DNDメディア局の出口です。秋たけなわ。ここ数日の冷え込みで紅葉前線が南下したことでしょう。紅葉が映える日光は、竜頭の滝周辺が川の冷気で一足早く色づいたようです。ただ、世界遺産の社寺の境内は、モミジなど木々の葉の一部が、茶色く縮んでしまっていたのが気になりました。これも夏場の強い日差しの影響という。
さて、大学教員や研究者らによるシンポジウムや学会の開催がこの時期、目白押しです。無事にお役目を終えましたか、これから本番を迎える方も多いのではないか。難しいテクノロジーやメカニズムをいかにやさしく解説し、そして自分の一番伝えたい事をどう表現するか、そのメッセージづくりに腐心されているものと推察します。
◇ジョブズの驚異のプレゼンをリアルに体現
よく売れている『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン‐人々を惹きつける18の法則』(日経BP社)によると、語り口がいたって気さくなAppleのジョブズが、なぜ、台本なしでプレゼンテーションができるのか、と問う。その答えは、何時間もの練習によってくだけた雰囲気を作り出し、「練習するから台本なしでできる」と。ふ〜む、パワーポイントに病的なほどのデータを詰め込むのにやっきで、オーラルプラクティスが一夜漬け、というのではうまくいかない。最近、ジョブズ並みのプレゼンを聴いちゃいました。いやあ、衝撃的でした。その余韻を引きずっています。
創立10周年を迎えた「ビジネスモデル学会」(会長・松島克守東大名誉教授)の総会に参加しました。"事件"は、この学会で起きたのです。いやあ、繰り返しますが、いまだそのショックから抜け出られません。
◇ビジネスモデル学会の松島会長のネットワーク力
松島さんが「1日で1年の勉強ができるほどメニューを揃えた」と豪語していた通り、確かに凄かった。1日で1年、それ以上の価値はありました。ビジネスのあり様を根本的に変えるというか、大げさに言えば、人生そのものを変えるきっかけになったかもしれぬ、う〜む。寝ぼけ顔に冷水を浴びせられた格好でした。「べき」を排して「たい」を獲れ、と。You should の「こうすべき」という言い方からは、何にも生まれない。いまはI willの「こうしたい」と自らの強い意志を語れ!というのが、新シリコンバレーの流儀で、そこら辺が日本人の欠点なのだ、という。
松島会長は、やる前からあれがこうだの、これがどうだといっていっこうに前に進まないことを「先回り心配症候群」と呼び、さらにこの症状が高じると、「先回り絶望症候群」となることを警告していました。
このわずか10行余りの文章でも、興味をそそられませんか。おもしろいと思いませんか。そこまでくると、もっと話を聞きたい、と感じるはずです。その辺のエキサイティングなストーリーを一部抜粋しながら報告します。
さて、その学会の模様を時系列に、いわば登壇の順番にコンパクトに綴れば、それで済む話です。新聞記事ならそれを端折って書くのですから難しい作業ではないはずだ。が、それじゃ面白くない。じゃあ、どうするか。あれこれ呻吟が続きました。
ところが、筆が一向に進まない。考え抜いて疲れたのか、少々混乱気味でした。書く気力すら湧いてこない。夏バテだろうか。更年期だろうか。体力の限界だろうか。頭でっかちで前のめりになっていました。この10月でDNDメルマガは9年目に突入した、というのに。こんなもやもやした気分は、そう滅多にあるものではないのです。いったい、何がどうしたのでしょう。
ビジネスモデル学会でのゲストスピーカーの方々のプレゼンにショックを受けてしまったのかもしれません。打ちのめされてしばし金縛り状態に陥ってしまったらしい。
デジタルデバイド、といえば、使う人と使わぬ人を切り分けてきました。携帯やPCの機器を持つかもたないか、で、社会生活すら満足に楽しめない。そんな仕組みがいつの間にか張り巡らされてきた。まあ、そんなレベルを超えて、まったく次元の違う切り分けが進んでいるようだ。ネットワークデバイドというか、ヒューマンデバイドというか。
世の中が、めまぐるしく変化し、そのスピードが加速していく。ひとつの場所に居座っていたら知らぬ間に無人島に流されて、現代の情報社会から隔絶されるという、そんな悪夢が現実になりはしないか−。まあ、以下を読む前に、そんな疑問を胸にしまっておいてください。
