第3回 「第3回産学官連携サミット」に思う



●「What's next?」環境変化にどう対応  11月17日に第3回産学官連携サミットが開催され、「産」「学」「官」から1000人以上が参加しました。参加者名簿のボリュームは年々増加していますが、今回特に目立ったのは地方自治体のプレゼンスでした。

また第1回産学官連携サミットにおいては:
▽主催:内閣府、経済団体連合会、日本学術会議
▽共催:文部科学省、経済産業省

であったのに、第3回(注1)になると:
▽主催:内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省、経済団体連合会、日本学術会議
▽共催:厚生労働省、農林水産省、国土交通省、環境省、科学技術振興機構、新エネルギー・産業技術総合開発機構、日本学術振興会、宇宙航空研究開発機構、海洋科学技術センター、理化学研究所、日本原子力研究所、中小企業総合事業団

となり、文部科学省、経済産業省のコミットメントの強化、参画機関の広がりが象徴しています。

 「産学官連携サミット」(計3回)、「地域産学官連携サミット」(計11回)、「産学官連携推進会議」(計2回)を通して言えることは、「産学官連携」の求心力・動員力の高まりですが、今回のサミットが提示したのは「Whatユs next?」いう課題です。「産学官連携推進」の名のもとに、数々の施策が打ち出され、大学と企業の現場において「産学官連携」を取り巻く環境がドラスティックに変化しました。

また環境のみならず、国立大学においては法人化を機に、自らの体制をも変革させようとしています。このように大きな動きが生まれ、勢いをつけてきた時にこそ、Bandwagon effectに身を任せるのではなく、その流れの目指すところ、個々のアクターへのImplicationを問い直す必要があるように思えます。
そこで、今回のサミットに登場したいくつかの議論とそれに対する私の主観を交えたコメントを下記にまとめてみます

1)「科学技術創造立国」、「経済活性化」を実現するためのツールとしての「産学官連携」の位置づけ

「産学官連携」の意義はマクロレベルでのみならず、ミクロレベルでもっと議論されるべきではないでしょうか。当事者たる「大学」と「企業」は、何をCounterpartに求めるのか、「連携」をすることのメリットは、といった点を互いに認識しあうというプロセスが現行の「産学官連携」には欠けているような気がします。

(2)産学連携をベースとする研究開発プロジェクト推進による経済活性化

 メニューは日ごとに豊富になっています。また「使い勝手」という点もかなり考慮されるようになってきました。次のステップでは、よりイノベーティブなプロジェクトがボトムアップのプロセスにより提案できるような仕組みが欲しいと思います(マッチング・ファンドはその一歩ですが)。
 大学人と企業人が従来の枠組みを超えてアイデアをぶつけ合うことによって、「官」には予想もつかなかったような構想が生まれてくることが安易に想定されます。その構想にチャレンジできるような枠組みを「官」は提供できないものでしょうか?

(3)「中小企業」、「地域」に焦点を置く産学連携施策の展開

 地域において、特に中小企業を対象に、技術力の強化を図る施策が整備されつつあります。また、地方自治体がアクターとして「産学連携」を推進する動きも、各地で見られるようになりました。この流れは、地域の持つアセットの再確認、地域のキーパーソンのネットワーク形成の誘発剤としても機能しており、今後の動きが注目されます。「地方分権」という大きな政策課題にもからんでくることもあり、この辺で科学技術政策を切り口に、EUが得意とする「Subsidiarity principle(注2)」の議論が日本でも巻き起こればと期待する次第です。

(4)産学官連携ドリブンの大学改革推進

 「産学官連携」の波が国立大学およびその所管省である文部科学省に「外圧」として働いたことは容易に推測されることであり、国立大学法人化も「産学官連携」抜きには考えられないと思います。しかし「大学改革」に対して、「産学官連携」はあくまでも誘発剤であり、目的では無いということを再認識すべきだと私はここで主張します。「個々の大学が自らのミッションを提示し、それを柱にアクションを取る。業務遂行の際、現在の体制に適さない部分がある場合、改革を行う。」というのが、本筋ではないでしょうか。
よって、「産学官連携」をどのように大学のミッションの中に位置づけるか個々の大学が決め、その上で、必要とあれば、制度の変革を大学改革の一環として組み込んでいく、という手順を踏むべきだと思います。

(5)大学における知的財産戦略の強化

 大学から産業界への技術移転をスムーズにする仕組みとしてTLOが登場してから、すでに5年が経過しました。TLOの取り扱う「特許」を包括する「知的財産」が近年ホットイッシューの座を占めるようになりました。知的財産権は、アイデアの活用を促進させるための1つのツールとして登場しました。この背景には、「アイデアの専有可能性が低い場合、発明をする意欲が失われ、よって、技術革新が進まない。」という経済理論があり、「市場の失敗」を補う1つの方法として知的財産権が確立されたわけです。しかしこのツールがファースト・ベストの解であるという証明はなされていません。
 よって、大学においては、知的財産を権利化することによるメリットとデメリットのバランスを考慮した上で知的財産ポリシーを整備していくことを提唱します。
 ここまでは私の個人的な見解ですが、皆様はこれらに対してどのように反応なさいますか?
 最後に一点だけ付け加えておきます。第1回から第3回までの産学連携サミットにおいて共通している認識が「産業界に貢献する大学」です。そろそろ「産業界を活用する大学」という流れもでてきて良いのではないでしょうか?

(注1)第2回産学官連携サミットの共催:総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、科学技術振興事業団、新エネルギー・産業技術総合開発機構、日本学術振興会。
(注2)http://www.europarl.eu.int/factsheets/1_2_2_en.htm参照