◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2010/02/17 http://dndi.jp/

バンクーバー五輪開幕:「多様性と寛容の精神」

 ・悪評も評判のうち、頑張れ!国母選手
 ・孔子と子路の教え、中島敦の『弟子』から
 ・「桧家住宅」連結決算、過去最高の66%増益
 ・橋本正洋氏の「イノベーション政策学その2」
 ・比嘉照夫氏の緊急提言「農業の未来像」
 ・塩沢文朗氏の「『国』を選ぶ時代」
 ・石黒憲彦氏の「電子立国の危機」
 ・黒川清氏の「外から見る目、外を見る心」

DNDメディア局の出口です。晴れやかにバンクーバーでの冬季五輪が開幕し ました。その開会式、オーロラの光に打楽器の音、それに先住民の舞踊など、 その華やかな演出は見事でした。3時間30分の長い舞台、多くの人々をそれぞ れにステージを用意することに努めたのでしょうか。先住民との共存を尊び、 他国からの移民を受け入れる多国籍国家、カナダは、とても寛容の国なのだと おもいました。


開会式で印象に残ったメッセージは、そのステージの人となった詩人の言葉 でした。ひとつの国を彩なす織物に例えながら、「文化の多様性」と「新たな 可能性」に触れ、それらを求めていくことの重要性を訴えていました。差別や 排除を捨て、寛容と調和を求めていくことであると。その言葉通り、バンクー バーの街を映像で見ると、ごく普通に自然との調和を楽しむ姿が映し出されて いました。海を望む公園のベンチで穏やかな初老の紳士がくつろいでいる。マ チュアな風格を感じました。それが、カナダという国の有り様なのかもしれま せん。


詩人の言葉を聞きながら、中国歴史小説の第一人者、宮城谷昌光さんの『中 国古典の言行録』(文春文庫)の一節を思い出していました。


「声は一ならば聴く無く、物一ならば文無く、味一ならば果(な)る無く、物 一ならば講ぜず」(『国語』)。


つまり、音声がひとつでは美しい音楽にはならないし、一色の物では文彩が なく、一味では醍醐味がでず、一種類の物では和合ということはありえない、 と解釈できます。まさに価値の創造とは、さまざまな文化の多様性の中にあり、 人間の個性を輝き出す、という意味でしょうか。


残念ながら、わが国はというと、寛容の欠片もみあたりません。その真逆と いうべきか、ほんのささいなミスや気に入らない言動について、それらを徹底 的に排除するというイヤ〜ムードが蔓延しています。お相撲の元横綱や、プロ ボクシング界の亀田家しかり、そして今度は、スノーボードの国母和宏君がそ のやり玉にあげられました。


腰パン姿でシャツを丸出しにした制服の乱れが、日本人選手にふさわしくな い。それ、開会式に出させないとか、やれ出場停止処分にすべきだとか、笑っ ちゃうのは、地元の大学での応援会を中止する、という。それはそれ、これは これじゃないの。18日からの競技に臨んで万が一メダルを獲得したら、どうす るの?「本人も反省している」という理屈をつけて、応援会の再開を急いだ方 がいいと思います。


文部大臣も「遺憾だ」とコメントし、所管官庁として、「しっかり対応して いきたい」という。今後の処分のことでしょうか。相撲協会やスポーツ振興の それらを所管するとはいえ、行き過ぎた介入や過剰な反応はいけません。なん だか、背筋が寒くなりそうです。その一方で、民主議員への違法な裏金献金事 件で強制捜査が入った北海道教職員組合について、「個別案件なのでコメント は差し控えたい」と言い逃れ、「調査もしない」意向と明言しました。こちら の問題こそ、「遺憾」であり、「しっかり対応していく」べきじゃないかしら。 その扱いがちぐはぐに映ってしょうがない。文部行政になんというか、教育的 なひらめきが感じられない。血が通う人間っぽさが、さっぱりです。教育が歪 んでいる、そんな気がしませんか。