学会のプログラムで特別講演に登壇した外村仁(ほかむら・ひとし)さんのプレゼンは、インパクトがありました。突然襲う大津波にのみ込まれる寸前に、その急激な時代の潮目をそのリアルに見える形で示してくれたのです。シリコンバレーで起業しハイテク分野でコンサル活動を展開する外村さんは、日本人の危うい姿がくっきり見えているかのようでした。慣れた場所に安住している多くの日本人に警告のシグナルを送っているように感じてしょうがない。
講演のテーマは、この場合、それほど重要じゃない。が、一応用意されていました。「創造性/個人力重視時代へ向けてのiPad/TwitterやEvernote(エバーノート)の活用」というものでした。
◇外村仁氏が語る、シリコンバレーの新しい波
外村さんは講演のラインナップはどん尻の6番目で、その講演の直前の5番目が米国発のオンラインサービスで急成長を遂げている「Evernote」のCEO、Phil Libin氏でした。彼がその独自のビジネスモデルとする「Freemium」(FreeとPremiumの造語でフリーミアムと呼ぶ)の仕組みや成功の秘訣を説明されていたから、外村さんはきっとやりにくいだろうな、と思っていた。そして、Phil氏の前つまり4番目が、「iPhone/iPadショック」とのタイトルで講演したITジャーナリストの林信行さんでした。いま全国各地で引っ張りだこなんですね。プレゼンのスタイルから、"ジョブズ・ブレイン"の伝道者のようでした。
つまりいずれも外村さんの講演内容にかぶってしまうわけです。この局面で外村さんはどういう構成で話を展開していくのか、と興味深く見ていました。iPhoneのボイスメモをタッチすれば感度良く音を拾ってくれるはずだ。準備万端です。
ところで、Evernoteってご存じですか。創業わずか2年でユーザーが450万人、毎日1万1千人が新規加入し、今年の3月に日本語版がスタートし日本のユーザーは50万人を数えているそうだ。発刊された書籍がすでに8冊、そのうち7冊が日本という。今年の4月はユーザーが200万人だったから、半年で倍増した計算です。携帯やスマートフォンなどの電子データをネット上で一元管理し、PCやモバイルで共有できるサービスという。FreeとPremiumの造語のフリーミアム「Freemium」、この仕組みは新しいビジネスの概念かもしれない。
知ってる?ボールを投げると、温度・湿度の制御機器メーカー「ニッポー」の3代目若社長、若槻憲一さんが、すでにプレミアム会員でした。さて、この衝撃的な外村さんのスピーチに入ります。
:進行の中谷実行委員長の絶妙なコメントが冴える、
右にITジャーナリストの林信行氏
司会進行は、大会実行委員長の中谷幸俊さん、その都度、短めの的確なコメントが冴えていましたね。Phil氏の講演を受けて、「自分の選んだ21世紀のビジネスモデルを練りに練って、自信にいっぱいに今日を迎えていらっしゃるように思います」とエールを送り、これから壇上に立つ外村さんについては、「外村さんは、創造力とか個人の力がこれからもっと充実する時代がくる、と信じ、そんな時、iPhoneとかTwitterとか、facebookとか、いま説明のあったEvernoteとかを使いこなしながら、そういう個人の力を上げていく時代がきているのではないか」と前置きし、「外村さんご自身はシリコンバレーに住んで時々日本に来るのですが、ずっとその動きを見てその動きからこんな提言をしたい、こんなアドバイスをしたいという話をしてもらいます」と紹介していました。それでは、外村さん、どうぞ、という流れでした。
「今日は、テクノロジーやトレンドの話は、これまでの話で十分理解されたと思います。次にそれから何が引き出せるか、この辺のポイントについて少し角度を変えてお話します」と述べ、2000年にヨーロッパからシリコンバレーに引っ越してちょうど10年、この間、いろんなことが起こったのですが、簡単にそこから振り返ります〜」。
◇Twitter、facebook、iPhone、Evernoteは、最近の動き
≪2000年に起業し、その2年後にバブルが崩壊し、シリコンバレーがガタガタになった。あの頃の教授が真顔で「この不況から脱出するのには10年から15年はかかる」と言った。その時、夫婦でスタンフォードMBAをとっていたが職がなく夫婦で屋台を引いているみたいな状況だった。そうしたら、2004年にGoogleが上場し、シリコンバレーの状況はまあまあで、まだ盛り上がってはいなかった。続いて2006年にTwitterが創業します。facebookに一般の人が入ってくるようになって、本格的なサービスを開始、それまでは学生だけのサイトでした。iPhoneはどこでもあるような気がしますが、実は2007年で、ついこないだのことです。Phil氏がプレゼンしたEvernoteのサービス開始が2008年ですから、多くの事が割と最近に起こったのです≫
