第7回 「第5回産学官連携推進会議って面白い!」となりそうですの巻

 編集長から、映画「ダ・ヴィンチ・コード」をBGMとしつつ、第5回産学官連携推進会議に向けての議論をサイト上で行うという提案がなされた際、私には、開催地京都を擁する関西から、welcome speech的なコラムを書いて欲しい旨、連絡がありました。前回は、クラシカルな映画「ローマの休日」をBGMとしつつ、福井の産学官連携について書きましたが、今回は、編集長の希望に真正面から答える形で、ですけれど別の手法で書くこととしました。すなわち、このテーマについては、当日の会議に参加される関西勢の方々のメッセージを頂いて、それを私が編集する形にした方がベターと考えた次第です。

 私自身は、甲子園風に言いますと、産学官連携推進会議には、今回が2年連続2回目の出場ということなのですが、昨年の会議で感じたことは、産学官と言いながら、産業界、特に中小企業の方の御参加が少ないのではないかと言うことでした。それ以来、少なくとも関西の中小企業の方々にとっては、週末一回を充てて京都まで電車賃を払って参加すれば、日本の学のトップクラスの方々と知り合えるのに、その機会を逃すのは勿体ないという問題意識を持ちまして、今回の会議に当たっては、当局が進めている産業クラスター計画に参加されている中小企業を中心にして参加を呼びかけて参りましたが、森下先生が前回のコラムで書かれているように、産学官連携推進会議への中小企業の方々の距離感は、一部の方々を除き地元関西であっても大きいというのが正直な印象です。そういう問題意識に基づきまして、まず、今回の会議にパネリストとして登壇される関西の中小企業の社長お二人にメッセージをお願いしました。また、学についても、できるだけ多様な考え方のぶつかり合いが議論を深めていくという思いの下、開催地京都の私立大学からお一人、そして、同じく開催地京都の国立大学法人の方だけれども、直前まで大企業に所属しておられたお一人にメッセージをお願いしました。

 まず、クラスターテクノロジー(株)の安達稔社長からは、以下のメッセージです。
”これまでのクラスター集団でなく、具体的な事業化を可能にする「新たな産業創成クラスター」が生まれて来なければ研究開発・情報交換の場で終わる可能性がある。これまでの5回に及ぶ産学官連携推進会議の経過で、本来の課題とこれまでの問題点を見直す時期であり、新たなステージを迎えなければならない。特に日本の大きな課題は少子高齢化問題である。特に製造業は、従来の製造技術の延長では人口の多い低賃金国との国際競争では成り立たない。科学技術立国日本の役割を考えた技術革新と新産業創出が必要であり、多種多様な色合いの産学官連携から生まれる新産業創成が期待されている。しかし、自らの経験からも、シーズ主体からは事業化に時間を要することから中小中堅企業からの積極的ニーズ提案を導き出す事が必要である。更に、大きな課題は技術のみならず、志ある経営者をいかに評価し明るい夢ある企業を育成することかと考える。技術の継承に留まらず、将来を考えた志・資質ある起業家を育てる教育制度も必要と考える。”

 次に、前回の福井のコラムでも御紹介した(株)松浦機械製作所の松浦正則社長からは、福井での産学官連携プロジェクト「光ビームによる機能性材料加工創成技術開発」の事業総括をなされた体験を踏まえた以下のメッセージを頂きました。同プロジェクトは、メッセージに記された3点が良かったために成功したと仰っております。

”第5回産学官連携推進会議での議論について、望むところは次の3点。
 一つ目は資金面。地方における中小企業の産学官連携による新技術開発は非常にまれであり、その成果を生かし稼げるものにするには、開発にかかった人、物、金の10〜100倍のものが必要になる。さらに、商品として認められるためには、最低10年は覚悟せねばならない。国は、特に資金調達について、中小企業に対し開発したアイテムを担保に、保証人のいらない融資システムを作り上げることが重要。

二つ目は、人財の育成と確保。地方の中小企業が産学官連携での技術開発を成功させるには、市場を良く知っている産がリーダーシップを取る必要があり、そのためには、飽くなき執念で目的を達成させることが出来る企業のトップを得ることが絶対必要。そして、社内に研究者一人でも開発に専任させ、学との連携を密にし、論理的な思考を進めて、目標を達成させることである。もちろん、その喜びは他の仲間達と分かち合えねばならない。これが人を育てる大きな要因。学の担当者は、先端的な研究を実践できる能力と、世界トップレベルの情報収集能力、そしてその人々とのネットワークを組めることが、研究開発を成功に導く条件であり、そのような正しい評価が出来る仕組みが絶対必要。そのためにも、常に研究現場に顔を出し、話し合いに積極的に参加し、研究者を勇気づけてやることが重要。