高校3年間の担任で数学の水上武先生の口癖は、「自己に厳しく他人に寛容 たれ」でした。教室の黒板の脇に墨で大書して掲げていました。


気になっているのは、服装の乱れと出場停止処分との因果関係が説明されて いないし、その意味がよくわからないことです。日本スキー連盟が、橋本聖子 選手団長に申し入れた、という記事を見て驚きました。先手必勝で、自分のと ころへの影響をどうかわすか、所詮、そんな悪知恵が働いたのだろうと、思う。 文部省は、これまでもそうだが、メディアに書かれるとその問題の本質をとら えないで、短絡的に即刻「処分」を口にする。厭らしいし体質です。醜いから あらためてもらいたい。ここでも教育的素養が微塵も感じられない。


それに、いざ、鎌倉と、本番を直前に控えた選手を2回も記者会見の場に引 きずり出して、どう責任を感じているか、をしゃべらせる。その発言が、ちょ っとでもミスがあれば、またここぞとばかり、責め立てる。何をいっても理解 されない。何とか仕分けと構図が似ていませんか。僕が父親だったら、乗り込 んで暴れまわるかもしれません。ウソです。そんなことしたら、火に油を注ぐ ようなもので、メディアの餌食になるにきまっています。そんな墓穴を掘るよ うなマネはしません。しかし、感情はそんなところです。メディアの側にも教 育的配慮がみられないのです。


バンクーバー五輪の選手94人のうち、北海道出身が47人とその半数以上を占 めています。その国母君、やはり服装くらいはちゃんとしないといけないよね。 まず、この騒動の前提として、君に問題がある。が、そこは反省しましょう。 「?狙に周公の服を着せれば、驚いて引き裂いて捨てる」という風に馬鹿にさ れるのです。「?狙」とは、サルです。サルと同じように見られては、いくら 世界ランクの上位としても恥ずかしいしょ。


しかし、この問題を整理しましょう。あのレゲェ調のトレッドヘアーに鼻ピ アス、それにサングラスという出で立ちに加え、だらしなくネクタイをゆるめ、 腰パンにシャツの裾を丸出しにした格好で成田空港に現れたから、さあ大変。 そして記者らの質問に「結果よりも内容。(滑りを見て)格好いいと思っても らえればいい。最近のスノーボードはすげぇダセえから」と持論を展開し、そ のままバンクーバーに向けて出国したのです。


その時の映像が流れ、抗議が殺到し騒ぎが大きくなった。その服装が、日本 選手団の行動規範に違反するのだという。続いて、現地での記者会見で、「反 省してま〜す」のふてぶてしい態度も問題にされました。物騒なメールや「も う帰ってこなくてもいい」との抗議があって、全日本スキー連盟が選手団の橋 本聖子団長に「出場辞退」を申し入れたのも、その時期でした。


まあ、悪評も評判のうちですから、「雑音」を気にしないでなんとしてもメ ダルをとってその汚名を返上してほしい、という「声」が、今朝の朝日の「読 者の声」欄にありました。また、この一連の非難の中で、国母君の盾になって 守ったのが、団長の橋本さんでした。しかし、帰国後は団長としての処分を覚 悟しなくてはならないらしい。


彼の足跡をみると、北海道石狩の出身。4歳でスノーボードを始め、11歳で プロ資格を取得、14歳の時、USオープンで日本人初の2位に入賞する。登別大 谷高校在学中は、FISワールドカップ(スイス)で初優勝、2007年に世界選手 権で銀メダル、アジア冬季大会で優勝、その後、プロに転向とある。彼は、ア マチュアではなく、単なる大学生でもなく、スノーボードで生計を立てるプロ だったのです。


そして、昨年2009年の冬季ユニバシアードは骨折あけながら、ハーフパイプ や、ビッグエアーの両種目で金メダル、秋に学生結婚。こんな国際大会での 数々の輝かしい戦績や記録とは裏腹に、2006年の前回、トリノ五輪では、その 生活態度や仲間への暴言が発覚し非難を浴びた。成績も23位と予選落ちし、挫 折を味わっている。


やはりねぇ。凄いねぇ!って、周辺からもてはやされて育ったのでしょうか。 あの服装について、私は、それほどの問題と思っていないのです。ご批判を覚 悟で言えば、なんとなく彼の表情にまだあどけなさを感じ取ってしまいます。 ドレッドヘアもサングラスも、鼻ピアスも、腰パンも、ふてぶてしい態度も、 それらの多くは、スノーボードの世界の一線で欧米の各選手と渡り歩いている うちに身に付けた彼流のスタイルだと理解します。若くして海外に飛び出して 優勝する、その舞台で彼は何を感じ取ったのか。14歳の少年が、ややもすれば、 ジャップとの嫌味の一つも言われたかもしれない。露骨なプレシャーをかけて くるのもいるかもしれない。そこを彼は、"不良"のふりをして突っ張ってきた のではないか。


