第19回 食と観光と女性の力(1)
じゃらん宿泊旅行調査では、「地元の美味しいものを食べる」がここ2年連続、過去8年の調査のうち5回で、2位の温泉を抜いて宿泊旅行の目的トップになっています。食は、観光地域の魅力の向上のためには、必須事項です。
訪日外国人についても、アジアでは、中国・台湾では温泉が一番、それ以外は食が一番。欧米は、どの国も食が一番です。外国人が特に満足した食事は、寿司(44%)、ラーメン(24%)、刺身(20%)、うどん(11%)、天ぷら(10%)といった具合です(JNTO調査、2010)。
温泉旅館は、出費がかさむけれど、食事は、そんなにお金を使わなくてもちょっとした贅沢ができるという低成長時代の消費者の選好に合っているのかもしれません。
地域の側でも、温泉は、伝統と格式の高い温泉地でなければ、太刀打ちできないけれど、食は、後発的に観光資源に加えることが可能であり、新たに観光地になったり、観光客増加の起爆剤になり得ます。
2006年から始まったB-1グランプリでは、毎年参加人数が増え、昨年の姫路の第7回大会では、なんと51万人が集まったそうです。グランプリを取った富士宮焼きそば、厚木シロコロ・ホルモン、横手やきそば、甲府鳥もつ煮、昨年のグランプリである岡山県真庭市のひるぜん焼きそばなど地域の知名度を上げ、新しい観光資源になってきました。
思いつきのような料理開発ではありません。ご当地で長く食べられてきたものを発掘して、斬新なイメージを吹き込み、エンターテインメント性とストーリー付けをすることがポイントです。このような活動が各地の食のプロデュース力を高めてきたことは評価できるのではないかと思います。
グランプリを取ると、一斉にマスコミに取り上げられますが、一ヶ月で観光客の増加効果がほとんどなくなるそうで、一過性との指摘もあります。やはり地域の連携の元、しっかりしたルールを作り、地元の意欲を高めつつ息の長い活動が大事で、地域資源の磨きの常道が生きているのです。
これまで経産省から見てきた中でも、地域資源の活用、農商工連携や6次産業化といった施策の下で、新たな食品開発を応援してきましたが、特に、マーケティングと販売力が大事だと言われてきました。観光庁から眺めると、食品・料理の開発販売からから一歩進めて、観光・交流・集客を増やし、交通、宿泊などの関連消費を掘り起こし、まさに6次産業化することが重要です。それを生み出していくための企画開発、プロモーション、組織作りと継続的な運営力、ブランディングなどの「観光力」が重要でしょう。ほとんどの地域や事業者では、往々にしてそこまで手が届いていないのが現状です。
食を観光に結びつけていく力をどう生み出していくか。
地域資源を活かした商品開発の三宅曜子さんと「SAKEから観光立国」を提唱されている平出淑恵さん、そして、福岡の聖福寺献上茶壺道中など九州のお茶結びプロジェクトを進めている徳永睦子さんと3人の魅力的で強力な女性を2回に分けて取り上げたいと思います。
三宅曜子さん(クリエイティブワイズ代表取締役)
三宅さんとは、中小企業庁の時に地域資源活用プログラムの企画、実施の時からの盟友です。熊野の化粧筆をハリウッドのメークアップ・アーティストに提供して、カトリーヌ・ドヌーブなど大女優の心をも掴み、口コミで世界中に広めた方です。なでしこジャパンの国民栄誉賞の副賞に選ばれたことで、最近では、広島県熊野町を訪れる観光客が増えているそうです。
食を中心に地域資源と農商工連携、地域資源∞全国展開など全国で60以上の事業の立ち上げを応援してきました。例えば、
・鳥取砂丘の美人らっきょう(美容健康をテーマとして女性層にねらい。女性向けお土産品の定番に)、
・山口県防府市の天神鱧(漁獲量日本一にもかかわらず、地元飲食20店が「鱧塾」に参加、骨切りを習得。5年連続JRデェスティネーション・キャンペーンで取り上げられる)
・十日町のまんまごったく(旅館組合と農家、飲食業などと地元素材による裏巻き寿司。大地の芸術祭で提供するお弁当に)
などです。
