女性の社会進出はまだまだ遠い。なぜ?先端科学技術大賞の授賞式と「「最後の社会主義国家」日本の苦闘」
4日に、先端科学技術大賞の授賞式で20分の基調講演をする機会がありました。先日、沖縄でご一緒させていただいた高円宮妃殿下のご臨席です(カラム)。私の講演の要旨は以下のようです。翌日の「フジサンケイビジネスアイ」朝刊に出ています。
「 黒川清先生・ご講演: ●「イノベーション25」(注・黒川氏が座長としてまとめた2025年の社会に向けた政府長期戦略指針)の一部にフォーカスしてお話ししたい。その骨子からすると、今回の表彰には不満がある。学生部門の受賞者9人中女性は2人、企業部門では25人中1人だけ。外国人は21年間の歴史でたった1人。これは非常に異常だ。これからの世の中はこんな世の中ではないということを認識してほしい。ここにイノベーションのメッセージがある。
●「蒸気機関の開発」以来、産業・経済・社会のパラダイムには5つの変革の大きな波があった。今は1908年の自動車大量生産によって始まったパラダイム、「石油、自動車、規格品大量生産、消費文化」の極めて成熟したところにいる。そして、71年にインテルがマイクロプロセッサーを開発してから情報社会がインフラになり、インターネット、そしてネットスケープ、リナックス、グーグルなどが登場している。時代を変革するのは、受賞者の皆さんのようなパッション(情熱)とねばり強さを持ち、寝食を忘れて研究に熱中し、行動する人だ。
●インターネットなどを通じてこれから世界は一つになっていく。今までは研究から大量生産まで(一企業内などで)直線的につなげていたが、それでは破壊的イノベーションは出てこない。特にこれからのイノベーションで大事なのは、ヘテロジェネイティー(異質性)、ダイバーシティー(多様性)、アダプティブネス(変化即応性)だ。ダイバーシティーの観点から、冒頭の苦言を申し上げた。
●世界のどこから競争相手が現れてもおかしくない。強い部分は競争で伸ばすが、弱いところは強い人たちと組む戦略が必要。ぜひ世界中に友達を作り、エネルギー、環境、資源、南北問題など世界の出来事を身をもって経験し、起業家精神を共有して解決に取り組んでほしい。そのうえで、日本がどんな国になりたいか、自分の企業がどんな企業になりたいか考えていただきたい。」
事実、2006年度の受賞者も学生部門では5人中女性はゼロ。企業研究所部門で は20人中女性は1人です。この2006年に学生部門で受賞した1人がこの賞では始 めての外国人だったということで、どんなに日本が鎖国なのか理解できるでしょう。皆さんはどう考えますか。
この点で最近の面白い本があります。『「最後の社会主義国」、日本の苦闘』(毎日新聞社 2007年3月)というタイトルで、子供の時から15年間を日本で育ったレナード、ショッパさんというアメリカ人による著書です。日本のこともよく知っているし、いくつか著書もあります。データも正確、観察も、解釈も鋭いです。
ところで、日本の女性の社会進出はUNDPでも知られるように、女性の開発指数(Gender Development Index: 選挙権、教育機会や大学進学率等)では世界の8番ぐらいと素晴らしいのですが、女性の活用指数(Gender Empowerment Index)では世界で43番目程度です。このギャップは女性の活躍の機会を失っているのであり、もったいないことです。女性の活力、能力をいかに活用できるか、これはこれからも日本の活力への大きな課題なのです。私もいくつか発言しているのでこのサイトで「男女共同参画」等のキーワードで探してください。
以前のような「Feminism」の動きは、老人介護体制の導入等で女性が昔に比べて開放され、さらに自立しながら生活ができる「パラサイトシングル」等によって、女性はいつまでも一人でいられ、亭主に苦労する必要もない選択肢が増えたので、わざわざ結婚もしないし、海外へも出れるし(一昔前は日本女性と結婚することはひとつの理想といわれていましたが、いまは?これは男性社会のステレオタイプ的価値観ですが)、子供の養育や教育等への負担を考えればこれも避けてしまう、出生率の低下は必死、男女共同参画などはお題目になり、改革への政治的な力にならなくなってしまった、だから改革できない、という趣旨です。言いえて妙ですね。この本の元(英語)のタイトルは「Race for The Exits」というものです。
さらに、優れたグローバル企業は、多くの規制やエネルギーコストの高い日本から海外へ出るという選択肢を行使できる。選択肢のない人たちや企業が残る、ちょいと情けない社会ともいえます。これがグローバル時代の怖いところです。
ところで、女性のリーダーシップではことしのForeign Affairs, May/June issueに面白い論文があります。先日のカラム(2007/03/03; 他にも2006/01/28等々)で紹介したように米国Ivy League大学のトップはHarvard, Princeton, Penn, Brownと8校中4校が女性です。一方で日本では、たとえば国立大学の87校中、いま女性のトップはお茶の水大学だけです。世界で広く知られているのです。この論文は、さらに政治の世界では女性のリーダーはまだまだ少ないが、世界の多くのNPOのトップは半数以上が女性であること、その意味合い、政治での意義についても述べていてなかなか面白いです。ご参考までに紹介します。
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