第6回 技術移転の現場からコーディネータへの期待
現在、国からの支援事業として下記のコーディネータ、アドバイザ、養成技術者が大学、研究機関、TLOに配置されている。「地域研究開発促進拠点支援事業(RSP事業)」科学技術コーディネータ、「研究成果活用プラザ」科学技術コーディネータ((独)科学技術振興機構:JST)、「都市エリア産学官連携促進事業」科学技術コーディネータ、「大学地域共同研究センター」産学連携コーディネータ(文部科学省)、「TLO(技術移転機関)」、特許流通アドバイザ((独)工業所有権情報総合情報館)、「NEDO養成技術者」((独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO))などである。
研究実績や知的財産業務暦など過去の経験、実績により採択されている。 ここでの経験者とは大手企業の研究開発部門か技術部門経験者、特許流通アドバイザであればやはり大手企業の知的財産部員経験者が採択される場合が多い。 配置先で求められる職務内容はどうであろうか。大学の共同研究センターやTLOではシーズ、ニーズのマッチングによる技術移転、技術指導を含む 共同研究の推進であろう。シーズ、ニーズ双方とのコミュニケーションが重要となる。そのときの相手として、先ずは大学研究者そして企業の経営者および研究者、技術部員であろう。 コーディネータが自分の研究業績を前面に出す必要はどこにもない、ましてや大学研究者と研究内容について渡り合ったり、企業経営者に対して自分の過去の実績や実務内容を話すことはかえって、企業経営者や研究者に警戒心を起こさせ、それ以後彼らは心を開くことはなくなるのである。
ときとして大企業出身者は中小企業経営者が感ずるコスト意識をよく理解できない場合が多い。
このように過去に実績を持つ人ほど相手のことを考えない言動が多く見られる。
一方特許流通アドバイザは特許のライセンスを推進するいわば営業マンとしての実績を求められる。大手企業の知財部に籍を置いた人材では、特許評価、特許戦略、特許活用またクロスライセンスなど広範囲の知識経験は持っているであろう。 しかしながら、特許、それも大学発の核となる特許しかないものがほとんどのものを企業にライセンス、売り込むことは非常に難しい。それは特許そのものを売り込むことは難しいということもある。ましてや売り込む営業マンの方にも問題があるのでは。 このように産学コーディネータや特許流通アドバイザにとって技術の知識、知的財産の知識はむろん必要である。しかし、技術や知識だけを偏重すると、職務の本質が失われる場合が多いのである。 対人関係、コミュニケーションに関する事柄が多いにもかかわらず、対人関係がもっとも不得手という方を選択している場合が多々見受けられる。一般に商社マンや生命保険セールスレディが活躍しているのは、先ず対人関係、コミュニケーションに重きをおき、必要時には専門知識をもった専門家アドバイザのサポートを受けているからである。 売るものについての必要最小限の知識と対人関係の訓練さえ受けていれば顧客との会話が出来、契約までもっていけるのである。 コーディネータは人と人、組織と組織の間にいて、仲人役としての自覚と相手先を思いやる気持ちを持つことが大切である。産学官連携だからといって、特別扱いされるものではない。アカデミアと民間企業が連携するには、双方相手をプロとして、尊重しあわなければならない。 しかしながら技術移転、特許に関する問い合わせやマッチング初期の段階など技術、知的財産の評価、目利きが必要な場合にはやはりそれぞれ専門知識が必須であろう。技術移転業務においては、コーディネータや関係する人々に左右されることが多いのである。
役割分担を決めたらどうだろうか。
大企業において研究業績や技術開発部門経験者の方には技術アドバイザとして活躍してもらう。職務内容は企業ニーズに対する研究シーズ内容がマッチングするかどうかの目利きである。 交渉能力やコミュニケーション能力を備えた人材は非常に少ないので、研究シーズ先と企業ニーズ先とのマッチング交渉には携わらない。これまで産学コーディネータとして採択した方々を産学技術アドバイザとして採択する。 一方、産学コーディネータとしてはこれまでの採用基準を見直し、商社マン、生命保険セールスレディ経験者も考慮する。
尚これから教育訓練するNEDOフェローのうち一部を、交渉および契約後の日程管理、知的財産の知識、交渉能力、原価意識、営業マン教育などを行い、産学コーディネータとして育て上げる。産学官の業界?でももう誰がお客さんかそして顧客満足度を考えることが重要である。 産においてはコーポレートガバナンスから企業の社会的責任を維持することが求められている。法人化された学においてもしかりであろう。産学官の連携が推進されるにはそれぞれの立場を理解し、尊重した仲人役のコーディネータが不可欠である。 その業務内容をよく把握したコーディネータの活動により、今以上に産学官連携は必ず推進出来ると確信している。
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