経済産業省のキーパーソン会議(KP会議。地域グループ)も3年目になりますが、座長でもあり、 富士宮焼きそばの仕掛け人でもある藤崎慎一さん((株)地域活性化プランニング)は、三宅曜子さんの手腕を高く買って、食の開発とローケーション誘致の組み合わせで取り組まれてきました。一年目は静岡県三ヶ日市、二年目は成田市と短期間で画期的な成果を上げられました。そして、新たに、典型的な観光地「伊豆」の活性化に挑戦しています。
私も6月に成田市での三宅・藤崎コンビの取り組みの仕上げと7月に伊豆の河津町の仕掛け作りに参加してきました。
羽田の国際空港化が成田市に与えたショックは大きく、様々な地域おこしの取り組みに意欲的に取り組むきっかけになったそうです。例えば、パスタソースで食べる「成富うどん」、「週末は農場ブランチ」など食と観光の企画開発を行い、空港利用や成田山参拝以外の観光客の増加、空港利用の外国人客の成田への周遊に力を入れています。
そして、昨年度から今年にかけては、藤崎・三宅コンビによる「成田ソラあんぱん」と「ロケーション誘致」です。成田は、この一年で最も活発なロケーションサービスが行われた地域に躍り出たそうです。成田ロケ誘致促進協議会設立委員会に参加してきましたが、地域の幅広い関係者を巻き込んだ熱い会合でした。
そして、あんぱんについては、7月の販売に向けた最終摺り合わせに参加しました。何故あんぱんかというと、成田は、かつて小麦の生産地だったことを活かして、外国客にも日本のスイーツを召し上がってもらいたいという願いを込めたものだそうです。あんぱんの開発に当たっては、成田市女性職員チーム「成田ソラガール」が中心になって、地元の食材にこだわり、自家製パン焼機で試行錯誤してきたとか。最終的には、サツマイモ、落花生、レンコン、鉄砲漬のあんぱんに決定し、地元のパン屋さん3社と提携し、7月から販売、好評を博しているそうです。また、LCCの機内食でも提供することが決定。ガイヤの夜明けなどテレビ、雑誌でも取り上げられ、KP会議の懇親会では、仙石元大臣にもご試食いただいたとか。
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伊豆の河津町は、河津桜、河津温泉、伊豆の踊子の舞台、今井浜海水浴場などが有名ですが、海水浴客、温泉客の落ち込みが大きい。商工会事業として地域力活用新事業全国展開事業(旧地域資源∞全国展開事業)が採択され、「河津グルメ&魅力発信プロジェクト」を推進することになりました。グルメを三宅さんが、情報発信をロケーション誘致として、藤崎さんが担当することに。
また、東急、伊豆急さんも乗客がピークの半分の500万人に減り、伊豆の観光活性化に取り組むことになったそうです。観光業界からも伊豆は首都圏に近く、既にインフラや宿泊地、観光資源も充実しており、観光地再活性化の成功モデルを作るには、最好適地ではないかと有望視しています。
私も三宅さんのチームに参加しましたが、地域の商工業の方々35名と外部メンバー(経産省と観光庁、連携企業として東急・伊豆急)が6チームに分かれて、河津町に来てもらう観光客について、どういう層をターゲットに、何を見学・体験してもらうか、グルメの素材として何を出していくか、アイデアを出し合い、一つの表にまとめて、チーム毎に発表会を行いました。その中から皆が協力できるイメージを絞り込んでいくようです。若い女性客に健康美容を魚料理、スイーツを提供するというものが多かったように思います。
会議の途中から、結構、皆さん参加意欲が高くなり、熱中してしまいます。こうやって連携協力チームを作り、狙いを絞り、ストーリーを作るんだなと巻き込み方、議論の進め方、盛り上げ方に感銘を受けました。今後、何回かで、具体的なグルメの企画開発、試作を進めていくことになります。これまで三宅さんの完成品ばかりを見てきましたが、今回はそのプロセスを垣間見て、三宅マジックの秘密の一端を知った思いでした。
経産省、関東局としては、KP推進会議での成功事例を目指していますが、観光庁でも伊豆観光圏を応援していますので、この動きと連動していきたいと思っています。
(以上は、個人としての見解であり、属する組織とは関係ありません。)
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