第25回 観光地域活性化のトピックス


小泉純一郎政権時の2003年に始まった観光立国の推進「ビジット・ジャパン・キャンペーン」が10年目を迎えます。訪日外国人旅行者数は、521万人から始まり、10年にはピークの861万人に達しました。東日本大震災後に大きく落ち込みましたが、昨年は837万人にまで回復しました。最近では、円高修正もあり、高い伸びを見せており、観光庁としては、政府全体の施策を総動員して今年1000万人の大台を目標にしています。
安倍政権の元で久々に3月末観光立国推進閣僚会議が開催され、これに先立つ1月に設置された国土交通省観光立国推進本部のWGで検討が進んでいます。


 観光立国を進めるための基本計画の柱として「内外から選好される競争力のある観光地域づくり」が掲げられています。魅力ある国、地域に磨き上げていくことが観光立国の原点であると考えます。
「観光」という言葉は、明治時代に易経から引用されたものであり、「国の光を観る」ことで、他所の国や地域を訪れ、その地と住まう人の光を観て、感動し、啓発されることです。


 高度成長期からバブル期までの、団体で定型的な観光名所を巡り大型のホテルや旅館に囲い込むといった旧来型の観光では、もう観光客を呼べなくなっています。観光立国の考え方は、「住んでよし、訪れてよし」の観光を目指すことです。地域の魅力をまず住民が再認識して、それを市場価値として構築し、訴求してくことが重要になってきます。ところが、地域の人が地域のことをあまりにも知らないことが多く、地域内、ましてや広域では、不仲で、連携が進んでいないことが多いといえます。


 観光地域活性化には、「観光地の活性化」のみならず、「観光による地域活性化」という面もあります。従来は観光地でもない後者のような地域(前者に比べて、圧倒的に多数)でも歴史文化史跡、伝統工芸、農と食などの地域資源を磨き、交流人口を増やし、定住化を図れないかと観光に対する期待が大きくなっています。これらの地域の場合には、産業観光やスポーツ観光、ヘルスツーリズム、グリーンツーリズムなど特定テーマのもとに、体験学習型のニューツーリズムを活用することが有効ではないかと思います。街道、ロケ地、神楽、被災地ボランティアなどにも注目しています。


 最近のトピックスを紹介したいと思います。


新観光圏とブランド観光地域づくり
 観光圏は2泊3日の滞在型周遊型観光を進めるために広域の観光地域を整備する観光圏整備法に基づき昨年まで49の認定が行われました。しかし、圏域が広過ぎたり、推進母体が曖昧だったりすることから、制度創設5年の節目に、観光圏の要件を修正し、「住んでよし、訪れてよし」の地域磨きを官民、異業種、広域で連携していくための仕組みにしていくことを目指しています。
新観光圏として、富良野・美瑛、雪国(新潟、群馬、長野の県境周辺)、八ケ岳、にし阿波、佐世保・小値賀、阿蘇くじゅうの6地域が新しく認定を受けました。さらに、順次認定していきますが、その中から日本の観光の顔になるようなブランド観光地域を整備していきたいと考えています。


酒蔵ツーリズムの創造
 國酒等輸出促進プログラムを受けて、3月26日に酒蔵ツーリズム推進協議会が発足した。酒蔵ツーリズムとは、酒や酒蔵を郷土料理や伝統工芸品、まちづくりなどと組み合わせ、観光資源として活用しようというものです。この全国レベルの協議会は、国・地方、酒造業界と観光業界はじめ官民が連携し、政策とビジネスのプラットフォームにすることを狙いとしています。
特に、酒を通じて、地域の歴史文化、宗教、水と土壌、米作り、発酵文化を再認識し、日本人及び地域が誇るドラマとして語っていくこと(山同敦子さん近著「極上の酒を生む土と人 大地を醸す」参照)を基本理念としたいと考えています。


 観光庁からは、地域のモデル事例集第一弾を同時発表した。また、協力企業等からの連携プロジェクトとして、SNSの仕組み作りや神社と酒蔵を組み合わせた「聖地巡盃」の旅(経産省クールJAPAN事業から事業化)や在京外国人向けのツアーからインバウンドにつなげていこうという取組も紹介された。
「酒蔵ツーリズム」は、佐賀県鹿島市の登録商標です。富久千代酒造の大吟醸「鍋島」がロンドンのワインコンペティションのIWCの日本酒部門で2011年にサケ・チャンピオンを獲得したことをきっかけにして、「鹿島酒蔵ツーリズム協議会」が設立されました。IWCに日本酒部門を創設した功労者である平出淑恵さん(IWC日本代表で酒サムライコーディネーター)が「鍋島の受賞をひとつの蔵元さんの名誉にとどめるのか、これを地域全体で分かち合うのかどちらにするのですか?」と投げかけたことをきっかけにして、これに応じた鹿島市観光協会の中村雄一郎会長が尽力され、古川康佐賀県知事も全面的に応援し、協議会設立に至ったものです。
地元6蔵の同時開放、蔵元と観光業者・飲食店との連携、巡回バス、酒ガイドの育成など受け入れ体制を整備しました。昨年3月末に「鹿島酒蔵ツーリズム」と銘打った蔵開きに3万人の訪問客が訪れ、今年3月(30、31日開催)には5万人に増えました。鹿島市の人口3万人を越えたわけです。地域連携型の酒蔵ツーリズムのモデルになりました。例年、3月頃にばらばらに酒蔵開放をしていた時期は、合計2000人くらいだったそうです。


観光キーパーソン集会
 地域の再認識や磨き上げが重要であると述べたが、その際に外からの視点を入れ、地域の価値をともに築いてくれる外部人材をはじめ外とのネットワークが極めて重要です。また、地域を見渡せば、「若者・ばか者・よそ者」が汗をかいて、地域磨きに取り組んでいることが多い。外部人材とこれら地域の若者(+シニア・女性)・ばか者・よそ者を呼び込み、自薦他薦のキーパーソン(KP)を集めた観光KP集会を進めていきたいと考えています。
2月末に能登で初めて開催し、フェイスブック「いいね!ジャパン」の古田秘馬さんやトムビンセントさんらを呼びました。5月以降、知多、播磨、松山、隠岐島海士町、高山、丹後などの自治体や地方局とともに開催していく予定です。 元々は、経済産業省のキーパーソン研究会で、利他的で、実践装備力が高く、実績を上げてきたキーパーソンを地域に送り込んで化学反応≠起こしていこうという取り組みだった。九州経産局に在職した際に、これを受けて、20回程度のKP集会を開催しました。
さらに、各省の人材活用制度(内閣官房の地域活性化伝道師や総務省の外部人材活用制度など)や民間のネットワークやSNS、そして、究極のよそ者である親日外国人のネットワークと連携していきたい。興味深いことにグローバルな視点がローカルの本質を捕らえることが多いと思われます。
今年度の補正予算の「官民協働観光地域強化事業」は、地域資源を目利き(KP)の助言を得ながら、官民協働で磨き上げ、旅行商品化し、情報発信するもので、9倍の倍率で68事業が採択されました。この中で、観光KP集会を順次開催し、各事業を成功に導くと共に、単発開催ではなく、各分野、各地域をつなぎ、人材連携基盤づくりとノウハウや事例の共有を図っていきたいと考えています。


 (毎日フォーラムに寄稿したものを加筆修正したものです。また、以上は、個人としての見解であって、属する組織のものではありません。)



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