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第18回 PGA、今年のベストショット、ワーストショット
2005年も暮れに近づきゴルフもほぼ完全に終わりである。今年も色々ドラマがあったがやはりタイガーウッズが主役だった。ところでこの1年を通じて何がベストショットで何がワーストショットを考えるのも面白いのではないだろうか。その前にベストショットの定義をしなければならない。
1.まずメジャー大会でのショットであったこと。 プロから見た本当のベストショットは我々アマチュアはまず分からないだろう。本当の奇跡的ショットはとんでもない時にとんでもないプレーヤーによって打たれている可能性があるからだ。そこでまず、メジャー大会で打たれたショットであるという限定をつける。その方が印象が強く、ドラマ性があるからだ。普通の大会だと、たとえ技術的には超ミラクルショットでもどうしても価値が下がってしまう。解説者もメジャーのプレッシャーがないから気楽に打ったのではないか、と簡単に片つけてしまうかもしれない。
2.テレビの生中継であること 次にそのショットはテレビの生中継中のショットでないと迫力に欠ける。ビデオテープでもすごいショットはすごいだろうが、やはり生の臨場感が必要である。しかしテレビは全ホール中継するわけではないからここでも制約が出る。又生中継でも真昼間のショットでなく、夕方近くの方が緊迫感がある。
3.最終日であること 同時に日曜日の最終日の終盤でなければならない。そしてその大会の優勝を決めたショットかあるいはそれに近いショットである必要がある。つまり最終ホールかプレーオフが最も良い。しかし、ミラクルショットは必ずしも最後に出るわけではない。最後のショットはドラマ性はあるが技術的に高度とは限らない。だから最終ホールに「近い」ホールのショットでも許すべきとしよう(誰の許可が必要あるんだ?)。
4.大物プレーヤーがからんでいること やはりドラマにはスター性が必要である。大物プレーヤーのショットか、少なくとも大物プレーヤーが絡んでいなければならない。そしてその表情、アクションに躍動感があった方がよい。恐らくプロ連中にすると我々の知らない場面で見知らぬプレーヤーがたまたま超スーパーショットをしているのはあるのだろう。大物プレーヤーが絡んでいないとやはりつまらない。
5.テレビ中継が良いこと。 そして最後にこの場面のカメラワークや解説者のコメントが良いとさらに盛り上げることになる。それらのタイミングも重要である。要するに私が考えるスーパーショットとはミーハー的要素がなければならないのだ。
さて、以上の限定で評価すると誰のどのショットが今年のスーパーショットだったか。 私はやはりタイガーウッズのマスターズ・トーナメントの16番のアプローチショットだと思う。あのショットには記憶のある方も多いだろう。
タイガーは16番まで一打差のリードできた。16番はパー3の池越えのショートホールである。2位のレティース・グーセンはピタリとタイガーに付けていた。最初に打ったのはどちらかだか忘れたがグーセンはピンまで5メートルのバーディーチャンス十分の位置に乗せた。 タイガーはアドレナリンのせいかグリーンを4、5メートルオーバーしたラフにつかまっていた。返しのショットはグリーンに落ちてからほとんど右に4、5メートルは直角に曲がって転がると思われるラインだった。つまり、almost impossibleに近いアプローチが要求された。
解説者はタイガーの例の強振して高く上げるロブショットを打つか、低く転がしてスピンをかけるか、あるいは我々が考えてもいないようなショットで攻めるのだろうかと、自問自答さえしていた。 カメラはタイガーと10数メートルに離れたピンを画面に入れていたが、夕暮れでしかも逆光になっていて画面は薄暗く見にくかった。黒いタイガーの後ろ姿が画面の右端に写っていたが、突然画面の下の黒い部分に白いボールが低く飛び出してきた。フワッと上がるショットではなく、低く突っ込む攻撃的ショットだった。 どこまで弾んでいくかとはらはらして見ていると、ボールはグリーンを2、3度打ってから、ツッツとバックスピンがかかり、一旦ほとんど停止した。ピン横の高い斜面でピンまで4、5メートルも離れていた。このまま止まると難しい下りのダウンヒルでパーでさえも危ない。
「ボギーになる!」 と思っていた時にボールはピン方向へゆっくり動きだした! カメラはボールを後からアップして追っかけ始めた。ボールの心もとない動きをテレビカメラがしっかり捕らえている。そしてボールはひょいと左へ曲がり始めてなんとピンに向かい始めた。 その後はもう歴史だ。 ボールはホールの縁でほとんど止まったように見えた後にゆっくりゆっくり、いやいや落ち込むようにホールに吸い込まれて見えなくなった。なんとボギーと思われたショットがバーディーになったのだ! ところがタイガーは17、18番と連続ボギーしてプレーオフに入ってしまったのだ。その後に勝つには勝ったがこの連続ボギーはあのスーパー・ミラクルショットの価値を半減したとも言える。
