安藤晴彦
経済産業省資源エネルギー庁新エネルギー対策課長兼燃料電池推進室長


「不都合な真実」と蠢く新エネベンチャー


 ※以下の原稿は、安藤さんが九州大学助教授の五十嵐伸吾さんが主宰するWINWINに投稿されたメールの一部を、是非、DND緊急提言に転載させてください−って私(出口)が無理にお願いし、安藤さんのメールを再構成してアップしたものです。

 「不都合な真実」http://www.futsugou.jp/ 段々、話題騒然になってきましたね。先日、日経産業や日経でも報道されていましたが、新エネルギー周りのシリコンバレーの動きが非常に活発になっています。確かに、世界で太陽光が1兆円産業、風力が2兆円産業となってきたのですから、環境だけでなく、儲かる成長分野になってきたということでしょう。日米間のトランザクションも増えてきそうです。 以下、幾つかご紹介します。

その1:【ミアソーレ】
 私の太陽」という名のベンチャーです。シリコンバレー超一流のベンチャーキャピタルKPCBが投資しています。 http://www.miasole.com/2002年5月 Martin Roscheisen and Brian Sagerにより設立。化合物半導体(CIGS)をスパッタリング積層し、新型太陽電池セルを製造。2006年に$35Mを集め、5万kWの製造設備を建設。主な投資家は、以下の通りです。Kleiner Perkins Caufield & Byers VantagePoint Venture Partners  Firelake Strategic Technology Fund Garage Technology Ventures Nippon Kouatsu Electric‥。

その2:【ナノソーラー】
 100M$のエクイティを元に、現在世界トップのシャープ並の製造設備を建設予定(シャープは更なる増設計画あり)。2002年5月 Martin Roscheisen and Brian Sagerにより設立。創業当初の出資者はGoogle創設者のSergey Brin and Larry Page等のエンジェル。化合物半導体(CIGS)を蒸着ではなく、「印刷技術」で新型太陽電池セルを製造。印刷なら安く出来そうですね。2005年6月 シリーズBで$20Mの投資を受けてます。出資者は三井物産や Onpoint, the U.S. Army's venture fund等です。陸軍もベンチャーファンドを持っているのが凄いです。2006年6月 シリーズCで$75Mを集め、43万kWの工場を建設予定。この際の新規の投資家は、SAC Capital and GLG Partners (two world-class investment funds with substantial PV industry investment experience)、Swiss Re (the insurance sector leader of the Dow Jones Sustainability Index)、Grazia Equity (the original backer of Conergy AG, the world's largest P V system integrator)、Christian Reitberger (the original backer of Q-Cells, the world's largest independent silicon cell PV manufacturer)等です。2006年8月 独Conergy社と太陽電池システム開発で協定締結しました。

その3:【ソルフォーカス】
 http://www.solfocus.com/index.html2005年11月 Gary D. Conley and Steve Horneにより、集光型太陽光発電の商業化のため設立。元の技術(セルそのものではなくデザイン)はH2GO社(2001年Gary D. Conleyにより設立)で開発されたもの。第一世代は試験的量産段階で、第2世代はセルのテスト段階。セルの詳細は不明(GEN1は世界最高の発電効率約40%を誇るボーイング系のSpectrolab社の化合物半導体系の3接合タイプらしい)。
 シリコンバレーの元祖的で有名なPalo Alto Research Center (PARC)や国立再生エネルギー研究所(NREL)と共同研究を実施。2006年7月 New Enterprise AssociatesのリードでシリーズAで$25Mの投資を受ける。2006年10月 インドのMoser Baer社とPVの製造と販売代理店契約を締結。$7Mの追加投資を受ける。

その4:【テスラ・モーターズ】
 リチウムイオン搭載電気自動車でも動きがあります。まあ、これよりもプラグイン・ハイブリッドの方が、期近で有力だと思いますが・・・でも「ドレイパー&フィッシャーズ」といったシリコンバレーの老舗や、「良いべぇ」や「ぐーぐる」関係の有名人が入れてますね。ビジネスウイークでのビル・ジョイ(80年代にシリコンバレーのスターダムにのし上がったサンマイクロの創業者)のインタビューじゃないですが、グーグルの次は「グリーンテック」なんでしょうかね。でも本気度が伝わってきます。この程度のテックでも数十〜百億円の金が集まるんですから。
 2003年 Martin Eberhard and Marc Tarpenningにより設立。リチウムイオン電池(50kWh)搭載のスポーツカータイプ電気自動車を受注生産。1台約10万ドル。電池の供給元やスペック等の詳細は不明です。主な投資先は以下の通りです。
 主な投資家:Elon Musk VantagePoint Venture Partners VantagePoint CleanTech Partners Draper Fisher Jurvetson Bay Area Equity Fund, Managed by JP Morgan Valor Equity Partners Compass Venture Partners 、主な個人投資家:Jeff Skoll(e-bay初代社長)、Nick Pritzker、Larry Page&Sergey Brin(Google創設者)、Jeffrey B Straubel、Chris Byrne、Laurie Yoler Eberhard Family、Marc Tarpenningなどです。2006年 シリーズCで$40M集めています。

