第3回 「それって、儲かりまんの?」の巻
●皆さん。 前回は、梅雨前にシーズについてメールさせてもらいました。今回は、梅雨もはるか前に終わり、大阪では沖縄より暑い夏を迎えています(なんと、沖縄32度、大阪36度です)。
前回に引き続き、前のメールから派手に時期があいています。いつDND船長の出口さんから催促がくるか、待っていましたら、こんな時期になっていました。前回のメールをごらんになったかたは覚えておられると思いますが、前回も同じ状況から私が放置プレイに負けて書いてしまいましたが、今度こそ勝ってやろうと出来上がった原稿をじっと持って待っていました。ついに、出口さんから催促メールがあり、安心してお送りしたところです。気持ちは、巌流島で佐々木小次郎を待たせた宮本武蔵の心境です(なんてことはなく、原稿を書かなくては思いながら、書けませんでした。出口さん!素直に謝ります。原稿を落として、ごめんなさい!でも、忘れられていないということが確認できて、なんとなく気分はハッピーです)。
今日は、日本よりも暑く、べたつくシンガポールで原稿を書いています。単に夏休みなのですが、最近シンガポールに行くというと、ニヤッと笑う人が多く、困っています。というのも、日経BP社の宮田さんが私が関係しているアンジェスがシンガポールから熱烈なラブコールを受けているというささやかな秘密をメールマガで書いたせいで、いよいよシンガポール進出かと変な期待?をされる人が多くなっているためです。出口さん!純粋な夏休みですので、記者魂を燃やさないでくださいね。
とはいえ、シンガポールに魅力があるのも、事実です。既に明らかになっていますようにシンガポールには欧米から多くのバイオ企業・バイオ研究機関が進出してきています(バイオポリスと呼ばれるアジア最大のバイオクラスターを目指しており、我が大阪のアジア最大のライバルです。阪神にとっては、中日ですが)。特筆すべきは、アメリカの大学、しかも医学部の進出です。ジョンズ・ホスピンス大学医学部に続き、デューク大学医学部の進出も発表されました。そのさまは、かつての日本のバブルのようで今や欧米の大学ではアジア進出がトレンドになっています(これは大げさでなく、進出を決めたデューク大の学長が私のアメリカでのボスなのですが、皆焦っていると言っていました)。
では、なぜシンガポールなのでしょうか?アジアの真ん中?巨大市場中国へのアクセス?英語が通用する?これは、はずれてはいませんが、一面の真実しか伝えていないように思います。実は、アメリカの有名大学の医学部がシンガポールに出る理由は、シンガポール大という受け皿があり、しかも単位の互換性や共通プログラムがあるという利便性とアメリカの信ずるグローバル・スタンダード(勿論こんなダイレクトな言い方がしませんでしたが)がそのまま輸出できるという点が大きいということでした。
日本や中国に出た場合、和魂洋才(中国では、中魂洋才でしょうかね?)でどうしても日本風のシステムに合わせることが条件になってしまいます。勿論、それぞれの国に歴史的な経緯をもった法律があり、必然性もあるのですが、進出してくるほうにしてみれば、わざわざ形を変えなくてはいけないところの魅力が落ちるのは事実です。結果として、シンガポールはアジアの中の一大教育機関になっています。意外に、シンガポールのデューク大の医学部に入学、卒業後アメリカで医者をするというのも、流行になるかもしれません。教育は、国家100年の大計ですから、シンガポールの国家戦略はあなどれません。単に、バイオ産業振興という底の浅い見方をしないほうが良いように思います。
実は、今回はビジネスモデルについて書こうと思っています。国家としてのビジネスモデルという点では、シンガポールはシーズ(国から出る研究)の弱さをカバーできる画期的な戦略を採用したといえるかもしれません。逆に、日本は強力なシーズを有しているにもかかわらず、儲からない老舗企業ということもできます。多くのベンチャー企業も、シーズをいかにビジネスにつなげるかに悩んでいます。どうやったら、儲かるか?どのようにお金を回収するか?研究なり、事業なりを継続するには、資金回収の方法を考え出さなくてはいけません。その意味で、シーズを生かすも殺すもビジネスモデル次第というところがあります。
