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第29回 タイガー、フェデラーと歓談する
〜スーパースターがスーパースターに会うと何を話し、何を食べるか〜



 過日のワシントンポストの記事によるとタイガーウッズが練習ラウンドを行っている時にテニスの王者、ロジャー・フェデラーが観客の一人として訪れ、その後に起こったハプニングをレポートしている。

 タイガーは大勢のファンの観客の中にフェデラーがいて、タイガーを見るのさえ大変そうな様子を見て、来い来い、と彼をロープ内のフェアウェイの中に招き入れ、その後ずっとフェデラーと歩きながら練習ラウンドを終えた。

 こうして観客をフェアウェイ内に入れることは、たとえ練習ラウンドといえどもPGAルールに違反することで、タイガーはそれを承知で、罰金を払う覚悟でスーパースター同士の散歩(?)を楽しんだそうだ。

 彼らの会話やその様子は実に面白いが、こういう出来事は日本新聞では、全くその後報道されていないようなので、ここにワシントンポストの記事の一部とその和訳(意訳)を転載する。

 英文で面白い、役に立つと思われる箇所には下線を引いてある。

Federer Goes Along For Walk With Woods
フェデラー、タイガーと一緒に歩く

 Tiger Woods sounded more like a star-struck sports fan than the most dominant player at his own game. It's not every day that the world's No. 1 tennis player walks in Woods's gallery.
 タイガーウッズは自分のゲームの王者というより、スターに魅了された一人のスポーツファンように話していた。世界のナンバーワン・テニスプレーヤーがタイガーのギャラリーの中で歩くことは滅多にあるものではない

 Woods was so delighted to see his friend Roger Federer, he pulled the Swiss star out of the crowd and invited him inside the ropes and onto the fairway to watch him play most of his back nine practice round.
 タイガーは友人のフェデアーを観客の中に見い出すと大変喜び、このスイス人をロープ内のフェアウェイ内に引っ張り込んでバックナインのほとんどの練習ラウンドのプレーを彼に見せた。

 Federer is in the area playing in the Sony Ericsson Open and Woods likely will return the favor and watch Federer play.
 フェデラーは(このゴルフ大会の)近くで行われるソニー・エリクソン・オープン・テニス大会で試合をするので、タイガーはお返しにフェデラーのプレーを見に行くだろう。

 "They don't want to have people inside the ropes. . . . I'm sure I'll get fined for it," Woods said, smiling. "I don't mind paying, because he was starting to get hassled pretty good and I didn't think that's why he came out here. He came out here to enjoy himself and watch me slap it around a little bit."
 タイガーは笑いながら、「PGAオフィシャルは観客がロープ内に入ることを好まない。まず罰金を払わさられるだろうな。でも僕はかまわないよ。彼は大勢のファンの中で大変だったようだったし、そんな苦労をするためにここに来たのではないはずだ。彼は楽しみに来たんだし、僕がガンガン打つのをちょっと見に来たんだろう。」

 Federer had dinner on Woods's yacht Tuesday evening.
 フェブラーはタイガーのヨットで火曜日の夜に一緒に食事をしていた (著者:タイガーのヨットとはどんな豪華なヨットだろう・・・恐らくゴルフスイングできる室もあるに違いない・・・二人はどんな食事をしていたのだろう・・・高級ワインかシャンパンでも飲んだのかな? でも現役プレーヤーだから酒は飲まないかも…、フェデラーは彼女を連れて行ったのだろうか…、とか色々ワクワク想像してしまう)。

 "It's great to have [Federer] out here," Woods said. "I think he's a wonderful supporter of golf, and I think it's pretty neat when you have probably the most dominant athlete on the planet out there in your gallery."
 「フェデラーがここに来てくれた事はすごい。彼はゴルフの素晴らしいサポーターだし、それにこの地球上で圧倒的に強いスポーツマンが自分のギャラリーにいるなんてちょっといいじゃないか

 More dominant than Woods?
 タイガーよりもっと圧倒的に強いって?

