第15回 福岡スマートハウスコンソーシアムについて
1月末に福岡スマートハウスコンソーシアムと横浜スマートコミュニティとの合同セミナーが開催され、丸一日にわたり参加企業や自治体等から27人が連続講演しました。
前日の内覧会では、モデルベース開発手法による開発キット、エネルギー制御技術を使った電源回路のシュミレーター、PVの電気を蓄電器に貯めたり、出したり、直流交流変換や系統電流と混ぜて使ったりするエネルギーコントロールマネージャー、エネルギー制御に特化したプロセッサなどが展示されています。これらは、世界初のもので、国内外の業界で波紋を呼ぶ機器、システムがこのコンソーシアムから生まれているそうです。
(左)【エネルギーシステム設計のシュミレーター。数式モデルで、最適化を行う。航空機の設計の手法】、 (右)【エネルギーマネジャー】
中村良道代表(株式会社スマートエナジー研究所創設者)にお会いしたのは、昨年2011年の5月に当局が九州スマートコミュニティー連絡会議設立セミナーで、中村さんに基調講演をお願いした時に遡ります。私は、中村代表の理念、誕生までのドラマ、その後の成果に感銘を受け、すっかり意気投合しました。その後、福岡に来るたびに何度か主要メンバーと九州局にも訪問いただき、昨年11月の環黄海会議をはじめとした多くの講演を頂くとともに、いろいろな方々に紹介しています。
ビジョンとコンソーシアム発足の経緯
中村良道さんは、20年にわたり最先端の太陽光発電や燃料電池のシステム開発に携わってこられました。数年前に、がんを患い、茫然自失の中、沖縄の海で、啓示を受け(茨城の真言宗のお寺で生まれ育ったのです)、今後、自分のできることで世に尽くそうと決心されたそうです。そして、2年前にスマートエナジー研究所を創設され、スマートハウスのグランドビジョンと技術を公開し、コンサルティング活動を開始されました。
講師として十数回、参画した福岡の技術セミナーでdSPACEの有馬社長と知り合って、中村さんのグランドビジョンを実現してみようということになりました。中村さんは、崇城大学の中原先生と長年、デジタル電源回路設計の研究をされており、新しいシステム開発のための道具立てを探していたところに、モデルベース設計方法の新しい市場がないかとその応用例を開拓しようとしていたdSPACEの有馬さんと出会ったのでした。
さらに、このビジョンを共感した日本TIや福岡市の職員の話合いの中から自然発生的にプロジェクトが企画、実行され、2010年6月に福岡スマートハウスコンソーシアムが発足しました。福岡市が所有するレンガハウスをこの実証試験のために貸出してもらうことになり、参加企業や大学がシステムや装置を自主的に持ち寄って、実証実験を行ってきました。なお、福岡市は、本件をグリーンアジア国際戦略総合特区の中のアイランドシティープロジェクトに位置づけ、CO2ゼロ街区の創設や24年度からは、常設展示も行われるようになっています。
福岡の成功をウオッチしていた横浜市から相談を受けた中村さんと有馬仁志(dSPACE(株)社長)さんは、エネルギーに配慮したまちづくりを行い、中小企業を元気にするコンセプトで横浜市とともに横浜スマートコミュニティを発足し、有馬さんが代表を務めることとなりました。横浜スマートシティープロジェクト(YSCP)の中に位置づけられています。また、五島でEVの実証を行っている長崎県が高い関心を持たれ、国内外のショーケースにするとともに、セミナーや人材育成の場にしていこうとハウステンボスのスマートプロジェクトと連携協力が開始されています。沖縄でも沖縄総合事務局経済産業部の山内部長との間で、沖縄研究会が企画されています。
様々なセミナーで、スマートハウスのグランドビジョンを発表するたびに参加者が反応し、自分も実証試験に加わりたいとコンソーシアムに参加してきました。現在、横浜も入れると、70団体が参加しているとか。
また、開発した製品やシステムがかなり売れ始めており、国内外のスマートプロジェクトからも調達されているので、「スマコミ経済圏」が形成されつつあるのだそうです(笑)。
グランドビジョン〜生命観コンセプト
