第24回 ボストンにて−その2(MITとベンチャー)
前回に続き、ボストン編です。
ボストンと言えば、独立戦争関連名所、レッドソックスなど?とならんで、ハーバード、MITなどの研究大学が有名ですね。(右の写真は近年竣工したMITの新名所、ゲイツ・ヒルマン・センター。「ペーパービルディング(折り紙ビル?)」というそうな。)
今回の出張の機会に、MITとハーバード発のベンチャーを支援するベンチャーキャピタルでありテクノロジーインキュベーターのincTANKの社長、Karl Ruping氏と旧交を温めました。同社は日本にも支社を持ち、ウォールストリートでも活躍された塚越雅信氏を社長に迎え、日本でのインキュベーション事業を展開しています。
「incTANKにて」
同社の本部は、MITから歩いてすぐのマサチューセッツ・アベニューの小さなビルにあります。この一角は、古いレンガ造りの倉庫の中にオフィスビルが並んでいますが、その実態はNovartis、武田薬品をはじめとする大企業の産学連携研究施設で、MITのライフサイエンスやIT、材料科学などの最先端の研究者との協力が日常行われているところです。全くうらやましい限りです。なお、有名な話ですが、MITはもともと技術学校で、農業機械などを扱う地域の職工の学校として創立されましたが、大戦前に軍のミサイルなどの研究を担うことで急速に発展し、いまや世界でも有数の工科大学になりました。ケンブリッジに移設されてからは、ケンブリッジの雄であるハーバード大学から虐げられていたとwikipediaにありますが、最近では、理工系学部を有しないハーバード大学のほうから合併話が持ち上がっていると聞いています。
incTANKでは、MITから来ているインターンの研究生から話を聞くことができました。そのうちの一人、Jessop君はコンピューテイショナルサイエンスの研究者ですが、ビジネススクールも卒業していて、ベンチャー企業の立ち上げの勉強のために、ここincTANKに身を預けているのです。Karlもボストン大学で法学博士を得た弁護士・弁理士です、その後ハーバードでも勉強したと聞いていますが、現在は社業のかたわら、MITでコンピュータ分野の上席客員研究員をやっていて、こうした文理両道のすごい人たちがうじゃうじゃいるのが米国の最強研究大学の環境です。うーん、愚痴は言いたくないですが、日本ではどうでしょうか。。。
コンピューテイショナルサイエンスは、IT関係のみならず、ライフサイエンスなどの最先端研究に不可欠です。また、金融工学をはじめとするファイナンスの世界にも重要性を増していて、Jessop 君も投資事業に強い興味を持っていました。(写真:同行した特許庁の審査官に丁寧にVCの仕組みを説明するRuping氏。)
久しぶりに訪れたMITでは、産官の莫大な資金を得て様々な最先端研究棟ができていて、卒業式シーズンというのに活況を呈していました。Karlからは、リーマンショック後のベンチャーキャピタルの動向を教えてもらいました。リーマンショック当時は、ここボストンでも投資資金を集めることは厳しい状況になり、インキュベーションも次々に閉鎖されているというのが前回聞いた話でしたが、最近状況は改善しつつあって、incTANKのベンチャーがその間、力を蓄えて、ついに日本でもファンドレイズが可能な状況まで来ているとのことでした。Karlさん、引き続き頑張ってください。
「日米のハイテクベンチャー」
ハイテクベンチャーの話を米国の関係者とすると、彼我の差はどこから来るのか、いつも悩んでしまいます。前述の若者の志の違いでしょうか、企業や投資家のマインドの違いでしょうか、国のシステムの問題でしょうか。我田引水ながら、政策的にはやることはやっているのではと思いますが。よく米国の例を引き合いに、日本は政府がベンチャーの面倒を見すぎているとの論調を見かけますが、本当のところはどうでしょうか。MITを見ていると、政府からは引き続き戦略的な研究支援が行われていることが分かります。また、豊富な奨学金を武器に、世界から優秀な学生を集め、彼らがベンチャーの担い手として育っていきます。そして、Karl のような、ハイテクと知財の両道のインキュベーターの存在。ハーバード、MITに見える、研究とビジネスマインドの集積。ここは、うらやましがっているばかりでは駄目で、次のステップに向けてさらに構造改革的なイノベーション政策を打って出て、彼我の差を少しでもうめる必要があると考えます。関係者の皆さん、よろしくお願いしますよ。
最近の政策的な切り札として産業革新機構が出発しましたが、はたして機構は当初期待した機能を果たしているのでしょうか。政府の資金は、回収可能な「低リスク」の分野には馴染みません。ハイリスクでも日本の将来を担う可能性のあるハイテクベンチャーにどんどん投資してこそ、国民の期待に応えられるのではす。そんなことを、ハーバードスクウェアのカフェテリアでぼんやり考えていました。
余談ですが、ハーバード大学はちょうど卒業式の時期で、世界中から自慢の子女をお祝いにその家族が来ていました(*i)。大学のCoopにはそうした両親や祖父母・兄弟が楽しそうにハーバード大学名入りのトレーナーやTシャツを買っていきます。筆者も京都へ長男の卒業式に行きたいなとふと思いました。そういえば、ハーバードでは、昔はたくさん見受けられた日本人が見られなくなっているそうです。先日来日した同大初の女性学長ファウスト学長のインタビューが読売オンラインルに掲載されています。それによると、ハーバードは、19世紀から日本人留学生を受け入れ、日本人の同窓会メンバーは約3000人を数えるが、2009〜10年度の学部への日本人留学生はたった5人と話しておられます。学部・大学院を合わせた日本人留学生はここ一年で151人から101人に減少し、中国は227人から2倍以上の463人、韓国は183人から314人に急増したそうです。これはハーバードに限ったことではないようです。日本の学生の奮起を期待します。黒川清先生のいうとおり、若者よ、外に出でよ、ですね。以上、西海岸のように気持ちの良いボストンからでした。
i. MITの卒業式の様子を実況するMITスローン校の日本人留学生Lilacさんのブログを見つけました。シリコンバレーを日本に作りたい人はこのブログ、必見です。Lilac さん、「シリコンバレーを日本に作る会」を一緒に作りましょう!
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