第6回 金澤一郎先生、学術会議の新会長に!


  10月2,3日と日本学術会議総会が開催され、金澤一郎先生が新会長に選出されました。昨年、同会議の基本体制と方針が抜本改正され、第20期の会長に黒川 清先生が選出され、この一年、新体制を定着すべく大変なご努力をされたのは言うに及びません。黒川先生はこの9月で70歳になられ同会議の定年に至ったため、今回その残余期間の会長職の選出となったわけです。


写真は毎日新聞10月3日HPによる

 金澤一郎先生は、これまでも第二部部会長として新生学術会議をリードされてこられたのですが、残念ながら私は分野も違い直接は存じ上げませんでした。選挙公報によれば、東京大学病院長などを歴任の後、現在は国立精神・神経センター総長としてご活躍とのこと、臨床医学分野でアルツハイマー病やパーキンソン病など神経変性疾患研究の第一人者。皇室医務主管を務め、天皇陛下の前立腺がん治療や秋篠宮妃紀子さまのご出産などに付き添ったそうです。このような素晴らしい先生が新会長に就任されたことを一会員として心よりお慶びする次第です。

 昨日の会長就任挨拶では、「科学者コミュニティの確立を目指し、ケネディの言葉を引用されて、学術会議が会員に何かをしてくれるのではなく、会員が学術会議のために何をできるか、の視座で推進しましょう」と力強く宣言されました。吉川弘之元会長、黒川 清前会長が築かれた新体制の流れを汲んで、私たちの科学者コミュニティを取り纏め、我が国はもとより世界の発展に向けて日本学術会議をリードされること請け合いです。

 少し学術会議のことに触れますと、そのホームページによれば、日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として、昭和24年(1949年)1月、内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立されたそうです。現在では、我が国の人文・社会科学、自然科学の全分野の約79万人の科学者を内外に代表する機関であり、210人の会員と約2000人の連携会員がいます。私たちは特別国家公務員として昨年首相官邸にて小泉前首相より辞令をいただいたのです。

 新生と申しあげましたが、何が新生かと言いますと、平成9年に学術会議のあり方が内閣府総合科学技術会議にて検討開始され、以来、7年間の審議を経て平成16年4月に日本学術会議法の一部を改正することが公布されたのです。言ってみれば「学術会議など不要の長物だから廃止してしまってはどうか」との批判的流れに対して、「そんなことはない、学術として社会に貢献し、政策提言するべきである」との当時の会長らのリードによって新生されたのです。その概要は以下の図に示すとおりです。



 私たちの主な役割は、T:政策提言、科学に関する審議、U:科学者コミュニティーの連携、V:科学に関する国際交流、W:社会とのコミュニケーションです。

 個人的には私は機械工学委員会を主とし、環境学委員会と地域研究委員会に所属しています。環境学は専門ではありませんが、エコデザイン学会連合の運営委員長として、また地域研究はもっと専門から遠いのですが、長く産業クラスター計画に関与し、(社)首都圏産業活性化協会(TAMA)の会長を務めておりますので、その立場で末席を汚しております。新生学術会議のよいところは、出来るだけ学際的・横断的な学術の確立と幅広い視点での政策提言を目指している点です。ですから私のような一見よそ者でも関心のある委員会に所属し、いろいろ意見を述べることが出来るのです。

 一番専門に近いところでは、「生産科学分科会」を取り纏めています。我が国では、単なるハードウェア工業製品のみではなく、ソフト組み込み製品、ソフトウェアそのもの、これらのライフサイクル・サービス産業化、最近では農魚加工品・バイオ製品までをも広く包含した概念として、拡張型製造産業を"モノづくり"と呼称するようになっています。

 "モノづくり"が我が国の基礎であり、また文化、自然環境とも大いに関係することから、これらを俯瞰した"21世紀における我が国モノづくりビジョン"を策定し国家的に合意されることが喫緊であると考えますが、この実現には、産業界からの要望と学術の知見とが政府の責任において総合されることによって初めて可能となると考えております。そこで学術会議としては、後者の学術知見の集約と提言にその責任があることに鑑み、21世紀モノづくり概念を科学として正確に捉え体系化し広く提言するべきと考え、生産科学分科会を設置させていただきました。もちろん、モノづくり分野の学術知見が集積している学術団体が広く参加できる組織を構築しようと思います。  私の見込みでは、経団連や工業会が中心となってモノづくりの実態的要望をまとめるでしょうから、学術会議としてはあくまでもモノづくりを生産科学として昇華し、両者が両輪となって初めて真のモノづくりビジョンが策定できると思います。

 あまりあせらずに2年ほどかけてじっくりと取り纏めてゆきたいと思います。というのは、ビジョンというと性急な検討になりがちですが、国のモノづくりビジョンの科学的側面をまとめるのに一年やそこらでは困難です。幸い今回の学術会議会員には多くの先導的モノづくり専門家がおられますから、その叡智を結集して提言に取り纏めていく所存です(了)。