と、足早に振り返ったあと、外村さんは、こんなことを口にしました。ギクリとしましたね。
「これを、なんだ始まったばかりだから、わかんないじゃん、という風に構えている人が、日本に多いような気がする。いや、こんな短期間にそれまで全くなかったものが、この勢いで広がって、いつの間にか自分の生活の中に入り込んできている。これはどういうことなのか、もしかしたら日本の企業がうまくとりいれられていないのかもしれない。それは、どういうことなのか。それを考えるヒントになれば〜」と、一拍置いて、復活の兆しを見せた2006年当時、シリコンバレーで何が起こっていたのか、今日の隆盛に至るほんの数年間の変化の、その底流にある戦略、戦術について語り始めたのです。
バブル以後、雇用が純増し、地域に人が戻ってきた。その時の、関係者らが取り組んだのは、政府からの補助金を期待したわけではない。インキュベーションという発想なかったし、政府には頼らなかった。これが復活の2006年の動きで、「IdeaとCreativityの中心になる」という宣言をし、これまでのソフトウエアから知的創造ビジネスへの転換を意図したという。音楽や芸術の教育を増強する、と考えたという。
◇新シリコンバレーの復活の原動力は?
感心しながら聞いていました。すると、シリコンバレーに行かれたことがありますか?と外村さん。200人を超える参加者の大半が手を挙げると、さすがビジネスモデル学会、といいつつ、次回訪問される時は、新シリコンバレーに行ってみてください、と伝えました。シリコンバレーに「新」と「旧」があるとは知らない。「新」と「旧」と言ってもいいと思う、といってカリフォルニア州の地図を示しました。
シリコンバレーといえば昔は、ご存じのようにスタンフォード大学のあるパロアルトから南のサンノゼ、サニーベールという地域に象徴されるが、新しいビジネスは北へ向かう、という。拠点は、サンフランシスコで、TwitterがそうだしユーストリームがTwitterのすぐそばに移って連携し始めてから広がった。Phil氏のEvernoteはGoogleと同様にマウンテンビューに本社はあるが、CTOや役員らはサンフランシスコに住んでバスで毎日通っている。Googleも4年前にサンフランシスコに大きなビルを借りた。
「できる才能がいるところに会社が移る。新しいビジネスは、そういう人がいるところに行かないといけない。面白い会社は、最近、みんなサンフランシスコで生まれている」。
これらがシリコンバレーの新しい動きであり、牽引力になっているのだ、という。
外村さんの学会での講演は、今回が3回目で、「IT塾」という。外村さんは、昨年のビジネスモデル学会で強調したキーワードが見事に的中していたことをさり気なく伝え、今後、ますます重要度を増すキーワードを5つ紹介し、解説を加えていました。
Cloud Mobile Integration Social そしてContentでした。
このワードから、何がイメージできますか。捉えられるものがありますか。シリコンバレーが会社に人が集まった時代から、人に吸い寄せられるように会社が集まってくるから、経営者の発想の転換は、会社が中心ではなくあくまでIdeaとCreativityのある「人」、そういう「人」の気持ちを捉えなくては提携も協業もできない、として「個人の"エンパワーメント"がなにより大事」と結論づけていました。
外村さんの話は、具体性があってわかりやすく、最新のトピックスもおりまぜて会場の興味をひきつけていました。外国人にひけをとらない長身で、日焼けした顔に長髪という野性的な印象だが、目元は涼やかで、人あたりはソフトでした。差し出された名刺は、象のデザインに若草色のCIカラーが鮮やかでChairman , Evernote Japanとありました。
私は、この数年のシリコンバレーの変化をこのように気付かせてくれた外村さんに感謝したい。外村さんが、スピーチの冒頭での指摘は、いまだに脳裏から離れません。