いわば、あのくずした着こなしは、彼の不良のふりの延長線のように思えま す。また、ひょっとしたら、彼流の照れの現れかもしれない。北海道の石狩は、 札幌の北にあり、すぐ日本海を望む果てしない大地です。そこの出身者は、ピ ュアであんまり飾らない。そこが道産子の魅力なんだべさ。そこを汲んでやっ てくださいませんかね。



■孔子と弟子の初対面の圧巻
 孔子とその弟子、子路の出会いの場面において、いくつか示唆に富んだ逸話 がありますので、紹介します。


無頼派のひとりの若者が、近頃、とっても偉い賢者との噂に聞こえる孔子と いう名の学者に恥をかかせてやろう、と企んで、血の滴るニワトリとブタをひ っさげて孔子の家に押しかけました。その若者は、奇怪な叫び声を上げて威嚇 するのですが、それでも柔和な顔を変えようとしない孔子。この二人の間で、 こんな問答が始まるのです。


「汝(なんじ)、何を好むか?」と孔子が聞くと、「我、長剣を好む」と若 者は昂然(こうぜん)と言う。そこで孔子は、若者の声や態度のなかに瞬時に、 健気な心の気高さを感じ取って、思わずニコリとするのです。その若者をよく みると、顔の血色がよく眉がしっかりと太い。眼に輝くような力があり、精悍 そのものですが、その顔にどこか愛すべき素直さが現われているように感じら れた。


孔子は再び彼に聞く。「学は則ち如何?」。
「学、豈(あに)、益あらんや」。若者は、勢いこんでこう怒鳴った。もとも と学問なんか、なんぼのもんじゃ!とその権威を蹴散らすのが目的だったので すから、そう言って悪態をついて見せたのです。


孔子とて学問をうんぬんされては、笑ってばかりはいられない。そこで学問 の必要を説き始めます。


人君にして諫臣が無ければ正を失うでしょう、士にして教友がいなければ聴 を失ってしまう。樹木だって縄を受けて始めて真っ直ぐになるではないか。馬 にムチが、弓に檠(けい:弓を矯正する道具)が必要なように、人にも、その 放埓な性情を正しく直すための教学が、どうして必要でなかろうか、必要では ないか。


続けて「(人間は)匡(ただ)し理(おさ)め磨いて、始めてモノは有用の 逸材となる」と説く。その言葉の内容に加えて、孔子は、その穏やかな音声、 抑揚の中にも、それを語る時の極めて確信にみちた態度のなかにも、聴く者を 説得せずにはおかないものがあった、という。すると、若者の態度から次第に 反抗の色が消えて、孔子の言葉に耳を傾けるようになってきた。


とはいっても、それですべてを納得したわけではない。一筋縄ではいきませ ん。「しかし」といって、まだ逆襲のチャンスを窺いながら、若者は、こう突 っ込みます。


「長安にある南山の竹は、揉(た)めずして自ずから直ぐ、斬ってこれを用 うれば犀革(さいかく:サイの革のように固いものの喩)の厚きをも通すと聞 いている。して見れば、天性優れた者にとって、何の学ぶ必要があろうか?」 と。


若くして才能に恵まれた者は、その自らの力でなんでもやり遂げていく。南 山の竹は、余計な細工をしなくても真っすぐで、どんな固い革の武具をも突き 破ってしまう、と伝えられる。若くして才能に恵まれた者は、その自らの力で なんでもやり遂げていくものだ。そこで、なんの学問が必要か、無駄ではない か、という。


これに対して孔子がこの南山の竹の喩をどう打ち破ったか。またそれで若者 はどのようにしたか。ここが物語のクライマックスです。


「汝の言うその南山の竹に、矢の羽や矢じりをつけてこれを磨いたならば、 どうなると思うか。ただ犀革を通すのみではあるまいに…」と孔子に言われた 時、その若者は返す言葉に窮してしまった。顔を赤らめて、しばらく孔子の前 に突立ったまま何かを考えていた様子だったが、急にトリとブタとを抛(ほ う)りだして、頭を低くして、「謹んで教えを受けん」と降参した、という。


