室蘭工業大学 応用化学科助手の藤井克彦氏が、現在
進めているベンチャー設立までの軌跡をリポートしま
す。本人自らがつづる、臨場感あふれる体験談です。

【vol.9】

事業を起こすなら3月7日…

平成14年12月某日

 加地顧問が楢崎製作所の関係者に私のベンチャー計画を話してくれた結果、何だか楢崎さんが大変興味を持ってくれているとのこと。今日はその担当者である清野勝博・事業開発室室長と菊池教授の室でお会いした。。

ベンチャー設立の日程、会社のマークまで決まった藤井氏
 浄化装置を共同開発することに前向きであり、開発補助金も室蘭工大研究室と設立ベンチャーと組んで申請しようという感じで話が進んだ。今までに私の研究内容に興味を持って個人的に訪問して話を聞いてくれた企業関係者は多いが皆起業の話になると面白いように引いていった。

 しかし清野室長は起業の話になっても真剣に聞いてくれ、補助金申請の際は過去に申請経験があるのでいろいろと手伝ってくれるとのこと。経営面での齋藤・中田両社長に加えて技術面でも素晴らしい味方ができた。

 大学の研究成果を社会に還元する場合、それが装置開発という形式での成果還元の場合特に、企業の持つモノづくりの技術が必要不可欠であり、良き理解者となってくれる製造業者を見つけられるかどうかが成功の重要なポイントとなる。大きな一歩前進である。


12月某日

 胆振day日高という番組が取材。しかし楢崎さんのご協力で補助金申請書が少しずつマトモになっていくので安心したのか、ものの見事に風邪をひいた。しかも発熱。
 風邪など滅多にひかないのだが、一度ひくとエライことになる。私からうつされた人間が大変なことになるのである。修士の時に一度ひどい風邪をひいたのだが、当時の研究室は風邪くらいでは休める雰囲気ではなく、ぼ〜っとしたまま皆に混じって実験を続けていた。
 すると数日後、治った私と入れ替わるように今度は研究室学生のほとんどが風邪で寝込んでしまい、研究室で動いていたプロジェクトが一時的にストップしたのである!症状が一致していたことと、綺麗な時期のズレから感染源が私であることに疑いの余地はなく、私は翌週のゼミで『皆さん風邪うつしてすみません』と皆に謝罪させられるはめになった。
 強烈なウイルスしか感染しないのか、それとも普通の風邪がだんだんと私の体内で強化されていくのか、そこらへんはどうも判らないが、とにかく風邪をひいた私はある種の生物兵器なわけである。
 取材班は恐らく数日後に強烈な風邪をひくだろう、可哀相に。。。
 そのような中で取材を受けたわけであるが、とにかくカメラが回っている間に鼻水を垂らしたり咳き込んだりという失態だけは避けようと努力した。取材時間は取り直しも含めて約4〜5時間。後日インタビューの放送を見たが、いかにも風邪です、熱出してます、というようなやつれた顔とガラガラ声。10分くらいしか使われていなかった(泣)。

12月某日
 年賀状を書かねばならない。ベンチャー計画関係者にも年賀状を書いた。特に加地さんへの年賀状には『今年こそは加治顧問のご英断を仰げるものと期待しております』との文言を手書きで書き加え、観念(?)して代取就任を引き受けてくれるよう暗に脅迫(?)した。学長と少しの間電話で話す機会があったが、面識のある楢崎製作所の会長にも加地顧問の代取就任についてお願いしてくれるとのこと、ご多忙にも関わらず心配していただき、感謝感謝。

平成15年1月某日
 齋藤社長、手塚専務理事がご丁寧にも年初めの挨拶回りで来学。数日のうちに加地さんの最終判断を仰げる形に持って行くとのこと。年賀状の文言の効果やいかに。。。

1月某日
 ついに代取決定!今日は齋藤社長、中田社長、手塚専務理事、清野・楢崎製作所事業開発室長、そして加地顧問と室蘭テクノセンターで話し合い。齋藤社長が準備した設立スケジュール、ビジネス戦略等の資料を検討したが、その中にはごく自然な形で『加地社長構想』も含まれていた。
 そして加地顧問に皆で『そろそろご決断を!』。
 加地顧問もついに観念(?)したらしく『いや、若い方の熱意に負けました。』と代取就任をついに引き受けてくれた。
 そう、学長ルート、齋藤ルート、そして私の年賀状と皆で追い詰めて(?)ついに加地顧問を攻略したわけである!勉強会とは称しているものの、今日は『加治顧問から何が何でもokを貰う』ことを目的とした話合いであり、空気が少し張り詰めていたと感じたのは私だけであろうか?もしかしたら加地顧問もそういう雰囲気を感じておられたのかも知れない。


▲名刺に入れる会社のマーク案。黒く汚れた産業排
水の雫が徐々に綺麗になっていく事を表している


2月某日
 道南清掃の社長室で定款について話し合い。齋藤社長が原案作成を進めていてくれた。原案ではあるが定款というものを初めて見た。定款を作成し、これを公証役場に持って行くらしい。さて、公証役場とは何だろうか?
 そして設立日について。齋藤社長曰く『3月7日が事業起こすには良い日だよ』。後ろの壁にかかっているカレンダーを見た。??????。。。
 目をこすってもう一度カレンダーを凝視する。、、、、、赤口、、、、と書いてあるように思うのは私だけであろうか。。。とその時加地社長からも『その日は赤口じゃないの?』。
 どれどれ、と齋藤社長が何やら白い冊子を調べている。初詣の時に神社で売っているような冊子である。
 『いや、でもこの日は赤口ですけど、事業を起こすには最高の日なんですよ、ほら』。すると中田社長が『細かい字見えないんだから、無理するんじゃないの』爆笑。まあ、ともかく3月7日である。
 そして名刺に入れる会社のマーク。廃水処理分野の開発でスタートするので、黒く汚れた産業排水の雫が徐々に綺麗になっていく事を表しているようなマークを以前に作っていたのだが、今日それを皆さんに披露した。印刷すると見難い可能性があるので、字の緑色と雫の黒い部分をもう少し検討した方が良いとのご意見。そこらへんは名刺作成業者と少し話してみてくれるとのことで一応採用。
 ベンチャー設立が99%ではなく100%になった今、私が次にやるべきことは、本学事務方と兼業申請の手続きを進めることである。



藤井 克彦氏の略歴

◇室蘭工業大学 応用化学科 助手
◇1971年生まれ 九州大学理学部 生物学科卒業
◇奈良先端科学技術大学院 バイオサイエンス研究科博士前期課程
◇東京水産大学大学院 水産学研究科博士後期課程終了
◇専門分野:微生物工学、環境バイオテクノロジー、有用微生物の探索
 電子メール:kfu@mmm.muroran-it.ac.jp
 ホームページ:http://www.mmm.muroran-it.ac.jp/~kfu/