「これを、なんだ始まったばかりだから、わかんないじゃん、という風に構えている人が日本に多いような気がする。いや、こんな短期間にそれまで全くなかったものが、この勢いで広がって、いつの間にか自分の生活の中に入り込んできている。これはどういうことなのか」。
これを読んで、私と同じ感想を抱いた方も少なくないのではないでしょうか。
この学会から数日後の事でした。4〜5億人が利用する、といわれるfacebookへの誘いがありました。慌てて、『facebook−世界最大のSNSでビル・ゲイツに迫る男』(青志社)を読み、友達の登録をした。すると、まるで公園デビューのような緊張感に襲われました。入口付近でオロオロしてばかり。周辺を見渡すと、そこで羽ばたくような友人の英語での書き込みを横目で見ながら戸惑ってしまった。まるで見知らぬ土地のstrangerでした。オフィスの中で私の隣の席の、スタッフの名前がfacebookの画面にありました。なんという。
いまの私のfreeze状態を外村さんに見事に射抜かれた格好です。その"警告"がズシンと心臓に突き刺さったままなのです。数ケ月前に手にしたiPhoneが馴染んできたものの、どうも使い方が不慣れで進歩しない。You Tube で尾崎豊を聞き、App Storeで英語の教材をダウンロードし、産経の新聞を毎朝みる。遠くに出掛けた時は、GPSが役に立ちます。見知らぬ街へのナビゲーターになりますね。ゲームはIT麻雀が定番で、進化しない。
そこでいま『iPhone&iPadビジネス活用術!』(ダイヤモンド社)と首ったけです。そこへ追い打ちをかけるように、別のスタッフの一人が一冊の本を差しだしてきました。
それが『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』。それを手にして驚きました。その後段の解説に外村さんの熱っぽいメッセージが掲載されているじゃありませんか。ビジネスモデル学会で体感ショックが再び甦ってきた、という理由で、ビジネスモデル学会の模様をさらっと書き流せる状態ではなかったわけです。
この学会の要約は、ビジネスモデル学会のホームページで詳しく紹介されていますので、ご興味がある方は、そちらを参考にしてください。DND連載で『中国のイノベーション』を執筆する張輝氏が代表を務める「技術経営創研」の技術統括部長、藤田岳人さんが、今回の総会の様子を丁寧に写真付きでレポートしています。
http://www.jctbf.org/C_BM/link.2.s10.3.htm
さて、会長の松島さんの基調講演は、「ビジネスモデル学会10年の総括と俯瞰マップ」でした。松島さんは、知る人ぞ知る人物で、その職歴を見れば納得がいくのですが、アイディアが豊かな"ビジネス研究の達人"とでも呼びましょうか、東大教授というより時代のクリエーターのような存在で業界に幅広いネットワークを広げています。
基調講演に登壇した方々のラインナップは、松島さんの日ごろのお付き合いの幅の広さを裏付けているようでした。DND(デジタルニューディール構想)の提案者であり、毎年秋に賑わう「イノベーション・ジャパン」の仕掛人でもあるのです。スマートな出で立ちで終始闊達で上機嫌でした。
◇小宮山宏氏が語る、2050ビジョン!
松島さんに続いて、特別講演のトップは元東大総長で三菱総研理事長の小宮山宏氏でした。最近、政府の日本新成長戦略実現推進有識者のメンバーに選ばれました。本日の参院予算員会の質疑で、アゲインストビジネスのターゲットにされたCO2の25%削減は、「日本の技術力をもってすれば難しくない」とその著『低炭素社会』(幻冬舎新書)で述べており、菅首相も小宮山さんの名前をくり返しあげてその追及を交わす場面もありました。小宮山さんのご提言をどこまで生かしきるか、ここにポイントがありそうです。きっと素晴らしい成果があることでしょう。
ご講演のテーマは「課題先進国日本のビジネスモデルを考える」でした。人工物は遠からず飽和する、との至言で、住宅、自動車、セメントのデータから中国の将来を見通す数値を明らかにしていました。世界一、住みたい国を目指そう、そのビジョンをもはや外国に求めることはできない、断言していました。ビジョン2050の目標を定め、シナリオを提示し、そして次になにより、「強烈な共鳴」の必要性を訴え、スピードを上げなくては間に合わない、と鼓舞されているのです。「前に進む勇気!」と訴え、ここでも元気づけられました。
◇花街は、熟達のself employee!
