第3回 米のベンチャー支援投資家活動の今
わが国のベンチャー企業支援策は、これまで米国でのあり方を参考に種々講じられており、相当程度の充実が図られてきた。しかし、ビジネスエンジェル(ベンチャー企業を支援する個人投資家、以下BA)の広範な活動と、SBIR(中小企業技術革新制度)の有効活用という点で大きな隔たりがあるのではないかという問題意識を持って、10月16日から25日まで米国現地事情調査を行った。以下、その概要を報告したい。
●対象企業、年間5万社
まず、BAの活動状況については、ニューハンプシャー大学の調査によると、その投資額は約3兆円であり、米国ベンチャーキャピタル(以下、VC)の投資額に匹敵する規模(この数字には米国内でもさまざまな疑問が示されているが、極めて大きな額になるという点では皆一致している)。投資対象企業も年間約5万社にのぼるという。
組織形態は、現在でも発展途上でさまざまだが、数十人から数百人のエンジェルを組織化し、各エンジェルの経験を生かして審査を行う。そして毎月百件程度のベンチャー企業(以下VB)の中から1、2件を選択し、各自の判断で投資を行う、というタイプが標準的だった。これと平行してファンドを設け、BAとは別に投資を行い、VBへの資金供給をさらに円滑にする、という仕組みを採用しているところも数多くみられた。
投資に際しては、直接投資ばかりでなく株式転換可能無担保ローンとも呼ぶべき貸付の形をとる場合も多く、特に東海岸のBAではその比率も高い印象を受けた。
これは、シーズ、アーリー(初期)段階での投資ではその企業の評判が明らかでなく、各エンジェルの意見が異なることが多いことから、とりあえず必要資金を貸し付け、一定の成長後、VCの参加などをきっかけに株式に転換し、企業価値を確定するというものであった。投資を行った後、各BAは投資先企業の取締役に就任するなどしてメンタリングを行い、その企業の成長をサポートしIPO(新規株式公開)やM&A(企業の合併、買収)といった出口戦略も経営者とともに模索するのが通例である。
これらの工夫を講じたとしても、10件の投資のうち3、4件が倒産し、5、6件が経営を維持するのみで、1、2件が成功すればよいというのが標準的な結果だ。IRR(投資に対する収益率)は7〜10年の投資期間でみて20〜40%をターゲットとするところが多かった。
●技術革新制度も活用
また投資案件の選定にあたって、SBIRの助成を受けている企業のプロポーザルに対しては高い評点を与えるとするところが多く、SBIR制度が広範に信用され、BAやVCの投資にとって重要なメルクマールとなっていることが明らかとなった。
これは、SBIR制度自体が、研究(フェーズT)、開発(フェーズU)、ビジネス化(フェーズV)の各ステージで科学面とビジネス面の2つの観点からのピアレビュー(同業者同士による評価)による審査を行い、スクリーニングを実施しているためであり、当該企業にとってはビジネスプランのブラッシュアップ機能を果たしているともいえよう。
今回の米国調査は実り多いものだったが、わが国においても活用可能なものであり、政策面でのわずかな工夫で、ベンチャー企業の支援をさらに充実できるとの印象を得た。ここで得られた知見を経済産業省に設置された「ベンチャー企業の創出成長に関する研究会」にも報告し、わが国ベンチャー企業に対する支援策のさらなる充実に貢献したい。
※この原稿は11月6日付フジサンケイビジネスアイに寄稿されています。
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