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第32回 2つの米国特許法改革案 いよいよ両院の本会議へ上程



  米国特許法改革案は2007年4月18日に上院S. 1145及び下院H.R.1908共に全く同じ内容で提案されていたが、特許関係全業界(含裁判所)の賛否の意見を反映して主に下記の点で上院案、下院案は若干異なって修正され、それぞれ両院の知財委員会を通過し、いよいよ上院と下院の本会議にそれぞれ上程されることになった。
  以下に主な修正点を紹介する。

1. 102条: 先願主義
 両案共に先願主義というより先発表主義に修正された。即ち、先後願出願につては最先の出願日(含優先権主張)によって決定され、自身の発表については1年のクレーム期間があり、ここまでは純粋な先願主義である。しかし、発明者が一旦発表してから出願すると、たとえ発表後に他の先願があったとしても先に発表した後願者に特許が与えられるという規定になっている。
  この先発表主義の特許制度では発明者は先を争って発表するようになり、米国の最新特許技術が直ちに入手可能になるので日欧にとって決して悪いとはいえない。

2. 284条: 損害賠償、故意侵害
 両院案共に表現がかなり異なって修正されたが、いずれも現行284条のリーゾナブルなローヤルティの規定はそのまま(a)項として維持し、その計算方法を(b)項として追加し、エンタイア・マーケット価値(特許が製品の一部でも、全体の製品価格でローヤルティを計算する方式)を自動的でないと規定している点では同じである。
  この284条の修正は今改革案の最大の問題点となっているので、今後更に修正されることが考えられる。

3. 新設: 特許登録後レヴュー手続き
 上院案では、申請期間は特許登録後の12ヶ月間の「第1期間」のみでなく、その後の訴訟時等の「第2期間」もでき、その代わりにレヴュー対象特許を当事者系再審査が導入された以降に出願された特許のみに限定しているが、下院案では「第2期間」が削除され、対象特許については制限はない。

4. 124条: マイクロ出願人
  特許出願の数がこれまで5件未満で年間所得が所定以下の出願人をマイクロ出願人として扱い、その扱いについて特例を認める。

5. 裁判所法1400条: 裁判地(Venue)
 裁判地については、上院案には、原告が教育組織やマイクロ出願人の場合には原告の居住地にするというような規定が追加された。

6. 連邦民事訴訟法1292条: クレーム解釈の中間控訴
 両院案共に地裁のクレーム解釈を直ちにCAFC控訴できるか否かについては地裁に裁量権があると修正され、控訴の乱用を防止している。

7. 282条: 不公正行為
 下院案には282条の「特許有効の推定」の規定に、不公正行為は特許を無効にする先行技術を開示しなかった場合という定義を追加する。

8. 両改革案の発行日
  上院案: 議会が承認、大統領がサインした12ヶ月後。
  下院案: 大統領がサインして、更に日欧特許庁が1年間のグレース期間を認めた後。

 これらの特許法改革案は、現行の特許制度はあらゆる面でコストがかかり過ぎるという情報産業(マイクロソフト社等)が中心になって推し進められているが、現行制度を好むバイオ産業が損害賠償等の規定について強い反対のロビー活動を行っている。
  しかし、特許改革を進める議員達は並々ならぬ決意を持って進めており何らかの形で成立する可能性があると考えられる。
  異なる両院の案が成立した場合はいずれの案に統一するか等のすり合わせが行われて最終的に統一した法律になっていく。