第3回 寒太郎の通り道


 今回は、群馬です。群馬と言えば、何を連想しますか?草津温泉、 赤城山、 サファリパーク、 ・・・。


 私は、「北風小僧の寒太郎」です。寒太郎を知らない人のために説明しよう。NHKみんなの歌で、かつて冬になれば流されていた名曲です。演歌の大御所 北島三郎、その後は、堺正章さんが唄っていました。背景のアニメーションの中で、寒太郎が日本海から越後の山々を飛び越えて、群馬県の渋川や高崎を通り道にして、東京まで北風や雪を届けるのです。妙にリアルなアニメだったので、群馬=からっ風のイメージが強く残っています。


 前置きが長くなりましたが、6月22日、「第五回群馬産学連携推進会議」出席のため前橋を訪問させていただきました。


 直前の週末の京都産学連携会議の熱気をそのまま群馬に移動したようで、会場の前橋商工会議所ホールには、400人と盛況です。地方単位で、このような会合が毎年開催されていることは、非常に珍しいですね。関係各位の皆様のご尽力に敬意を表させていただきます。基調講演から、パネルディスカッション、その後の交流会まで、熱気の中、あっという間の半日間でした。


 昨年来の金融危機の影響で、自動車関連工場の多い群馬県では、中小企業を中心に、かつてない厳しい経営を余儀なくされております。この大きな危機を打開するため、産学連携に対する期待が以前に増して大きくなっていることが感じられました。


 産学官連携は、三本の矢とか、貧者の武器とか言われておりますが、景気が順調な時は、中小企業も受注をこなすのに精一杯で、反対に産学連携による新製品開発まで手が廻らないですよね。元々、1920年代の大恐慌の日本でも、東京工業大学発のTDK、理研グループはじめ、大学、公的研究機関発のベンチャーが操業開始し、世界的大企業に成長しました。


 最近では、1980年代の米国不況の際に、シリコンバレーに代表されるように、新たな知恵が大学から飛び出し、世界を変える新産業が産まれたことは、記憶に新しいですね。産学連携に関します、群馬でのユニークな取組を紹介させていただきます。



 1.一企業一博士構想
 太田市は人口22万人の街ですが、工業出荷額は2兆円以上と全国1800市町村の中で、19位です。戦前は、富士重工等の自動車、金属加工、機械等の関連産業の集積が進みました。しかし、工科系の専門校、大学がございませんでした。このため、群馬県商工会議所の提案で、太田市に群馬大学工学部新学科の設置提案がなされました。


 その後、前工学部長の宝田恭之先生はじめ関係者のご奮闘で、わずか、1年8ヶ月で「生産システム工学科」が新設されました。夜間コースでは、社会人比率が6割以上と、周辺企業にお勤めの技術者の方が、更にレベルアップし、学士、修士、博士号を取得される訳です。一企業一博士構想は、世界的なレベルの地場企業が最低一人の博士を雇用する構想です。


 最近は、ポスドク問題等で博士は否定的イメージが多いですが、国際的には博士号はビジネスの世界でも必要なパスポートです。今後、地場企業の海外展開の際には、博士号を有した人材が大きな戦力になるのではないでしょうか。



 2.家畜排泄物のエネルギー転換
 群馬は、有数の畜産県です。同時に、観光地やゴルフ場も多数あり、さらに首都圏の貴重な水源地帯です。このため、家畜の糞尿処理は大きな問題となっております。この家畜排泄物をエネルギーに替えることが出来れば、CO2フリーなバイオマスですので、低炭素社会の実現に強力な武器になります。


 群馬県の地域結集事業では、群馬大学工学部を中心に、バイオマス低温ガス化技術の実証に取り組んでおられます。バイオマス環境改善の先進事例になることを大いに期待したいですね。その他、群馬では、将来の研究者を目指す、理科好きの少年・少女を群馬大学工学部が育む「工学クラブ」、群馬大学医学部の前橋の重粒子線治療など、全国的に著名な活動がなされております。


 現在、工学部長の板橋英之先生は日本最年少の工学部長です。板橋先生によりますと、群馬県工学部の女性比率は工学部で日本最高とのこと。これは、板橋先生の人気でしょうか。いい意味で、かかあ天下を目指されるそうです。


 これまで、産学連携のクラスターは、ITやバイオを中核に据えたモデルが多かったのですが、我が国の強みである、ものづくりを支える産学連携モデルを群馬発で発信されることを大いに期待しております。


 なお、最近、NHKみんなの歌で、寒太郎が放映されないと寂しい思いをされている皆様は「寒太郎」で検索してみてください。



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