特別講演は、紅一点で古風な美人の京都女子大学准教授の西尾久美子さんが、メリハリのある声で、それも和服姿で素晴らしい講演をされました。京都の花街を舞台にした伝統の舞妓はんとその育成がテーマで、舞妓はんといってもただ可愛いというレベルではなく舞や邦楽、それにお茶などのお稽古もあり、お茶屋さんらチームでお座敷を持つself employee(独立自営業者)という。
ある種、合理的な日本的なビジネスモデルであるという切り口は、会場の人の多くをうならせていました。衣装で職能がわかる、というところの細やかな違いには驚きました。どんなものがあると思いますか。
例えばね、髪型は誰もが気付くでしょう。では、襟足はどうか、赤と白では、どっちが若い?帯上げはどうか、外に出すのはどっち?、おこぼ(草履)は、鈴が鳴るでしょう、その意味は?赤、ピンク、グリーンと鼻緒の色も変わるという。そのお座敷の草履を見るだけで、その客筋の格がわかるのだそうだ。う〜む、舞妓さん志望は、京都以外からが9割で、ネットでの申し込みが多いのだそうだ。場を読む、「座持ち」とは?、一見さんはお断りの意味は?
会場から、舞妓さんを座敷に呼んで遊んだら、いくらか?と"実践的"な質問がありました。料理や人数、時間で変動する、と言っているのに、花代はいくらか、と聞く。西尾さんは、それに嫌な顔せず丁寧に答えていました。社会勉強に行かなくちゃ、ね、とあっちこっちで声があがっていました。私も連れてってくださいな。
さて、もう一人、午後の部のトップバッターは、見事なプレゼンで参加者を魅了していたこの人も、プレゼンの達人の称号がよりふさわしいかもしれません。よどみない話しぶりと、画面で見せるシンプルな文字、映像展開の巧みさに目を奪われていましました。
◇マルチに活躍の中村伊地哉氏は、プレゼンの達人!
蝶ネクタイが似合う中村伊地哉さん、おしゃれでスマートですね。慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授で、スタンフォード日本センター研究所長、「少年ナイフ」特別顧問、国際IT財団事務局長、NPO「CANVAS」副理事長、デジタル教科書教材協議会事務局長…その所属と肩書を列記し、ひとつひとつを紹介しようとすれば、きっとワードで15ページ分をはるかにこえてしまうのではないか、と危惧するほどでした。
そんな中村さんのブログ(http://www.ichiya.org/)をご覧になってください。その守備範囲は、広くとても深いのです。現職の肩書が39個。いかに多彩でマルチな活動をされているかが、わかります。ビジネスモデル学会の理事の一人でもあります。
こんな凄い人、見たことない。メディアといっても事件記者のようなジャンルとは一線を画するのでしょう。さて、講演のテーマは、「日本のメディア・コンテンツ10年の評価と今後の展望」と、お堅い。スマートフォン、地デジ、パソコンという新しい形が第4のメディアを形成していること、発信するマスメディア中心の流れから、「面白いユーザー、厳しい目を持ったユーザー」が主役になってきたこと、それが2004年当時の『Time』誌の表紙は、「You!」だったことなどを紹介していました。
そして、我が国の女子高生らが、ブログ、プロフなど携帯やパソコンで書いたり読んだりすることで言語の文字数でいえば日本語は37%を占める世界の情報アップロードNO.1の大国だという。この辺も新鮮でした。女子高生のパワーも捨てたものじゃない。
マンガ、アニメ、ゲームという日本のポップパワー、現代の"三種の神器"に話が及ぶと、壇上のスクリーンに映し出されたのが、日本のアニメの衣装をまとった海外の若い子の「コスプレ」の映像でした。
「コスプレ」、ご存じの通り、コスチューム・プレイを語源とする和製英語で、アニメやゲームなどの登場人物のキャラクターに扮する行為を言う。 英語表記のcosplayは世界で通用する単語で、 コスプレを行う人の事をコスプレイヤー (cosplayer) と呼ぶ、という。
