第14回 「アメリカの国立公園って面白い!」の巻

 いよいよ夏本番が近づいて参りました。夏休みの計画を練っておられる方も多いかと思います。私は、関西にいる間は、関西を更に良く知るべく、まだ訪れていないところへ行ってみようと思っています。当局の若手職員にも、「関西に関する知識は全て君たちの仕事に活かせるのだから。」と言って、関西の各地を回るように薦めているところです。その一方で、海外に行った経験が乏しい若手職員から、夏休みにお薦めの海外旅行先を尋ねられると、私は迷わず、米国の西部の国立公園を薦めています。この場合、30代半ばまでを薦める目安にしています。理由は二つあって、一つ目は体力です。米国の国立公園を本当に楽しむには、トレイルと称する公園内の道を歩き回ることが必要です。夏休みに行くのですから、当然に暑さにも打ち勝ちながら歩く必要があります。二つ目は食事です。米国は(フランス語圏以外のカナダにも当てはまりますが)、基本的に食事が美味しくないです。この点は、日本、とりわけ関西との大きな違いと思います。日本からの駐在の方々が多く住んでいる大都市部では、高価ながらも日本料理店がありますが、国立公園の周囲には望むべくも無く、北米の旅行先で良くお世話になる中華料理店もほとんどなく、運良く見つけても、甘すぎたり、味が濃すぎたりという米国風中華料理を、まあ中華っぽいものを久々に食べることができただけ良かったとしようと思いつつ食べることになります。西部なので、メキシコ料理店などはちらほらありますが、メキシコで食べたメキシコ料理は美味だったのに、米国のメキシコ料理を残さずに食べるのは容易ではありません。結局、ハンバーガーが一番口に合うのです。したがって、三食ともハンバーガーとフライドポテトとコーラでOKという方は、30代後半以降でも大丈夫ですが、体には良くないと思われます。しかしながら、この二つの条件(特に食事は旅行期間だけ我慢できれば良い訳です)さえクリアできれば、米国の西部の国立公園は素晴らしいところです。

 米国の国立公園の一番の良さは、自然を、できるだけ人間の手を加えない形で見ることができることだと思います。自然を楽しみつつ学ぶための施設がしっかりしており、説明能力の高いレンジャーもきちんと配置されています。その一方で、その国立公園を実際、どのように見て、どのように体験していくかは、訪れる個人に委ねられていて、したがって、公園内で何らかの危険に遭遇しても、それはその人自身の責任ですよという姿勢が徹底しているように思います。例を挙げれば、デスバレーという砂漠の中にある国立公園があるのですが、ここは、真夏に行くと、約50度の気温に見舞われ、まかり間違えば文字通り死んでしまうようなところで、日本だったら間違いなく、夏の間は公園全体を閉鎖すると思います。しかしながら、現実には、ガソリンを満タンにしておけとか水分を十分に用意して行けと言った指示・警告をするだけで、入園は可能です。私自身はデスバレーには真冬に行きましたが、当省の先輩の中には、大胆にも夏休みに行った方がいます。「いやー、さすがに暑くて大変だった。」とのことでしたが、いずれにせよ、own risk &own opportunityのお国柄が国立公園の運営方法にも色濃く反映されていると思います。

 米国の国立公園の中で最も有名なのはグランドキャニオンです。かつては、衛星から確認できる地球の地形の唯一のものがグランドキャニオンだったそうで、眺めていると、地球の歴史というものを感じさせられます。と同時に、私は、この大峡谷を作ったコロラド川が意外とそんなには大きくないことに驚きました。この川の流れが、少しずつ岩を削って行って、このような大峡谷を作ってきたことを思うと、継続することの偉大さを感じずにはいられません。ちなみに、このグランドキャニオン、訪問者の圧倒的多数は南側(サウスリムと呼びます)にだけ訪れますが、できれば北側(ノースリム)にも行かれることをお薦めします。ただ、道頓堀の南側から北側に渡るのとは訳が違い、半日強のドライブを要します。

 モニュメントバレーも良いですねえ。映画「駅馬車」でおなじみの場所です。真っ直ぐの道をひたすら走って、あの有名な3つの巨大な岩を目にしたときの感動は忘れられません。夕方、到着して、夕陽の中のモニュメントバレーをじっくり眺め終わった後、ファーストフードの夕食を取り、満点の星の下の駐車場に停車した車の中で就寝。夜更けに結構強い風雨に見舞われ、一瞬目を覚ましましたが、そのまま大地に抱かれた思いを持ちつつ再び眠りの世界へ。翌朝、日の上がらない前に跳ね起きたら、雨は上がっており、顔を洗って、モニュメントバレーの向こうに出てくる朝陽を拝みました。

 他にも、アーチーズ(夕焼けの中のデリケートアーチが美しい)、レイクパウエルとレインボーブリッジ(「猿の惑星」が撮影された場所)、イエローストーン(米国最初の国立公園で野生動物の宝庫)、グランドティートン(「シェーン」が撮影された場所)等々、魅力的な国立公園が沢山ありますが、私が最も好きなのは、ブライスキャニオン国立公園です。この素晴らしさを文章で表現するのは至難の業ですが、あえて挑戦しますと、擂り鉢状の大地から、無数の岩がにょきにょきと屹立していて、それらの岩の一本一本が、白、黄色、ピンク、茶色等から成る縞模様になっているのです。それぞれの色は、含まれている岩石の成分によるものなのですが、本当に息を呑むような美しさです。かつて、南高梅の話を書いたとき、読んで頂いた方から、南高梅の写真を文章に挿入したら、読者がアミラーゼ体験をより良く共有できたのではという、なるほどと思わせる感想を頂いたことがありました。今回も、ブライスキャニオンの写真を挿入すればより良いかもしれませんが、御関心を持たれた方には、own opportunity探しの一環で調査頂ければと思います。 

   あー、書いているうちに、米国の国立公園、また行きたくなっちゃいました。以下、独白。おいおい、でももう40代半ばだろ?あの食事に耐えられるかな?うーむ、確かに。日本にあれば良いのになあ。そうすれば、美味しい和食を食べながら、岩の芸術の数々を楽しめるのに。しかし、待てよ。日本全体のほぼ9割が国立公園で占められたら、日本はやって行けないか。それに、ブライスキャニオンかりんとうとか、モニュメントバレー饅頭とかを売る、訳の分からないお土産物屋が林立したりして、米国の国立公園に入園するときから始まるワクワク感(例えば道路の色や標識などが茶系統の色に統一されたりして、いよいよ来たぞと思わせるのです)は失われるかもな。やはり、野に置け、れんげ草と同様、ブライスキャニオンは米国にあってこそなのだろうなあ。本当に、米国の国立公園って面白い!