第20回 「歴史を学ぶ」の巻
GWに、17年ぶりにドイツに行ってきました。第8回の"ドイツ回想"で書いたような、統一20年目のドイツの現在を見たいという思いを実現できました。デュッセルドルフに駐在している大学時代の友人との再会を主目的として行程を組んだ結果、今回の旅では、旧東独側への再訪はしませんでしたが、やりたいこと、見たいもの、食べ・飲みたいものを十二分にやり、見、食べ・飲むことができました。書きたいことは山ほどありますが、本日は、博物館のいくつかを見て受けた強い印象について記したいと思います。
皆様は、ニュルンベルクという都市を御存じでしょうか?第二次大戦後のドイツにおいて、日本における東京裁判に対応する裁判が行われた土地なのですが、今回初めて、そこがナチスの党大会が行われていた拠点の町であり、であるからこそ、戦後の裁判の場所に選ばれたということを知りました。その党大会が行われていた壮大な会議施設(外観の一部は、ローマのコロッセオを彷彿とさせます)を活かして設けられた、ドク・ツェントルムというナチスに関する展示博物館に行ってきました。英語のガイドホンを聞きながら回ったのですが、ナチスの台頭・独裁・破滅に至る一連の歴史が、さまざまな角度から徹底的に解説されていて、戦慄を覚えながら見続けました。ユダヤ人をはじめとして、多種多様の人々をランク分けし、差別し、ついには殲滅せんとしていく部分の展示を見続けているうちに、人間とは本当に恐ろしいものだと深く思わざるを得ませんでした。
西独時代の首都ボンでは、第二次大戦以降、東西分断を経て再統一に至るまでのドイツの歴史を展示した歴史博物館に足を運びました。ここは、残念ながらドイツ語のみの展示でしたが、ドイツ語を勉強してドイツに一人旅をしていた8年前に亡くなった義父の独和辞典を引きながら、見て回りました。ドイツ語が分かったならば、戦後のドイツ史を十分に理解できるだろうと思わせる展示でした。ちなみに、ドク・ツェントルムは5ユーロ(約600円)で、歴史博物館は無料!でした。どちらにも、大人に交じって、多くの中高生くらいと思しきグループが来ていました。ニュルンベルクでは、おもちゃ博物館、ニュルンベルク市博物館、ドイツ鉄道博物館も訪れ、また、ボンでは、生家が博物館になっているベートーベンハウスも訪れましたが、これらの博物館もそれぞれのテーマに関するモノ及び情報が徹底的に収集・展示(ジャジャジャジャーン!ベートーベンの遺髪にはびっくり)されていて、それぞれのテーマに係る歴史が本当に良く分かるようになっていました。
翻って、日本には、これ程良質な歴史についての博物館ってどれくらいあるのでしょうか?美術品の歴史については、東京国立博物館の展示はまずまず良質だと思いますが、今回、ドイツで堪能してきたような、骨太の徹底的なものが日本にあるかというと、ほとんど思い当たりません。私自身の経験では、高校で履修した日本史は、確か満州事変くらいで時間切れだったと記憶しており、ある程度体系的に第二次大戦に至るまでを勉強したのは、米国留学中に、米国人教授による日本史の科目を選択した際でした。近世以前の日本史の専門家には叱られるかもしれませんが、日本人として最低限学んでおかないといけない日本史の部分が日本の教育では欠落していると思います。今、大学でも"国際化"という言葉が盛んに言われているのですが、まずは、母国のことをきちんと知ることが、"国際化"していく上での大前提だと思います。日本史を必修科目にして、しかも、明治(ないしは幕末)以降戦後に至るまでを先に教え、あとは、時間の残った範囲で、江戸時代から逆に戻っていくという教え方をし、さらに、良質の歴史博物館を作るという取り組みが、日本には絶対に必要だと痛感したドイツの旅でした。
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