噂には聞いていたが、昨年、名古屋で開催された「世界コスプレサミット」の盛況ぶりは、驚き以外言葉はありませんでした。映像でシンプルに見せながらテンポよく解説する中村さんの講演は参加者を飽きさせません。会場からどよめきが起こったのは、「日本ではすで絶滅したかのように思われますが」と中村さんがコメントした直後でした。ステージの画面に大きく映し出されたのが、ガングロ、ヤマンバ姿の二人組でした。どっこい、ヨーロッパの街角で、ヤマンバが生きていた!と。
欧米やアジアで、日本の女子高校生の制服姿がクール(かっこいい)と評判で、こんな日本のポップカルチャーは、一億人の絵心が築き上げてきた「流行文化力」として新たな産業を生み出している、ことを力説していました。ヤマンバやコスプレの映像は、いやいや少々、学会という場にそぐわないのではないか、と思われるでしょう。しかし、中村さんの手になると、これもひとつの産業に仕立てられるから、不思議です。
中村さんのプレゼンから、何を学びますか。それは、リズムカルで流れるように連続したコンテンツの構成と、そのやさしい話ぶり。パフォーマンスだったのでしょうか。ある種のエンタテインメントな要素を巧みに盛り込んだ知的なショータイムを見ている快適さがありました。それらの多くの活動にご自身が関わっていらっしゃる。そこに説得力があり、リアリティーを醸し出すのでしょうね。
会場からの活発な意見も出ました。時間が押しながらも、進行の中谷さんの手綱さばきも天晴れでした。会場を移しての懇親会は大入りで盛況でした。乾杯に、特許庁審査業務部長の橋本正洋さんが立ち軽妙なあいさつで会場を沸かせていました。張さんが、裏方に徹していました。偉いねぇ。ビジネスモデル学会に入会しましょう。どうぞ、ご関心のある方は、ご一緒にいかがですか。
:盛況な懇親会場:右端が橋本さん、隣が松島会長 :中谷氏、橋本さん、張さん=左から
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◇黒川清氏「休学のすすめ:Twitterで会う」
【コラム】黒川清氏の『学術の風』は、このところ連続で先生が持論とされている「休学のすすめ」で、休学して海外にきた学生と合流するほほえましいエピソードが紹介されています。先生がTwitterでトロントにいることを流すと、学生らから返事がきたとのこと。便利な社会、とお書きになっているが、黒川先生の呼びかけで、海外に武者修行に向かう学生も少なくない。海外に出る若者が少ない、と、いま予算委員会質疑のラジオ中継で首相が嘆いていますが、問題は、どうするか、じゃなかろうか。
黒川先生は凄いね、ほんと。ブログにTwitter、facebookなど外村仁氏が指摘している近年の新しいツールを完璧にこなしていらっしゃる。
以下は、コラムの書き出しです。
≪Torontoにいるときに、「これからSeattleに向かうよ」とtwitterに書いたところ、SeattleのUniversity of Washingtonに来ている2人の日本の学生さん(1人は大学院生)からtwitterで返事をいただきました。早速返事をして2日後に会うことになりました。Seattleに到着した10日の夜、宿泊しているThe Edgewater Hotelで食事。もう一人の学生さんも参加して4人で楽しい時間を過ごしました。2人は、学部3年生。9月から休学してここに来ているのです。日本の大学ではここの単位は認めてくれないようで、休学してきたのです。でも、いろいろ勉強できるでしょうし、何しろもっと大きくものを考え、世界の中での自分を、日本を見るようになるでしょう。そして新しい世界にまたがる友達のネットワーク。これら全部が大事なのです。≫
≪ところで、最近では若者が海外へ行かないと憂えている口調の方が増えていますが、若手の研究者の留学も激減 なのですね。恐ろしいことです。教授が手元におきたいのでしょうか?今回の日本人お2人のNobel賞受賞者 も海外での研鑽が元になっていますね。お1人は米国でのキャリアですが。大学の先生たち、しっかり若者を武者修行に出してくださいね。「かわいい子には旅をさせろ」、「AppleのSteve Jobsのspeech」、皆同じ趣旨です≫。
※詳細は、こちらから:http://www.kiyoshikurokawa.com/
◇外部パートナーとの連携の決め手は何か?
