第16回 京の祭りの後に
2日間の産学官連携推進会議(以下京都会議)が終わって、京都からそれぞれの地へと潮が引くように人が去っていきました。祭りの前の静けさを取り戻した宝ヶ池は、来年どのような顔を見せてくれるのでしょうか?と流暢に構えていたところ、京都会議の勢いは衰えることなく、塩澤さん、古川さん、森下さんと、どんどんDNDの「第5回産学官連携推進会議の視点・論点」への投稿が続き、私もあおられて作文に取りかかった次第です!
まず、京都会議をデータから見ますと、塩澤さんが総括(*注1)するように、量・質共に変化がありました。一貫して「産学官連携の実務者が集る場」であることに変わりはありませんが、「産学官連携」の意味するところ、社会における位置づけ、活用の仕方は進化し続けているわけで、この5年で京都会議に集まる方々の層は相当変化したと思われます。参加者の推移を分析することにより、日本の産学官連携の流れを読み取ることができるかもしれません。しかしながら、「産学官連携の実務者」をターゲットとする限り、「産学官連携の仕掛人」が主体となるわけで、その域から飛び出すことの必要性を感じます。産業界からは中小企業の方々の参加が増加してきました。ここに突破口を見出すことはできないでしょうか。
言いっぱなしはDNDのスピリットに反するので、ザクッとしたものですが、一つアイデアを書くことにします。まず「産学官連携推進会議」のタイトルにある「推進」を卒業して「活用」にバトンタッチすることを提案します。ここまで「産学官連携」が日本に浸透したという背景には京都会議の存在がありますが、現場では「まずは実践を」のプロモーションから次の「賢く使うには?」のフェーズにすでに移っているのです。よって、会議のターゲットも、「プロモートする人」から「活用する人」へと重心を移行させていくのが自然の流れのような気がします。そこで問題は「活用する人」は何を欲しているか、京都会議がその要望に応えることができるか、ということになります。ここが知恵の絞りどころです!
それぞれの大学・研究機関は、Next Generationを先導するポテンシャルを持つ研究者を隠し持っているはずです。その芽を可視化するというのはいかがでしょうか。例えば、エレベーターピッチのプレゼンテーション・セッションをセットして、若手研究者に、ビッグネームの影にではなく、自分のサイン入りで、アイデアを売り込む場を提供することが考えられます。発表者にとって、学会発表とは異なる幅広い聴衆で発表するということは、自らのアイデアを説明する能力を磨く絶好の機会であり、また、会場との会話を通して、そのアイデアの社会的価値・経済的価値のザクッとした相場観を得ることができます。聴衆者、特に企業サイドの方々にとっては、明日の動向をキャッチする機会となります。また、フレッシュな素材を手に取ってみて、「これは!」という掘り出し物を見つけたときは、密かにショッピングカートにネームカードを忍ばせればよいわけです。
同じことを今度は企業を対象としてセッションを組むことも考えられます。エネルギッシュな中小企業・ベンチャー企業のトップが自ら、チャレンジングな企画を売り込む、パートナーを募る、フレッシュマンを惹きつける、という企画です。ホームページ、ポスター、資料からは伝えることのできない「意気込み」をアピールし、それを感じ取ってもらうこと、それを可能にするのが、生身の人間と人間の出会いなのです。クールなビジネス(クールビズではありません。お間違えの無いように!)は、ホットな出会いがあってこそ、なのですから。
一言で言うと、Serendipityを演出するという発想です。もちろん、「交流会」はこれまで、ネットワーキングの場として機能してきました。久しぶりの顔、探していた顔、初めての顔、仲間の顔、隣人の顔、等など、これだけ多くの、また多様な顔と出会い、語り合う機会は他にはなかなか見当たりません。そこでは、たまたまいっしょになって話し込んだことからふっと新たなアイデアがわいてくるというも起こります。しかし、参加者の数が増えるに従いネットワーク効果が高まる反面、一人の人と、たまたま交流会で話をするという確立は低くなっていくのです。だからこそ、なんらかの仕掛けが必要になるのです。
とりとめもなく思いついたことを書いてきましたが、ここでまた会議に話をもどすことにします。今回は特別講演でフランスの産学連携の状況が報告されましたが、社会学で言う同型性(Isomorphism)(*注2)を思い浮かべた方があるのではないでしょうか。高等教育の歴史、体系、制度等、初期条件は異なるものの、社会の「学」に対する期待、政府のイノベーションにかける期待、という視点からは、日本とフランスの間に数多くの共通点を見出すことができます。その表れが「産学連携推進政策」であり「ベンチャー企業育成政策」、「クラスター政策」なのです。また、Isomorphismは日本とフランスの間に限定された現象では無く、これらの動きの震源地であるアメリカとのIsomorphismも、昨今のイノベーションに関するポジション・ペーパーから読み取れるのではないでしょうか。更には、欧州連合の第7次研究開発枠組計画(FP7)(*注3)も要ウォッチです!
最後に、第15回産学連携講座で皆様にご紹介した分科会Vに関して一言。資料は追ってホームページにアップロードされると思いますので、ここではザクッとしたまとめに留めます。実証研究をベースに、産学官連携の変化を様々な視点−大学、企業(特にベンチャー企業)、TLO、共同研究−から捉えるという試みでしたが、そこから浮かび上がったファクトは次のようになります:
1.大学から変化を読む
・協力相手として中小企業が台頭してきた
・大学人の間で商用化の可能性への配慮が進む
・特許を介した技術移転と同時にインフォーマルな協力の重要性が
再確認された
2.企業から変化を読む
・企業のタイプ(大企業・ベンチャー企業)によって大学の活用法は異なる
・大規模企業においては研究開発のスピードと幅を求めて研究開発型中小企業と外部連携が進む
・インフォーマルな連携の重要性!
3.TLOから変化を読む
・TLOの役割は大学の知識をベースとした技術創造活動へと幅を広げていく
・チーム形成機能が認識される
産学連携の歴史の古いアメリカにおいては、更に多様化が進んでいることが確認されましたが、この先、日本とアメリカは、個々の経路をたどりながらも、ある種の収束が観測されるようになるのか、あるいは発散していくのか、この辺もウォッチを要するポイントです。
最後に、ご協力くださった馬場靖憲さん、渡部俊也さん、元橋一之さん、桑原輝隆さん、西尾好司さんにこの場をお借りしてお礼を申し上げます!
(注1)http://dndi.jp/shutyu/shutyu4.html参照。
(注2) Isomorphismはもともと数学の概念ですが、社会学にも同化されました。興味をお持ちの方は、Paul J. DiMaggio & Walter W. Powell (1983), "The Iron Cage Revisited: Institutional Isomorphism and Collective Rationality in Organizational Fields," American Sociological Review, Vol. 48, No. 2, pp. 147-160参照。
(注3)http://ec.europa.eu/research/future/index_en.cfm参照。
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