第32回 「第3の隣国」の巻
いよいよ来週から師走、また寒い季節がやってきます。今年2月のコラムで、冬季五輪になぞらえて、首都の寒さ比べをした場合の表彰台に上がる都市は?と書きましたが、それら3都市について覚えておられるでしょうか?このクイズを出した場合、多くの方が挙げられるモスクワが銅メダルですが、金メダルと銀メダルについては、なかなか正しい答が返ってこないことが多いです。私がこのデータを入手したのはカナダ在勤の際だったのですが、そう、私が住んだカナダの首都が第2位です。でも、カナダの首都というところまでは行き着いても、オタワという正答はなかなか出てきません。モントリオール、トロント、バンクーバーという都市は日本人にも結構知られていますけれど。冗談のような本当の話で、ある友人に、オタワに勤務することになったと言ったら、また北海道に行くのかと言われたことがありますが、それは、オタル。そして、金メダルは、大相撲の好きな方には、すっかりおなじみになった都市です。
先週、そのウランバートルから、ツァヒャー・エルベグドルジ大統領が来日され、東京大学安田講堂で講演会が開催されました。大統領は47歳。鉱山技師として社会に出られ、旧ソ連の大学でジャーナリズムを学んだ後、モンゴル人民軍機関紙記者を経て、民主化運動の中核となり、1998年と2004年に首相に就任、昨年6月に大統領になられました。講演のテーマは、開発と自然環境。大統領は、モンゴルらしさとして遊牧を取り上げられ(モンゴルでは4割の人々が遊牧生活をしている由)、これはとても環境フレンドリーな生活様式であると説明されました。そして、この遊牧民の生活様式は、未開であるとか遅れているとか言われてきたけれども、今や、環境に適応した生活として、最も進んだ生活様式と言えるのではないかと会場に語りかけられました。しかしながら、モンゴルでも、水、エネルギー及び土地の利用が増え、また廃棄物も増加してきている一方、モンゴルの自然環境は、4つに1つの湖や川が枯渇懸念状態にあり、森林も減ってきているとのこと。地球平均の2倍のスピードでモンゴルは温暖化しているとのことで、昨年末のコパンハーゲンでの地球温暖化に関する会議の際、エルベグドルジ大統領は、「どんなに環境が変化してきているか、モンゴルの遊牧民に聞いてみればすぐ分かる。」という発言をされたそうです。
講演の後半は、東大、さらには日本への熱いメッセージの連続でした。大統領は、学生に語られることがお好きとのことで、「これは、モンゴルの学生にも言っていることだが、是非、東大の先生、学生の皆さんには、世界が抱える問題について、リーダーとして議論を引っ張って欲しい。」という言葉を皮切りに、「水問題の解決という大きな目標に対し、自分がやってやろうという大志を抱いて欲しい。」「ゴビ砂漠に太陽電池施設を作って世界のエネルギー問題の解決を目指してほしい。」「ごみゼロプロジェクトをウランバートルでやろうという方はいませんか。」等々と、会場に呼びかけ続けられました。そして、「日本こそが、世界のエコロジーを守りつつ開発を進めていくことの最先端に立てる国。これまでの日本は、他の国がやるのを見てから始めるというやり方だったが、今やベルは鳴っている。法制度やインフラが揃ってないというのであれば、それらも一緒に作りましょうというやり方になって欲しい。レアアースも最初の段階から日本に入って欲しい。モンゴルは、中国とロシアを隣国としているが、自分は、日本を第3の隣国と位置づけ、日本と戦略的パートナーシップ関係を持ち、バランスある外交をやっていきたい。」と締められました。その後、時間が押しているのを気にかける司会者を「日本に来る度に東大に来る訳にはいかないから。」と笑みを浮かべつつ制して、会場からの質問を幾つも受けられ、ユーモアを交えて丁寧に答えられた後、「30日以内の滞在はビザを免除したので、是非モンゴルへ!」と仰って帰られました。オタワ以上に寒いところへ行きたいとはつゆ思っていなかった私ですが、ちょっとモンゴルを訪ねてみたくなりました。
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