第7回 経営力強化と産学官+金融連携


 今回は、中小企業金融の話です。制度的な話なので、わかりづらくなってしまいますが、430万中小企業にとって死活的な問題だと思っています。


リーマンショック後の中小企業金融対策と金融円滑化法
 2008年のリーマンショック後の急速な景気悪化による中小企業への影響を緩和するため、各県信用保証協会の景気対応緊急保証、日本政策金融公庫によるセーフティネット貸付、中小企業金融円滑化法の施行(返済の繰り延べなど条件変更)など、万全の中小企業資金繰り対策が講じられてきました。これらについてのモラルハザードが懸念され、その功罪が指摘されてきましたが、倒産件数は、全国で19年ぶり、九州では30年ぶりの低水準となるなど相当の政策効果があったという評価ではないでしょうか。


 これらの実績はというと、・・・
 金融機関は、借り手からの条件変更の申し入れのうち9割の案件に対応し、160万件(取引銀行先が平均3件とすると50数万企業に相当)、45兆円の貸付の条件変更が行われ、返済が繰り延べられました。


 また、緊急保証では、27兆円、セーフティネット貸付では、15兆円の新規融資が行われました。


 しかしながら、中小企業金融円滑化法に基づき策定された経営再建計画の実行(条件変更の要件になっています)が思うように進んでいない、そもそも策定そのものが遅れている等の指摘もあります。中小企業の経営が必ずしも改善されているとは言い難い、債務返済は大丈夫なのだろうかとの懸念も大きいのではないかと思います。


金融機関のコンサルティング機能の発揮と外部機関との連携(監督指針の改定)
 金融庁では地域金融機関による地域密着型金融を更に促進する観点から、今年5月に「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」を改正し、地域金融機関に対し、外部専門家の活用や外部機関(経済産業局や商工団体)と連携しつつ、中小企業に対するコンサルティング機能の発揮を求めています。



 リレバン第一人者の多胡秀人氏(詳しくは、後で紹介。アビームコンサルティング顧問)によれば、「金融円滑化法の真のねらいは、債権の条件変更という集中治療室に入った患者を真摯に治療し、ゆくゆくは退院まで持って行くことだ」と言われています。



 第一ステージとして、リーマンショックの影響を受け、大きく落ち込んだ企業に対して、貸付債権の条件変更の受け入れ、第二ステージとして、2010年半ば頃からは、金融機関は、中小企業の経営支援・指導に注力し、そして、第3ステージとして、一年延長の本年4月からは、経営改善が果たせなかった企業について、再生すべきところは、徹底的な再生支援を、再生困難なところは、ベストシナリオで退場させることも含めた選別を行っていく段階に入るのだと。


九州局の金融連携の重点
 緊急保証により中小企業の債務が積み増し、また、円滑化法により条件変更されたわけですが、その後の債務返済は、ほんとに大丈夫なのか、という声も聞かれます。


 九州局では、今後の金融機関との連携の中で、地域の現場レベルで、地域金融機関と行政、支援機関が @中小企業の経営力強化・経営支援とA金融機関の経営支援等に向けたコンサル機能の発揮とそのための外部機関との連携、B地域ぐるみの事業再生支援という三つの歯車を連携させながら円滑に回していくことが大事であると考えています。地域の現場レベルで、関係機関が意識しながら、連携強化していくことが胆です。


 財務局とも二人三脚で進めているものですが、前福岡財務支局長からは、金融庁の文書は、美辞麗句を連ねたものにならざるを得ないのだけれど、現場レベルでどう動かす仕組みを作っていくかが大事とのコメントをいただきました。



@経営力強化と経営支援
 まずは、中小企業経営者が自覚努力して経営力を強化、それを後押しする経営の支援が重要です。法政大学の坂本光司先生(「日本で一番大切にしたい会社」50万部のベストセラー)と九州の中で、経営力強化運動を巻き起こそうと意気投合しています。坂本先生には、今年度10〜20回、あるいはそれ以上の講演と各地でのネットワーキングを行っていただくことになるでしょう。


 坂本先生からは、3年前の関東局での講演で 「中企庁や経産局は、支援、支援ばかりいうな。中小企業経営のあるべき像を示していくことの方がもっと大事だ」と言われ、痺れました。そして、3年間の研究会がスタートしたのですが、・・・この話は、稿をあらためて。


A地域金融機関のコンサルティング機能の発揮
 次に、地域金融機関による経営支援、経営指導、事業再生支援を行うこと。いわば、コンサルティング機能を発揮することです。現段階において具体的には、実行ある経営再建計画の円滑な実施をサポートしていくことが強く求められています。その際、監督指針にもあるように、九州経産局や商工団体等外部機関との連携、九州志士の会はじめ外部専門家人材の活用が重要です。



