第55回 「来た、見た、感動した!」の巻
GWにイタリアを旅してきました。数年前の夏に、スイスのサンモリッツから世界遺産のベルニナ鉄道という山岳列車に乗った際、イタリア側の終着駅のティラーノという街に数時間滞在したことがあるものの、実質的にイタリアを旅するのは20年ぶり。今回は、音楽祭の行われるフィレンツェを除き、初めての街々を訪ね歩きました。今回私が最も訪れたかった街はラベンナなのですが、ラベンナから比較的近くにあるサンマリノという小さな国にもぜひ足を踏み入れてみたいと思い、結局、両方に行くのに便利なリミニという都市で一泊することにしました。このリミニ、大学4年に初めて海外に行って以来の海外旅行のお供である“地球の歩き方”に取り上げられていないようなところなのですが、ここが予想以上に印象深い街となりました。
リミニの観光のスタートは、アウグストゥスの凱旋門。紀元前27年に築かれた現存する最古の古代ローマの凱旋門であるこの建物を一通り眺めた後、説明版を読んでいたら、「日本の方ですか?」と声をかけられました。リミニに昨年から留学している日本人女子学生で、「ほとんど日本人を見かけることが無いので、つい懐かしくなって、お声を掛けてしまいました。」と。少時お話しした後、「頑張って下さいね。」と言って別れました。凱旋門から、マラテスタ寺院という14世紀に当地を支配していたマラテスタ家の名を冠した教会へ。ルネサンスの巨匠の一人ピエロ・デッラ・フランチェスカがマラテスタ家の当主を描いた壁画や、その一世紀前の巨匠ジオットの十字架像を静かな教会の中でしばし見つめた後、街の中心部のトゥレ・マルティーリ広場へ。
この広場の一隅に、一人の人物の像が立っていました。その人の名はカエサル。紀元前49年、ポンペイウスの陰謀を知って急ぎローマに戻ろうとするカエサルが、ルビコン川を渡った後、配下の兵士達を集めて訓示したのがこの広場なのだそうです。カエサル像の横に佇んで広場を見渡しながら、2000年前の情景を想像しつつ感慨にふけりました。この広場から、まっすぐな道を歩き、街の端にかかっているティベリオ橋へ。この橋もまた2000年前に築かれたものだそうで、古代ローマ時代の重要な通商路かつ軍用道路であったエミリア街道の出発点であった由。橋を渡り、周辺の風景を含めて写真に納めた後、行き交う人を見ながら家内が「こういう場所で暮らしている人たちってどういう気持ちなんだろう?」
と言いました。確かに、2000年前の橋を渡って通勤・通学している人々の気持ちは、どんなものなのでしょうね。さっき会った日本人留学生にインタビュー調査をしてきてもらいたいものだな、などと思いつつ、橋を再度渡ってホテルへと向かいました。
翌朝、ラベンナへ向かうローカル列車には、家内ともども緊張感を持って乗り込みました。リミニから少しラベンナ寄りの場所を流れるルビコン川を、動く列車の中から写真に撮るのが当日最初の目標。最寄りの停車駅を出発してから少しして2本の川が相次いで登場し、私が「来た!」→家内がパチリを2回繰り返しました。ガイドブックのルビコン川の写真と照らし合わせたところ、2本目がルビコン川のようでした。家内の運動神経とこの旅のために新規購入したカメラの反応の良さのおかげで、歴史に名を残す川を記録に留めることができました。到着したラベンナでは、終日憧れのモザイク画を見て回りました。長年“来て みた かった”ラベンナは、期待通りの素晴らしさでしたが、この街で最初に見に行ったサンタポリナーレ・イン・グラッセ聖堂の前にもカエサルの像が立っていました。この聖堂をはじめ、この街にあるモザイク画の数々は5〜6世紀のものなので、カエサルは見ていない訳ですが、もし、彼が見たら、きっと私と同じ思いになるのではないでしょうか。“来た、見た、感動した!”と。
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