 三つ目が環境作り。福井県のような地方の産学官連携による技術開発には、官の役割は大変に大きい。まず、研究するための世界最高の設備と環境作りが必要。トップレベルの研究者を引きつける先端的な場所と施設を用意し、研究資金もそれ相応に与え、自由にさせることが重要。もちろん、研究テーマについては、事前に三者間で十分な話し合いをした上、3ヶ月〜6ヶ月毎に成果を確認し合い、先が見えないものに関しては、その都度削除していき、選択と集中による絞り込みをしっかりやらねばならない。さらに、商品化を目指すには、研究開発期間を厳守させることが大切。産で言われる「納期厳守」をプロジェクトメンバー全員に徹底させることが官の役割と考える。”

   和田元(”もとい”とお読みします)同志社大学知的財産センター兼リエゾンオフィス所長からは、今回の会議はちょうど5年の節目でもあるので、中長期的な議論を十分に尽くし、国民が理解できるような提案を行うことが必要とした上で、私のコラム名「もっと関西!」をより一般化して「もっと地方色ある産学連携」という点と「学生教育・人材育成を目指した産学連携」という点をキーワードとするメッセージを頂きました。一点目について、和田所長は、最近、上京する度に、東京が日本語の通じるNYと言う印象が強くなっており、文化の過疎化が東京で進んでいると危惧された上で、”日本人は、日本の特定の地域の文化をもって初めて日本人としての自覚とプライドが持てると確信している。各地域で住民が生き生きと産業活動に精を出せる日本を守るため、産学官連携をどのように展開していくべきか、議論すべきと感じる。地域密着型の産学連携は、学生にとって学ぶことが多く、企業の若い世代の再教育にも大いに効果的と考える。”とされています。また、二点目について、和田所長は、”優秀な起業家がいなければ、産業界の新陳代謝は滞り、日本にあるのは、大きくて古い企業ばかりと言う構造になる可能性もある。教育界には、少子化と理科離れという問題もあるが、特に産学連携を通じた人材育成、学生教育は若者の起業家マインドの育成、産業社会の早期理解の面で効果的と考える。中小企業でのインターン等は、企業側には大きな負担となるだろうが、地域の中小企業がどのような産業活動をしているかを学生が理解することは、企業側にとっても学生側にとっても有益。”と述べられています。

以上二点の他、和田所長は、大学独自の問題として建学の理念、大学の個性について取り上げ、複数の大学による産学連携の取組みに際し、その個性が激しくぶつかるケース(例えば、産学連携に教育的要素をしっかり盛り込みたい同志社と、それを異とする大学とのぶつかり合い)について述べられ、更に敷衍して、大学と企業の文化の違いの問題について、”共同研究を企業と行う際の企業側の対応を見ると、大学は産学連携を金儲け(外部資金導入)のために行っているというのが企業側の認識のようであるが、これは、長年私立大学に勤務している人間にとっては戸惑う認識である。”と述べられた上で、”基本的に、産・学では自分たちの組織を重視し、地方政府は地域活性化、中央行政は国の経済競争力を念頭に置くため、独自の判断基準で動いており、お互いを理解できていない側面があるのではないか”とし、であるから、産・学・官がそれぞれの文化の溝を埋めるにはどうすれば良いかという切り口からの議論を期待するとされています。

 そして、そもそも、”日本型産学官連携の基本理念=目指すところの議論が未だに希薄だと感じており、もっと大所高所から、日本の将来的な経済戦略・科学技術立国・知財立国構想と産学連携をどのように繋げて行き、各大学がレベルに応じてどのように参加していけるのか、皆でシナリオ作りを考えることが重要である。”とされた上で、関西だけででもやりたいですねと結んでおられます。

一番最後のメッセージは、京都工芸繊維大学の竹永睦夫副学長からなのですが、実は、これについては、メッセージと言うよりは、論文とお呼びした方が適切と思われるものを頂戴しましたので、私のコラムに盛り込むよりも独立で御紹介した方が良いと考え、編集長にお願いしまして、別立てになっておりますので、そちらを是非お読み頂ければと思います。本当に、第5回産学官連携推進会議って面白い!となりそうです。