番外:【ホク・サイエンティフィック】
 シリコンバレーではないですが、日本のキャピタリストもかかわっていて、燃料電池ベンチャーでNASDAQ上場のホク・サイエンティフィック社が三洋と太陽電池用ポリシリコンの長期(7年間)販売契約を締結したと、報道されています。ダウンペイメント契約(09年1月〜15年12月)で契約時に200万$を三洋電機が支払い、契約総額は、7年間で3億7000万$だそうです。
http://the.honoluluadvertiser.com/article/2007/Jan/19/bz/FP701190326.html

以下の記事をご参考にしてください。

Posted on: Friday, January 19, 2007
Hoku Scientific stock up 123 percent
By Sean Hao
Advertiser Staff Writer

Shares of Kapolei-based Hoku Scientific Inc. jumped $3.80, or 123 percen t, to close at $6.90 yesterday on news of a major sales agreement with J apan's Sanyo Electric Co. Ltd.
Sanyo will purchase up to $370 million in polysilicon from a Hoku plant that will be built in Pocatello, Idaho. The $260 million plant, operate d by Hoku Materials, will produce polysilicon, which is a highly pure fo rm of silicon and a key material used in most solar-power systems.
Under terms of the deal, Sanyo will purchase polysilicon over a seven-ye ar period beginning in January 2009.
"This is a major step forward in our plan to launch Hoku Materials and e xecute our polysilicon business strategy," said Dustin Shindo, chief exe cutive for Hoku Scientific. "We are pleased to have established this rel ationship with Sanyo, a global leader in the solar cell and module busin ess."

Hoku Scientific develops and manufactures fuel cell membranes and membra ne electrode assemblies for stationary and automotive proton exchange me mbrane fuel cells. The company is currently planning to expand its busin ess to manufacture solar modules and polysilicon for the solar market.
The contract provides for an initial direct deposit of $2 million to Hok u and requires that Sanyo place about 30 percent of the total purchase a mount in an escrow account with Bank of Hawaii.
Under the agreement, the funds will be released to Hoku in installment s, subject to Hoku's successful achievement of certain production milest ones and other conditions.

 まだまだ続きそうですね。ところで、本家・米国のSBIR(small business innovation research)はなかなかに優れた制度です。1億ドル以上の開発予算を持つ省庁は、すべて参加が義務付けられています。2.5%をベンチャー企業に支出しなければなりません。しかもベンチャー版「スター誕生」の仕組みが整備されています。1982年に創設された制度ですが、産業政策がないはずのアメリカでしっかりベンチャー支援は行われています。(米エネルギー省の例です。http://sbir.er.doe.gov/sbir/エネルギー省なのにベンチャー支援しているのにも驚きますが、「科学者とエンジニア向けビジネス・プラン作成ガイド」という本まで作っている念の入りようには脱帽です。)

 まずは、役所が最先端の研究者から聞き取りで「お題」を出します。(毎年トピック集が更新され、参考文献も記載され、また、当該研究者への質問も許されています。)

 第一段階は、それに応募して、アイデア出しです。合格すると6ヶ月で10万ドルが与えられ、ビジネス・プランを作成します。これは技術倒れにするのではなく(日本の中小企業でも技術倒れは多いのですが・・・技術開発は楽しいですが、売る方はその何十倍も苦労があります。)、「技術&マーケット(市場性)」を確認することになります。

 第二段階は、合格すると「やってみなはれ」ということで、2年間で75万ドルが与えられ、試作品開発ができます。

 第三段階は、補助はなしです。その代わり、政府調達かベンチャーキャピタルを集めた発表会での発表が許されます。政府調達は重要で、最初の買い手として創業間もないベンチャーに貴重なキャッシュフローと信用力を与えてくれます。(DOD、NIH、NASAがこのタイプです。)エネルギー省では、政府調達よりもビジネス・プラン発表会を重視しています。(まさに「スタ誕」です。札の上がる子、上がらぬ子、という訳です。)NIHが最も成功しています。全米製薬トップ10のうち、7社がSBIR利用組です。しかも、金のない時期に政府支援を受けて、第一段階のチャレンジを何度も繰り返しているのが、注目されます。まさに国を挙げたイノベーション促進政策になっています。

 日本でも過去類似の日本版を同僚が創ろうと試みたことがありました。が、悲しいかな必ずしも上手く行きませんでした。それなら、自分の守備範囲で創ってみようというのが、新規予算で計上した新エネSBIRです。これで狙う分野はベンチャーに期待できるハイテク分野です。日本にも多くの良い芽があります。(参考資料を添付いたしました。)それから、SVの新エネベンチャーからの日本企業へのアプローチが結構来ています。そこで、個人技の世界で、あれこれおつなぎしています。来週月曜の振替休日には、世界有数の技術を持つ中小企業に出かけていって、あれこれ作戦会議をやります。これは全くのボランティアです。

 また、上場していても怪しげなベンチャーもいます。これなどは、商売の邪魔してもいけませんので、提携先の日本企業の方に用心しなさいなと余計なお節介をしております(笑)。本当に蠢くというのが実感です。

参考資料:新エネルギーの現状と課題PPTファイル 516KB