 "What he's done over the last three years -- last week he lost to Guillermo Canas, snapping a 41-match winning streak, but other than that, he's only lost five or six matches for three years," Woods said. "That's pretty good."
 「彼がこの3年間にしたことはすごい。先週はギレルモ・カナスに負けて41連勝で記録は切れたが、それ以外では彼は3年間で5、6試合しか負けていない。そいつはすごいじゃないか。」

 Woods hasn't been that bad himself, and certainly has been the most dominant player in his own sport far longer than Federer. Woods, who turned professional in 1996, has been the No. 1 player in golf for a total of 434 weeks, including one streak of 264 consecutive weeks. Federer has been the No. 1 player in tennis for 162 straight weeks.
 タイガー自身の記録もそれくらいすごいが(badは悪いという意味ではなく、凄いという意味で使っている)、ゴルフではフェデラーよりずっと長い間、圧倒的なプレーヤーでいる。彼は1996年にプロになったが、合計434週間ナンバー・ワンになっており、その中には264連続週を含んでいる。フェデラーはテニスで162週連続ナンバー・ワンだ。

 Over the last three years, Federer has won 94 percent of his matches, including eight of 12 Grand Slam events, a run that is unmatched in modern tennis history. The only minor blemish on his resume has been his inability to win on the clay of Roland Garros in the French Open. Woods, on the other hand, has won each of golf's four majors at least once, and 12 majors overall to Federer's 10 Grand Slam titles.
 この3年間、フェデラーは94%の試合に勝ち、グランドスラムは12の内8つで勝っており、近代テニスには比類のない勢いだ。彼の経歴での唯一のマイナーな欠点はフレンチオープンのクレーコートのローランギャロで勝っていない事だけだ。タイガーは各4大メジャーを少なくとも1回ずつ勝っており、合計12で、それに対してフェデラーのメジャータイトルは10である。

 Woods, who has played a little tennis himself, was asked if it was more difficult to win a professional golf tournament than a tennis tournament.
 タイガーもちょっとはテニスをするが、ゴルフトーナメントに勝つことはテニストーナメントに勝つより難しいか、という質問に対してこう答えた。

 "If you're physically dominant in tennis, you can dominate somebody," he said. "In our sport, you can't physically dictate what somebody else is going to do. You can't all of a sudden hit a drive out there past him and say, 'Okay, I win the hole.' That doesn't happen. So a person who is more physically gifted and physically dominant can actually just overpower somebody, and that just does not happen in golf. So it's a little more difficult in the sense, golf-wise. But what he's done over the last three years, no one's ever done."
 「テニスでは、もし肉体的に勝っていれば、相手を圧倒することができよう。でも我々のゴルフでは誰かが何かをすることを力に任せる事は出来ないんだ。突然、誰かをオーバードライブして、よし、このホールは勝ったぞ、とはいえない。そういうことはとにかく起こらないんだ。だから、誰かが肉体的に恵まれていて、オーバーパワーできたとしても、ゴルフで圧倒することが出来ないんだ。だからゴルフでそういうことはちょっと難しい。でもフェデラーが過去3年間やったことは、誰もやったことがないことだ。」

 Federer told reporters afterward he was thrilled to be allowed inside the ropes to see his friend play.
 フェデラーはその後記者達に、ロープの内に入ってタイガーのプレーを見させてもらってゾクゾクした、といっていた。

 "I had never really seen live golf from professionals up until the last year," he said. "It's different from sitting in a stadium watching soccer or a tennis match. You've got to know where to stand to see the ball. For me, it was hard to follow the ball. I lost it just because he hits it so hard and so far. . . . With us, they scream after every point. With him, it's not every shot."
 「僕は去年までプロの生きたゴルフを見たことは本当になかった。それはスタジオでサッカーやテニスの試合を見ているのと全然違う。ゴルフボールを見るためにはどこに立たなければならないかを知らなければだめだ。僕にとって、ゴルフボールを目で追うのは大変なんだ。タイガーはあまりに強く、あまりに速く飛ばすので見失ってしまう…、僕らはショットを打つ度に叫び声を上げるが、タイガーはめったに上げない。」

