第5回 「関西のバイオって面白い!」の巻

 「私どもでは、毎年、ノーベル賞の発表時期が近づくと、各分野毎に日本人の受賞可能性のある方をリストアップします。バイオ分野だと、現在、12人くらいの日本人に受賞可能性があると思っていますが、そのうちの8人は関西の研究者です。」これは、日本経済新聞の編集委員の方が講演会で述べられた事だったのですが、関西赴任後日の浅い時期にこの講演を聴くことができた私にとり、二つの点で大きな意味がありました。一つ目は、関西のバイオ産業の競争力が日本のバイオ産業の競争力を決めるという確固たる自信をもって、関西のバイオ産業振興の仕事をやって来られたこと、もう一つは、様々な機会に関西のバイオ研究者にお会いする度に、将来のノーベル賞受賞者と知己になれているのかもしれないというワクワクする思いを持つことができたということです。本日は、関西のバイオについてです。

 当局が、バイオ産業クラスター計画に取り組んで、ちょうど第1期の5年が経過し、今年度から第2期に入ったところです。大学や公的研究機関のシーズを生かして地元の企業が事業化を進めるという動きを地方自治体あるいはそれに準じた産業支援機関が応援するというシステム作りが、我が国の産業クラスター計画の基本だと思いますが、関西のバイオについては、まさにそうしたクラスターが順調に育ってきていると私は認識しています。

 西から始めると、まず、神戸の医療産業都市作りが進展しています。ここは、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの充実したシーズと先端医療センターでの臨床治験とを軸に、再生医療を看板分野としています。阪神・淡路大震災の後、神戸市が必死になってプロジェクトを進めてきて、当省も積極的に支援をしてきましたが、今や数々のバイオ関連施設が建ち並ぶコンプレックスが形成されています。2月には神戸空港が開港し、アクセスは更に良くなりました。今後は、ソフト支援をきめ細かく行いつつ、また、地元の機械系企業との連携を強化することにより、具体的なバイオ関連ビジネスを発展させていくことができると期待しています。

 大阪北部の彩都と呼ばれるエリアでの創薬を看板分野としたバイオクラスターも進展しています。ここは、このDNDコラム執筆陣の一人でもある森下竜一大阪大学教授が、牽引役となられています。森下教授の御講演等で御存じの方もあるかと思いますが、この彩都は、大阪大学及び国立循環器病センターと近接しており、この3拠点を結んだ三角形の地域を創薬に関するクラスター(”彩都バイオヒルズ”と呼称)としていこうとしています。当省は、一昨年、彩都にインキュベータ施設を設けましたが既に満室で、現在、もう一つ設けようとしていますし、民間企業が設置したインキュベータもほぼ満室状態である等、彩都への創薬関連企業の集積が進んでいます。また、研究拠点として、昨年、独立行政法人医薬基盤研究所も完成しました。創薬分野は再生医療同様、事業化されるまで大変な時間と費用がかかりますが、是非、人々のためになる薬が彩都から次々と生み出されるようになることを期待しています。ちなみに、日経バイオビジネスが昨年度発表した全国バイオクラスターランキングでは、この北大阪がトップ、神戸が第2位になっています。

 京都では、バイオ計測・分析機器を看板分野としたクラスター形成が進展しています。京都市が立てたバイオシティ構想の旗の下、前回のコラムで書いた京都企業が結集されています。京都御所の近くに、当省が支援したインキュベータ施設もオープンしました。再生医療にせよ、創薬にせよ、研究開発・事業化を進めていくためには、計測・分析機器が不可欠であるわけですが、京都のバイオクラスター関係者が、このことを十分に認識され、「我々が大阪の創薬と神戸の再生医療を支えるインフラとなりつつ、3地域合わさった関西バイオクラスターを大きく発展させていきたい。」と仰っていることは心強いです。

 奈良県、大阪府及び京都府にまたがる関西文化学術研究都市エリアでは、植物バイオを看板とする取組みが、奈良先端科学技術大学院大学を中心として進められています。奈良県は、奈良時代及びそれ以前、日本の中心であったことから、色々な植物や食品の発祥の地(例えば、素人の私などは、お茶といえば、宇治や静岡を想起しますが、発祥地は奈良の由。)であり、そういう古来の植物の機能の新たなる活用や、乾燥地に強い食用植物の開発を目指した取組み等が行われています。

 滋賀県の琵琶湖北東部に位置する長浜市には、バイオだけに特化したその名も長浜バイオ大学があり、そこを核にしたバイオクラスター作りが進められています。当省も支援して、4月にインキュベータ施設が設けられましたので、今後の進展が楽しみです。

 クラスターという域にまでは達していないかもしれませんが、和歌山県における近畿大学の水産関係の取組みは、優れたマグロを生み出していますし、それに関連する大学発ベンチャーのアーマリン近大も生まれています。福井県でも、日本有数の界面活性剤メーカーである日華化学(株)等を中心にしてバイオテクノロジー研究会が組織され、活動しています。

 今回の締めは、この日華化学(株)の江守幹男会長にお願いします。江守氏は、福井商工会議所会頭も務められているいわば福井経済界の顔とも言える方ですが、茶目っ気のある方です。最初にお会いしたときに当省の後輩を同行したのですが、帰り際、同社製のシャンプーを使ってみて下さいとお土産に下さりつつ、我が後輩の頭髪をしげしげと見て、「あなたにはこちらも必要そうだ。」と仰って、同じく同社製の育毛剤も彼に渡されました。このシャンプー、馬の体内成分を用いているそうで、それを聞いただけでも頭髪に良さそうですが、実際、昨年夏に、何かの原因で頭皮がかさかさになった際、このシャンプーを使ったら、頭皮が元通りになりました。馬は、奈良公園の名物の鹿とセットにされて、不名誉な漢語を形成していますが、草しか食べないのに、あんなに筋骨隆々たくましい体格をしているし、髪の毛もふさふさしています。少なくとも、栄養素を文字通り自らの血肉にしていくという観点から見れば、馬は人間よりも優れた生物なのではないだろうか?と野菜サラダを食べながら思うことができるようになった事は、間違いなく、関西のバイオ産業振興に携われたことによる成果です。本当に、関西のバイオって面白い!