しかし、それでもやはりあのアプローチはやはり今年一番のドラマチックなショットではなかったのではないだろうか。打ったプレーヤーがタイガーであり、相手がグーセン(シングかミケルソンとならもっと良かったろうが)、マスターズトーナメントの最終日の16番ホールで、しかもショットが攻撃的ショットであったというのが何よりも良い。これが、ロブショットの安全ショットがたまたま入ったのではやはり盛り上がりが違う。
ただ、残念だったのはその間のグーセンの表情の変化がカメラが全く捕らえていなかったことである。勝負のドラマは2人の勇者がどのように戦うか問ういう点は大事だが、それ以上にどのような精神的変化を見せているかという点にも興味がある。勝敗の差は一瞬の内に変化して決まる。勝者と思われていたプレーヤーが相手のミラクルショットによって瞬転、敗者になるのだ。その時の人間模様の変化が面白い。タイガーのあのショットもグーセンの表情の変化をカメラが捉えていたらもっと面白いものになったろう。
さて、では今年のワーストショットは誰のどのショットであっただろうか。私にとって見るとそれはジョン・デーリーのプレーオフでの1メートルパットのミスであったと思う。あれは、メジャー大会ではなかったが、その位とんでもないパットだった。
デーリーはタイガーとプレーオフを行っていた。デーリーの波乱万丈のゴルフ人生と私生活は誰もが知っているのではないか。10数年前に彗星のようにあらわれて300ヤード以上のドライバーでメジャーでぶっちぎりの初出場初優勝をしてしまった。しかもあるプレーヤーが出場できなくなったので急遽代理出場したトーナメントである。 その後やはりメジャーの全英にも優勝したが、アル中で何回も問題を起こし、離婚も数回しこの数年間は無勝である。それでもようやくアル中を脱し、ここのところまあまあの成績を残している。そのデーリーが久々にプレーオフという優勝の機会を迎えた。しかも相手はタイガーだから否が応にも盛り上がっていた。
とにかくドライバーは両者供に300ヤード以上飛ばし合って、まるで大鵬と柏戸の横綱相撲であったし(ちょっと古いが、最近の相撲取りには大型のヒーローがいないので)。人気、実力はタイガーの方が圧倒的に有利であるが、デーリーにアンダードッグという同情票がある。あれだけ苦労してきたデーリーに何とか花を咲かせてやりたい。そういう雰囲気は非常にあったろう。
最初のホールは両者パーで次のホールへ行く。 ドライバー、アプローチ供に両者全く互角である。 パットはタイガーが先にホールアウトし、デーリーは1メートル以内のパーパットが残った。ややスライスラインだが簡単なラインである。デーリーがパットの姿勢に入った時は当然決めるだろうと既に多くのギャラリーが次のホールへと歩いていた。 デーリーが神経質そうにラインを読むと簡単にポンとボールを打った。スライスラインなのでホールの左側を狙ったのだろうがボールはホールを大きく左へ外れて走っていった。そしてややスライスしたもののボールは無常にもカップの横をすり抜けてしまった。 「オー!!」 と解説者が悪夢を見たように叫んだ。 「オーマイゴッド!」 と続ける。そして、 「こんな終わり方があってはならない…」 とつぶやいた。 続いてタイガーの表情の変化をビデオで示す。 タイガーは顎に手をやって恐ろしいほど真剣な目付きでデーリーのパットに見入っている。そして、デーリーのパットが外れた時に見てはならないものを見てしまったようにがっくりと頭を垂れた。これは敗者の仕草である。 後のインタビューでタイガーは、 「こういう終わり方で勝ってもちっともうれしくはない。デーリーは素晴らしいプレーをしていた。きっと次には勝てるだろう」とニコリともせずまるで勝者か敗者かわからないコメントを残した。
しかし、デーリーは負けるべくして負けたともいえる。 プレーオフに入る前の数ホール前からのプレーでも落ち着きがなく、スタンスに入っても直ぐにぽんぽんと打っていた。方向性や強さ弱さをほとんど考えていないように見えた。恐らくプレッシャーに耐えられなかったのだろう。 それにしても、あれほど惨めなパットはなかったろう。翌日の新聞はあまりに無残な負け方だという記事はあったが、デーリーのコメントはほとんど記載していなかった気がする。しゃべりたくなかったのだろう。
まあ、とにかく以上が私の考えるベストショットとワーストショットである。ここで興味深いことはいずれもタイガーが絡んでいることである。それほど、今年のタイガーのレベルは高かったのだ。 ところがそのタイガーでさえも今年は2度も予選落ちしている。100数戦予選落ちなしの新記録の直後である。これはそれだけPGAの全体のレベルが上がっているのだろう。
さて、それでは私自身の今年のベストショット、ワーストショットは何だったのだろうか。幸か不幸かあまりにワーストショットが多く、ベストショットどころかベターショットさえ記憶がない。 来年こそ華やかな舞台でいいショットをしたいものだと思う。
(続く)
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