単に、言葉に窮したのではないらしく、実は、室に入って孔子の姿を見てそ の最初のひと言を耳にした時、直ちに場違いであることを感じ、己と余りにも 懸絶した相手の大きさに圧倒されていたらしい。ひと目会ったときから、若者 の心に響いてくるものがあったのです。即日、師弟の礼を執って孔子の門に入 ったという。


その若者とは、後に門下第一の勇士である子路のことであります。 出典は、ご存じ中島敦の『弟子』(新潮文庫)の一節からです。解説を読むと、 子路の視点から、孔子との関係を描き、ついに衛の政変で壮絶な死を遂げるま での約30年間の歴史を挿話的に追い描いているもので、紀元前5世紀ごろの物 語である、という。



■頑張れ!国母君。
 さて、バンクーバー五輪。連日、熱戦が繰り広げられています。今朝は、 女子カーリングの初陣は、対アメリカとの大接戦で、勝利は、ほんの数ミリの 計測からもたらされたものでした。忙しいのにずっと観戦していました。


面白い競技が目白押しです。急傾斜を走るスリリングな滑降、手に汗握るス ノーボードクロス、息をのむK点超のスキーのジャンプ。どこの国の選手であ れ、勝者敗者のいずれも、その姿は晴れやかで感動させられます。許すなら、 何時間でもずっと見ていたい。とくにハーフパイプの国母君(18日朝から)は、 楽しみです。明日の早朝でしょうか。がんばれ!国母君。



■木造注文住宅の「桧家住宅」連結決算、66%増益の過去最高を更新
 この不況下で、しかも住宅着工件数が激減する中で、埼玉県久喜市に本社を 構える株式会社「桧家住宅」(近藤昭社長、名証2部上場)が快進撃を続けて います。09年12月期の連結決算は、売上高が16%増の218億4000万円で、注文 住宅の売り上げ棟数は、2%増の760棟を確保しました。最終利益は前期比66% 増の5億8000万円で、営業利益が53%増の10億5100万円、経常利益も46%増の9 億8200万円といずれも前期を大幅に引き上げる高い数字を叩き出しました。


経営的には、国内の注文住宅の着工が減少傾向にあることを前提に、「仕入 れの見直し、コスト低減などを図った」(近藤社長)ことなどを要因としてあ げており、しかも比較的安い価格帯のニーズを予測し、顧客目線に立ったリー ズナブルで良質な商品を提供してきたことなどが奏功した。また環境対応に即 した高気密・高断熱をウリにした優れた断熱システムの「日本アクア」の小会 社化なども売り上げに貢献している、という。株価へも反映し、この1年で2倍 以上に上昇しています。


実は、昨年4月から、非常勤の取締役に就任し、毎月の取締役会や経営会議 に出席していますが、強い会社は、将来への目標と具体的な戦術が明確です。 創業者で黒須新治郎会長は、経営の未来透視の手法として、「顕微鏡と双眼鏡 と望遠鏡」を例えて説明し、現状の認識を的確に持ちながら、中長期の目標に 向かって進むことを持論としています。身近で生きた経営を教えていただいて います。テレビのCMでは、「ひのくま君」が話題になり、浸透してきました。 「桧家住宅」の今後にご期待下さい。以上、私からのお知らせでした。


