「21世紀を切り拓く大学発ベンチャー」

 研究開発型営利企業への役員兼業が2000年に規制緩和されてから、すでに6年が経った。思えば、一橋大の中谷巌(元)教授のSONY社外取締役就任問題に対する回答として、人事院・文科省の迅速な対応により実現した画期的な規制緩和だった。その結果、大学発ベンチャーも営利企業であることから役員兼業が可能となり、技術と経営に関する教員のアドバイザー兼業はさらに容易となった。現在の大学発ベンチャーが他先進諸国と<量>の面で遜色無い水準にまでに到達したことは、こうした官学の努力の賜である。

 大学発ベンチャーの総数は1500社を越えたといわれているが、デッドリビングと云われる休眠会社も存在することは確かだ。こうしたベンチャーがどれほど問題なのだろうか。ベンチャー起業論で高名な米国バンソン大学のJ・ティモンズ教授によると、新規ベンチャーは6年以内におよそ7割が消滅するという。だとすれば、6年間を経て目立った廃業が聞かれない我が国大学発ベンチャーは、ずいぶん健闘しているということになる。

 また、大学発ベンチャー最大のミッションは、極端な富裕層を作ることでもなければ、第二の公共事業を作ることでもない。大学発ベンチャーは、特許や論文に代表されるサイエンスと産業界で製品化されるテクノロジーの中間領域に存在する。そのミッションは、多額の税金を投入されて生まれる<大学発の潜在的知財>を、将来の国民財産や社会保障原資すなわち<21世紀の国富として顕在化>させることにある。

 大学にせよ企業にせよ、一度、研究開発部門に所属し現場を知るものなら誰でもわかる空気がある。それは、プロジェクトを始めるに際して「やってみなければわからない」という博打に似た心情である。それゆえ、大学で生まれたどのような画期的な発明発見も、それを製品応用するには、全く「やってみなければわからない」リスクを企業は抱え込んでしまう。加えて、たとえ開発に成功しても商品がヒットする可能性ははなはだ低い。

 だからこそ大学発ベンチャーは貴重だ。税金を投入して得られた知財を、少なくともスピードだけを強みとして、製品化を急ぐ既存大手中堅企業に対し試作品を提供できる。できなければ自らが倒産してしまう。それゆえ、既存大手中堅企業は、特許から事業化にいたるプロセスを大幅に短縮することが可能となる。その間に、ベンチャー・既存企業の双方が受けるメリットは計り知れない。大手中堅企業の収益向上は国民経済全体に波及し、大学発ベンチャーが存在する地域の経済は活性化する。地域の研究人材雇用が拡大する。

  最後に、既存大手中堅企業の方々に声を大にして申し上げたい。予測もつかない博打のような新商品を考えるよりも、みずみずしいアイデアとサイエンスに満ちた大学の門をたたき、フェアな契約を大学発ベンチャー経由で締結していただきたい。大学人をビジネス契約で縛るよりも、ビジネスライクな契約ができる大学発ベンチャーと共同戦線をはって、国内同業他社を抜き去り、創業者利得の果実を大学発ベンチャーともども味わって頂きたい。こうした学と産の接着材機能が、大学発ベンチャーの本領でもあるのだから。