第5回 ペルー国のEMによる貧困農家の自立支援事業



 今から14年前にペルーのモリーナ農業大学の副学長であったマエゾノ教授がEM普及の件で沖縄まで訪ねてこられました。モリーナ農業大学は元ペルーの大統領であったフジモリ氏が学長でおられたペルー1の農業大学です。


 当時、南米のEMの普及拠点はブラジルにあり、すでにペルーにもEMがひろがりつつありましたので、ブラジル経由のルートで協力することになりました。その後、マエゾノ教授はフジモリ氏の後を受けて、モリーナの学長となり、ペルーにおけるEMの普及に尽力されましたが、EMの流通経路やEM活性液の作り方や使用方法の情報不足で十分な成果があげられない状況が続いていました。


 今では、この状況は一変し、EMはペルー政府の農業省を中心に貧困農家自立支援事業団の重要な技術として着々の成果を上げており、ペルーの貧困農家問題と環境問題、健康問題の解決に決定的な力を持つものとして評価されています。


 昨年の6月にコスタリカのアース大学で中南米EM国際会議が行われたついでにペルーやウルグアイのEM普及状況を見る機会があり、マエゾノ学長とも久々の再会をはたしました。 



:モデル地区の様子

 先ず、ペルー北部高地にあるワラス市周辺の普及モデル地区を訪ねましたが、私が望んでいた通りの普及が徹底して行われていました。


 この普及方式はアジアのEM大国であるタイの事例をベースに、生ごみや下肥、家畜の糞尿等を全てEMで処理し悪臭を消し、寄生虫や病原微生物を完全に抑え込んだ後に有機肥料として活用する方法です。またタイと同様に環境や健康問題の解決に対し、あらゆる場面でEMが活用され、生活化していたのです。



:散布するEM−1

 石油価格の値上がりとともに化学肥料や農薬も3倍以上にはね上がった為、小規模な貧困農家は農業を続けることが困難となり、リマ市を中心に都市部への農村難民が流入し巨大なスラムを形成するようになってしまいました。ペルー政府は、その対策として農業省の中に貧困農家の自立支援事業団を作り、手始めに資源循環型の有機農業を推進することから始めていました。


 すなわち、化学肥料や農薬がなかった時代は有機農業をやっていた訳だし、現在では化学肥料や農薬を使わない有機農作物は付加価値が高い。したがって、生産量は近代農業の70%でも化学肥料や農薬を買わずに、畜産や生活の中からでる有機物を使うとコストがかからないため十分に採算が合うという考え方です。


 一般論としては確かにそうですが、実際にやってみると逆に種々の衛生問題や病害虫が大発生し、健康を損ねたり、最悪の状態となり農村から都市へ人口流出は加速されてしまったとのことです。


 6年前にEMの中南米普及拠点であるアース大学の卒業生が今回、訪問したワラス市の出身者におり、その卒業生を中心にEMを活用したところ信じられない結果となり、収量、品質ともに化学肥料や農薬を使っていた時代よりもよく、農家の経済的な負担が激減し、またEMの健康への応用によって医療費も奇跡的と言われる位に低下し、農村に豊かさが戻ってきたとの事です。


 その結果、都市部に流出していた人々が農村に戻るようになり、EMを使った様々な農村振興策がとられるようになり、農村が活気づいてきたという報告を受けました。


 5〜6ヶ所のモデル地区を訪ねましたが、いたるところで横断幕に音楽隊の歓迎を受け、それぞれの現地でEMの増やし方や使い方のデモンストレーションも行なわれ、種々のアドバイスを求められました。「EMは誰でも簡単に増やす事が出来ますので水や空気のように徹底して使うこと、EMは生き物なので密度がある一定以上になり、まわりの悪玉菌を抑えるようになると顕著な効果を発揮する。したがってEMを使うポイントは効果が上がるまで使い続けること、一度効果が出ると加速度的に効果が累積される為、手抜きしなければ生産量は2〜3倍にすることも容易である。タイ国のように黒糖や果物、ハーブ等を加え自家製の健康飲料を作り、病気や怪我等に応用する。農薬や化学肥料のように使い方や量を制限せず、効果が十分でなければ連日使う方が品質収量も高まり、使う人も健康になり、その生産物を食べる人々も健康になる」等々です。


 このアドバイスに対し、人々は「Dr.比嘉の教えは全て実行しています。まるで夢のようです。病気に対する心配もなくなりました。若い人が農村に戻るようになり、大変感謝しています」と喜んでいました。


 事業団の局長の話では2008年には40万世帯に広がっており、数年以内にペルー全土に広げる計画で予算化しており、今後もEM研究機構の公式な指導を受けたいという要望が出され、合意書を交わすことになりました。


 その後ワラスの大学で講演しましたが、休日にもかかわらず講堂は立見席が出来るほどに多数の人々が参加し、大学側もEMの普及に積極的に協力してくれることになりました。次の日はモリーナの農科大学で講演を行ないました。ワラスからのフライトのトラブルで4時間も遅れて到着しましたが、参加者の殆どが待っており、チチカカ湖の汚染対策やリマのスラムの衛生対策やごみ問題や河川や海洋汚染対策についての質問が集中しました。


 モリーナ農業大学のマエゾノ学長は、10数年前にEMの件で沖縄まで私に会いに行ったことや、比嘉教授が約束通り、本学に来て下さったことに対し大変嬉しく感謝しております。EMのお陰でペルーはいい国になると思いますし、この日本の技術のお陰で日系人はペルーに貢献できることを大変誇りに思っている、という挨拶をされました



:マエゾノ学長と久々に再会

 その後モリーナ農業大学とのEM研究プロジェクトの話し合いを行い、深夜ウルグアイに向け出発しました。中南米では貧困や環境問題の解決のために多様な取り組みが行なわれていますが、常にそのネックになるのが予算の問題であり、根本的な解決手法が確立されていないということに尽きます。


 2004年に沖縄で開催された米州中央開発銀行総会で中南米の貧困と環境問題はEMで解決できるというコンセンサスが得られています。米州中央開発銀行はアジア開発銀行と同じ役割を中南米ではたす為に設立された国際銀行で、中南米のEM普及拠点であるコスタリカのアース大学設立にも巨額の支援を行なっており、アース大学のEM普及活動を高く評価しています。今回のペルーの実績は正にそのことを実証しており、世界規模で応用できるものです。



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