第9回 実践的産学連携とは継続すること



 今日は実践的に産学官連携を継続している研究者を紹介いたします。東京工業大学名誉教授、電気通信大学共同研究センター客員教授黒崎晏夫先生です。

 先生は1997年3月に東京工業大学を定年退官され同年4月電気通信大学知能機械工学科教授として就任されました。熱工学の権威で、日本伝熱学会長、射出プラスチック成形学会長を歴任され、電気通信大学にこられてからTLOとの協力で、東工大時代に出願した「赤外線照射支援による射出成形の高品位化」をさらに発展させ、特許化しました。その後NEDO,TAO(当時)、経産省(地域新生コンソーシアム)等の助成金を中小企業とともに申請し採択されました。

 特に平成13年度には日本学術振興会による「ベンチャー・中小企業支援共同研究支援事業」の採択により大学および中小企業へ設備が整い以後の研究開発に大いに貢献しています。現在も共同研究は継続しています。このように教授として在籍中も産学官連携を推進され、平成13年度経済産業省(地域新生コンソーシアム)を採択され、特に高分子材の熱溶着の研究が本格化してきました。

 特許出願に関しては現時点、TLO経由で国内6件、海外9件です。このうち国内特許のライセンスおよび継続した共同研究による実績が数多くあります。さらに電通大を2003年定年退官後も同大学共同研究センター客員教授として任用され、高分子材の熱溶着についての研究を継続しています。本研究に関しては産業界からの関心も高く試作依頼、共同研究依頼が相次いでいます。

 そして、2005年度には定年退官した客員教授としては電通大初の日本学術振興会の科学研究費に応募し採択されました。現役研究者の採択率は約30%と聞いています。さらに、平成17年度NEDOマッチング事業のR&Dに採択され3年間約1億3千万円の予算にて中小企業との共同事業を推進中です。電通大共同研究センターでは研究室を用意し、いつでも実験および研究が出来ます。

 黒崎先生は今年70歳になります。ほとんど毎日共同研究センターにこられ、企業との対応および学会活動をおこなっています。国際会議発表の論文を含めて電通大退官後も毎年5件以上発表しています。

 現在では人手不足が悩みです。アルバイト学生に一時的に手伝ってもらっていますが、やはり継続した研究補助者がほしいとのことです。このように定年退官後も研究内容を充実、進化させている先生をみるにつけ、大学研究者魂を感じます。また研究者として研究追求には年齢に関係なく出来ることがわかります。

 黒崎先生が東工大時代から産学官連携については興味がありましたが、時代が許さず、その機会が少なかったと聞いています。研究者の研究内容を理解しそれを必要としている企業とのマッチングをはかることにより、企業ニーズの理解が深まるにつけ、その研究内容は進化してきました。さらに国の助成金制度に応募し採択されることにより大学、企業ともに研究成果をあげることに加速度がつきました。

 コーディネータであるTLOと大学研究者のチームワークにより大学の研究成果が企業へ移転され、企業からの共同研究費が大学へ還元され新しい研究に反映されました。そして研究者に対する動機付けが出来ると新しいアイディアが泉のように湧き出てきたのです。しかも定年退官後も!

 現在、黒崎先生の高分子材の熱溶着の特徴は(無色+有色)の素材だけではなくて無色透明な高分子材同士の溶着を可能にしたことです。しかも、溶着表面が熱損傷を受けず、その結果加熱による分解ガスが発生することも無く、作業者・環境にやさしい樹脂溶着法である。光源は半導体レーザ、キセノンランプ、炭酸ガスレーザ、一酸化炭素レーザーなどを用意し、ほとんどのポリオレフィン系樹脂、また一部のフッ素系樹脂は溶着可能です。多くの光源を用意し種々の高分子材料に挑戦しています。もうすぐ電通大共同研究センター内に「赤外線支援による樹脂溶着センター」が出来予定です。

 実践的な産学官連携は継続することであるということの一例を紹介いたしました。