再び、イノベーションが国を救う−復興構想に足りないもの

特許庁審査業務部長 橋本正洋氏
2011/06/10

(避難所の現状)

 最近、筆者の部内の若手から、福島・郡山市での被災者生活支援や、ボランティア休暇をとって陸前高田市にがれきの撤去支援に行ってきた報告をいただきました。出口俊一代表の現地レポートにあるように、震災の被災地の復旧もなかなか思うように進まず、がれきの山はそのまま残されています。また、原発からの避難者の一部はいまだに段ボールで仕切られた避難所に寝泊まりしておられます。阪神淡路大震災の時もそうでしたが、普通の生活をしている街の中に、異世界の避難所があって、何ヶ月も救済を待っている、そういう景色だということです。(写真は、上から警戒区域一時立ち入りの際のスクリーニング、避難所で配布される食事例、警戒区域との境界バリケード。提供:大峰勝士意匠審査官)


 これら若手からは、ボランティアにしろ派遣支援にしろ、現地自治体等の信頼を得て効果的に活動するにはなるべく長く、または反復して行うことが効果的であり、それを実現するための持続的支援(例えば、ボランティアに対する旅費の援助など)を検討すべきとの意見がありました。


 筆者の町にある都営住宅では福島からの避難者を引き受けていて、かみさんの知人がそのお世話をしている姿がニュース番組で放映されました。とても頭が下がります。現在みんなで避難者の方々に使っていただく夏服を集めているところです。都心にいてもできることがありました。


(復興構想に足りないのは何か)

 これまでの様子や福島原発の状況から、復興は相当時間がかかるものと覚悟して、復興計画を立てていかなければ行けません。ボランティアも単発でもかまいませんが、持続可能性を如何に確保するか、被災者や避難者がどうやって普通の生活に近づけるか、それには、ボランティアや一過性の義援金、補償金にのみ頼ることなく、持続可能なプランを作ることが必要です。短期的に必要なことのメニューは、地元自治体などのご努力で相当明らかになっています。こうしたメニューを早急にこなしつつ、仮設住宅等で最低限の生活インフラが整った後は、生活の経営基盤が成り立つよう、そして将来の絵姿が希望を持って見通せるような復興計画の構想が大切です。特に雇用がないと、心身ともに健康で有能な人たちが二重の意味で国民負担の対象となってしまいます。それはそれらの人たちの本意でないことは明らかです。復旧事業、その先の復興事業を地元に担っていただくような仕組み作りが重要です。


 そういう意味で、もうすぐ復興構想会議から示されるだろう復興構想の素案となる資料を見ると、基本的理念、及び復興のあり方、タイムフレームは示されていますが、それをどのように進めていくか、がはっきりとは見えません。たぶん「復興庁」がそれを担っていくのでしょうが。具体的に、以前お示しした日本復興戦略の5つのレベルで言えば、大戦略(国家理念)と戦術(分野別プログラム)はできていますが、それをつなぐ軍事戦略(資源配分・調達方法、機構・定員・予算等の制約弾力化と制度改革)、作戦戦略(官庁組織の柔軟な配置と運用、官民連携体制整備)が出来ていないように見えます。例えば、菅総理の打ちだした再生可能エネルギー20%を実現するためには、それをどの組織がどの予算でどのように実現していくのかをはっきりさせる必要があります。推進主体について、例えば再生可能エネルギーの実証事業等で実績のあるNEDOは、いまだ独法改革のさなかにあり、交付金の総額や人件費も抑制されているため、新たな事業を担ってその知見を政府に提供することが困難かもしれません。復興計画のさなかであっても、既存の行革や事業仕分けは厳格にかつ淡々と進められています。もちろん、こうしたことの必要性は否定されるものではありせんが、結果的に行政のスピード、効率性や効果を薄めると本末転倒になりますので、バランスのとれた政策遂行が重要です。これには、それこそ政治のリーダーシップが求められる者です。


