九州工業大学
学長 下村 輝夫



「新たな場の創造を」

 大学の使命は教育・研究であり、それを通じて社会貢献をすることであることは言うまでもありません。大学の本質は、新しい原理・現象を発見し、分析・批判、体系化する営みを担う自然科学であり、それに付随して発明・実用化されるテクノロジーが存在します。大学という高等教育機関の大衆化が進んだ現在、大学が人材供給先である産業界を強く意識した人材育成を行い、研究面においても産業界を意識した知識生産様式に変化するのは当然の帰結となります。国民への説明責任として産学官連携がコンセプトとして出現し、長期的観点における「知の再構築」と中・短期的観点における「オープンイノベーション」が提案されつつあります。

 1994年にマイケル・ギボンズ氏が「現代社会と知の創造 −モード論とは何か−」の編著で、自然科学に基づく新しい知見の発見及び新知見の探求・発見を「モードI」(従来の伝統的な原理に基づくモード)とし、体系化・標準化及びビジネスを「モードU」(社会問題を解決し、そのために異なったデイシプリンの人々が集合し、共同で問題解決を図るモード)として提唱しました。大学の本質は、企業や起業の本質とは根本的に異なります。このことを踏まえた上で、大学で最も重要なのは「モードU」に基づく異質・多様性・創発など異質の知の組み合わせによる「場」の創造にあります。すなわち、異質の知の組み合わせによるイノベーションの環境整備や、新しい試みを通じた人材交流・連携を評価する文化を創っていくことにあります。

 冒頭申し上げたように人材育成が大学の使命であり、我が国の命運は次世代が握ります。「国家の品格」の著者である藤原正彦先生(御茶の水女子大学教授)は、本学の文化講演会で学生に「野望を抱け、粘り強くあれ、楽観的であれ」とのメッセージを送られ、さらに「どんなに忙しくても毎晩良書を1頁でも読め」と付け加えられました。楽観主義の重要性は、英国首相だったチャーチルも言及しています。また、佐藤一斎(江戸時代儒学者)は著書「言志録」で"着眼高ければ、即ち理を見て岐せず"と述べています。大学の新しい「場」から、世界で活躍する人材が飛び立ち、我が国の産業を支えて戴くよう祈念致します。




プロフィール:
九州工業大学長
下村 輝夫(しもむら てるお)
1945年2月14日生
本籍:佐賀県
学歴:佐賀県立佐賀高校卒業
   九州工業大学工学部電気工学科卒業
   九州工業大学大学院修士課程電気工学専攻修了
   東京工業大学より工学博士号取得(論文博士)
   専門:電子工学

職歴:九州芸術工科大学(現在、九州大学芸術工学部)助手
   九州工業大学工学部講師・助教授を経て、1987年教授。
   1993年 5月―1995年4月地域共同研究センター長
   1998年10月―2000年9月工学部長
   2000年10月―2002年9月評議員
   2002年10月―2003年9月工学部長
   2003年10月から学長(任期:2010年3月迄)