第10回 「交流しましょう!」の巻
前回は、産学官連携関連の文科省予算に係る事業仕分けについての出口編集長の横綱土俵入りを露払いするようなコラムを投稿致しましたが、事業仕分けのことを考えていると暗くなるだけなので、今回は、タイトルは明るめにしました。でも、口火は事業仕分けから。先週のメルマガにあるとおり、事業仕分けでは、大学と地域との関係が俎上に上がりましたが、"大学が地域の活性化について取り組む必要がある"ことだけは確かだと思います。当たり前の事ですが、大学はその所在地域のコミュニティの一員なのであり、また、多くの大学の成り立ちから言って、大学はそれぞれの所在地域の発展もそのミッションとしており、加えて、現在、地域の活性化が全国的に重要な政策課題として挙げられている中で、大学がその有する知を地域の活性化に活用することは当然行われるべき事だと考えます。
さて、これより、事業仕分けから離れます(ふーっ)。東京大学は、従来、「世界を目指せ、地域のことは気にするな。」と言われてきた大学のように思いますが、私の所属する産学連携本部では、地域の活性化を念頭に置いたユニークな制度を持っています。これは、テクノロジー・リエゾン・フェロー(TLF)というもので、地方自治体から1年間、研修生を受け入れ、産学連携や先端科学技術等に関する講義と東京大学教員へのインタビューによる産学連携提案テーマの発掘等を行う実習とを研修費無料で行うというものです。この発掘されたテーマは、現在、1800件を超えており、東京大学産学連携プロポーザルと称して、http://proposal.ducr.u-tokyo.ac.jpのアドレスにて無料検索できますので、東京大学との産学連携に御関心の方は、是非アクセスしてみて頂ければと思います。
このTLF制度、ちょうど今年が10年目で、これまでに29の都府県・市・区から、計59名の方が参加されていて、修了後は各自治体に戻って産業振興等の仕事に就かれているわけですが、先日、研修生OBの方々にお集まり頂いて、地域振興研究会を行いました。今回は、まちづくりと観光に焦点を当てた研究会で、基調講演者は、西村幸夫東京大学先端科学技術センター教授。西村教授によると、かつて、地域社会を基盤とした地域住民による地域環境の維持・向上運動である「まちづくり」と、資源としての地域環境の利活用をベースとした観光事業者による地域経済の推進運動である「観光」との間には、大きな溝があったそうですが、近年、両者が歩み寄って、地域社会が主体となって地域環境を資源として活かすことによって地域経済の活性化を促すための活動(これを「観光まちづくり」と呼ぶ由)が盛んになってきているそうです。人口減少を見据えつつ、地域の定住人口に頼るのではなく、交流人口まで対象としたまちづくりが求められるようになってきていて、御紹介頂いた国交省のデータによると、定住人口が1人減ることによる消費額の減少は、外国人旅行者7人が訪れるか、国内宿泊客22人が訪れるか、あるいは国内日帰り客77人が訪れることによって埋め合わせることができるそうです。お配り頂いた御著書の一節には、"まちづくり関係者は「観光」と呼ばずに「交流」と呼ぶのである。「観光」と「交流」―この両者の用語の距離は示唆的である。つまり、来訪者をゲストとして応対するのか、気持ちを同じくする仲間として接しようとするかの違いである。"と書かれていました。
"気持ちを同じくする仲間"、良い言葉ですね。国を良くしていこうという気持ちは、同じはずだけどなあ、仕分け人の方たちも。おっと、また、思いが変な方向へ。産学官連携で日本をより良くしようという気持ちを同じくしている読者の皆様、中には来年度の名刺から産学官連携とかコーディネーターとかの文言を外さざるを得なくなる方もおられるかもしれませんが(いかんいかん、どうも思いが変な方向に引っ張られる)、これからも大いに交流して参りましょう!
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