第41回 夜警国家その3 −夜警達の復興計画:緊急編
出口オーナーが緊急提言のコラムをたちあげてくれるというので、前稿から引き続き復興計画を論じます。復興への枠組みに関する報道が五月雨的にされています。これは、と思う案もあれば、どうかと思う案もあります。いずれにしろ、国難への対処ですから、「万機公論にけっすへし」を旨として、国を挙げた議論にしていただければありがたいと思います。
これまで「夜警国家」シリーズで復興への心持ちと戦略の方向性を概略示しました。それを整理しつつ、すぐにやるべきことが何かからお話したいと思います。
「復興への基本理念を掲げる」
はじめに基本的理念を示し、関係者で享有することが大切です。大震災前から、日本は少子高齢化等の厳しい局面にありました。震災前の状況にもどすだけでは、このじり貧の環境は改善しません。構造的な改革を併せて行っていかなければならないのです。そのため、理念としてはじめに提示していかなければいけない重要な点は、以下の通りです。
理念1.この未曽有の危機を天命と心得、国民をあげて復興に取り組むこと
理念2.元に戻す復旧ではなく、今後の日本のゆく道を示す復活・再興を旨とすべきこと
理念3.旧来の組織、法制にこだわらず、効率・効果を持って新たな仕組みを構築すること。このため、これまでの悪弊があれば、危機対応として緩和、撤廃し、平常になったとき改めて必要性により再検討すること
帝都の大改造をやり遂げた後藤新平を現代に見つけ、彼に全権限をわたすことができればいいのですが。
以上の理念のもとに、政府としては具体的な指針として前回お示しした点が重要になります。(以下再掲)
1.非常時と心得て、平時を維持するための予算、機構、定員、執行等の制約を時限的に極力取り払い、手続きを簡素化してスピードアップする 。
2.必要な戦略とそれに伴う業務を階層化し、それぞれの役割分担を明らかにして、超短期、短期、中期目標を明確化する 。
3.階層間・セクター間の連携を保持する仕組みを構築する。この際、中央集権的でなく、ネットワーク保持的組織構築を目指す 。
「すぐとりかかるべきこと:電力不足への即時対応」
日本の競争力を維持するための喫緊の復興アクションは、もてる資源を集中して原発事故へ対応することとともに、経済への短期的ダメージを回避することです。
具体的には、まず電力、資源の供給不足への対応です。資源エネルギー庁石油精製備蓄課の同僚に聞いたところ、ガソリン等の供給量はやっと回復し、必要量が確保できている。ただし、スタンド等が被害を受けているので、流通の問題は未だ解決中とのことでした。都内のガソリンや、近郊の工場の重油不足はいずれ解消していくことでしょう。
最大の問題は、この夏、あるいは来年以降も続くとの恐れのある、東電管内の電力不足です。計画停電の企業特に非常電源を持たない中小企業への影響のマグニチュードはことのほか大きく、特に数時間〜数日の安定した工程・電力供給を必要とする様々な分野で悲鳴が聞こえています。
計画停電のあり方を早急に見直す必要があると思いますが、そもそも停電を回避できることが一番であり、競争力維持のためにも重要です。
すでに、節電、未使用・余剰電力の回復・使用、他電力からの配電の実施、検討が進められていますが、化学工学会の試算にもあるように、夏場ピークの13時〜16時には1000万KWレベルの需給ギャップが予測されています。
ここで期待されるのが、即効力のある分散電源用の新エネの導入です。コストの問題、CO2輩出の問題も見極める必要がありますが、夏場を乗り切るには、サマータームや休暇分散の社会システムの変更に加え、それを進める必要があります。
友人の試算では、このレベルの需給ギャップを埋めるためには、太陽光発電で100kuの面積が必要だということでした。家庭用太陽光発電にすれば数十万軒の家庭に導入する必要があります。
実は、これまで東電など電力企業は分散電源、そして新エネルギーの導入には消極的でした。分散電源を取り込んでいくためのスマートグリッドプロジェクトについても当初同様の対応が見えましたが、経産省、NEDOを中心に、米国等との協力が進められるにつれ、メンバーに加わったとの経緯があります。これは、分散電源、特に新エネは、電力供給量が不安定で、系統(電力供給のネットワークのこと)のマネジメントがとても難しくなることが理由です。日本の電力供給構造は、ざっくりと言えば、原子力をベースにおき、火力を需給の変動のバッファーとして、その許す範囲で太陽光、風力等を導入する(してあげる)というものでした。ですから、今般やっと政府が導入した(不安定電源の)家庭用太陽光発電量の買い上げ制度などもってのほかでした。もう数年早く制度ができていたら、電力供給の構図はすこしちがっていたでしょう。
