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第10回 独占の問題点




●サッカーと野球では国際性に差

 2月初旬に日本に出張していた時に驚いたのは日朝サッカー戦の盛り上がりである。
 しかし、その前に驚いたのは、北朝鮮が日本人を拉致し、しかもいい加減な人骨が戻されたにも係わらず、政治とスポーツは別と割り切って試合を決行するあたり、日本が本当に人の良い国になったということである。これが戦前であったら間違いなく戦争状態になっており、サッカーどころではなかったはずである。
 まあ、平和なニッポンに越したことはないが、それにしてもゲームは異様な盛り上がりであった。日本のプロ野球が大リーグのマイナーリーグになりつつあり、人気も寂びれつつあるのに対し、サッカーは何故このような人気があるのだろうか。
 それは恐らくサッカーが国対抗のゲームをしていることであろう。これは世界のサッカーがFIFAという組織で運営され、各国内のチーム対抗は当然あるものの、最高の戦いは各国対抗であるワールドカップであり、これが目標になるために予選でさえもが加熱するのであろう。
 勿論、今回の北朝鮮はそれに加えて拉致問題という政治問題があったため、いやがおうでも更に盛り上がり、試合も北朝鮮の意外な(?)善戦にあったため実に白熱化した。北朝鮮の選手は全て軍人であり、敗れれば母国でどういう扱いになるか日本人にはわからない恐怖もあるので死に物狂いで戦い、特に相手が日本となればなおさらなのだ。
 しかし、ともあれ日本のプレーヤーと観客が示したスポーツマンシップは世界に類がない素晴らしいものであり、その清々しさは他国にはまずみられないであろう。
 一方、野球は何故盛り上がらないのか。それは大リーグというアメリカのみの組織が頂点だからだ。大リーグは世界の選手を独占し、オリンピックでも2流選手のみを派遣し、野球の世界への普及を妨げている。勿論、大リーグも野球をサッカーのように世界に普及させたい意図はあるが、それはあくまで大リーグを頂点としていなければならない。これでは、全ての視点が大リーグに向かうので世界対抗は二次的なものであり、日本のプロ野球が二流化するのは当然である。ここに市場独占、アメリカ市場の至高化への恐ろしさがある。

●特許独占によって開発意欲が減退

 これは特許独占でも同じである。アメリカは1920年代の大恐慌をそれまでの大企業による独占から生じたと考え、1980年頃まで特許嫌悪時代が続いた。その間、特許は訴訟になるとほとんど無効にされていた。アメリカ経済がおかしくなった1970年代に特許でアメリカ技術を保護しようという考え方が台頭し、全米を統一した控訴裁判所(CAFC)が設立され、プロ特許がそれ以来今日まで続いてきている。
 しかし、プロ特許の一方においては、ペーパー特許のみで莫大なライセンス料を得る傾向が起こり出し、果たしてこれでアメリカ経済が、技術が本当に守られ、発展するのかという時代になりつつある。
 特許独占になればどうしても新技術の開発意欲は衰え、企業自身も独占に頼り過ぎおかしくなる。その典型例はインスタントカメラのポラロイド社だろう。同社は約15年前に対コダック訴訟で全面的に勝訴し、コダックをインスタントカメラ業界から追放してしまった。そしてそれから10数年間は特許独占によって栄えたが、最近はデジタルカメラの台頭にも係わらずその開発を怠ったためほとんど破産状態になっている。
 結局これも特許独占に甘んじ、それをうまく活用しなかったためである。日本も一太郎の差し止めに見られるように、特許独占がいよいよ認められるようになってきた。しかし、独占と共に技術開発、市場開拓を有効に行っていかないと、アメリカの一部の企業のように独占による衰退が始まることも懸念される。
 特許という両刃の刃はどのように使うかによって企業の死活問題になることを十分に念頭に置く必要がある。