランド〜環境首都を目指して
 北京行きに先立つ7月末、ちょうど北九州がOECDの「グリーン成長」のモデル都市(環境と経済成長が両立した都市)に選定されました。パリ、シカゴ、ストックホルムに次いで4番目で、今後OECDにより更なる政策分析が行われ、来年には報告書がまとめられる予定です。


 また、小宮山先生(前東大総長)が同センター長になられていますが、これ以上の適任者はいないでしょう。低炭素社会と高齢化社会への対応を柱としたプラチナ構想ネットワークで、60の自治体の参加するプラットフォームを拡大しつつあります。九州でも大分県が最初の地域シンポジウムになりました。九州局の政策プラットフォームとも緩やかな形で繋いでいきたいと思っています。


 中国で北九州市の環境ブランド価値は、想像以上です。大連での環境協力、大連・天津のエコタウン協力などを実施してきたことから、胡耀邦国家主席、習近平副主席など歴代首脳が訪問しました。またそれが全国に報道されて、さらに知名度があがってということで、「北九州市を中国で知らない人はいない」(今回通訳の大学講師)のだそうです。


 北九州市は、公害の克服に始まり、エコタウン、学研都市の建設、環境モデル都市、スマートコミュニティー実証など国の環境エネルギープロジェクト選定も活かしながら、日本一と言ってよい環境政策を実現してきました。また、大連の環境協力をはじめ、アジア環境都市機構(18カ国62都市)、東アジア経済交流推進機構(日中韓10カ国)の都市間ネットワークの形成、JICAと協力した6200人の専門人材の育成や専門家の派遣を行ってきました。


 しかしながら、政令市の中では、県庁所在地ではなく、堺市や川崎市のように大都市圏の中に位置しているわけでもない中で、環境都市として、トップを走り、世界に発信し続けています。そのことに深く敬意を表したいと思います。


 環境外交という面から大きな効果をあげてきたわけですが、必ずしも環境ビジネスが相当の税収を上げる産業になっているわけでもなく、この分野に市として相当の予算を確保し、市民や議会に理解を求めていくことは、かなりの困難が伴ってきたのではないかと思います。北橋市長が冗談交じりに「外務省から予算を付けていただきたいくらいです」と言われていましたが、そのお気持ちは十分にお察しします。


 私は、環境政策の面でも日本一元気な地方都市と言われる福岡市との連携強化、「福北連携」を図るべきであると思います。福岡市は、サービス・商業中心の都市ですが、幅広い分野での企業集積、ビジネスマッチングが展開しやすい「場」を持っています。ものづくり・環境都市の北九州市と福岡市とは補完的な関係が組みやすく、例えば、福岡市は、コンパクトな都市機能を活用した社会実証実験には最適の場所で、北九州のプロジェクトを福岡市で社会実証するといったことも考えられると思います。福岡市150万人と併せて250万人、あるいは、北部九州500万人という規模感で発信していかないとインパクトが出てこないのかもしれません。


local to local
 北九州とは別ルートで、商務部、科学技術部、清華大学などとの懇談も行ってきました。11月には11回目になる環黄海経済技術交流会議が韓国大田広域行政市で開催されることになっており、その打合わせを兼ねての訪問です。再生可能エネルギーやスマートグリッドなどの日中韓フォーラムが予定されています。


 清華大学関係者との打ち合わせの中で、北九州と大連、天津との環境協力のような、Local to local の仕組みをいかに作るかについて、熱心に語っていたことが印象的でした。これだけの広大な中国を中央政府レベルだけで対応していくことは困難で、効率が悪く、手法の多様性やスピード、ダイナミズムを期待しているようです。


 そのためには、地域調査研究、地域の環境ニーズ、信頼できる者との協力関係をどう構築するか、さらに、先方のニーズに応じた技術やソリューションサービスをどう提供するかが重要です。そのため、日中で地域政策共同研究センターを設けてはどうかといった話もありました。


 同席していたNEDO北京事務所の後藤所長から低炭素都市作りのフォーラムの話を紹介しました。


 この5月に低炭素モデル都市の廈門で北九州市、JICA、JABICなど国の機関、横断的な日本企業など40名が参加し、廈門市側も経済発展委員会他ほとんど全ての部局が参加の下、フォーラムを開催しました。厦門では、世界最高のレベルの計画はできているのだけれど、具体的にどういう課題があり、それをどう実行するかについては未定で、今後議論をする段階にある。


 こういう初期段階から、先方のニーズを把握し、日本がどういうソリューションを提供できるのか議論し、アイデアを提案していくことはたいへん有意義です。日本にとっても、具体的な案件の中身が決まってからでは、部分的な調達しか取れないけれど、マスタープランの具体化の段階から、様々な可能性を議論し、共同での知恵を出すことがシステム輸出につながるものと期待されます。


記事一覧へ