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【連載】は、特許庁審査業務部長、橋本正洋氏の『イノベーションと知財』の 第13回「イノベーション政策学、その2」。前回に引き続いて、イノベーショ ン政策の執行体制のあり様についての、橋本氏の思考が続きます。その小見出 しをみるだけで何かかき立てられるものがありますので、それを列挙すると、 「イノベーションのスピード」、「DNA配列と特許」、「政策議論の場」、 「政策立案のための分析と評価」、「坂田教授のブルーライン」、そして、 「イノベーション政策学の今後」という構成になっています。
 中でも、「坂田教授のブルーライン」は、興味深い。世界の燃料電池分野の 学術研究の共著分析のマトリックスを提示し、国内や国を超えた共著を示すの がブルーのリンクで、その線の太さが連携の強弱を表しています。ぜひ、1945 年から2009年の「燃料電池の国際共著マップ」をご覧ください。まさに、俯瞰 的にその実像を浮かび上がらせることに成功しています。
 橋本氏によると、坂田教授がOECDで開催のイノベーションの会合で発表した ところ、参加者から「SAKATAのBlue line」との反響があった、という。「こ れを見ると、この分野でさえ、国内、国外の連携が弱いことが見て取れる」と 指摘し、中国に比べて欧米との連携が消極的であることが浮き彫りになってき ました。今後、より競争力の高い研究をどう進めるか、そのヒントが見えてい るようです。
 なお、特許庁のオンライン出願は、本年3月末でISDN出願を廃止し、4月から 新たにインターネット出願に一本化されます。この出願には、自治体が発行す る電子証明書が必要となります。どうぞ、膨大なデータの送付にご関係の方々 はお早めに(期限は3月一杯)ご対応を、と橋本氏は、訴えております。



【連載】は、比嘉照夫氏の緊急提言『甦れ!食と健康と地球環境』の第21回 「食と健康、環境を守る農業の未来像」です。
 これまでEM技術の海外での展開とその成果を述べ、そして特に国内の日本橋 川など河川や海、湾の浄化の事例と取り組みを取り上げてきました。今回は、 やや総論的であり、極めて提言にふさわしい内容となっており、政府並びに全 国の自治体、農業関係者に必見のポイントが指摘されています。
 比嘉先生が、農業に目覚め、それを将来の人生設計の糧にと目標を定める経 過が吐露されています。初めて聞く話で興味深い。その時の座右の銘として 「農は国の基となるぞ」というものだったという。将来は、農業で身を立てる か、農業の指導者になるか、と決心したのは小学5年だったという。その思い は、生涯変わっていないことがわかります。凄いことですね。しかし、農業が 疲弊し、自由化の圧力が高まり、自給率はカロリーベースで40%という危機的 状況を迎えている。加えて、農学部を卒業しても親が農民でなければ農業の道 を選べないという歪な構造、政府と利権で結託した農協の壁、もはや、わが国 は「農の本質を見失った」と嘆いているのです。そこで、どうするか、これま での研究生活や実践的取組の中から、農業再生の処方を3点、具体的に提言し ています。どうぞ、その貴重な提言は、本文から読みすすめていただきたいと 思います。比嘉先生、渾身の緊急提言となっています。




【連載】は、塩沢文朗氏の『原点回帰の旅』は、第62回「『国』を選ぶ時代 ―「坂の上の雲」と川口、長洲選手、そしてある国民意見の募集―」です。長 いテーマによる、ある重要な問題提起は、それに関連する現行の政府の混迷ぶ りと合わせて読むと、よーくわかる仕掛けになっています。
 国や国家をどう捉えるかーの認識をNHKで放映した「坂の上の雲」や司馬遼 太郎さんの書籍から掘り起こします。日本人は明治になって初めて「国家」を 意識したといいます、と指摘し、その「坂の上の雲」が、明治維新以降の近代 国家建設に没頭した人々の情熱や思いを伝えていることを紹介しながら、この ところ、私たち日本人の国家への帰属意識が微妙に揺らいでいることを具体的 に堀り下げています。フィギュアでロシア代表となった川口悠子さんや米国代 表となった長洲未来さん、あるいはノーベル物理学者の南部陽一郎先生の名を 上げています。そして、「国」も選ばれる時代がきている、と喝破されていま す。
 後半は、「地球温暖化対策基本法」の制定に向けた意見募集の結果と、その 意見に対する考え方、いわば回答と思われるまとめです。
 どうぞ、比較しながらお読みになってください。「国民の意見をあまりにな いがしろにしてはいませんか」と、厳しくそのいい加減な姿勢を糺しているの です。すべてその通りでした。呆れるばかりですね。



