第35回 「家族に乾杯」に乾杯の巻


 2月は球春、プロ野球のキャンプが始まりました。我が故郷宮崎市では、巨人とソフトバンクがキャンプを張っています。現在のキャンプ地は、宮崎市の中心街から少し離れた場所にありますが、私が子供の頃の巨人軍のキャンプは、自宅からほど近いところにある宮崎県営球場で行われていて、自転車で見に行ったものでした。当時は巨人のV9時代。王選手や長嶋選手を間近に見て感激したものです。宮崎は、2月になると1月に比べて随分暖かくなり、球春という言葉を実感しつつ過ごしていました。


 昨年、口蹄疫という大変な事態に遭遇し、今年は復興の年にという思いを込めて初詣をされた宮崎市民、宮崎県民の方は多かったと思いますが、そんな矢先に、鳥インフルエンザが発生し、加えて鹿児島県との県境にある新燃岳が52年ぶりに噴火し、降灰による被害をもたらしています。実家の父から、太陽熱温水器が灰をかぶってしまったという話を聞きましたが、牧草等に降灰被害を受けている農家の方々の心境、いかばかりかと思います。


 そんな重苦しい気持ちでいたところ、先週と今週の2週連続で、「鶴瓶の家族に乾杯」というNHKの番組で宮崎市が登場しました。


 長寿番組なので御存じの方が多いと思いますが、これは、笑福亭鶴瓶さんがゲストとともに日本各地を訪れて、地元の人々と交流するもの。今回のゲストは、世界的指揮者の佐渡裕さん。冒頭は、宮崎港で鶴瓶さんと佐渡さんとが出会うシーン。佐渡さんは、かつて九州に修学旅行で来たとき、九州を離れる際の港で、お世話になった可愛いバスガイドさんに対し生徒一同で合唱することにより御礼をし、バスガイドさんが感激の涙を流したシーンが思い出に深く残っていて、その港にもう一度行ってみたいということで宮崎港にやってきたのですが、実は前日当時の友人に聞いたら、その港は宮崎ではなく、小倉だったという始末。そういう始まりだったのですが、人と人との出会いの妙がそこから展開されていき、佐渡さんは、ある高校を訪れ、友人と久しぶりに再会し、かつ、その高校の合唱部の演奏を聴き、最後に吹奏楽部の指導をするに至るのです。かたや、鶴瓶さんは、口蹄疫被害にあった農家を訪ね、温かな会話を交わすのですが、農家のお一人の父親が、10年前のこの番組で宮崎県南郷町を訪れたときに登場したことを聞き、何という御縁なのだろうと驚くのです。


 今回の番組は出色の内容でしたが、特に心に残ったのは、宮崎港の事務所か何かに勤めている若い女性でした。彼女の母親が、佐渡さんの大ファンだそうで、宮崎港に現れた佐渡さんを少しでも引き留めようと、その日たまたま事務所内でもらった宮崎産のキュウリを携えて佐渡さんの元へ駆けつけます。そして、彼女の母親が勤めている高校(実は、この高校は、昔、私の母も教鞭をとっていたところなのです。)を訪ねることになり、そしたら、佐渡さんがヨーロッパで知り合った旧友もその高校で勤めていることが分かり、さらに、吹奏楽部が現在練習しているのが佐渡さんの師であるバーンスタインの曲であるというように、あれよあれよと話が展開していったのです。勘違いで宮崎に訪れてしまった佐渡さんを、これだけの素晴らしい出会いに導いたのは、一人の女性の行動でした。一歩でも前に踏み出すことの大切さと、その一歩がもたらす人と人とのつながりの素晴らしさを改めて教えられました。



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