では、どういうふうにビジネスモデルを作るか?これは、きわめて難しい問題です。ビジネスモデルを見つけたら、ベンチャーは成功するといっても良いと思います。多くの方は、既存の成功企業からビジネスモデルを拝借しようとします。しかし、ビジネスモデルは最初に思いついた方の優位性が存在します。多くの人が、同じモデルを採用すれば、当然そのビジネスモデルの成功確立は下がってきます。その意味で、本に書かれた時点から、ビジネスモデルはビジネスにつながらなくなるのかもしれません。また、全てのベンチャーに共通して当てはまるビジネスモデルもありません。
しかし、先人の素晴らしいモデルを活用するのは重要です。いかに、自らのシーズ・ベンチャーにあった形に変えていくか?これが、重要です。全く、先人のアイデアを無視して、一から独創的なビジネスモデルを考え出せる人も追われるかと思いますが、その方はそれだけで天才です。普通の方は、やはり先行のモデルを利用した改良が良いように思います。まずは、自分の業界でどのようなビジネスモデルが試されたか、そして、問題点は何か?何が、自分たちの持つシーズと異なるのか?周辺の経済状況によっても、当然変わりますし、ビジネスモデルも変化し続けます。これらを常に考えることが、重要だと思います。
また、市場規模によっても変わります。ベンチャーとしてのサイズの時にはあれほど輝いていたユニクロが、一兆円企業を目指した時新しいビジネスモデルを生むのに苦労しているのは、周知のところです(最も一兆円企業を目指すこと自体、感動的ですが)。創薬に関しても、同様です。10億か、100億か、1000億か、その市場サイズによってビジネスモデルは異なります。人間と同じで、全く同じ企業はありません。企業の発展は、その意味で子供を育てるのと同じかもしれません。当たり前ですが、成長にあった服を着させてあげる、これが大事だと思います。
今回はアメリカにおけるVCの投資基準の3番目「Business Model(市場規模、収入を得る戦略は?)」について書きました。
それでは、まだ来月。See you next month!
● P.S. 今月の言葉は、「Just do it!」です。ベンチャーは、考えているだけでは、前に進みません。考え、実行し、成果を出す。とりあえず、実行するのは、ベンチャーらしさであり、大企業と同じように会議、会議では前へ進めません。どこの会社か、忘れましたが、会議は立ったまま行うというのが、ありました。早く会議を終わらせるための工夫だそうです。私の経験でも、首相官邸の会議、各省庁の会議、そして、大学の会議、というように、ハイレベルの会議ほど、早く時間通りに終わるという傾向があるようです。その意味では、最も長いのは、研究室の会議かもしれません。最後は、自らの反省で今回は終わりたいと思います。
追伸:私どもの研究室とアンジェスMG社では産学協同研究を推進する研究者を募集しております。また、アンジェスは東京大学に昨年10月から先端臨床医学開発講座(寄付講座)を開設いたしました。こちらでは、幹細胞を用いた再生医療やがんに対する新規治療法の開発を行います。東京・大阪のどちらでも大学院生や産学連携のポスドクを募集しております。ご興味のある方は、担当者の中神までご連絡ください(nakagami@cgt.med.osaka-u.ac.jp)。なお、私どもの研究室の詳細は、http://www.cgt.med.osaka-u.ac.jp/で見ることができますので、ご覧ください。 また、バイオサイトキャピタル社も、キャピタリストを募集しております(http://www.bs-capital.co.jp/)。大阪・東京でも勤務できますので、世の中の役に立つベンチャーを育てたい、あるいは、ベンチャーを経営してみたい方は、是非ご応募ください。担当者に直接(info@bs-capital.co.jp)ご連絡ください。
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