第4回 「相手は誰ですか?」の巻


●皆さん。

 今回は、暑い夏もはるか前に終わり、雪の舞う松山から岡山へと向かう車中で書いております。いつものように、日経の宮田さんのパクリのような開始の言葉ですが、前回が真夏に書いたものですから、あまりの恥ずかしさにごまかしから入ることにしました。

 いつものようにDND司令塔の出口さんから公開の場で?原稿を催促されるという名誉?を受け、年末のお歳暮にしようかと書き始めました。そんな時期があいている間に大学発ベンチャーも真夏から冬の時代になりつつあるという状況も生まれ、まさに満を持した原稿となりました(いつものように負け惜しみです。出口さん、すいません)。

 というのも、今年は大学発ベンチャーの上場もある時期(いつかは聞かないでください!)以降急速に減少し、冬に入り始めたからです。もともと秋がきていたところに、先日の日経ビジネスの記事で一気に冬到来という状況で餓死する会社も出るかもしれません(この件に関しては、出口さんも記事を書いていますので、ここで繰り返しはしませんが、罪作りの記事ですね)。また、一部からはバイオバブルという言葉もささやかれておりますが、そんな言葉は本物のバブルを知っている方々には申し訳なくて、とても使えません。なんといっても、アメリカとは産学連携予算は桁が違うのですから。しかし、「冬来たらば春遠からじ」というのはいつも真実で、いよいよ春が近くなっていると思います(期待半分ですが・・・)。

 先日日経産業新聞のコラムにも書きましたが、 第三期科学技術基本計画の策定が進んでいますが、第二期と異なり、未だ全体の目標予算も策定されず、また聖域ではないとされ、予算削減もささやかれているという緊急事態です(と書きましたが、先ほど文部科学省より嬉しい連絡がありました。5年間で25兆円の数字が記入されたということで、まだまだ欧米との競争は終わっていないようです)。

 正直、国の予算政策は私以上に気が短いのか?とびっくりします。実績が出ていないからね、と良くいわれますが、基礎研究から実用化までは10年以上かかるのが当たり前で、産学連携が本格化した2000年から5年しか経っておらず、売上高が実績だよ、といわれても正直無理ですとしかいいようがありません。

 しかし、「失われた10年」に産学連携が叫ばれた時、本当に産学連携予算を増やせば、急に経済が良くなると思って政策を始めたのでしょうか?本当の意味は、10年、20年と日本の長い将来を見据えた骨太の政策として打ち出されたはずですが、もう忘れてしまったのでしょうか?

 確かに売り上げとしての成果は出ていないかもしれません。しかし、国からの資金投下により民間からの研究開発投資がどれくらい延びたか?、呼び水としての評価を行えば、違った姿が見えてきます。よく経済学で使う産業連関表を利用すると、公共事業投資と科学技術予算は同じ経済効果を持ちますが、大きな違いがあります。科学技術投資により売り上げ数千億の企業が誕生すれば、公共事業に比べ数十倍の経済効果が期待できるという点です。

 昨年の大学発ベンチャーによる民間投資は200億円以上ですが、これは4000億以上売り上げのある大企業が誕生したのと同じ研究開発投資の金額で、これだけの金額が純粋民間で行われたという意味です。これを全部官で賄えるのかと考えると、既に大きな成果は出ています。科学技術予算は、イノベーションに対する投資であって、公共事業のような使いきりの予算ではありません。

 でも、やっぱり企業である以上、儲けなくてはいけないというのも事実です。前回ビジネスモデルについて書きましたが(古すぎて、忘れてしまいましたか?)、もうひとつ重要なのは相手がいるという点です。当然、競争相手より一日でも早く商品を出し、市場を占拠することが重要です。遅いということ自体、負けることを意味しています。

 残念ながら、日本で創薬を行うことはこの点で不利です。ご存知のように、日本における臨床治験の困難さ、そして認可のハードルの高さは、世界でも有名です。この状況を変えてもらうことは、やはり成果を出す上で避けて通れません。是非、厚生労働省・政府の英知を結集して、日本の審査センターをアメリカのFDA並みにしていただきたいと思います。

 一方で、バイオベンチャーの甘さにも触れざるを得ません。既に審査行政をしている方からも、ベンチャーから出される申請に必要な書類の質が低すぎるという悲鳴が聞こえてきています?ベンチャーは、安全・安心に対してハードルを乗り越える血の出るような努力が必要です。審査に精通した経験豊富な製薬業界出身の方を雇用し、ハードルに真っ向から立ち向かう気概を是非持っていただきたいと思います。Competitionの本来の意味は、同業他社が何をしているかを知ることですが、この場合は審査当局の考え方を理解する意味でも使いたいと思います。良く言われますが、「敵を知り、己を知らば、百戦危うからず」というのは、真実です。

 今回はアメリカにおけるVCの投資基準「Competetion」(競合企業はどこまで進んでいるか?自分のどこが優れているか?)」について書きました。

それでは、良いお年を!

● P.S. 今月の言葉は、「天の時、地の利、人の和」です。これは、阪大の元総長である山村雄一先生の言葉ですが、ベンチャー経営にとっても重要なことを含んでいます。天地人のタイミングを計ることが、経営の極意かもしれません。

追伸:私どもの研究室とアンジェスMG社では産学協同研究を推進する研究者を募集しております。また、アンジェスは東京大学に先端臨床医学開発講座(寄付講座)を開設しております。こちらでは、遺伝子治療・再生医療やがんに対する新規治療法の開発を行います。東京・大阪のどちらでも大学院生や産学連携のポスドクを募集しております。ご興味のある方は、担当者の中神までご連絡ください(nakagami@cgt.med.osaka-u.ac.jp)。なお、私どもの研究室の詳細は、http://www.cgt.med.osaka-u.ac.jp/で見ることができますので、ご覧ください。また、バイオサイトキャピタル社も、キャピタリストを募集しております(http://www.bs-capital.co.jp/)。大阪・東京でも勤務できますので、世の中の役に立つベンチャーを育てたい、あるいは、ベンチャーを経営してみたい方は、是非ご応募ください。担当者に直接(info@bs-capital.co.jp)ご連絡ください。