中村さんのビジョンは、「自然に学ぶ」を基本コンセプトにしています。それは、エネンルギー効率のよい小さな世界ができれば、それを情報でつないで大きな世界を作ることができる、というものです。植物細胞は、進化の過程で非常に効率のいいシステムを作りました。植物細胞の中の葉緑体が光合成をして、ミトコンドリアがエネルギー変換をする、そして、相互に物質のやりとりをして、一方の出力が他方の入力になるような、循環型のエネルギー生成のシステムを実現していると言います。
植物細胞は、エネルギーを「巧みに創る」、「蓄積する」、「上手に消費する」エコシステムを作り上げ、これがスマートハウスのコンセプトにしています。このユニットを多様に組み合わせたり、並列に接続して規模を拡大したりすることにより、自律的な自由にエネルギーシステムを作り出すことができるのです。
そして、スマートハウスは、家単位で次の4つの機能を持つことができるといいます。
○EV充電の際、系統電力アシスト
○停電対策、非常時の電力供給
○自然エネルギーのスムーズな導入
○系統電力のピークカット
コンソーシアムの特徴と成功要因
なぜ、福岡スマートハウスプロジェクトがオープンイノベーションの成功例として評価されているのか、福岡の中村代表、横浜の有馬さんとの対話からまとめてみました。
まず、これにはちょっと驚きなのですが、会費も予算も計画もないこと。参加企業は、手弁当で実証実験を実施することに決めていることです。必然的に、プロジェクトを進める担当者は、自主的な計画をしなければならないが、結果的に技術者がほんとにやりたいことを計画できたといいます。
また、公的な補助金に頼らないで、自律的に進めていくということにしています。補助金がなくなったら、活動が止まってしまうということにもなりかねないからだそうです。予算や成果の管理、書類づくりなどに煩わされることがない自由さも魅力でしょう。
このプロジェクトは、結果がいつ出るかもわからず、予算もスケジュールも立たないために最初はトップの承認が得られない状況が多かったそうです。しかしながら、参加したい技術者が未来を考える、未知のことをやる、自分たちでは家を建てられないし、実験できる場所もない、新しいビジネスの種を検討したい、ということを主張してトップを説得してきました。こうして参加する技術者個人のモチベーションが高く、自主的にやると決めた人が集まり、目的もビジョンもはっきりしているという集団となったのだそうです。
一方、結果的に頭の固い会社は入れないということになりました。もっとも裏メンバーとしての参加はあるそうですが。
しかしながら、最も重要なことは、中村さんや有田さんような中心メンバーが利他的で友好的、開放的であることでしょう。参加メンバー同士の信頼関係がしっかりできています。そして、茶室の中のように、資本関係など主従関係や会社の系列などに左右されない、平等で自由にものづくりや実証試験を行うことができるように気をつけて運用してきたことが、よい結果を得られたと分析されています。
軌道に乗り始めてからは、内覧会やセミナーにおいて、将来の購入見込み客が見学にくることで、問い合わせや商談、注文も出されるようになりました。さらに、学会発表や、セミナーを通じて、客観的に技術的な評価を得られたこと、特に、海外に積極的に紹介し、反響を呼びました。自主的に各社がキーエンジニアを出していくことでその成果は、業界が驚嘆するダントツの成果につながりました。さらにメディアに取り上げられることによって、参加希望メンバーが増え、活動が活発になるという好循環が繰り返されました。日本には珍しいオープンイノベーションの展開があり、わくわくしてきます。
ちなみにこのセミナーでは、私からは、
- 将来は、官プロジェクトを補完する民主導プロジェクトとして横浜に次いで続々と全国に拡がりをもったものになることを期待するとともに、特に北九州のスマートコミュニティとも繋がってもらいたいこと。
- 技術・供給側の主導で進められてきたが、需要側、市場側からニーズや価値提案を踏まえて、ガラパゴス化しないようにしていくこと。妹尾堅一郎先生や小川紘一先生がいわれているように、技術優位のあるうちに知財管理、国際標準を踏まえたビジネスモデルを作っていくことが重要とのメッセージを送りました。
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