第11回 サービス生産性の向上
サービス産業生産性向上の推進
日本産業の7割を占めるサービス産業の生産性向上が平成18年の経済成長戦略大綱で提唱され、翌年サービス生産性協議会が発足し、その頃、私は、中小企業庁、関東局に在籍していましたが、地域中小企業の観点からも、この政策は、是非とも成功させたいものだと思っていました。ここ2、3年は、サービス産業生産性協議会がハイサービス300選の選定、日本版の顧客満足度指数の発表、サービス評価診断システムやサービス業務改善標準の開発を手がけられ、これからまさに普及啓発を進めていこうという最中にあるということかと思います。また、成長戦略のライフイノベーション戦略の観点から、本年7月にはヘルスケア産業課が設けられ、新しい展開が進んでいます。また、我が国のサービス業の強みの根源をおもてなしの心と捉えて、「日本おもてなし大賞」を企画しているという話も聞こえてきます。
しかしながら、地域活性化、中小企業の観点からは、その仕組み、仕掛けが不十分で、正直なところ地域にしっかり根付きつつあるとは言いがたい状況です。やはり地域中小企業政策の中で位置づけて、運動論・実践論から展開していかないといけない。例えば、サービス生産性向上を中小企業政策の「経営革新」の新形態として都道府県、商工団体を巻き込んで展開していくという切り口があろうかと思います。経営革新というは、420万中小企業の1%を超える5万社以上が都道府県の経営革新計画の承認をとっているというベストセラー施策なので、都道府県や商工団体の賛同を得られやすいのではないかと思っています。ちなみに福岡県は、企業数の割合からは断トツに日本一です。
先日、産業技術総合研究所のサービス工学センターの内藤耕副センター長から話を聞き、「最強のサービスの教科書」などの著作を読んで、大変感銘を受けました。九州局では、内藤先生の力添えを頂き、自治体との研究会を設け、セミナーなどボトムアップの積み上げを行ってきました。福岡商工会連合会や北九州市などに内藤ファンが多く、内藤先生自身も九州には強い期待を寄せてくれています。年明けにも九州での生産性向上に向けた仕組みとして、九州サービス生産性向上推進会議(仮称)を一月に向けて、作っていきたいと思っています。健康医療関連サービス産業やさらには、サービス産業の国際展開なども今後の課題ですが、まずは、内藤さんの話をご紹介しましょう。
内藤耕副センター長の話
<「サービス産業生産性向上」について>
(当方:零細のサービス業の方にもサービス工学の方法論は有効ですか? どちらかというと、中堅以上、ハイサービスが対象なのかなと思っていましたが。)
ちょっとしたこと、当たり前のことができていないサービス事業者は非常に多い。例えば、職場の2S(整理・整頓)。物の位置を少し動かし、動線を工夫することで、労働環境が改善し、効率が格段に上がります。
現在のチェーン展開ができている企業のほとんどは、零細企業から始まって おり、それは規模が大きくなったから、生産性が向上したのではない。逆に、しっかりと生産性を上げる取り組みをしたため、顧客が増え、売上が上がり、規模の拡大へと繋がった。まずは、生産性向上の取組みを行うべきなのです。こと良い事業を持つ零細企業が注目されて、気合いだけで拡大していくと、現場のオペレーションが追いつかず、じり貧になってしまうものです。
サービス産業においても生産性を向上させることが重要だということを理解することが、まずは大切。物理的な空間の整理を行って、次は仕事の整理で生産性はすぐに向上するものです。
私は、この生産性向上の動きは、産業界の自主的な取り組みであるべきと思っています。事業者自身が気づかなければ、結局は動かないものです。行政は、「サービス産業も生産性の向上が可能であり、また向上させるべき」というメッセージを出し続け、旗を揚げる役割を担うべきと考えます。
<業種毎、時代毎に求められるサービス産業の姿について>
(行政の業務にも適用できそうですね。また、受験生の学習の生産性にも応用できませんか?)