B中小企業に対する再生支援強化
 第3に、中小企業再生支援協議会の取組強化を行うこと。中小機構の中小企業再生支援全国本部とは、九州を再生支援のモデルとして力を入れていこうということでお願いしています。金融円滑化法による債権の条件変更が容易にできたことから、再生協議会で再生計画を地道に立てて行こうという案件がこれまでかなり減っていると聞きますが、一転してこれからは、溜まりに溜まってきたであろう再生案件を大車輪で再生を進めていくことが重要です。その際、地域における事業再生を重要視し、そのための再生専門家、ノウハウの蓄積、各者が協力連携していこうという、いわば事業再生文化が根付いていくことが大事だと思います。


「金融連携プログラム」について
 金融連携プログラムについて、説明したいと思います。
 平成19年に関東経産局の時に、地域金融機関との人事交流や施策活用が進んでいること、地域密着型金融の取組に金融機関間で格差があることに驚きました。そして、関東局とのwin winの関係を築くべく、地域金融機関との連携の具体的取組をプログラム化しました(下記図表参照)。まずは、経産局との連携でしたが、政策的は、産学官と金融との連携によるプラットフォーム作りという事かと思います。


 その時に、趣旨に賛同いただき、実質顧問になっていただいたのが、沖縄金融特区関係からお世話になっている小西龍治先生(当時九州大学大学院ビジネススクール教授。現立命館アジア太平洋大学客員教授)と金融審議会委員(当時)・金融機能強化審査会委員(現在)でリレバンの第一人者の多胡秀人アビームコンサルティング顧問(さらに山陰合同銀行と鹿児島銀行の社外取締役、大分銀行でも顧問的活動)です。お二方には、今でもご指導いただいており、7月末には、佐賀県有田でのファミリービジネス(老舗企業)と金融の支援的役割についての調査も九州局と合同で行いました。


 お二人から学んだリレバン(地域密着型金融)というビジネスモデルのポイントは、以下のようなものではないかと思います。
・地域金融機関は、お金のご用立てができるだけでなく、中小企業の事業支援が求められている。そうすれば、後から金融取引は自ずからついてくる。
・中小企業振興はじめ地域活性化の反射的利益(利他自利、先議後利)を得ること。いわばやせ我慢経営。
・まずは、地域金融機関の経営者がリレバンを経営戦略として採用すること。そして、全体的組織的継続的に進めること。
・地域金融機関が取引企業の経営支援や異業種とのビジネスマッチング等を通じて、商流を作り、付加価値創造を行っていくこと。
・地域活性化競争は、地域金融間競争でもある。ひどい金融機関のために地域企業は苦しまなければいけない。
 各金融機関からすれば、本音のところは、リレバンは、やり尽くした感があり、その一方で業績に結びつかないといった徒労感もあるやに聞いていますが、経営戦略として徹底すること、また、ユーザーの声や支援機関との地域連携の枠組みを作っていくことがこれから重要だと思います。


 その後、本省地域グループに移って、各局によびかけて、金融プログラムを全国展開しました。各局の2010年度の取組のまとめは、当時上司の塚本地域審議官と金融庁長官・局長等幹部に説明にも行きました。ちょうど一年前のことになります。九州局は、技術支援を中心に産業支援金融プラットフォームを作っていこうというのがプログラムの重点でした。



 高原前中小企業庁長官は、金融庁との連携が大事ということで、監督指針に経産局との連携やプログラムにおける具体的内容などを金融庁に提案され、これらは、5月の監督指針に反映されました。現在開催されている中小企業政策審議会企業競争力部会では、経営と金融の問題を深掘りして議論しています。


九州での第一地銀との連携会議
 7月26日には、第一地方銀行等の常務クラスの方々に集まっていただき、坂本先生と中小企業再生支援全国本部の藤原敬三氏(統括プロジェクトマネージャー)の講演を聴いてもらい、意見交換を行いました(「中小企業の経営力強化に向けた意見交換会」)。


 関東局で当たり前にやってきたことでも、このお膳立てをするのに一年かかりました。地域金融機関の幹部に趣旨と必要性、意義なりを十分理解いただき、九州各県からよろこんで参加していただくことが不可欠だからです。監督指針の中で、外部機関の中の経産局との連携を図るべきと明記されたことも大きな後押しになりました。


 坂本先生の経営力強化の話は、経営支援で悪戦苦闘している地銀幹部の方には、たいへん示唆に富む話だったと思います。地域の中で正しい経営というのは、地域の関係者から活かされることだというメッセージはリレバンにも相通じるところがあります。


 今後、11月に九州北部13信金のしんきん合同商談会の際に信金との連携会議を、熊本県と合同シンポジウムも検討中で、金融機関職員の研修、中小企業大学校人吉校での金融機関と企業との交流合宿も予定しています。



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