〜シリコンバレー仕込みのコンサルが伝授〜
【連載】氏家豊氏の『大学発ベンチャーの底力』第5回「体験的な研究開発フェーズの話その2−製品開発、事業化産業化T」です。前回の「その1−科学・技術編」で見せた体験的な研究開発の実践論で、図表と体験的知見を動員した大作です。じっくり、全米ベンチャーキャピタル協会の定義を参考に現在の取り組みと重ね合わせて見てほしいと思います。場合によっては、氏家氏がコンサルとしてアドバイスできるかもしれません。
氏家さんは、冒頭、「技術、製品、事業の各開発過程で、もし外部とパートナー(連携)を組むとしたら、各々どんな先が有効で、その決め手は何か」と自問し、そして「国際機関も世界的レベルと認める日本の『科学技術力』と『企業・産業力』を、どう結び付けるか」というテーマを設定しています。
具体的には、大学・国研等と民間企業、そして、大学系の技術も担う新興企業と大手企業間のコラボレーションが有効性で、もしその連携が、現状日本で十分機能しない面があるとしたら、何をどうすればいいか―という問題を提示しながら、具体的な取り組みを考察しています。う〜む、機会があったら、シリコンバレー仕込みの氏家さんを講師にこの辺を深く掘り下げてみる必要があるようです。
◇中国企業の日本企業買収が米国を抜いてトップに!
【連載】技術経営創研代表の張輝氏『中国のイノベーション』は第37回「中国の『走出兵』戦略と日本でのM&A」です。冒頭、張さんらしい控え目ながら毅然としたメッセージを伝えています。ご指摘のように、この連載は、その手の問題を何かするところではないので、その判断は正しいと思います。
さて、本題は、関心の高い中国のM&A戦略の背景と具体的事例を紹介しています。中国の日本企業の買収は、今年の速報で米国を抜いてトップとなった、と伝えています。「走出兵」というのですね。
張さんは、最近のニュースを拾いながらデータを作成しました。こちらも氏家さん同様、力作です。
中国企業による日本企業の合併・買収(M&A)が加速している、として、「M&A助言会社のレコフ(東京)が6日までに集計したところによると、1〜9月は前年同期比63.2%増の31件に上った。既に2009年の年間件数(26件)を上回り、対日M&Aで昨年まで首位を維持してきた米国(今年1〜9月は26件)を抜いてトップに立った。」という。
中国側の狙いとしては、有名な海外ブランド名の獲得、或いは販売ノウハウやユーザー、技術の獲得など目先の利益を得ると同時に、M&Aを通じてグローバル企業へと脱皮することが挙げられる、と指摘しています。さて、どんな買収の事例があるのか、張さんが調べたデータは、貴重です。時期、業種、中国企業名、日本企業名、金額などの一覧は、出色です。
【一押しイベント】
「全国コーディネート活動ネットワーク」全国会議が11月2日東京で開催:
文部科学省の産学官連携支援事業として財団法人日本立地センターが主催する、全国規模の産学官連携コーディネーターを一堂に会したシンポジウム。日常の活動の成果を伝え、今後の成功事例に結びつけていく、という。
会場は、東京・千代田区一ツ橋の学術総合センターで。定員500人、参加費無料(但し、交流会参加は4000円)。
主催側から、鈴木直道・財団法人日本立地センター理事長、戸渡速志・文部科学省審議官が挨拶し、基調講演に日経BPバイオ編集部長の宮田満氏。パネルディスカッションは「日本の産学官連携のあるべき姿」として、全国イノベーション推進機関ネットワークの前田裕子事務局長がモデレータを務める。全国各地で現在、もっとも活躍するコーディネーターが集う。コーディネーター会議としては全国で最大規模となる、という。