第1回 連載をスタートするにあたって


●産学連携に対する認識

 これから定期的に「産学連携」をテーマに私、原山優子が情報を発信してまいります。タイトルに「講座」とありますが、大学でやるような本格的な講座を期待なさる方には、東北大学技術社会システム専攻のホームページを参照していただくことにして
http://www.most.tohoku.ac.jp/lecture/AdvTopTechPol-j.html)、ここでは、「産学連携 in Practice」をモットーに事例を紹介し、様々な視点から「産学連携」を考察する場を皆様に提供していきたいと思います。皆様とともに私も学習していくというスタンスですのでよろしくお願いいたします。
はじめに「産学連携に対する認識」を述べさせていただきます。もちろん、この個人的な見解に対する皆様からのコメント大歓迎です。

(1) 時とともに進化する「産学連携」

 ヨーロッパの古典的な大学とは対照的に、日本において、実学の代表選手ともいえる工学は古くから大学の中で伝授されるDisciplineであったわけですが、「真理の追究」、「教育と研究の統一」といったフンボルト的大学構想により、アカデミアという一つの世界が構築されていったのです。そこで、「アカデミアの世界と外部、特に産業界とのつながりは?」ということになりますが、これもまた年季が入っており、東北大学の例をとってもマグネトロン、八木アンテナ、KS鋼等、大学の研究成果の製品化は昨今の話ではないのです。しかし、戦後成長期にあった日本において、大学内の規範からすると「産学協同」は望ましくないものと判断され、水面下、インフォーマルな形の結びつきが主体となっていました。では、なぜ今日「産学連携」がキーワード(スローガン?)となり、社会的受容を獲得したのかという疑問が生じますが、これには知的集約型経済の到来、経済活動の低迷、公的資金の投入に対するアカウンタビリティーの要求の強化といった環境の変化が大きく作用したものと考えられます。社会的受容という点で象徴的な出来事が、この6月に京都で開催された第二回産学官連携推進会議で、「産学官連携」に係わり合いを持つ人が日本には少なくとも4000人いることが判明したわけです。
 価値観の変化とともにルール面での基盤整備も着々と進みました。第一期科学技術基本計画において「産学官の連携・交流等の促進」という項目が登場し、1998年に制定された大学等技術移転促進法を皮切りに、文部科学省と経済産業省が連携・競争といった緊張関係を保ちながら矢継ぎ早に「産学連携」の枠組み作りが行われました。

(2)「産学連携」とともに進化する社会システム

 「産学連携」が推進されることにより、ナショナル・イノベーション・システムの構造、さらにはそこから生み出されるイノベーションのダイナミックスに大きな変化がもたらされました。ここで注目すべきは、機関としての大学が、この変革の渦の中でReactiveに行動を決めるのか、あるいはProactiveに動くのか、という点です。例えば、「社会への貢献」という新たなミッションを外部から強要されたものとみなし、既存の体制、ルールを微調整することにより対応していく、あるいは、教育と研究という本来のミッションに対して明確な位置づけを行い、この環境の変化を組織運営の見直しのきっかけとして活用していくということが考えられます。いずれの戦略を選択するか、大学にとって大きな課題です。見方によっては、来年4月の国立大学法人化を前に、「産学連携」の波はある種のウォーミング・アップの機会を大学に与えたと言えるのではないでしょうか。
 大学改革のトリガーとしての力を内包する「産学連携」ですが、企業に対しても、研究開発マネージメントの再考を促す力を持っています。また研究面のみならず、教育サービスの提供機関である大学をどのように活用していくかが企業にとっての課題です。
「産」と「学」の間のバリアの一つであった情報の非対称性を解消するために、シグナルの送り合いはすでに開始しています。お互い品定めのプロセスの真只中というのが現状ではないでしょうか。


●どのようなメニューを考えているか?

 それでは現場で何が起こっているのでしょうか?ここからは更に主観的な世界に入っていきます。国内、国外を問わず、私が面白そうなことが起こっていると感じたケースを紹介してまいります。また「産学連携」のアクターとして様々なバックグラウンドを持っている方たちに登場していただき、大学、企業、政府(中央政府、地方政府)、仲介機関等異なる視点から現場を捉えていきたいと思います。また「産学連携」のチャンネルも、委託研究・共同研究、TLOを介した技術移転といった伝統的(!)なものに捕らわれることなく、よりInnovativeなチャンネルを探索していくつもりです。「Discover 産学連携!」の精神です。

ケースを取り上げる際、皆様とチェックをしていきたいのは次の3点です:
1. Win-Win Gameが設計されているか?
2. どのようなダイナミックスが生まれてくるのか?
3. また、内包する問題は?

形態としては:
1. 私が訪問した現場からのレポート
2. これも主観的な選択となりますが「産学連携」のキーパーソンのインタビュー
3. 私が個人的に仕掛ける座談会の議事概要

を考えています。他にも何かアイデアお持ちの方いらっしゃいましたらご一報ください。

目指すところ:
最後にこのシリーズ通じて私が目指すところを記しておきます。
 昨今「産学連携」が何かに役に立つのではないかと、いろいろな試みが行われています。日本はまさにLearning Processの真只中というところです。細々とではありますが、「産学連携」の持つポテンシャルとそれが内包する諸問題点を現場から洗い出す作業を行っていくことにより、Learning Processを少なからずとも加速させることができるのではないかと考えます。
 また、主観性を全面に出してこのシリーズに取り組むわけですが、原山優子という一個人の持つ情報を、独り占めするのではなく、皆様と共有することにより、新たな発想が生まれてくるのではと期待する次第です。
お付き合いのほどよろしくお願いします。


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