第17回 成長戦略としての観光立国と地域活性化
4月から観光庁観光地域振興部長として出向しております。これからは、地域活性化の観点から観光政策について取り上げていきたいと思います。
観光立国の推進は、あらためて新成長戦略(平成22年)として注目されたこともあり、社寺はもちろん、食や産業施設、アートなど何でも観光にからめて論じられ、多くの地域・自治体で地域戦略に位置付けられているところも多く、観光がますますキラメキのある響きになっているなと、九州でもひしひしと感じておりました。
観光政策の大きな転機になったのは、平成15年小泉内閣での観光立国懇談会の開催です。国際交流を増進し、我が国経済を活性化させるために、自然環境、歴史、文化などの観光資源を創造・再発見・整備し、これを国内外に発信することによって、我が国が観光立国を目指していくことが重要との認識でした。一言でいえば、観光立国とは、お客様の視線を意識しながら、国や地域を磨くことによって、「住んでよし、訪れてよし」の国づくりをすることかと思います。
懇談会報告書の中で、平成22年までに500万人の訪日外国人客を1000万人に増やそうとの構想が打ち出され、ビジット・ジャパン・キャンペーンが始まりました。その後の主な動きは、下記のとおりです。
平成18年 観光立国推進基本法の制定
平成20年 観光庁の設置
平成22年 新成長戦略の策定(観光立国・地域活性化戦略)
平成24年 新たな観光立国推進基本計画の策定(閣議決定)
2010年新成長戦略では、7つの柱のひとつとして、「観光立国・地域活性化戦略」が位置付けられ、国家戦略の21プロジェクトのひとつとして「訪日外国人3000万人プログラムと休暇取得の分散化」が掲げられています。
そして、直近では、今年3月末に観光立国推進のための基本計画が閣議決定されました。その中で、観光庁が主導的な役割を果たすべき施策として、次が掲げられています。
・国内外から選好される魅力ある観光地域づくり
・オールジャパンによる訪日プロモーション
・国際会議等のMICE分野の国際競争力強化
・休暇改革の推進
また、政府全体により講ずべき施策として、以下が掲載されています。
社会資本整備等の観光振興への配慮、スポーツツーリズム、国際拠点空港、クールジャパンの海外展開、査証発給手続き・出入国手続きの迅速化・円滑化、オープンスカイの推進、日中韓三国間の観光交流と協力の強化、留学生の増加・活用、団塊の世代や若者旅行の促進、ゼロ階層対策の強化、旅行のサービス内容に応じた価格設定、消費者ニーズに応じた旅行環境の整備、新たな観光旅行分野の開拓(ニューツーリズム)。
長々と列記しましたが、まさに、観光庁が観光立国戦略とそのための各省連携を先導していく役割が求められているわけです。
しかしながら、皮肉なことに観光消費統計を見ると2006年30兆円だったものが2011年24兆円と大幅な減少になっています。一人当たりの旅行回数が減少していること、円高で国内旅行が海外旅行に代替されていることなどの理由があるかと思います。
国内の需要は、少子高齢化により縮小傾向にありますので、マクロ的に観光消費を増やしていくためには、訪日外国人の増加による外需取り込みと休暇改革による観光消費の構造を変えていくことが戦略的には正に重要です。
次に、地域活性化の観点でいくつかコメントします。
第一に、観光による集客交流は、地域の連携と自立のマジックワードだと思うのです。観光立国・新成長戦略の旗印の下で、あらゆる分野(文化、スポーツ、産業、自然環境等)が観光に結び付けられ、観光交流を増やそうという目的の下に、行政、団体、企業で連携が組みやすい。また、異分野や他地域との交流・集客が人と知恵の融合を起こすことや外部のお客さまの目を通して、地域の個性に目覚め、自主自立の精神を促すことにもなる。地域活性化の新たなアプローチとして期待される所以です。
第二に、2008年の観光庁の発足前後に都道府県や政令市においても、従来は商工労働部にあった観光振興課等が組織強化され、観光文化部や観光局や観光戦略監といったポストが創設されています。また、大学で観光関係の講座が100以上創設されたそうで、産学官の連携による観光地域経営が向上し、さらに観光分野に優秀な専門人材が供給されていくことが期待されます。
第三に、観光地域振興の基盤的として重要なのは、地域の連携(地域内と広域の連携)と経営革新(サービス生産性の向上やビジネスモデルの変革、経営力強化)ではないかと思います。いわば観光地域と観光産業にイノベーションを起こすことです。地域が観光イノベーションに取り組もうと思った時のプログラムが示されていることが重要ではないかと思います。いろいろコンテンツがありすぎるのですが、観光庁で「観光産業イノベーション推進ガイド」や「観光業支援ハンドブック」がまとめられており、一部大学で教材として使われていますが、なかなかいい出来具合だと思います。
http://www.mlit.go.jp/common/000142097.pdf
半ば冗談ですが、何人の方から、「宿敵というのは、宿(やど)同士の敵だから、観光では連携を組めないんですよ」、と言われ、苦笑してしまいました。地域内、地域間は不仲であることが多く、力が削がれていたりします。そして、多くの地域が何をしてよいかわからない状態にあるようです。
私は、「手足を動かし、体温を上げよう」、「よそ者、若者、バカ者を探して、いろいろチャレンジさせてみよう」と提唱しています。その中から実績を上げた地域リーダーが育ち、中には百人力の働きをする者も出てきます。こういう地域リーダーたちが集まれば、様々な地域に化学反応を起こしていくものです。
こういう巻き込み論、運動論を展開しながら、現場で成果を上げ、さらに大きな変革に結び付けていくことが大事かと思います。
(以上は、個人としての見解であり、属する組織とは関係ありません。)
記事一覧へ
|