第50回 特許庁の職員採用
−特許庁事務職員と商標審査官としての職業


 霞ヶ関の採用活動も本格化したようです。採用の詳細はこちらをご覧ください。特許庁では、4つの職種の新規採用を行っています。
 ・特許審査官(国家T種技術系)
 ・意匠審査官(上に準ずる試験)
 ・商標審査官(国家U種行政系)
 ・事務職員(国家U種行政系)
 うち、残念ながら意匠審査官の採用試験申し込みは終了しました。
 今回は、筆者の所属する審査業務部にもたくさん仲間のいる、事務職員と商標審査官の採用についてご紹介します。なお双方とも国家公務員U種(行政)採用試験を受験し、合格者の中から特許庁の面接を経て採用されます。官庁訪問は、各省庁とも7月15日(金)午前9時開始です。


「特許庁事務職員としての職業」

 今年は、特許庁の事務官採用についてもご紹介します。
 特許庁は、経済産業省の外局ですが、同じ外局の資源エネルギー庁や中小企業庁の職員が本省採用であるのに対し、特許庁は事務官の独自採用をしています(写真は特許庁舎外観。本省とは歩いて数分の距離で、16階からは官邸や国会議事堂がよく見えます。)。


 毎年20名前後を採用していますが、うち約半数が女性です(例えば23年度は15人中8人が女性です。写真は方式審査課配属の上田さん(2年生)と室さん(1年生)です。)


 特許庁の事務職員の仕事は何か。単純に言えば日本の知財制度の基盤を支え、発展させるための業務でしょうか。例えば、我が審査業務部では、方式審査課(知財四法の出願の方式審査及びその審査基準の策定、行政不服申し立ての事務など)、出願支援課と国際出願課(国内出願と国際出願の関係書類の受付、料金納付手続、登録事務など)、商標課と意匠課(商標、意匠審査の事務にかかる連絡調整など)において200人弱の事務職員を擁しています。審査業務部以外では、総務部国際課(WIPO(世界知的所有権機関)、WTO(世界貿易機関)などの国際交渉・多国間・二国間協力など)、企画調査課(調査・分析、知財政策の企画など)、審判課(審判請求等の方式審査、訟務実務など)と、いずれも知財には深く関係するとはいえ業務の内容は多岐に亘ります。もちろん、総務課、秘書課、会計課などの管理部門にも事務職員が勤務しています。また、WIPOや在外公館に出向して勤務する職員もいます。


 特許庁というと、審査官だけで成り立っているように見えるかも知れませんが、こうした事務職員と審査官が協力して、産業財産権行政を進めているのです。また、例えば事務職員が担当する「方式審査」というのは耳慣れない言葉かも知れませんが、単純に言えば、出願書類が法律上の要件を満たしているかどうかを料金の払い込みも含めて審査することであり、WIPOにおける審査はそのほとんどがこの方式審査に当たる重要な業務です。


 大昔は、特許公報を発行する印刷工場に勤務したり、包袋(ほうたい)といって申請書類の処理を管理するための紙袋を手で運んだりと、力仕事も多かったようですが、日本特許庁の世界に先駆けて進めてきた機械化により、オンライン出願、審査が進んでいるため、迅速な処理が可能となり、ずいぶんと合理化がすすみました。男女共同参画の観点から、女性の採用を多くすることはよいことですが、これらの事情もそれを下支えしているのかもしれません。体力より知力、ということですね。


 特許庁に勤務するメリットは、なんと言っても庁内の雰囲気が和やかなことで、同僚や上司・部下とのコ(の?)ミニュケーションも極めて緊密に行われています。これも、審査業務部長をはじめとする人格者のおかげ、というのは虚言で、特許庁の伝統と思われます。また、業務のスコープがはっきりしていて、課題も明確化しやすい(本省と比べれば、ですが)、ステークホルダーとのネットワークも緊密であるなどの業務を進める上での優れた利点があります。公務員を目指す方々、ぜひ一度おいでください。


「商標審査官としての職業」

 昨年もご紹介した商標審査官という職業。商標の審査を専門とするエキスパートたちです。グローバリゼーションが進む今日ですから、海外の商標審査官との関係についてご説明しましょう(各庁の商標出願件数及び審査官人数は参考 。写真上は今年度採用の商標審査官補、下は昨年度採用の商標審査官補の皆さんと。)。


 米国特許商標庁(USPTO)には、商標担当のコミッショナー(日本国特許庁長官もコミッショナーと訳します)がおられ、その下に弁護士の資格を有する商標審査官が働いておられます。現在のコーン商標コミッショナーは、前任の名物コミッショナー、ベレスフォード氏を継いで、今年コミッショナーに着任したばかりですが、USPTOではベテランの商標審査官です。


 欧州共同体商標意匠庁(OHIM)はEU内の組織で、スペインの風光明媚な中世都市アリカンテの海岸沿いにすばらしいオフィスを構えていて、前ポルトガル特許庁長官のカンピーノ氏が長官として昨年からこの組織を率いておられます。


 中国では、企業法制を担当する巨大な役所、国家工商行政管理総局(総局長は大臣級)のなかに商標局がおかれ、商標審査を担当しています。中国は商標出願数が2010年に百万件に達し、世界一の出願国となりました。審査官もますます増大させる必要があります。


 韓国特許庁(英語では、KIPO、韓国知財庁になります)は、商標意匠局において商標審査を担当しています。李局長には先日サンフランシスコでお会いしましたが、噂通りの力強い「小さな巨人」でした。李局長もそうですが、韓国の特許庁には米国で法学博士号を取得している方も散見されます。質の高い人材が商標担当にいるということです。


 これら4庁と日本特許庁は深い関係にあり、これまでもご紹介した日米欧の商標三極局長級会合のほか、日中、日韓で審査官レベルの交流を深めています。各国の審査官とも自らの審査に高い自負を有しておられるので、我々としても刺激になります。

「商標の審査」

 商標は、文字、図形、記号、立体的形状若しくはこれらの組み合わせ又はこれらと色彩との組み合わせにより成り立っています(現行法では。)。また、商標は、事業者が自分の商品又はサービスと他人の商品又はサービスを区別するマークであり、登録することにより知財権が生じます。商標登録には、商標とそれを使用する商品又はサービスを指定することが必要です。既に登録されている商標と同一か類似(誤認を生ずるもの)の商標は登録できませんが、既商標と異なる分野の商品等を指定することにより、商標登録出来る場合もあります。したがって、商標審査官の審査というのは、出願された商標が、商標としての要件を満たしているか、特に、対象商品又はサービスとの関係で、当該商標が自他識別力を有しているかを審査します。また、既存の他人の商標との同一性、類似性がないかという私益との関係、加えて商業秩序や国際信義に反することのないよう公益との関係を審査します。


 このため、商標審査官は商標関係法令及び審査基準に習熟しているのみならず、国民目線で類似性や識別力について審査する「常識力」が必要です。決して楽な仕事ではありません。また、特許と同等以上にマスコミや世間の注目を浴びることも多い商標を扱うことでの慎重さも必要です。商標制度の概略は特許庁HPをどうぞ。


 以上、非常に簡単ですが、特許庁事務職員と商標審査官としての職業をご紹介しました。 志ある若い皆さんが特許庁を目指していただくことを期待しています。



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