(イノベーションで復興を進めよう)

 さて、中長期的に日本を復興し、持続的成長を確保していくには、イノベーションを如何に興し、継続していくかの課題を考えなければいけません。復興に関してイノベーションの貢献は、喫緊の課題としては、


1.原発の安定化に資するロボット、センシング等技術

2.放射能除去、低減に資する土壌浄化、植物工学等技術 これに加え 数年間で行うべき技術開発課題としては例えば、

3.電力関係インフラ技術(スマートグリッド、BEMS・HEMS等のエネルギー管理技術,分散型低コスト再生可能エネルギー例えば高速道路遮蔽壁などの新分野ソーラーなど)

4.復旧支援施工技術(塩水除去等土壌回復、地盤安定化、高耐津波建築技術など) などがあります。


 さらに長期的に日本を支えるため、東北地方の技術力と人材を活かしたイノベーションが復興に力を与えることが期待できます。東北地方では、東北大学を筆頭に様々なイノベーションのシーズがあり、またそれを実現する優秀な中小企業を含めた産業群があります。これらを総動員する形を如何に作れるか、早急に仕組み作りが必要です。復興会議のメンバーには、ソニー副社長の中鉢良治氏など、イノベーションや技術のわかる方が少数ですがおられます。この人たちに、井上明久東北大総長ほかの識者から、東北で何ができるのが、やりたいのか、しっかりお伝えいただくことが大切です。


 筆者の周りには、東北大学や東北のネットワークを活用して新たな産業を興そうと考えている方が少なからずおられます。こうした方々の知恵やネットワークを活用できるよう、良い仕掛けが出来るといいなと思います。


(例えば、海洋バイオ・イノベーション)

 筆者はかつて、釜石にあった「海洋バイオ研究所」の立ち上げに関わったことがあります。無尽蔵とも言える海洋生物資源を活用して様々な産業資材、エネルギーに変換していこうという意欲的な取り組みでした。少し着手が早すぎたのか、プロジェクトが終了したころから(その後北里大学の研究所として新たに立ち上がったとのこと。)、世界中で海洋バイオの研究が盛んになったとの話を聞いたことがあります。当時推進委員会でお世話になった松永是先生(現国立大学法人東京農工大学長)は、藻類を使ったバイオの研究でも高名な方ですが、松永先生や、その研究室におられた竹山春子先生(現早稲田大学教授)と会う度に海洋バイオの再興の夢を語り合います。現在、油分に富む藻類などのバイオマスへの活用は、再生可能エネルギーの切り札として電力業界などが注目しています。東北地方は元々水産、海洋資源が豊富なところです。水産業の復興とともに、こうした未来指向型の研究についても拠点整備を推進したら夢があると思います。


(イノベーションへの新たな仕組み)

 話がそれましたが、こうしたイノベーション促進の仕掛けは、例えば低炭素基金のような形で復興基金を原資として、少数精鋭の研究拠点を東北に整備し、加えて産業革新機構のような新産業創出の機能を付加してイノベーションの仕組みを構築する、といった思い切ったことをやらないと、復興もままならないような気がします。より夢がありかつ実現性の高いものを、知恵を出して進めていただきたいと思います。


 既存のシステム、従来の考え方だけではこの難局は乗り切れないとは思いませんか。先日友人に、「経済産業省の官僚達は、現状では、省の創設者たる白洲次郎に顔向けできないのではないか?」と問われました。戦後日本の復興を見据え、それを担う通商産業省を設立した白洲次郎氏。その遺伝子が我々の中に脈々と流れている、ということを是非お見せできればと思います。



(@)大峰審査官の情報では、例えば飯舘村では、土壌の放射性吸収率のよいヒマワリや菜種による土壌改良実験を始めたそうです。(ヒマワリで除染実験 飯舘村、土壌改良へ種まき 福島 http://sankei.jp.msn.com/region/news/110529/fks11052901530000-n1.htm)












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