第2回 「ゼロ戦か、グラマンか?」の巻


●皆さん。

 そろそろ梅雨でうっとうしくなりそうです。反面、花粉症も好調で、前回のメールを書いたときより、大分調子もよくなってきました。

 あれ、結構時期があいているなと思った方!あなたは鋭い方です。実は、原稿を一回落としてしまいました。出口さんから催促があるまで、ほっておいてやろうと悪い心を持ち、じっと様子をみていましたが、いつまで経っても催促がなく、他の方は2回目がホームページにアップされる中、遂に不安になって書いてしまいました。どうも、出口さんの高等戦略にやられてしまったようです(単に、出口さんが私のことを忘れているだけかもしれません。それですと、寝た子を起こしたようなもので、私の大失敗です。)。

 日経BP社の宮田さんに頼まれて書いた時も宮田さんの高等戦術で悩みましたが、出口さんの放置プレイ?のほうが、一枚も二枚も上かもしれません。とはいえ、今回も泣き泣き!続きを書きます(ある方に、このまま知らん振りをしようかと相談しましたら、私は10回近く書きましたよ!と怒られたのも、原因です。出口さん!この方に感謝したほうがいいですよ)。

 今日は、大阪帝国ホテルで開かれている日英ハイテクフォーラムの会場から原稿を書いています。日英ハイテクフォーラムは、国際経済交流財団が企画して日英の共同事業・意見交換を進める目的で毎年開かれているものです。今回の議題の主題の一つは、いかに研究開発を産官学連携で進めるかという古くて新しい議題です。英国では、オックスフォードやケンブリッジ大学を中心にして多くの大学発ベンチャーが誕生し、成功事例も多く輩出する一方、最近の“冬の時代”で苦しんでいるベンチャーも増えてきています。ある意味、日英とも時代状況は多少異なるものの多くの課題を抱えている点は共通です。実際、議論に出る問題は、ヒト・モノ・カネで同じです。

 当然、最大の焦点はいかに大学発ベンチャーを成功させ、地域にクラスターを作るかというベストモデルの構築です。前回も書いたように、成功の方程式という立派なものは、存在しません。

 ベンチャーにとっては、一番初めの課題は社会のために何を果たすか?世の中におけるどのような問題点を改善するのか?、です。大学発ベンチャーとしての使命は、当然わかっている。我々のところはしっかりしているよ!とお怒りで、次の課題は何だ?という方に、今日は技術について私の考えを述べてみたいと思います。

 前回書いたように、ミッションのために会社(あるいは大学)の持つ技術を利用して達成するわけです。しかし、あくまでも技術はツールに過ぎません。ただ、ツールとはいえ、何でもいいとは当然思いませんよね?前回書いたアメリカにおけるVCの投資基準では、2番目に「Approach/Solution(どのような技術でどのように解決するのか?)」と書いています。シンプルな書き方ですが、シンプルさに意味があると思っています。

 私自身の反省もこめてですが、技術という点ではどうしても、大学の研究者は燃えてしまいます。自分の技術が最高で、他の人の技術はオリジナリティがない、あるいは、レベルが低い、などなど、2時間でも3時間でも話ができてしまいます。しかし、我々はユーザーのことを考えてきたでしょうか?

 その手法を用いた製品は、果たして使いやすかったでしょうか?あるいは、いつでも再現性がよかったでしょうか?一度でも、他の人が自分の手法を使って失敗したとき、彼の腕が悪いせいだと思わなかったでしょうか?常に、ユーザーの身になって考えたでしょうか?私は、一度もそんなことはなかったよ!とおっしゃる方は、私の役に立たない話をここで読むのは、やめて、すぐベンチャーを作ってください。あなたは、必ず成功すると思います。

 ただ、ほとんどの人はそうでないと信じています(そうでないと、私だけの反省では寂しすぎます)。かつて、第二次世界大戦で、ゼロ戦はグラマン以上の性能を誇りました。しかし、操縦性が悪く、修理がしにくいという欠点がありました。初期には、十分な数の熟練操縦士・修理士がおり、これらの問題は表に出ませんでした。しかし、あまりに高性能のため、戦争中期以降熟練操縦士がいなくなってからは、これらの欠点が前面に出て、二度と優位性は発揮できませんでした。一方、グラマンは、頑丈である上、操作が簡単で、大学卒業後の新人が十分戦えたといいます。自分たちの商品がどちらになっているのか、そのことを十分考える必要があるでしょう(もっとも、マニア専門だと!といわれる方、ゼロ戦で結構です!)。

 私は、アメリカに留学した時のボスに煩いほどそのことをいわれました。私たちが、開発したベクター(遺伝子導入法)は大変優れていましたが(私だけの意見かもしれませんが?)、やり方が複雑で雑な研究者ではよくやり方を間違えて同じ結果がでませんでした(アメリカの研究者が雑だとは言っていませんので、念のため)。

 私はボスに彼らの腕のせいで、我々の技術のためではないと主張した時、彼は理由はどうであれ、彼らが再現しない限り、アメリカでは真実とは受け入れないと述べました。サイエンスとは、再現できて初めてサイエンスになるのだということを何回もいいました。正直、わたしにとっては、目から鱗で日米の考え方の差に驚きました。

 ベンチャーが成功するための技術は、まさにアメリカ型の思考でないとうまくいかないと思います。皆さんの技術は、優れていると思います。しかし、優れていることは成功につながるとは限りません。多くは、競争力がありません。成功しようと思えば、ユーザーが好む技術にせざるをえません。使われない技術は、意味がありません。研究成果を生かすためのベンチャーであれば、生かせるように考えるべきだと思います。もう一度、自らの手の中の技術を見直すことも大事だと思います。


● 今日のキーワードは、「Approach/Solution(どのような技術でどのように解決するのか?)」です。
 それでは、まだ来月。See you next month!

● P.S. 今月の言葉は、「noblesse oblige」です。前回のメールで、志の低いベンチャーは困るというお話を書きました。やはり、ベンチャーという未熟な存在を助けてもらうためには、志が必要です。noblesse obligeは有名な言葉すぎて恥ずかしいですが、改めてベンチャーの意味を問うために書きました。特に、創薬系ベンチャーをされている人は、自分に問い直して、事業を常に行う必要があると思います。


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