 He also indicated he can easily empathize with Woods's life outside the ropes.
 フェデラーはタイガーのゴルフ場外での生活に同情できるといった。

 "He's got media after the rounds, media after the practice rounds, fans following him during matches, practice rounds. It's the same thing for me," Federer said. "Autographs, photographs, everybody always wants something from you. You need tight security. It's almost easier when he's on the golf course."
 「メディアはタイガーのラウンドの後に追っかける。練習ラウンドの後にも追っかける。試合中でも練習中でもファンが追っかける。僕にも同じ事だけどね。」「サイン、写真、皆が皆、いつも僕から何かを求める。しっかりしたセキュリティーが必要だ。彼はゴルフコースにいた方がずっと楽だろう。」

 Asked who had it worse from fans and paparazzi, Woods said:
 2人の中でどちらが、ファンやパパラッチからの被害をより受けるか、という質問に対してタイガーは、

 "I might have a slight . . . I don't know if you'd call it an advantage or disadvantage.
 「僕の方がちょっと…、まあ、それが有利といえるか不利といえるかわからないな(著者:タイガーは自分の方がもっと大変だ、といおうとして最後は口をつぐんだ。そうはっきりいうとメディアは彼が慢心している、と書く可能性があることを知っているからだろう)。

 I think it's just more of walking down the street.
 In this country, certainly. Globally, I don't know, but I know certainly in this country, I'm probably a little bit more recognized than he is."
 これは通りを歩いているとはもっと悪い。特にこのアメリカではね。世界ではどうなるかなあ。でもアメリカでは僕の方が彼よりは知られているね。」(著者:アメリカではフェデラーはあまり人気がない。まず、アメリカ人ではないということやコナーズやマッケンローのように悪童ではないからだ。アメリカではやんちゃで饒舌なチャンピオンが好まれる。)
 タイガーとフェデラーのどちらが歴史的によりすごいプレーヤーになるかはもう少し時間が必要だろう。

 テニス界で史上最も強かったプレーヤーはオーストラリアのロッドレーバーだといわれる。4大大会の優勝の数ではサンプラスが16でナンバー・ワンだが、レーバーには不運な経歴がある。

 レーバーが1961、62年にウィンブルドンで連勝した時、ウィンブルドンはその後プロを締め出してしまった。そして6年後、ウィンブルドンがプロに開放し始めた時、レーバーは直ちに1968、69年に再び連勝した。つまり、もしプロにずっと開放していたらレーバーはウィンブルドンで1961年から1969年まで9連勝していたといわれる。サンプラスはウィンブルドンで4連勝を含んで7回勝っており、いちおうこれは最多記録だがレーバーはプロ締め出し事件がなかったらもっと勝っていた可能性がある。

 筆者が40年位前のまだ若きテニスプレーヤーであった時に(この頃は日本にはまだプロテニスプレーヤーはおらず、デ杯選手と練習していたことがある位のものだった)、レーバー、ローズウォール、ホード等のプロテニスプレーヤーが日本に初めて来て、彼らのあまりにすごいプレーを見た時の感激は未だに忘れられない。

 いずれにせよフェデラーがサンプラスの4大大会最多勝利14の記録を破る可能性は十分ある(現在フェデラー10)。勿論、タイガーもニクラウスの4大大会最多勝利18を破る可能性は十分あり(現在タイガー12)、特にゴルフ年齢はテニスより長いので可能性はもっと高いといって良い。

 異なるスポーツで史上最高のプレーヤーが2人同時に出るということは奇跡に近いが、その2人のスーパースターが一緒にゴルフコースやテニスコートを歩き、ヨットで話をしたり、食事をしているというのは何と素晴らしいことか。

 でも彼らは本当は、タイガーが好きなハンバーガーや寿司位しか食べていないのかもしれない。あるいは、タイガーのもうすぐ生まれてくる子供の名前について激論していたのかもしれない。その話題は金や地位ではなく、意外に他愛のないことかもしれない。

 彼らは金や名誉に溺れずに普通の生活を維持する精神力の強さと常識を有する点に共通点があり、これがホリエモンや我々(比べる必要なし?)と違うところだ。