NEDOにいたころ、村田成二理事長にお供してフランスで新エネルギーなどを調査したことがありました。その時、南仏ペルピニオン地方の国際青果市場を見学しました。何故青果市場か、というと、フランスの電力企業がこの青果市場の(ですからとても広い)屋根を借り切り、瓦型の太陽光発電パネル(写真)を敷き詰めて発電事業をはじめていたのです 。フランスではこうして他人の屋根を借りて発電し、系統に連結して電力供給を大規模に行う企業が興っています。この電力は青果市場で使うわけではなく、ほかの消費地に高電圧で供給されています。google mapで空から見れば、東京でも広い屋根を持つ建物がたくさん見つかります。こうした屋根の使用権を供出又は廉価で太陽光発電企業に貸し出し、中規模の電力供給を行うこととすれば、昼間には相当の電力をまかなえるはずです。また、現在は屋根瓦一体型のソーラーパネルが開発されています。復興のための住宅に装備すれば、相当の電力を供給できるでしょう。そうしたことを行う新エネベンチャーに、規制緩和や融資、電力の買い取り措置など当面緊急に支援していくのはどうでしょうか。昨夏の厳しい暑さを停電の日に迎えることに福島原発以上の恐怖を感じるのは、(メタボの)筆者だけでしょうか。
この実現には、太陽光発電パネルの供給能力の問題もあります。災害の影響でコンデンサーなどの部品が足りないとの話を東大の梶川裕矢博士から教えてもらいました 。復興事業を自前で行うことは、日本経済のカンフル剤として極めて有効なことは自明ですが、ここはくやしいですが、ドイツや中国の企業からも応援を頼まなければいけないかもしれません。
短時間の停電にも対応するには、蓄電池の家庭普及も不可欠です。記録的に販売が伸びたハイブリッドカーや、三菱自動車などの電気自動車がその受け皿になりえます。現在の規格では、充電後の電力を家庭にもどすことはできませんが、そのような装置は簡便に普及できるよう開発を進めるべきです。
日本ガンバロウのキャンペーンで人々に希望を与えることは大切ですが、精神的なスローガンだけでなく、将来に希望を与える理念と戦略を示してこそ、明日明日が見えてくるのではないでしょうか。
(前稿と同様、この稿は筆者の個人的見解に基づくものであり、筆者の属するいかなる組織の見解ではないことを申し添えます。)
i.具体的には以下を真剣に検討すべきでしょう。(再掲・一部改訂)
1.予算の付け替え、繰り越しについて、中期計画の範囲内で認められている独法なみに弾力化する。
2.組織の改廃、新設及び定員の移し替えについて、時限的に大臣裁量で行えるようにする。
3.予算の即時執行に必要な手続きについて、上限を定めて簡素化する(時限的に競争入札を廃止するまたは早期決定を可能とすることにより、地元の産業復興に配慮した執行が可能となる)
A.戦略および業務の階層は、例えば以下の整理。
B.この場合も、リーダーは不動であるべきとの意見が強い。現場はネットワーク、司令塔がハブになる、ということか。
C.Saint Charles国際青果市場の太陽光発電プロジェクト
同市場はフランス最大の青果市場で、フランスの青果の85%がこの市場を経由して供給される。欧州でも最大拠点のひとつ。フランスでは、青果は、スペイン、マグレブ、南米からの輸入が多く、そのほとんどが同市場を経由してフランス全土及び北部欧州の市場に提供される。
太陽光発電プロジェクトは、この市場の建物12棟の屋根に瓦型太陽光パネルを敷き詰めるもの。全体規模は10メガワットクラス。青果市場の建屋には、アスベスト含有の屋根材が使われているため、その除去に合わせ、太陽光パネルを設置する。
パネルは1M四方の防水型になっており、屋根材として機能するよう取り付けられる。施工は極めて簡単で、(1)アスベスト材の除去、(2)網状フィルムの施工、(3)固定用ブラケット設置、(4)太陽光パネルを下から敷設・左右のパネルをコネクターで接続。防水機能等の性能は仏政府の認証を得ている。特許は仏の施工業者が有しており、独の太陽光パネル会社に委託して制作、輸入している。パネルの効率は17%。250KW以上の電力は仏政府の規制により2万ボルトで送電する必要があり、すべて電力会社に送られ、自家消費はない。買い取り価格はkwhあたり60セントとなっている。
D.例えば日本ケミコンは宮城・福島・茨城に工場があり復帰に1〜3ヶ月かかる模様。
http://www.chemi-con.co.jp/news/list2011.html
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