第7回「産学官連携推進会議」の今後の方向性は?
今回は、皆様の予想通り、6月19日と20日に京都で開催された「産学官連携推進会議」を題材にお話します。 「産学官連携関係者」をターゲットとした日本では最大級のイベントと称することができるこの会議は、すでに回を重ね「第3回」となりました。参加者、後援機関の数は増加の一途をたどり、アニュアル・ミーティングという認識も高まってきました。 この会議の当初の目的であった「産学官連携の啓蒙」はひとまず達成されたように思えますが、ではその先、日本の社会において産学官連携の成熟度をさらに高めるにはどのような展開が必要であり、またその中で産学官連携推進会議がどのような役割を担っていくのか、ということを考える時期にさしかかったのではないでしょうか。このような視点から、今回の会議を振りかえってみることにします。
●「会議」から発するアクターのプロフェッショナル化
ある種の社会的現象を恒常的な状態にもっていくプロセスの中で、「啓蒙」の次にくるのがコミュニティー形成です。問題意識及び目的の共有、アクション・プランの作成、実践、といった様々な行為に直接的あるいは間接的に参画することによりこの社会現象のアクターとなるわけですが、アクターの存在を社会が認識することにより初めてコミュニティーが同定されるわけです。
この抽象的な説明を「産学連携」に当てはめると次の様になります。 政府主導で産学連携の枠組み整備が行われたことは、すでにこのシリーズの第1回でお話しましたが、その流れの中で、アクターであることを自ら社会的に表明する機会を提供するのが、産学官連携の実務者の集まりである「産学官連携推進会議」なのです。 また、「質」の面においても、分科会として「科学技術関係人材の育成・活用」が登場したことに象徴されるように、アクターのプロフェッショナル化が現場で起こっています。リエゾン・オフィサー、ライセンシング・オフィサー、コーディネーター等の新たな職業が確立されるとともに、弁理士、弁護士、特許審査官・審判官、裁判所裁判官・調査官といった既存の職種においてもコンピテンシーの再考が要求されています。
第2回の参加者は4000名、今回もまた記録を更新しました。産学連携の支援機関、日本弁理士会からの参加も増加しました。参加者名簿を一見すると、金融関係者(特にベンチャー・キャピタリスト)、中小企業(特にベンチャー企業)、インターナショナル・ソサエティーの影が薄いことに気が付きますが、コミュニティー形成は着実に進んでいると言えましょう。
●質の高い情報をフェーストゥフェースで交わすメリット
次に、これだけの人が一堂に会する動機が、上記の帰属意識の表明以外のどこにあるのか考えてみましょう。フォーマルなものとインフォーマルなものに分けて考察することにします。
まず前者についてですが、プログラム(注1)からも読み取れるように、産学官連携推進会議に参加することにより、講演、パネル・ディスカッション、展示を介して産学官連携に関する情報収集(政府の見解、海外の状況、ホット・イッシュー、プラクティス等)を集中的に行うことが可能になります。また、昨年度から登場した「産学官連携功労者表彰」は、「産学官連携のベスト・プラクティスとは?」という参加者の疑問に対して示唆を与えるものであります。「いかに優秀な事例をスクリーニングしていくか?」という点が、主催者にとって大きなチャレンジになることは間違いありません。 ここから発信する情報の質をいかに高めていくか、ということも今後の大きな課題ですが、現状の把握を目的とする参加者にとって、この会議は「産学官 連携のオーバービュー」には打ってつけの場であることは確かです。
後者に関してですが、産学官連携推進会議はまさにプラットフォームとしての役割を担っていると言えましょう。ICT社会(注2)への過渡期にあるからこそ、フェース・トゥ・フェースのディスカッションの重要性が増すわけで、文面・画像のみからでは伝わらない、生身の情報の収集・交換を可能にするのが、この会議のメリットだと思います。 また、セレンディピティを演出するという会議の派生効果も重要な点だと思います。現に、あそこに行けば、イノベーティブなアイデアを持った人、新たな枠組みを立ち上げようとしている人に出会う確立が高い、という認識を少なからずともお持ちの方が集まって来ているのではないでしょうか(ちなみに、私もその一人ですが)。もちろん、帰属する組織から職務としてあるいは社会的立場上参加せざるを得ない方も数多くいらっしゃると思いますが、このカテゴリーの方々もセレンディピティあるいはネットワーク効果が機能するためには重要な要素であることを認識すべきだと思います。 さらに一歩踏み込んで言えば、彼らが「参加して得るものがあった」と感じるようなコンテンツを提供していく努力を惜しまないことが主催者側に求められます。
●枠組みを越えてもっとアカデミックな連携を
最後に「産学官連携の成熟度を高めるために産学官連携推進会議がどのような形で貢献することができるか?」という点を掘り下げてみましょう。 「科学技術創造立国」の実現というマクロ的な目標を、現場レベルのアクションにブレーク・ダウンして施策を講じていくことも可能ですが、「産学官連携」とは、本質的にはミクロ・レベルの現象であり、個々のアクターが、自らが帰属する組織の壁を乗り越えて、他の組織の人たちと目的を共有し、行動を取ることによって、イノベーションの芽を育んでいくという一連のプロセスであると私は考えます。 多種多様な試みが積み重ねられた結果として、一地域、一国、または世界のイノベーション能力が高まり、ひいては経済成長に結びついていくというストーリーに魅力を感じます。
では、「具体的に産学官連携推進会議で何をすべきか?」ということになりますが、「政策提言の場」から「イノベーティブな産学官連携を模索する場」へのパラダイム・シフトを提唱します。より現場に近いテーマを取り上げる「ワークショップ」に重点を移すことも一つのやり方ですし、また、本質的にTransdisciplinaryな課題である産学官連携を、経済学、経営学、社会学、高等教育論、技術政策論、産業組織論等の専門家が、既存の枠組みを越えた場で分析・議論する「アカデミック・サミット」のようなものをパラレル・セッションとして導入することも一考に価します。 後者はかなり私見が入っていますが、「産学連携学者」を創出するのではなく、アカデミックな視点から産学連携を考察するという試みです。
さて、皆様はどのような提案をなさいますか?
(注1) http://www.congre.co.jp/sangakukan/参照。 (注2)Information and Communication Technology。
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