行政の生産性向上については、基礎自治体が行う受付業務やデータ記入業務等定性的業務といった分野は肉体の動きが中心であり、普段自分がアプローチする2Sやプロセス改善が適用可能だと考えます。しかし、頭の中で仕事をするような業務については、ぼーっとしているようで、実は頭の中で企画を練っているというものなので、なかなか生産性向上という考え方は馴染まないと思います。
近年、医療サービス分野の生産性向上は進んでいます。医者など経営層に高学歴な人が多く、その意義を理解すれば、実行に移されるからです。また、診療報酬の引き下げなど経営改善、生産性向上を進めていかなければ、経営を維持できないという危機感もあるでしょう。
現在のサービス業の経営者は、60〜70歳代が多く、高度成長期、特にバブル崩壊の後遺症で、何もしなくても客が来る時代を経験しているため、成功体験から離れられず、苦しんでいるところが多いのです。そのジュニア世代には優秀な人が多いのですが、逆に親父世代が足を引っ張っている事例も多い。このような次の経営者に生産性向上の考え方を取り入れていってほしいと思っています。
よく100年企業といいますが、今までは人口が増えていく中でのビジネスモデルだったので、今後は人口減社会、さらには超高齢社会を想定したものに変えてかなければならないと思います。今後、中国や韓国の高齢化を考えると、ビジネスチャンスでもある。対応すべきは、医療・福祉分野のみならず、産業群全域であり、スーパーやコンビニも勿論、高齢社会に対応したモデルに変わっていくことが必要です。例えば、高齢者にとっては、大きなスーパーは駐車場が広く、店内に入るだけでも大変です。今後、スーパーは小型化して、逆にコンビニは大型化していく方向になるのではないかと思います。そして、両者が競合するのが惣菜部門で、案外飲食店からブレークスルーがあるのではと予想しているのです。飲食店のテイクアウトのサービスは、狙い所でしょう。熊本の弁当屋の平井は、コンビニの隣に出店し、つぶしていくことで有名です。
<スーパーの総菜部門>
1人暮らしの高齢者を想定すれば、現在スーパーで売られる刺身や肉、野菜の一つの量を考えなければならないけれど、現在の分量は家族向けを想定しており、高齢者世帯、1人暮らし世帯を想定していません。また、料理ができない人も増えてくる。しかしながら、今の惣菜部門では不適切で、飽きずに買い続けられる味・品揃え(濃い味は飽きる、多品種少ロット)を意識する必要があります。
スーパーのバックヤードに惣菜の調理場を作ることはコストがかかるので、外注もしくは自社工場からの配送というモデルが多い。しかし、調理から食べるまでの時間が増えるため品質の劣化が起きやすく、それを防ぐために味を濃くしてしまい、結果的に客が味に飽き、売上は上がらないという悪循環に陥っています。
店舗に調理場を置けば、調理から食べるまでの時間が短くなり、かつ薄味・素材重視のメニュー構成が可能となり、顧客満足度も向上し、継続的に買ってくれることになる。また、近くの飲食店を取り込んでいくという選択もあろうかと思います。
<介護サービス分野について>
まだまだ若い産業群で、何がベストか分かっていないようなのが介護サービス業です。東京で介護の中堅企業と研究会をやっているのですが、経営者は、介護サービスのありかたは、これからだと。先日、話をしてもらった大浦会の小山先生(「大人の学校」)は、自分の知っている中では、唯一面白いことをしていると思います。(注:9月に健康医療介護キーパーソン筑後ステージでもご登壇いただきました)今までの介護施設の売りは、「ホテルのような施設」、「レストランのような食事」という高級で豪華なサービスの方向を求め、3日で飽きてしまうようなサービスを提供してきたが、小山先生の施設はよりシンプルであり、学びやコミュニティ活動にサービス価値を見出しています。
<飲食店で、もし冷蔵庫がなかったら>
ホテルや飲食店にコンサルタントが入る場合は、大体「売上伸ばすためにチラシを作りましょう」や「新商品を作りましょう」といった投資を伴うものが多く、当たれば成功、当たらなければ失敗、という博打の世界なのです。自分たちが行う議論は、「お金を掛けずにできることから始めて、成功して利益が生まれたら新しいことをしよう。ゼロから産まれたお金だからその使い道は自由であり、そこから投資してください」といった考え方。これが重要です。これを前提とすると、いろいろなアイデアが生まれてきます。
よく提案するのが、「飲食店で厨房を半分にしよう」、「冷蔵庫が無かったらという仮定の下で、オペレーションの組み替えを考えよう」ということ。厨房が半分になると、動けないので、無駄な動きがなくなる。冷蔵庫があると、余分な仕入れをしてしまい、在庫が増え、食材の劣化が起こり、質の良いものが提供できなくなるのです。「なければならない」という事を1回リセットして考えることで新しい改善が生まれてくるものです。
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