第36回 日曜午後はサイエンスの巻
ここ2週続けて、サイエンスに満ちた日曜午後を送っています。きっかけは、北澤宏一JST(科学技術振興機構)理事長から頂いた「FIRSTサイエンスフォーラム」の御案内。前々回のコラムでもちらりと触れた最先端研究開発支援プログラムの対象となっている30人の研究者のうち、3〜4名の方々が登壇し、主に高校生を対象として語りかけるというものです。第1回は、2月13日の14時から。終日雪だった前々日と雪は上がったものの冴えない天気だった前日に、前々からの約束で友人とのお出かけをした家内から、「貴方はついているわね。」と送り出されて、快晴の中、東京駅前の丸ビルホールへ。
第1回の登壇研究者は、合原一幸東京大学生産技術研究所教授、大野英男東北大学省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンター長、岡野栄之慶応義塾大学医学部教授、小池康博慶應義塾大学理工学部教授の4名でした。最初に、それぞれの研究者が自らの研究内容等についてプレゼン、休憩を挟んで、予め選ばれて壇上に座っている数名の高校生及び会場の聴衆との質疑応答という二部構成になっていました。3時間がとても短く感じられる素晴らしいフォーラムで、刺激に富んだ言葉が満載でしたが、その中から、1研究者1フレーズずつ私の最も印象に残っているものを御紹介したいと思います。
合原先生「数理工学をやってきていながら、ずっと、子供の頃から夢だった昆虫学者になりたいと思い続けてきたが、最近、脳などについての数理モデルを研究するプロセスで、周りを見ると多くの昆虫学者の方々がいらっしゃるという経験をしばしばしている。昔イメージしていたのとは違うけれど、昆虫学者になるという夢とつながってきている。」
大野先生「自分たちが枠組みを作る、枠組みを変えるという能動的な意識を持って行動して欲しい。(ゆとり教育世代であるということにやや悲観的な思いを持った高校生からの質問に対し、)足りないと思うことは自分で勉強すれば良いし、夢があれば自分で勉強できる。ただ一点懸念しているのは、自分たちが高校生の頃は、理系であればほとんど皆物理を履修していたが、現在は、物理の履修者が2〜3割であることである。」
岡野先生「高校時代、すごくインパクトのある先生の影響もあって、物理が好きだったのだが、シュレディンガーの"生命とは何か"を読んで、こういうふうな物理学の役立て方があるのかと感銘を受けたことと、子供の頃から誰もやったことのない事をやってみたいという思いが強かったことが、現在の自分につながっている。」
小池先生「高校の時はピアノばかり弾いていたが、楽譜に忠実に弾くのではなく、ピアノソナタなどを自分でアレンジするのが好きだった。芸術を創造していくこととサイエンスを追求していくこととは、どこかでつながっているのかもしれない。」
これらのフレーズを聞いて、いくつかの思いが頭に浮かびましたし(例えば、大野先生のお答えを伺い、即座に浮かんだ"それではまずい!物理は必修にしなくちゃ!"との思い)、また、影響を受けて本日に至るまでの間に行動したこともあります(例えば、"生命とは何か"を読みました。駒場時代の物理で、唯一の不可&追試という辛酸をなめて以来、遠ざけていたシュレディンガーというお方ですが、読後、何だか近しく感じられるようになりました。蛇足ながら、この本について初めて知ったのは、惚れ惚れするような思いで一気に読んだ福岡伸一青山学院大学教授の"生物と無生物のあいだ"によってでしたが、"生命とは何か"の訳者の先生が、解説の中で、福岡先生が書かれた内容の一部について厳しい指摘をしていることも発見し、学問の世界のキツさを垣間見た気がしました)。
会場にいたり、ニコニコ動画の生放送を聞いていた高校生達も、さぞや大きなインパクトを受けたことだろうと思います。翌月曜に早速、宮崎の母校の校長先生に御連絡し、20日に大阪で行われる第2回のニコニコ動画生放送の視聴を生徒さんに働きかけるよう依頼し、もちろん私自身も視聴しました。ニコニコ動画放送を視聴するのは初めてで、画面に出た'888888'という表示に、「これは何が文字化けしているんだろう。」と家内に問いかけ、「パチパチパチっていう拍手なんじゃない。」という答を得て、妙に感心したりしながら視聴しました。この第2回の内容については、いずれまた稿を改めて書きたいと思います。ちなみに、第3回は、3月13日に京都で、最終第4回は3月26日に東京・大崎で行われる予定です。御関心のある方は、http://first-pg.jp/forum/description.htmlから申し込まれると良いと思います。
ところで、第1回を会場で、第2回を秒刻みで寄せられる視聴者コメントを横目で見ながらニコニコ動画放送で経験して、会場来場者及び放送視聴者の大部分は男性(特に会場来場者のかなりの程度は、私のような社会人男性)だったのではないかという印象を持ちました。来月の第3回や第4回を含め、こうしたサイエンス関連の催しへの女子高校生を中心にした女性の参加がもっと増えると良いのにと思います。語感から言っても、ひらめきにあふれる女性が行うのにふさわしい仕事ですもんね、才媛ス。(噺家深くおじぎをし、客席から888888)。
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