第37回 イノベーションの構造化


 実は、この稿は2月9日に出口さんに投稿したのですが、ちょうど出口さんがfacebookの海に漂っていたときで、私の原稿は、facebookの波におされてどんどん海の底に沈んでいったのでした。おそろしやfacebook。

 さて、お知らせが一件。東京大学イノベーション政策研究センターでは第2回シンポジウムを3月1日に開催します。詳しくはこちらへ。以下、本題です。


 2月5日、東大本郷の福武ホールにて東京大学 知の構造化センターシンポジウムが開催されました。同センターは小宮山宏前総長の肝いりで作られた研究組織で、HPには「日々蓄積される大量の知識を,様々な構造化技術を用いて,意思決定とイノベーションに役立てるための「知の構造化」の研究開発 を進めています.学問の分野では,日々量の知識が生産されています.ところが,あまり学問が細分化されすぎて,専門家でも専門外のことが分からなくなっています.私たちの日常生活でも,検索エンジンでたくさんの情報を調べることができます.しかし,役に立つ情報を得るには とても時間がかかります.構造化とは,コンピュータを使って大量の情報を調べ,各要素の間の関係性を明らかにし,利用可能にすることです.(中略)そのために,自然言語処理,人工知能, Web工学の最先端技術を活用します.大量の情報を構造化することで, 知の全体像を把握し,意思決定に役立てることができます.さらに, 意外な分野間の関連を発見したり,たくさんの人が全体像を議論することによって イノベーションの創造につなげ,社会的,経済的,文化的価値を創出します.」

 とありますが、これこそ小宮山宏総長が近年提唱してきた概念で、筆者が所属した俯瞰工学研究室(松島克守教授(当時))はその考えに基づく研究グループのコアの一つです。


 

 シンポジウムでは、長尾真国立国会図書館長の基調講演を皮切りに、同センターのプロジェクトである「思想の構造化(人文社会知識の構造化」、「集合知の構造化」、「産業技術の構造化」、「医療の構造化」と4つのセッションが続き、最後に松尾豊東京大学大学院工学系研究科 総合研究機構 准教授の司会によるパネルディスカッションで締めくくりました。このうち、「思想の構造化」は、90年の歴史を持つ雑誌、岩波書店の「思想」をデジタル化し、その思想、哲学の知を構造化するという膨大なプロジェクトです。20世紀の日本の人文知の歴史的な変化を構造化し,可視化しているのです。その内容とアウトプットもさることながら、戦前も含めた活字を全てスキャンしてデジタル化する技術は、ペーパレスにより紙の出願書類も全て電子化している特許庁としても興味深いものです。


 筆者も、第3セッション「産業技術の構造化」で、「イノベーションの構造化」という大胆なテーマで講演させていただきました。ネットワーク分析、自然言語解析、可視化の最先端のツールを駆使し、学術俯瞰:知識の世界の見える化、学術と産業技術(特許)の関係性の分析、萌芽的領域におけるハブ論文予測、国際的な研究協力の構造分析の4つのテーマについて駆け足でご説明しました。筆者の研究成果だけでなく、同門の坂田一郎教授、梶川裕也特任講師、柴田尚樹助教ほかの成果も合わせて講演したので冷や汗ものでしたが、初めてお聞きになる方には好評だったようです?なお、このシンポジウムは全てUStreamで中継され保存されているようですので、ご興味あればご覧ください。(上條由紀子先生、講演中に知らせてくださってありがとう。)


 また、不肖にも筆者は、中島秀之 公立はこだて未来大学 学長、西田豊明 京都大学情報学研究科教授などの情報科学界の重鎮に混じってパネラーをやらせていただき、特許庁のPRまでさせていただきました。当日facebookに掲載したパネルの感想を再掲します。

「情報技術は現代社会に必須のツールです。また、これをどう使いどう活かすかはそれぞれの能力にかかっています。でも、情報技術をある程度理解していないと全く役に立ちません。「人間が情報になった」「神は細部に宿る」との西田先生の引用は示唆的でした。情報の海の中にいる当特許庁はどこに行くのか、必死に考えたいと思った一日でした。」

 なお、知の構造化センターの事務局は、皆さん知性豊かでとても魅力的でした。引き続き混沌とした社会を救う有益な考え方とツールをご提供頂ければ幸いです。お世話になりました。


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