東京工業大学
学長 伊賀 健一



「新しいパラダイムを拓くのは―知技志−」

 2008年の後半以来、世界情勢は1年前の想像を遙かに超える厳しいものになっています。すなわち、米国の金融不安を発端とした金融恐慌は実体経済へも影響を及ぼし、企業は業績を下方修正するとともに、景気が史上空前の低迷であることが鮮明になってきました。また、気候変動、資源・水の枯渇、食料需給、人口爆発、感染症流行、宗教・地域紛争などの問題が山積しています。日本国内でも、失職、人口減少、超高齢化、社会保障、格差の拡大、食料自給率と食の安全、社会安定性の低下など、多くの難題に直面しています。このような中、大学のみが安閑として旧習を墨守することは許されないでしょう。大学は、知の砦として、社会が突きつけられた課題の解決につながる新しい価値を生み出していかなくてはなりません。それが、我が国の発展を学術、人材育成でリードしていく大学の存在理由です。

 そこで、東工大に関連が深い製造業を中心にした企業についても、負の情報が多い昨年でしたが,逆に新しい産業のパラダイムシフトが急激に進むかもしれません。学会仲間で、これから日本の時代が始まるということで盛り上がりました。それは,感性での勝負です。例えばディスプレー,その精緻さと美の感覚は日本のものであり,実現する技術はここにありというわけです.ベンチャーも今は厳しい状況でしょうが、今にチャンスが来ます。

 東工大は、このような産業界の動向を敏感に感じ取り、技術の将来をリードしていくべき大学として、これまでの企業だけでは達成できないような創造的な研究を生み出し、さらに産業界が求める能力と環境意識を持った人材を育てていかなくてはならないと思います。そこで、「東工大が動く 世界が変わる」と言われるよう、これまでの伝統と実績を糧として、さらなる飛躍をはかるべく、国際的に活躍できる人材と社会的課題の解決に挑戦し、理工系の知により我が国の発展を先導するつもりです。東工大発のベンチャーとして水準を満たす会社については認定書を発行しています。約50社がその対象となっています。同窓会としての蔵前工業会も,蔵前ベンチャー賞を2007年からスタートし、成育した会社に大賞を、頑張っている会社に奨励賞を差し上げています。2008年暮に上場を果たした(株)ぐるなびが第1回の大賞受賞、(株)アールワークスが第2回の受賞でした。

 東工大は2011年に創立130周年を迎えます。ますます、本学の得意とする知技志で世の中のために貢献する所存です1)。
1)http://www.titech.ac.jp/


プロフィール:
東京工業大学
伊賀 健一(いが けんいち)
1940  広島県生
1963  東京工業大学理工学部卒業
1968  同大学院理工学研究科博士課程修了,工学博士
1968  東京工業大学精密工学研究所助手
1973  同助教授
1984  同教授
1979〜1980  米ベル研究所客員研究員を兼務
1995〜1998  精密工学研究所長
2000〜2001  附属図書館長
2001  東京工業大学名誉教授
2001〜2007.9  日本学術振興会理事
2007.10〜 東京工業大学長

 専門は光エレクトロニクス。面発光レーザの発明と微小光学の研究を推進.応用物理学会・微小光学研究グループ代表.日本学術会議第19,20期会員,21期連携会員.紫綬褒章,朝日賞,藤原賞,IEEEダニエル E. ノーブル賞,ランク賞,C&C賞ほか表彰・受賞.