【連載】久しぶりに真打ちの登場です。経済産業省の商務情報政策局長、石黒 憲彦氏の『志本主義のススメ』第139回は、「電子立国の危機」です。昨年7月 以来、ほぼ7ケ月ぶりの投稿となります。内外から、石黒さんのコラムが読み たい、との声が多数寄せられていました。まあ、いままでのように隔週という わけにはいきませんが、その都度、原稿をいただくようにしていきたいと思い ますので、ご期待ください。
 さて、前ふりはこのくらいにして、そのタイトルが示す通り、ご担当のエレ クトロニクス・IT・コンテンツ・サービス関係の分野が、大きく様変わりして いる現状に驚きつつ、「産業政策的な視点からの現状と課題について整理でき た」内容をお伝えしていくということとなりました。再開第1弾の小見出しは、 以下の通りです。
 「擦り合わせ集積の危機」、「ブラックボックスとオープン化」、「激しい 設備投資競争とグローカラゼイションによるボリュームゾーン戦略」、そし て、「解決策はあるのか」という流れです。
 その変化が象徴的なのがエレクトロニクス産業で、擦り合わせの企業関係が 希薄になり、セットメーカーが世界のシェアを落とすのと、部材・材料・装置 メーカーが、とりわけ韓国、台湾、中国メーカーと関係を密にすることが、同 時に起こりました、と指摘。AV、PCなどの電子機器における日本企業の世界シ ェアが2009年に23%なのに対して、電子部品の日本企業シェアは40%、液晶デ ィスプレイ関連部材の事例ではシェアは54%となっていることを冒頭から具体 的に示されています。
 どうしてこうなったのか、を次の段落で分析を加え、液晶テレビや半導体で の製品のデジタル化、コモディティ化が進むと、次に設備投資競争の段階で勝 敗が分かれると指摘し、「学ぶべきはサムスン」としてその仕組みを上げ、地 域に人を派遣して文化や慣習を徹底的に調べて現地に溶け込み、現地の消費者 のテイストにあった製品を売るという「地域専門制度」の導入などの戦略を細 かく紹介していますが、確かに目を見張ります。
 では、こういった現状に対しにて、どんな活路があるのか、そのために政府 は何をすべきか、それが4月ごろまでに「産業構造審議会情報経済分科会」で 有識者に議論されることになるが、石黒さん自身は、「信頼性の高い社会シス テムを支える制御技術や精緻なものづくり技術は、まだ健在でもう一度、その 強みを確認して、それをどう生かして戦うか考えたい」とその方向性を示して いました。次回を期待します。



【コラム】は、黒川清先生の『学術の風』から、「トヨタの問題と苦悩:外か ら見る目、外を見る心」というタイムリーなテーマを扱いながら、その視点が 鋭い。トヨタ問題は、日本の報道ばかりではなく、海外の報道もたくさんあり、 「Google」すればよく、それらを多面的にフォローすることが大切と指摘して います。その通りですね。
 そこで、世界にインパクトを与える新聞といえば、Financial Timesで、週 刊誌となれば、The Economistで、いずれも本社をロンドンにおく英国の紙誌 ですね。「記事も世界をカバーし、米国よりでもないし、英国にも辛らつです し、記者の書きぶりもうまいし、客観性が高いと思います。これが英国流かも 知れませんが、タイミングのよい、的を射た記事が多く、対象の見方もなるほ どと思わせる『プロの仕事』が多いのです。私はこの2誌は好きで「Kindle」 (電子ブックリーダー)に入れています」と述べ、そこで、黒川先生は、具体 的に指摘します。
「私はThe Economist 2009年12月10日号「Toyota Slips Up」 、「Toyota Lo sing Its Shine」 で豊田章男さんがJim Collinsの「How the Mighty Falls」 を読んで、「トヨタは結構まずいところまできている」と認識しましたとあり、 ちょっと気になっていました、と。
 The Financial Timesにも最近いくつかのToyota記事が出ていますが、これ もJBPress でいくつかも日本語訳(「自らの名声失墜を招いたトヨタ」、「よ ろめくトヨタの御曹司」 、「顧客対応でミソつけたトヨタ、不発に終わるダ メージコントロール」 、「トヨタを脅かす安全性の危機;世界シェアの拡大 にひた走った代償」など)を読むことができます、と紹介しています。凄いも のですね。タイトルだけでの刺激的です。
 続いて、作家、村上龍さんが主宰するウェブメディアで配信された米国在住 の作家の回生ブレーキに関する技術論を紹介しながら「つまり技術だけではな い、客を向いた、車の、ドライビングの『ものがたり』を語れるか、ここが大 事です。特にアクセル、ブレーキといった人命にかかわるところの管理は最重 要です」と強調しているのです。

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